射影・直和・直交直和 のバックアップ(No.6)

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ベクトルの成分

規格化されたベクトル \bm e に対して、ベクトル \bm x

  • \bm e に平行な成分 \bm x_{\parallel} と、
  • \bm e に垂直な成分 \bm x_{\perp} とに分け、

\bm x=\bm x_{\parallel}+\bm x_{\perp} としたい。

成分分解.png

\bm x_{\parallel} \bm e と平行なので、

\bm x_{\parallel}=x_{\parallel} \bm e

と書き直すと、

\bm x=x_{\parallel}\bm e+\bm x{\perp}

両辺に左から \bm e をかければ、

(\bm e,\bm x)=x_{\parallel}(\bm e,\bm e)+(\bm e,\bm x{\perp})=x_{\parallel}

が得られ、

\bm x_{\parallel}=(\bm e,\bm x)\bm e
\bm x_{\perp}=\bm x-\bm x_\parallel=\bm x-(\bm e,\bm x)\bm e

としてこれらのベクトルを求められる。
(同じことをグラム・シュミットの直交化で行った)

この \bm x_\parallel \bm x \bm e 方向成分と呼ぶ。

注意1

複素ベクトルに対しては (\bm x,\bm e)\ne(\bm e,\bm x) なので、 どちらから掛けるかが重要になる。

(\bm e,\bm x)=(\bm e,x_\parallel \bm e)=x_{\parallel} だが、
(\bm x,\bm e)=(x_\parallel \bm e,\bm e)=\overline{x_{\parallel}} となってしまう。

注意2

特に、この授業では (\bm a,k\bm b)=k(\bm a,\bm b) となる内積の公理を採用しているが、 多くの教科書では (k\bm a,\bm b)=k(\bm a,\bm b) を採用しているため、その差にも注意が必要。

射影演算子

&math( \bm x_{\parallel}&=(\bm e,\bm x)\bm e );

これは 「数」×「ベクトル」 の形で、「ベクトルのスカラー倍」 として任意の線形空間において正しい形であるが、

特に数ベクトル空間においてはこれを

&math( \bm x_{\parallel}&=(\bm e,\bm x)\bm e\\ &=\bm e(\bm e,\bm x) );

のように入れ替えると、「n×1行列」×「1×1行列」のかけ算になって、 行列のかけ算として正しい形になる。 (スカラーと1×1行列を同一視するのは1年生で学んだとおり)

さらに内積を行列の積で表わして括弧を外すと、

&math( \bm x_{\parallel}&=(\bm e,\bm x)\bm e\\ &=\bm e (\bm e,\bm x)\\ &=\bm e \{\bm e^\dagger \bm x\}\\ &=\bm e \bm e^\dagger \bm x\\ &=P_{\bm e} \bm x );

として、行列 P_{\bm e} とベクトル \bm x のかけ算の形にできる。

ただし、 P_{\bm e}=\bm e\bm e^\dagger である。実際の形は、

&math( P_{\bm e}&=\bm e\bm e^\dagger= \begin{pmatrix} e_1\\e_2\\\vdots\\e_n \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \overline{ e_1}&\overline{ e_2}&\dots&\overline{ e_n} \end{pmatrix}\\ &=\begin{pmatrix} e_1\overline{e_1}&e_1\overline{e_2}&\cdots&e_1\overline{e_n}\\ e_2\overline{e_1}&e_2\overline{e_2}&&\vdots\\ \vdots&&\ddots&\vdots\\ e_n\overline{e_1}&\cdots&\cdots&e_n\overline{e_n} \end{pmatrix} );

のように n\times n 行列になる。

この行列は \bm x から \bm e 方向成分を取り出す行列となる。

P_{\bm e} \bm e 軸への射影演算子と呼ぶ。

射影.png

\bm x \bm e に垂直な光を当てたときにできる影が \bm x_\parallel であるという気持ちが込められている → 「射影」

任意の計量線形空間において射影演算子は線形変換になる

&math(\bm x&=a\bm y+b\bm z\\ &=a\bm y_{\parallel}+a\bm y{\perp}+b\bm z_{\parallel}+b\bm z{\perp}\\ &=(a\bm y_{\parallel}+b\bm z_{\parallel})+(a\bm y{\perp}+b\bm z{\perp})\\ &=\bm x_\parallel+\bm x_\perp);

であり、

\bm x&=a\bm y+b\bm z から \bm x_\parallel&=a\bm y_\parallel+b\bm z_\parallel

を導ける。

線形演算子である射影演算子を、 ある正規直交基底に対して表現すると、上で求めた P_e のような行列になる。

射影演算子はエルミート行列になる。

上記の「具体的な形」を見て分かるとおり、

\big(P_{\bm e}\big)_{ij}=e_j \overline{e_i}

\big(P_{\bm e}\big)_{ji}=e_i \overline{e_j}=\overline{(e_j \overline{e_i})}

より、 \big(P_{\bm e}\big)_{ji}=\overline{\big(P_{\bm e}\big)_{ij}} であり、 射影演算子はエルミートであることが分かる。

以下、あるベクトルを「成分」に分ける話を一般化する。

復習1:線形空間

線形空間とは、ベクトルの和とスカラー倍について閉じた集合のことだった。

  • 任意の \bm x,\bm y\in V に対して、必ず \bm x+\bm y\in V
  • 任意の \bm x\in V,k\in K に対して、必ず k\bm x\in V

線形空間の例:

  • ゼロ次元空間 \set{\bm 0} = 原点のみ
  • 1次元空間 \set{\bm p=s\bm a|s\in K} = 直線的
  • 2次元空間 \set{\bm p=s\bm a+t\bm b|s,t\in K} = 平面的
  • ・・・

同じ直線的でも、原点を通らない \set{\bm p=s\bm a+\bm b|s\in K} は線形空間にならないのであった。

復習2:部分空間

線形空間の部分集合 W\subset V がベクトルの和とスカラー倍について閉じている場合、 W も線形空間となり、 W V の部分空間であるという。

復習3:集合の積と和

集合 A と集合 B の積と和は、

  • 積(交わり): A\cap B=\set{x|x\in A\,\mathrm{かつ}\,x\in B}
  • 和(結び) : A\cup B=\set{x|x\in A\,\mathrm{または}\,x\in B}

積集合和集合.png

記号の覚え方:

  • x\in A\,\mathrm{かつ}\,x\in B 」は英語では「 x\in A\,\mathrm{and}\,x\in B
  • And の A と \cap とは似ている(でしょ?)

交空間

2つの部分空間 W_1,W_2 の交わり W_1\cap W_2 は無条件で線形空間となり、 交空間と呼ばれる。

練習:部分空間の積(交わり)がベクトルの和とスカラー倍について閉じていることを示せ。

和集合は線形空間にならない

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2つの1次元部分空間 W_1,W_2 の和は、原点を通る2本の直線を合わせた集合。

この集合から2つのベクトルを取って和を作ると、集合から「はみ出してしまう」。

和空間

和集合を含む最小の線形空間を和空間と呼ぶ

W_1+W_2=\set{\bm x=\bm x_1+\bm x_2|\bm x_1\in W_1,\bm x_2\in W_2}

和集合は $W_1,W_2$ の基底ベクトルを合わせたベクトルで張られる

W_1,W_2 の基底を B_1=\set{\bm b_{11},\bm b_{12},\dots,\bm b_{1m}} B_2=\set{\bm b_{21},\bm b_{22},\dots,\bm b_{2n}} とする。

\bm x=\bm x_1+\bm x_2 ただし \bm x_1\in W_1,\bm x_2\in W_2 のとき、

\bm x=\sum_{k=1}^m x_{1k}\bm b_{1k}+\sum_{k=1}^m x_{2k}\bm b_{2k}

であり、任意の \bm x\in W_1+W_2 を基底を合わせたベクトルの一次結合で表せることが分かる。

和集合の次元

基底 B_1,B_2 に含まれるベクトルが一次独立であれば

\dim (W_1+W_2)=\dim W_1+\dim W_2

となるが、一般には2つの空間の交わりがゼロにはならないため、

\dim (W_1+W_2)<\dim W_1+\dim W_2

となる。より正確には、

\dim (W_1+W_2)=\dim W_1+\dim W_2-\dim(W_1\cap W_2)

である。

例:3次元空間に2枚の原点を通る平面 W_1,W_2 を考えると、これらは部分空間である。 2枚が平行ではない場合、これらの和空間 W_1+W_2 は3次元空間全体であり、原点を通る交線が交空間 W_1\cap W_2 である。このとき、

&math( \underbrace{\dim(W_1+W_2)}_3=\underbrace{\dim W_1}_2+\underbrace{\dim W_2}_2-\underbrace{\dim(W_1\cap W_2)}_1 );

直和

V の部分空間 W_1,W_2 の基底を合わせると V の基底となる場合、

W_1+W_2=W_1\dot +W_2

と書き、 W_1\dot +W_2 W_1 W_2 の直和であるという。

成分分解

W_1\dot +W_2 の基底を B=\langle\bm b_1,\bm b_2,\dots,\bm b_n\rangle とすると、

&math( \bm x&=\underbrace{x_1\bm b_1+x_2\bm b_2+\cdots}_{\bm x_1\in W_1} \underbrace{\cdots+x_n\bm b_n}_{\bm x_2\in W_2}\\ &=\bm x_1+\bm x_2 );

のように、任意の \bm x\in W_1\dot +W_2 を2つの成分 \bm x_1\in W_1 \bm x_2\in W_2 とに一意に分解できる。

成分の値はもう一方の空間に依存する

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同じベクトル \bm x
W_1 W_2 に分解したときの \bm x_1 と、
W_1 W_3 に分解したときの \bm x'_1 とは
異なる値になるので注意せよ。

直交直和

V の部分空間 W_1,W_2 正規直交基底を合わせると V 正規直交基底となる場合、

W_1+W_2=W_1\oplus W_2

と書き、 W_1\oplus W_2 W_1 W_2 の直交直和であるという。

このとき、任意の \bm x_1\in W_1 と任意の \bm x_2\in W_2 は直交する。 (\bm x_1,\bm x_2)=0

補空間

与えられた全体空間 U を、 U=V\oplus W と表せるとき、

W V の補空間と呼び、 W=V^\perp と表わす。

全体集合をある空間と補空間へ分解することは、 V に含まれる成分と、 それと垂直な成分とに分解することに対応する。

V の正規直交基底を \langle \bm e_1,\bm e_2,\dots,\bm e_n\rangle とすると、 任意の \bm x\in U は、

&math( \bm x&=\bm x_V+\bm x_{V^\perp}\\ &=(x_1\bm e_1+x_2\bm e_2+\dots+x_n\bm e_n)+\bm x_{V^\perp} );

と分解でき、左から \bm e_k を掛ければ、

&math( (\bm e_k,\bm x)&=x_1(\bm e_k,\bm e_1)+x_2(\bm e_k,\bm e_2)+\dots+x_n(\bm e_k,\bm e_n)+(\bm e_k,\bm x_{V^\perp})\\ &=x_k );

となるから、これを元の式に代入すれば、

&math( \bm x_V&=(\bm e_1,\bm x)\bm e_1+(\bm e_2,\bm x)\bm e_2+\dots+(\bm e_1,\bm x)\bm e_n\\ &=\bm e_1\bm e_1^\dagger\bm x+\bm e_2\bm e_2^\dagger\bm x+\dots+\bm e_n\bm e_n^\dagger\bm x\\ &=\big(\sum_{k=1}^n\bm e_k\bm e_k^\dagger\big)\bm x\\ &=P_V\bm x );

であり、 P_V=\sum_{k=1}^n\bm e_k\bm e_k^\dagger が全体集合 U から V への射影演算子を表わすことが分かる。

直交直和でない場合には

&math( (\bm e_k,\bm x_{V^\perp})=0 );

が必ずしも成り立たないため、成分への分解はこれほど単純ではなくなる。

例1

\mathbb R^3 の部分空間として \bm a=\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix},\bm b=\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix} で張られる空間 V=[\bm a,\bm b]\in \mathbb R^3 を考える。

\mathbb R^3 から V への射影演算子を求めよ。

解答:

\bm b,\bm a からシュミットの直交化を用いて正規直交系を作る。

\bm e_1=\frac{1}{\|\bm b\|}\bm b=\frac{1}{\sqrt 2}\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}

&math( \bm f_2 &=\bm a-(\bm e_1,\bm a)\bm e_1\\ &=\bm a-\bm e_1\bm e_1^\dagger\bm a\\ &=\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix}

  • \frac{1}{2}\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-1&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix}\\ &=\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}\\ &=\begin{pmatrix}2\\2\\2\end{pmatrix}

);

&math( \bm e_2=\frac{1}{\|\bm f_2\|}\bm f_2=\frac{1}{\sqrt{3}}\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix} );

したがって、求める射影演算子は

&math( P_V&=\bm e_1\bm e_1^\dagger+\bm e_2\bm e_2^\dagger\\ &=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-1&0&1\end{pmatrix}

  1. \frac{1}{3}\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1&1\end{pmatrix}\\ &=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}1&0&-1\\0&0&0\\-1&0&1\end{pmatrix}
  2. \frac{1}{3}\begin{pmatrix}1&1&1\\1&1&1\\1&1&1\end{pmatrix}\\ &=\frac{1}{6}\begin{pmatrix}5&2&-1\\2&2&2\\-1&2&5\end{pmatrix} );

各射影演算子がエルミート(実数行列では対称)になっていることにも注目。

例2

3次元空間に原点を通る平面 x+y+z=0 を考える。 この平面への射影演算子を求めよ。

一般化

上記は2つの部分空間について交空間、和空間、直和、直交直和を考えたが、 2つ以上の部分空間がある場合にも自然に拡張できる。

交空間 W_1\cap W_2\cap \dots\cap W_r 全空間の共通部分
和空間 W_1+W_2+\dots+W_r 一般には一次従属な空間
直和 W_1\dot +W_2\dot +\dots\dot +W_r 一次独立な空間
直交直和 W_1\oplus W_2\oplus \dots\oplus W_r 直交する空間

たとえば W_1\cap W_2\cap \dots\cap W_r=(\dots((W_1\cap W_2)\cap W_3)\cap \dots)\cap W_r の意味である。

直和や直交直和は普通の意味での「演算子」ではなく、和空間の演算子で結ばれる2つの空間が特殊な条件を満たすことを表わしているに過ぎない。

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