原発事故/1kgのCs-137の放射能 のバックアップ(No.6)

更新


公開メモ

Cs-137 が 1 kg あったらどれほどの放射能を持つか?

勉強のために、ちょこっと計算してみました。

以下、どこかで間違っている可能性もあります。

鵜呑みにしないで!

始めに結果をまとめておくと、

  • Cs-137 を 1 kg 集めて、1 m のところで測ると 250 Sv/h 程度の線量率が計測されそう
  • I-131 を 1 kg 集めて、1 m のところで測ると 270 kSv/h 程度の線量率が計測されそう
    • 4 kg だと 1 MSv/h を超えますね(だから何だと…
  • 飯舘村の土壌で検出された Cs-137 濃度から、おおよそ正しい環境線量率を計算できたような

計算にあまり自信がないので歯切れが悪くて済みません。

思った以上に大変で、思った以上に勉強になりました。

1 kg に含まれる原子数

Cs-137 と書くときの 137 を 質量数 と呼びます。

この質量数の定義は、質量数 137 の原子 (ここでは Cs-137) を アボガドロ数 N_A = 6.0 \times 10^{23} 個 集めると 137\,\mathrm{g} になる、というものです。 つまり、

(原子1個あたりの重さ) \times N_A = (質量数) \times 1\,\mathrm{g}

という関係が成り立ちます。

言い換えると、 137\,\mathrm{g} の Cs-137 に N_A 個の原子が含まれることになります。

1\,\mathrm{kg} あるなら、その中には

N=\frac{1\,\mathrm{kg}}{137\,\mathrm{g}}N_A=4.4\times 10^{24}

の原子が含まれます。

原子の崩壊過程

Cs-137 の半減期は 30年 なので、30年経つまでに半数の原子 N/2 が崩壊して放射線を発します。

これをもう少しちゃんと書くと、時間が t だけ経った後に崩壊せず残っている原子数は

N(t)=2^\frac{-t}{30\,\mathrm{year}}N_0

となる。ここで、 N_0 t=0 の時の原子数です。

N(0)=2^0N_0=1\times N_0=N_0

N(30\,\mathrm{year})=2^{-\frac{30\,\mathrm{year}}{30\,\mathrm{year}}}N_0=2^{-1}N_0=N_0/2

を計算してみると、それらしい値が出てくることを確認できます。

グラフにしてみると、以下のようになり、始め凄い勢いで減るけれど、徐々に減り具合が緩やかになっていきます。

http://chart.apis.google.com/chart?chs=400x250&chtt=Decay+of+Cs-137&chxt=x%2cy%2cx%2cy&cht=lc&chd=t%3a100%2c79.3701%2c62.9961%2c50%2c39.685%2c31.498%2c25%2c19.8425%2c15.749%2c12.5%2c9.92126%2c7.87451%2c6.25%2c4.96063%2c3.93725%2c3.125%2c2.48031%2c1.96863%2c1.5625%2c1.24016%2c0.984313%2c0.78125%2c0.620079%2c0.492157%2c0.390625%2c0.310039%2c0.246078%2c0.195312%2c0.15502%2c0.123039&chxl=0%3a%7c0%7c60%7c120%7c180%7c240%7c300%7c1%3a%7c0%7c0.2%7c0.4%7c0.6%7c0.8%7c1%7c2%3a%7c%7cYear%7c%7c3%3a%7c%7cCs-137%7c&dummy=.png

元々あった量を1として、

  • 30年後に 1/2
  • 60年後に 1/4
  • 120年後に 1/8
  • ...
  • 300年後に 約1/1000

になります。

1 秒あたりに崩壊する原子数

上の式から1秒間あたりに崩壊する原子数を求めるには、普通微分を使うのですが、

簡単には、上の式を使って

  • 1秒後に残っている数を計算し、
  • はじめの数から引く

ことで、はじめの1秒間に壊れる原子の数を求められます。

上の式に 1秒 を代入すると、1秒後に残っている数は、

N(1\,\mathrm{s})=2^{-\frac{1\,\mathrm{s}}{30\,\mathrm{year}}}N_0

です。中に出てくる分数の分母を秒に直すと計算を進められて、

\frac{1\,\mathrm{s}}{30\,\mathrm{year}}=\frac{1\,\mathrm{s}}{30\,\mathrm{year}\times 365.25\,\mathrm{day/year}\times 24\,\mathrm{h/day}\times 60\,\mathrm{min/h}\times 60\,\mathrm{s/min}}=1.056\times 10^{-9}

より、

N(1\,\mathrm{s})=2^{-1.056\times 10^{-9}}N_0

となります。

2の -1.056\times 10^{-9} 乗って何?と思うかもしれないけど、 精度の良い計算機に入れればちゃんと答えが出て、

N(1\,\mathrm{s})=0.999999999268N_0

です。

元の原子数が N_0 個 なので、そのうち 0.0000000732% が1秒間に崩壊するという計算。

今は Cs-137 が 1\,\mathrm{kg} あると考えているので、そこに含まれる原子数として N_0=4.4\times 10^{24} 個を入れると、1秒間に崩壊する原子数は

N(0)-N(1\,\mathrm{s})=(1-0.999999999268)N_0=0.000000000732N_0=3.2\times 10^{15} 個/s

となります。

元あるうちのほんのちょっとしか崩壊しないけれど、元の数がものすごく大きいので、 一秒間に崩壊する数も、ものすごく大きくなります。

放射能(ベクレル)

放射性物質は崩壊するときに放射線を出すので、

崩壊数 = 放射線の放出回数

という関係があります。

そこで、

1秒あたりの崩壊数 = 1秒あたりの放射線放出回数 = ベクレル(Bq)

として、放射性物質の放射能をベクレルという単位で数えます。

上の計算から、

1\,\mathrm{kg} の Cs-137 の放射能は

3.2\times 10^{15}\,\mathrm{Bq}=3.2\,\mathrm{PBq}

となります。 1\,\mathrm{PBq} は ペタ(P)ベクレルで、 10^{15}\,\mathrm{Bq} を表します。

ペタテラギガメガキロ
PTGMk
10^{15} 10^{12} 10^{9} 10^{6} 10^{3}

体への影響 (シーベルト Sv)

非常に強い放射線源があっても、距離が離れるに従って体への影響は小さくなります。

また、放射線の種類やエネルギーによって放射線が体を「素通りする」確率が異なるので、 どのくらい体に吸収されるか(ぶつかるか)、が重要なパラメータになります。 (X線で体を透かしてみられるのは、X線が体にぶつかる確率が非常に小さいからです)

Wikipedia の Cs-137 の生体に対する影響 を参考にすると、「100万 Bq の線源から 1 m の距離にいると、ガンマ線によって1日に 1.9\,\mathrm{\mu Sv} の外部被曝を受ける」そうです。

ならば 1\,\mathrm{kg} の Cs-137 から 1\,\mathrm{m} の距離にいると、

\frac{3.2\times 10^{15}\,\mathrm{Bq}}{100\times 10^4\,\mathrm{Bq}}\times 1.9\,\mathrm{\mu Sv/day}\times \frac{1}{24\,\mathrm{h/day}}

=2.5\times 10^2\,\mathrm{Sv/h}=250\,\mathrm{Sv/h}

の線量率を受けることになります。

距離依存性は、

  • 10\,\mathrm{cm} まで寄ると、 25\,\mathrm{kSv/h}
  • 10\,\mathrm{m} まで離れると、 2.5\,\mathrm{Sv/h}
  • 100\,\mathrm{m} まで離れると、 250\,\mathrm{mSv/h}
  • 1\,\mathrm{km} まで離れると、 250\,\mathrm{\mu Sv/h}
  • 10\,\mathrm{km} まで離れると、 2.5\,\mathrm{\mu Sv/h}
  • 30\,\mathrm{km} まで離れると、 0.28\,\mathrm{\mu Sv/h}

となります。

もし万一、近くにセシウムの固まりが落ちていて、 10 m 程度の所を歩いてしまうと 1000 mSv/h 以上の線量を浴びることになってしまうと。

注)この計算は空気によるガンマ線の吸収を考えていないので、 特に km 単位の遠方では線量率を過剰評価していることになっているはずです。

ベクレルからグレイ、さらにシーベルトへの換算の詳細

以下、ちょっと計算が難しくなるかもしれません。

ベクレルの値から、グレイやシーベルトに換算する計算をちゃんとやるとどうなるかを調べてみました。

放射性物質の種類および分布と、そこからの距離、受ける側の物質などに依存するため、 計算はかなりややこしいです。

点状の放射線源の場合

サイズの小さな放射能(単位時間あたりの崩壊数) A を中心に半径 R の球面を考えて、 面上での放射線エネルギー密度を求めます。

表面積は 4\pi R^2 より、放射線密度は A/4\pi R^2 で、 放射線1粒子あたりのエネルギーが \varepsilon ならば、 放射線のエネルギー密度は \varepsilon A/4\pi R^2 となります。

3.2\,\mathrm{PBq} の Cs-137 が線源の場合、ガンマ線のエネルギーは 1.176\,\mathrm{MeV}=1.9\times 10^{-13}\,\mathrm{J} なので、 1 m 離れた位置でのエネルギー密度は 48\,\mathrm{W/m^2} となる。

グレイ(Gy)は、人体 1 kg あたりに吸収される放射線エネルギーなので、 この放射エネルギーの何分の1が吸収されるかという係数を使って 換算することになります。この係数は物質によって異なるので、 本来は骨や筋肉などにそれぞれ異なる値を使わなければなりません。

それはかなりややこしいので、 http://okwave.jp/qa/q3421228.html を参考に、人体をすべて水として近似して http://physics.nist.gov/PhysRefData/XrayMassCoef/ComTab/water.html のデータから Cs-137 のガンマ線のエネルギー 1.2\,\mathrm{MeV} あたりを読み、以下の計算を続けます。

\mu/\rho =6.5\times 10^{-2}\,\mathrm{cm^2/g} =6.5\times 10^{-3}\,\mathrm{m^2/kg}

面積 S 、厚さ \Delta t の領域に S\times 48\,\mathrm{W/m^2} のエネルギーが流れ込み、 (1-e^{-\mu \Delta t})S\times 48\,\mathrm{W/m^2} が吸収される。

そこには質量 \rho S\Delta t の水があるから、質量あたりの吸収エネルギーは、

\frac{(1-e^{-\mu \Delta t})S\times 48\,\mathrm{W/m^2}}{\rho S\Delta t}

=(\mu/\rho) \times 48\,\mathrm{W/m^2}

=6.5\times 10^{-3}\,\mathrm{m^2/kg} \times 48\,\mathrm{W/m^2}

=0.247\,\mathrm{W/kg}=0.247\,\mathrm{Gy/s}=890\,\mathrm{Gy/h}

ガンマ線ではグレイ(Gy)とシーベルト(Sv)は 1:1 で換算されるので、 これはそのまま

0.247\,\mathrm{Sv/s}=890\,\mathrm{Sv/h}

となって ・・・ Wikipedia の値を元にした上記の計算とオーダーは合っている物の、 3〜4倍大きくなってしまいました。人体をすべて水としてしまったところが悪いのかもしれませんし、あるいは、リンク先の NIST の文献をちゃんと読んでないため、どこかで何かの係数を忘れているのかもしれません。

まあ、だいたいあってるので良しとします(?!)

(上では \Delta t が小さいものとして、 1-e^{-\mu \Delta t}=\mu \Delta t を使いました)

平面状の放射線源の場合

1 kg の Cs-137 が広い範囲の地表にばらまかれた場合を考えます。

Wikipedia の Cs-137 のページ にあるように 1\,\mathrm{mg/km^2} の密度で 1,000 \times 1,000\,\mathrm{km^2} の範囲にばらまかれたとしてみます。

放射線は地下へ向かってと、空へ向かってと、同じだけ照射されるので、 全放射率を面積 2 \times 1,000 \times 1,000\,\mathrm{km^2} =2\times 10^{12}\,\mathrm{m^2} で割ると密度が出ます。

ここからエネルギー密度は 3\times 10^{-10}\,\mathrm{W/m^2}

これに \mu/\rho=6.5\times 10^{-3}\,\mathrm{m^2/kg} を掛けると、

2\times 10^{-12}\,\mathrm{Sv/s}=70\,\mathrm{nSv/h}

となって、自然放射能と比較可能なレベルになる?

こういう計算はどこかで答え合わせができないと、 まったく自信が持てないなあ・・・

補足

上の計算だと、 3.2\,\mathrm{PBq} を面積 10^{12}\,\mathrm{m^2} に蒔いているので 3200\,\mathrm{Bq/m^2} に相当する。

福島県飯舘村南部で 200万 \mathrm{Bq/m^2} 以上が検出されたとなっているが、 http://sankei.jp.msn.com/science/news/110407/scn11040711100001-n1.htm これは、上の計算の600倍とかそれ以上。

そのまま計算すると、値は 45\,\mathrm{\mu Sv/h} とかなるけど・・・ 上記の通り水として計算したせいとか、地表から地下に染みこんでいるせいとかで、 実際の値はもう少し小さくなって 10\sim 20\,\mathrm{\mu Sv/h} だとすると、 実測とだいたい合ってるみたい?

I-131 だと

原子の個数は 137:131 なのでほぼ変わりませんが、 半減期が 30年:8日 で 1370 倍も違うため、 放射能も 1000 倍以上大きくなります。

上記の通りの計算で、1 kg の I-131 では 4600 PBq で、1 m 離れた位置に 270 kSv/h を与えます。

http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/11.html の数値と合っていることを確認できました。

ガイガーカウンターで汚染された食材を見分けられるか?

原理的な問題(ガイガーカウンターでシーベルト(Sv)を求める話)

まず、ちょっと食材の汚染とは関係ないのですが、ガイガーカウンターに表示される「シーベルト」値について。

ガイガーカウンターは「放射線の数」を数えるための計測器です。

ところが「シーベルト」は、 ガイガーカウンターで得られる「1秒間の放射線の数」に 「放射線の持つエネルギー」を掛け、 さらに「放射線が体に吸収される確率」を掛けて得られる数値なので、 本来なら放射線の種類を測定できる計測器でないと、 正確なシーベルト値を求めることはできません。

じゃあ放射線の種類が分からないガイガーカウンターは何をやっているかというと、 数えた放射線の数に「この種類の放射線が飛んでるとしたら」という値を掛けて シーベルトに換算しているだけです。 だから、ガイガーカウンターが期待している放射線と、実際に飛んでる放射線の種類が異なれば、 間違った値が表示されることになります。

これ以外に「測定精度」の問題があります。
個々の測定器の検出感度はどうしても一定しないので(温度で変わったりもする?) 「放射線の数」を数える目的に使うとしても、数ヶ月に一度くらいは校正しなおさないと、 数パーセントくらいは誤差が生じるのかもしれません。

まあ、放射線の種類や校正の問題で計測値に1〜2割の誤差が含まれたとしても、 健康リスクを考える上ではほとんど無視できるので (同じ量の放射線を受けた場合のリスクの個人差の方がずっと大きい) 場所による、あるいは食材によるリスクを相対的に比較するにはその程度の誤差は無視して良いと思います。 (あの計測器とこの計測器で出てくる値が違う!と騒ぐのは間違い)

このあたりは、[[「目に見えぬ放射線を測る「ガイガーカウンター」 原発事故で世界的な品不足 できること、できないこととは 」>http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819499E2E0E2E3E78DE2E0E2E7E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2]] でも紹介されています。

食材の汚染はベクレル(Bq)で測る

計算のややこしい「シーベルト」に対して「ベクレル」は「1秒間に放出される放射線の数」であるため、 原理的にはガイガーカウンターで正しく測定できる値です。

ただ、原理的にはできるけど、やってみると結構難しいと思われます。

問題になるのは上で述べた「精度(計器がちゃんと校正されているか)」よりも 「感度(どれだけ小さな放射能を測れるか)」になります。

Wikipedia の Cs-137 の生体に対する影響 を参考にすると、「100万 Bq の線源から 1 m の距離にいると、ガンマ線によって1日に 1.9\,\mathrm{\mu Sv} の外部被曝を受ける」となっています。

この値を使って計算すると、100 Bq の Cs-137 に 1 cm の距離まで近づいても、 空間線量率は 80 nSv/h しかなくて、この線量はほとんど自然放射線レベルです。

市販のガイガー管、例えば孫さんの持っていた http://ea4eoz.ure.es/radex1503.html なんかだと、 1μSv/h の線量率がある場所で1分間に 100カウントを検出する程度の感度しかありません。

だから、80 nSv/h の所にこのカウンターを置くと 8 cpm、すなわち1分間に8カウントしか検出できない。 (1分間のカウント数を cpm (count per minute) という単位で表します)

当然ながら、ほぼ1桁高い汚染濃度で 900 Bq あったとしても、カウント数は距離の2乗に反比例するので、 3 cm 離れちゃえばやっぱり 8 cpm です。測定対象の食材は、それ自身の大きさがあるので、 1 cm とか、3 cm とかの範囲に 100 Bq とか 1000 Bq とかは、決して小さな値ではないはずです。 (1 cm だとむしろガイガー管自体の大きさが問題になるかも)

この値を環境放射線と比べると、関東地方の自然放射線が 5 cpm、 汚染された地区では環境放射線が 10〜20 cpm とかです。

以下で見るとおり、その程度の環境放射線から 8 cpm 増えたのを測るのは、かなり大変なことです。

統計誤差

というのも、放射線の測定には計測器の持つ誤差以外に「統計誤差」が影響するためです。

8 cpm の線量率の場所では、必ず1分間に 8 カウントが観測されるわけではなくて、 連続してたくさん飛んできたり、しばらく飛んでこなかったり、その密度はばらばらです。 長時間測ってみると平均では1分間に8カウントになる、という状況です。

8 cpm のところで1分間計測すると、

  • 2 カウントになる確率が 1%
  • 3 カウントになる確率が 4%
  • 4 カウントになる確率が 6%
  • 5 カウントになる確率が 9%
  • 6 カウントになる確率が 12%
  • 7 カウントになる確率が 14%
  • 8 カウントになる確率が 14%
  • 9 カウントになる確率が 12%
  • 10 カウントになる確率が 10%
  • 11 カウントになる確率が 7%
  • 12 カウントになる確率が 5%
  • 13 カウントになる確率が 3%
  • 14 カウントになる確率が 2%
  • 15 カウントになる確率が 1%

などとなって、必ずしも8カウントとならないどころか、 非常に広い範囲の値を取り得ることになります。 このように、完全に正確な計測器を使った場合にも、 必ずしも正しい値が得られないという意味の誤差を「確率誤差」と言います。

(上の分布は専門用語では 「ポアソン分布」 と呼ばれます)

このようにカウント数が小さいときは確率誤差がかなり大きくなるため、 カウント数が N カウントの時、「 N\pm\sqrt{N} の範囲に正しい値がある」 というくらいの受け止めるのがだいたい正しいとされています。

ですので、カウント数が8になったとしたら、正しい値は 8\pm\sqrt{8}=5.17\sim 10.83 の範囲かな、くらいしかわからない。でも10分掛けて測ってカウント数が80になったとしたら 80\pm\sqrt{80}=71.1\sim 88.9 なので、1分あたりは 7.11\sim8.89 で、 ようやく ±10% 程度の精度が出ることになります。

小さな放射能を正確に測るには完全に正確な測定器を用いても時間がかかる、ということです。

環境放射線があると、計測はさらに難しくなります。

環境放射線が c_\mathrm{env}\,\mathrm{cpm} あって、食材からの c_\mathrm{food}\,\mathrm{cpm} m 分間測定すると、
(c_\mathrm{env}+c_\mathrm{food})m カウントが得られ、
\sqrt{(c_\mathrm{env}+c_\mathrm{food})m} が統計誤差、
\sqrt{(c_\mathrm{env}+c_\mathrm{food})m}/c_\mathrm{food}m が相対誤差になります。

環境放射線が 5 cpm (0.05 uSv/h)、食材からの放射線が 8 cpm だと、
1分の測定で ±43%
5分の測定で ±19%
10分の測定で ±14%
20分の測定で ±10%
の精度が得られることになります。

環境放射線が 20 cpm (0.2 uSv/h)、食材からの放射線が 8 cpm だと、
1分の測定で ±66%
5分の測定で ±30%
10分の測定で ±21%
30分の測定で ±12%
60分の測定で ±9%
の精度が得られることになります。

ということで、ガイガーカウンターだと 100 Bq があることを計測するのに 1 cm まで近づけて、1分測定してようやく環境放射線に比べて少し増えたかどうかを 判断できるかできないか、という程度になってしまいます。

汚染量をある程度の精度で測ろうとすれば、 1つのサンプルに数分から10分以上の計測が必要になってしまいます。

結論として、ガイガーカウンターで「1つの食品」の汚染を測るのは、 よほどたくさん汚染されているか、かなり時間をかけて測るかしないと、 ぎりぎり分かるかどうかという感じです。

食材がたくさん並んでいたらどうか

では、1つの食材を取り出して測るのではなく「汚染された食材が陳列棚に敷き詰められている」 状況では、どうでしょう。

上の計算からすると、6.3 cm^2 に 100 Bq が敷き詰められているときに 80 nSv/h なので、
10 cm x 10 cm の領域に 1000 Bq が敷き詰められた陳列棚で 50 nSv/h が検出される
ことになります。

この場合、放射線は距離が離れても減衰しないので、測りやすいと言えば測りやすいですが … やはりそれほど大きな線量率にはなりませんね。

このように陳列棚に並んでしまってからでは難しいのですが、 段ボールが山積みになっているような状況では、 ようやくガイガーカウンターの出番になります。

段ボールが壁のように積まれていて、奥行き方向に食材が重なっていれば、10 cm x 10 cm に 10000 Bq とか、それ以上の面密度で放射線が存在することがあり得ます。

それなら 0.5μSv/h とかになるので、かなり簡単にガイガーカウンターで判別できます。 (倉庫自体が高度に汚染されていない限り)

結局、野菜の陳列棚でガイガーカウンターを使って汚染濃度を測るのは結構難しいですが、 同じ食材がたくさん入った段ボールにカウンターを近づけるか、 あるいはそういう段ボールが倉庫にたくさん詰んであるような状況なら、 かなり容易に汚染された食材を見つけ出せると思います。

放射性カリウムの問題

そういえば、汚染されていない食材でも、カリウムを多く含む物は、 そのカリウムのうち一定割合がかならず放射性カリウムであるため、 ある程度の放射能を含むのでした。

その値はバナナ一本で 20 Bq とかだそうです。 (ベクレルっていう単位は分かりにくいから 100 Bq と言わずに 5 バナナと言ったらどうか、とかいう冗談もありました)

ただし、食材に通常の濃度で含まれる放射性カリウムを食べることは、体に害はありません。

これは人間の体に含まれるカリウムも同じだけの放射能を持っているためです。 取った分と同量のカリウムが尿などと共に排泄されるため、 体内の放射性カリウム量はそれほど変わらない。 (人間一人が持つ放射能は 4000 Bq だそうです! http://togetter.com/li/127691 )

つまり、人間は食材に含まれるカリウムによって常に被曝しているけど、 新たにカリウムを取っても同じだけ出ていくから被曝量は変わらない、という話。

むしろ、カリウムを取ることはナトリウム(塩分)の排泄を助けるため、 カリウムを多く取ることで塩分の取りすぎが原因で生じるガンを防げる (放射能を摂取しているのに!)というのは有名な話。 http://hope2.fc2web.com/mokuteki/kalium.html

なんでこんな話をするかというと、 先も述べたとおりガイガーカウンターは放射線の種類を判別できないため、 ガイガーカウンターで測られる放射能にはカリウムの値も含まれてしまうからです。

ごく微量の放射能を問題にするのであれば、 このことも頭に入れておかないといけません。

ちなみに、

  • バナナに含まれるカリウム由来の放射能は 130Bq/kg
  • 水・牛乳の Cs-137 規制値は 200Bq/kg
  • 野菜・肉・魚の Cs-137 規制値は 500Bq/kg

ですので、カリウム由来のカウントも無視できる値ではない。 http://tsukuba2011.blog60.fc2.com/blog-entry-121.html

放射性カリウムの影響や、カウンター自体の正確さ(校正の問題)を考えると、 基準値を大幅に超えた食材を見つけるためにはガイガーカウンターも役に立つけど、 基準値を超えたか超えないか2〜3割の精度で議論するのはいくら時間を掛けても無理ですね。

シンチレーションカウンターだと

シンチレーションカウンターはガイガーカウンターに比べて感度が高いそうなので、 より短時間で、より高精度の計測が可能になりますが、値段が少し高いようですね。

シンチレーションカウンターは原理的には放射線のエネルギーも測れますが、 装置としてセシウムとカリウムを分別するようにはできていないので、 放射性物質の種類を判別することはできません。

ちゃんとした食材の検査では、環境放射線を防ぐための肉厚の金属製容器に 食材を入れて、どんな種類の放射性物質がどれだけ含まれているかを時間を掛けて測定します。

そういう検査ではシンチレーションカウンターよりもっとずっと高額な(一千万円以上!)、 半導体検出器が使われるそうで、その高いエネルギー分解能を生かして、 どんな放射性物質がどれだけ含まれているかを正確に測ることができるそうです。

β線やα線は?

Cs-137 はγ線(ガンマ線)を出すので検出が楽なのですが、 β線やα線しか出さないような放射性物質がもしあれば、 それらはガイガーカウンターやシンチレーションカウンターで測ることは難しいです。

ガイガーカウンターはβ線にも感度がある物があるようですが、 β線は包装等の他、「食材自身」によっても容易に遮蔽されてしまうため、 手軽な方法で汚染量を測定することは不可能です。

特にプルトニウム等のα核種は基準値自体が 10 Bq/kg とか非常に低い値なので、 とてもじゃないけど通常の方法では検出できない。 検出には高額な装置を使って長い時間を掛けた超精密測定が必要になります。 http://tsukuba2011.blog60.fc2.com/blog-entry-121.html

コメント




勉強になるなあ…

[まふ] (2011-05-04 (水) 16:10:21)

「1秒あたりに崩壊する原子数」の最後の式の直前あたりに、「いま考えているのはCs-137が1kgある場合なのでN0=4.4e24だったよね」という情報をもう一度書いておいてもらうと、(自分のような鳥頭でも)よりスムーズに読めそう。

  • 書き込みどうもです。ご指摘の点を直してみました。実はその後、これらの核種は基本ベータ崩壊するので、崩壊時に必ずしもガンマ線を出すわけでないことを知りました。I-131 だと 90% くらいらしい? まあざっとオーダーなので、そのあたりご容赦下さい。 -- [武内(管理人)]
  • I-131 が 90% 程度という話はこちら > http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1248674647 ちゃんとした資料だと http://www-nds.iaea.org/relnsd/tablenucsENSDF.jsp?query=1682 の Major Radiations の 81.7%+7.17% かな? Cs-137 だと http://www-nds.iaea.org/relnsd/tablenucsENSDF.jsp?query=1787 によれば 85% かな? -- [武内(管理人)]
  • あいた、上記計算ではガンマ線1粒子のエネルギーの値も間違っていたようです。β線+ガンマ線の値を入れてしまったせいで大きめになっていますね。正しい値 662 keV を入れると、放射線のエネルギーは下がるけど、吸収率はちょっと上がって・・・最終的にはそれほど変わらない?後で直してしておきます。 -- [武内(管理人)]
  • 重箱の隅だけど、上記修正部分の「C-137」は「Cs-137」ね。:-) -- [まふ]
  • まったくでした。 s/C-137/Cs-137/ -- [武内(管理人)]

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