スピントロニクス理論の基礎/5-6 のバックアップ(No.5)

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5-6 磁壁粒子

教科書だとこれまでの章との関係が分かりづらいのでちょっと整理してみる。

まず、この章では磁壁があたかも粒子のように振る舞う条件を考える。
ただし、「粒子のように振る舞う」とは、質量を持っていて慣性が見られるような運動をすることを指す。

  • 外場を加えたら徐々に速度が変化する
  • 運動エネルギーを定義できて、ポテンシャルとのやりとりで調和振動が生じる

などが「粒子のような振る舞い」の代表例。

これまで、スピンダイナミクスに取り入れる相互作用として

  1. スピン・スピン相互作用 J=\lambda K
  2. 容易軸相互作用 K
  3. 外部磁場 B
  4. 困難軸相互作用 K_\perp
  5. ピン止め相互作用 V_0

の4つを考え、4-5, 5-3〜5-4 において4つのケースについて見てきた。

4-5 スピン/スピン相互作用+容易軸

1次元磁壁解が存在する。

もちろんその他の解も多数存在する。

磁壁解の境界条件は、系の両端で容易軸方向かつ逆向きの磁化を持つこと。

5-3 困難軸相互作用のない場合 (5.33)

1 + 2 + 3 だけで 4, 5 が重要でない場合の結果が (5.33) で、その性質は

  • 「磁場に比例」した速度で等速並進運動し、回転も等速になる
  • 摩擦が大きくなればなるほど並進速度は上がり、回転速度は下がる

であった。

磁場を掛けた瞬間に等速運動が開始するような運動で、 「粒子的」とはほど遠いと言える。

5-5 困難軸があり、磁場が弱いとき (5.42)

ここではピン止めは考えなかった。

この運動の性質は、

  • 回転は止まっている
  • 磁場に比例した速度で等速並進運動する解がある
  • 摩擦が大きくなるほど並進速度は低下する

であり、(5.33) との大きな違いは、 「等速並進運動」は解の1つであり、それ以外の解も存在することである。

特にこのケースは、 B\ll K_\perp の条件では後に X 粒子と呼ばれるように磁壁があたかも粒子として運動し、 (5.42) で見た等速並進運動は外部磁場による加速運動の極限として理解されることになる。

5-5 困難軸があり、磁場が強いとき (5.47)

ここでもピン止めは考えなかった。

この運動の性質は、

  • \phi_0 は振動的
  • X は振動しつつ並進する
  • 並進運動、回転運動とも、磁場が強くなると遅くなる
  • 磁場の強い極限では、困難軸異方性は無視できて (5.33) に帰着する
  • すなわち並進運動の速度は、 磁場がそれほど強くなければ摩擦が大きくなると遅くなるが、 磁場が強いところでは摩擦が大きい方が速くなる

であった。

この場合も、これ以外の解は存在せず、 「粒子的」とはほど遠い運動と言える。

「粒子」の運動方程式

質量を持った「粒子」の運動方程式は、ニュートンの方程式は

&math( F=M\ddot X );

であるが、特に力 F が保存力であり、ポテンシャル U が定義できる時は、

F=-\frac{\PD U}{\PD X}

となる。

ハミルトニアンは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和で書けるが、

H=\frac{1}{2M}P^2+U(X)

その正準方程式は、

&math( &\dot X=\frac{\PD H}{\PD P}=\frac{P}{M}\\ &\dot P=-\frac{\PD H}{\PD X}=-\frac{\PD U}{\PD X} );

であり、この第1式を微分した上で \dot P に第2式を代入すれば、

&math( \ddot X=\frac{\dot P}{M} =-\frac{1}{M}\frac{\PD U}{\PD X}=\frac{M}{F} );

のように、上記運動方程式が得られることを確認できる。

緩和項がある場合

緩和項がある場合には、

&math( F-\frac{M}{\tau}\dot X=M\ddot X );

で表される。ここに現れた \tau は緩和時定数で、 外力 F=0 の時に

&math( M\ddot X=-\frac{M}{\tau}\dot X\\ \ddot X=-\frac{1}{\tau}\dot X\\ \dot X=\dot X_0e^{-\frac{t}{\tau}} );

のようにして、速度の減衰時間を表す定数である。

時間についての2次微分方程式

5章に現れた「粒子的でない場合」の運動方程式と比べると、粒子的な方程式は \ddot X として時間に対する2次微分成分が現れているところが大きく異なる。

この2次微分の項は、 X P の絡み合う連立1次微分方程式から、 \dot P を消去するために片方の方程式を微分した際に現れたことに注意せよ。

(5.40), (5.41) が粒子的になる2つの条件

(5.40)

&math( \dot \phi_0+\alpha\frac{\dot X}{\lambda}=\gamma B-\frac{2\lambda V_0}{\hbar S\xi^2}X\theta(\xi-|X|) );

(5.41)

&math( \dot X-\alpha\lambda\dot \phi_0=\frac{K_\perp\lambda}{2\hbar}S\sin 2\phi_0 );

を見ると、 \theta(\xi-|X|) \sin 2\phi_0 があることが、 \dot X \dot \phi_0 を消去する妨げになっている。

そこで、これらを無視できる条件、すなわち、

  • \phi_0\ll 1 により \sin 2\phi_0\sim 2\phi_0 と見なせる条件 = X 粒子
  • |X|\ll\xi により \theta(\xi-|X|)\sim 1 と見なせる条件 = \phi_0 粒子

では、それぞれ \dot\phi_0 \dot X を消去して、 「粒子的な」運動方程式を得ることができる。

X 粒子 (φ0<< 1)

(5.40) を元の H_B および V_\mathrm{pin} を使って書き、 (5.41) に代入して \dot \phi_0 を消去することを試みる。

&math( &\dot X-\alpha\lambda\dot\phi_0=\frac{K_\perp\lambda}{2\hbar}S\sin 2\phi_0\\ &\dot \phi_0=-\alpha\frac{\dot X}{\lambda}-\frac{\lambda}{N_w\hbar S}\frac{\PD}{\PD X}(H_B+V_\mathrm{pin})\\ &\dot X-\alpha\lambda\left\{

  • \alpha\frac{\dot X}{\lambda}-\frac{\lambda}{N_w\hbar S}\frac{\PD}{\PD X}(H_B+V_\mathrm{pin}) \right\}=\frac{K_\perp\lambda}{2\hbar}S\sin 2\phi_0\\ &(1+\alpha^2)\dot X+\frac{\alpha\lambda^2}{N_w\hbar S}\frac{\PD}{\PD X}(H_B+V_\mathrm{pin})=\frac{K_\perp\lambda}{2\hbar}S\sin 2\phi_0\\ );

\sin 2\phi_0 があるために X のみの微分方程式を得ることができない。

困難軸異方性があり、外力がなければ \phi_0 は困難軸方向と直交する方向 ( \phi_0=0 ) に固定されるが、外力があっても、困難軸異方性に比べて小さいときは、 \phi_0 0 からのずれは小さいことを仮定できる。

このとき、 \phi_0\ll 1 より

\sin 2\phi_0\sim 2\phi_0

と近似できるため、

&math( &(1+\alpha^2)\dot X+\frac{\alpha\lambda^2}{N_w\hbar S}\frac{\PD}{\PD X}(H_B+V_\mathrm{pin})=\frac{K_\perp\lambda}{\hbar}S\phi_0\\ &(1+\alpha^2)\ddot X+\frac{\alpha\lambda^2}{N_w\hbar S}\frac{d}{dt}\frac{\PD}{\PD X}(H_B+V_\mathrm{pin})=\frac{K_\perp\lambda}{\hbar}S\dot\phi_0=\frac{K_\perp\lambda}{\hbar}S\left\{-\alpha\frac{\dot X}{\lambda}-\frac{\lambda}{N_w\hbar S}\frac{\PD}{\PD X}(H_B+V_\mathrm{pin})\right\}\\ &(1+\alpha^2)\frac{\hbar^2N_w}{K_\perp\lambda^2}\left[\ddot X

  1. \frac{\alpha}{1+\alpha^2}\frac{1}{\hbar S}\left\{ \frac{\lambda^2}{N_w}\frac{d}{dt}\frac{\PD V_\mathrm{pin}}{\PD X}
  2. K_\perp S^2\dot X \right\}
  3. \frac{1}{1+\alpha^2}\frac{\lambda^2K_\perp}{N_w\hbar^2}\frac{\PD V_\mathrm{pin}}{\PD X} \right]=-\frac{\PD H_B}{\PD X}-\frac{\alpha\hbar}{K_\perp S}\frac{d}{dt}\frac{\PD H_B}{\PD X}\\ &\red{(1+\alpha^2)}\frac{\hbar^2N_w}{K_\perp\lambda^2}\left[\ddot X
  4. \frac{\alpha}{\red{1+\alpha^2}}\frac{1}{\hbar\red S}\left\{ 2V_0\frac{\lambda^2}{\xi^2}+K_\perp \red {S^2}\right\}\dot X
  5. \red{\frac{1}{1+\alpha^2}}\frac{2V_0K_\perp\lambda^2}{\hbar^2\xi^2} \right]=\frac{N_w \hbar S\gamma B}{\lambda } \,\red{+\frac{\alpha\hbar^2 N_w}{K_\perp\lambda}\gamma \dot B}\\ );

\frac{\PD V_\mathrm{pin}}{\PD X} \theta(\xi-|X|) を無視して上記のように近似するのは X の大きなところでむちゃくちゃなことになるため注意が必要。

上記より、

(5.51)

&math( &M_w\left[\ddot X+\frac{1}{\tau_w}\dot X+\Omega_\mathrm{pin}^2X\right]=F );

(5.52)

&math( M_w=\red{(1+\alpha^2)}\frac{\hbar^2N_w}{K_\perp\lambda^2} );

&math( \Omega_\mathrm{pin}=\sqrt{\red{\frac{1}{1+\alpha^2}}\frac{2V_0K_\perp\lambda^2}{\hbar^2\xi^2}} );

&math( &\frac{1}{\tau_w}= \frac{\alpha}{\red{1+\alpha^2}}\frac{1}{\hbar \red S}\left\{ 2V_0\frac{\lambda^2}{\xi^2}

  1. K_\perp \red {S^2} \right\} );

&math( F=\frac{N_w}{\lambda}\left\{\hbar S\gamma B\,\red{+\alpha\frac{\hbar S}{K_\perp S^2}\hbar S\gamma \dot B}\right\} );

となりそうに思える。

教科書とは大きく異なってしまったが、

  • (5.40), (5.41) からすれば \ddot X の係数に 1+\alpha^2 が現れるのは間違いないような???
  • S は必ず \hbar S あるいは K_\perp S^2 の形、あるいはその比 K_\perp/\hbar^2 の形で現れるはずで、 1/\tau_w S の付き方も上記が正しいのではないか
  • 後に磁場の強さを変化させる場合について考察するなら、その時間微分成分を落とすべきではない

慣性を持つ理由

ピン止めポテンシャルを無視すれば、

&math( &\red{(1+\alpha^2)}\frac{\hbar^2N_w}{K_\perp\lambda^2}\left[\ddot X

  1. \frac{\alpha}{\red{1+\alpha^2}}\frac{K_\perp \red S}{\hbar}\dot X \right]=\frac{N_w \hbar S\gamma B}{\lambda }\,\red{+\frac{\alpha\hbar^2 N_w}{K_\perp\lambda}\gamma \dot B}\\ );

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