量子力学Ⅰ/不確定性原理 のバックアップソース(No.9)

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[[量子力学Ⅰ]]

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* 同時固有関数 [#hb461116]

これまでことある毎に「量子力学においては位置や運動量などの物理量は確率的にしか決まらない」
と話してきた。

ただしこれには例外があって、「物理量演算子の固有関数」 については物理量が ''確定値'' を取るのであった。

もし波動関数 &math(\psi); が物理量 &math(\hat\alpha); と &math(\hat\beta); 
の「同時固有関数」(両方の固有関数)であれば、物理量 &math(\alpha,\beta); 
はどちらも確定値を取ることになる。

>例:~
完全に自由な電子に対する運動量の固有関数は、同時にハミルトニアンの固有関数でもあるから、
&math(\bm p=\hbar \bm k,\epsilon=\hbar^2k^2/2m); は同時に確定値を取る。

&math(\hat\alpha\psi=\lambda_\alpha);、&math(\hat\beta\psi=\lambda_\beta); とすれば

 &math(\hat\alpha\hat\beta\psi=\hat\alpha\lambda_\beta\psi=\lambda_\alpha\lambda_\beta\psi);

 &math(\hat\beta\hat\alpha\psi=\hat\beta\lambda_\alpha\psi=\lambda_\beta\lambda_\alpha\psi);

であるから、

 &math((\hat\alpha\hat\beta-\hat\beta\hat\alpha)\psi=0);

となる。

したがって、任意の &math(\psi); に対して 
&math((\hat\alpha\hat\beta-\hat\beta\hat\alpha)\psi\ne 0); であるならば、同時固有関数は存在しない。

例えば、&math(x,\hat p_x); の同時固有関数や、&math(\hat l_x,\hat l_y); の同時固有関数などは存在しない。
一方、&math(\hat{l^2}); と &math(\hat l_z); は交換するから、これらの同時固有関数は存在する。

* 位置と運動量 [#b3565353]

 &math(
(x\hat p-\hat px)\psi
&=\left(x\frac{\hbar}{i}\frac{\PD}{\PD x}-\frac{\hbar}{i}\frac{\PD}{\PD x}x\right)\psi\\
&=-i\hbar\left\{x\frac{\PD\psi}{\PD x}-\frac{\PD}{\PD x}(x\psi)\right\}\\
&=-i\hbar\left\{\cancel{x\frac{\PD\psi}{\PD x}}-\psi-\cancel{x\frac{\PD\psi}{\PD x}}\right\}\\
&=i\hbar\psi
);

すなわち、

 &math(x\hat p-\hat px=i\hbar\ne 0);

であるから、&math(x); と &math(\hat p); の同時固有関数は存在せず、
両者が同時に確定するような状態は存在しない。

例えば粒子の運動量が確定値 &math(p=p_0); を取る、「運動量の固有状態」 は、

 &math(\varphi_{p_x=\hbar k_x}(x)=\frac{1}{\sqrt\{2\pi\}}e^{ik_x x});

だが、このとき

 &math(|\varphi_{p=p_0}(x)|^2=1/2\pi);

であるから、位置に対する確率密度は全空間で一定値を取り、
&math(x); 座標の測定値は ''完全に不確定'' になる。
(そのためこの関数は通常の意味では規格化できない)

すなわち、&math(\sigma_p=0); であれば &math(\sigma_x=+\infty); である。

逆に、粒子が &math(x=x_0); に存在する、という 「位置の固有状態」 は、

 &math(\varphi_{x=x_0}(x)=\delta(x-x_0));

であるが、このデルタ関数を指数関数の積分表示に直せば、

 &math(
\varphi_{x=x_0}(x)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^\infty e^{ik_x(x-x_0)} dk
);

となる。これはあらゆる運動量 &math(p_x=\hbar k_x); の固有関数 
&math(\varphi_{p_x=\hbar k_x}=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ik_xx});
が均等な重みで重ね合わされた物になっている。

重みが一定 = 確率密度が一定 であるから、運動量の測定値は ''完全に不確定'' になる。

すなわち、&math(\sigma_x=0); であれば &math(\sigma_p=+\infty); である。

2つの演算子が同時固有関数を持たないとき、片方を完全に確定すれば、
もう一方は完全に不確定となることが分かった。

この両極端の場合を除けば &math(\sigma_x); も &math(\sigma_p); も有限値を取ることになるが、
以下に示すように、このとき必ず

 &math(
\sigma_x\cdot\sigma_{p_x} \ge \frac{\hbar}{2}
);

となる。

&math(\sigma_x); と &math(\sigma_{p_x}); を同時にゼロにすることはできない、
というこの結論は、「不確定性原理」 の一例である。

* 不確定性の導出 [#g5fe668e]

一般に、エルミート演算子 &math(\hat\alpha,\hat\beta); に対して、

 &math(\sigma_\alpha\sigma_\beta\geqq \left|\frac{\langle\hat\alpha\hat\beta-\hat\beta\hat\alpha\rangle}{2}\right|);

であること、すなわち、

 &math(\langle\hat\alpha\hat\beta-\hat\beta\hat\alpha\rangle\ne 0);

のとき、&math(\sigma_\alpha); と &math(\sigma_\beta); を同時にゼロにはできないことを証明する。

 &math(
I(\lambda)
&\equiv\int \left|\Delta \alpha\psi+i\lambda\Delta \beta\psi\right|^2dx\\
);

と置けば、

 &math(I(\lambda)&=\int \left\{(\Delta \alpha+i\lambda\Delta \beta)\psi\right\}^*\left\{(\Delta \alpha+i\lambda\Delta \beta)\psi\right\}dx\\
&=\int \psi^*(\Delta \alpha-i\lambda\Delta \beta)(\Delta \alpha+i\lambda\Delta \beta)\psi\,dx\\
&=\int \psi^*\left\{\Delta \alpha^2+i\lambda(\Delta \alpha\Delta \beta-\Delta \beta\Delta \alpha)+\lambda^2\Delta \beta^2\right\}\psi\,dx\\
&=\langle\Delta\alpha^2\rangle+i\lambda\langle\Delta\alpha\Delta\beta-\Delta\beta\Delta\alpha\rangle+\lambda^2\langle\Delta\beta^2\rangle\\
&\geqq 0
);

が任意の &math(\lambda); に対して成り立つことになり、判別式は負になるはずである。

 &math(
&-\langle\Delta\alpha\Delta\beta+\Delta\beta\Delta\alpha\rangle^2
-4\langle\Delta\alpha^2\rangle\langle\Delta\beta^2\rangle\leqq 0\\
);

&math(\langle\Delta\alpha\Delta\beta-\Delta\beta\Delta\alpha\rangle); は純虚数またはゼロになるので(そうでないと上の不等号の左側が実数にならない)、

 &math(
4\langle\Delta\alpha^2\rangle\langle\Delta\beta^2\rangle &\geqq 
-\langle\Delta\alpha\Delta\beta+\Delta\beta\Delta\alpha\rangle^2 \\ &=
|\langle\Delta\alpha\Delta\beta-\Delta\beta\Delta\alpha\rangle|^2
);

 &math(
\sigma_\alpha\sigma_\beta=\sqrt{\langle\Delta\alpha^2\rangle\langle\Delta\beta^2\rangle}\geqq \left|\frac{\langle\Delta\alpha\Delta\beta-\Delta\beta\Delta\alpha\rangle}{2}\right|
);

さらに、

 &math(
\Delta\alpha\Delta\beta-\Delta\beta\Delta\alpha&=
(\hat\alpha-\langle\alpha\rangle)(\hat\beta-\langle\beta\rangle)-
(\hat\beta-\langle\beta\rangle)(\hat\alpha-\langle\alpha\rangle)\\
&=\hat\alpha\hat\beta-\hat\beta\hat\alpha
);

であるから、

 &math(\sigma_\alpha\sigma_\beta\geqq \left|\frac{\langle\hat\alpha\hat\beta-\hat\beta\hat\alpha\rangle}{2}\right|);

** 具体例 [#cd9db706]

&math(\hat\alpha=x,\hat\beta=p); のとき、&math(x\hat p_x-\hat p_xx=i\hbar); より、

 &math(\sigma_x\sigma_p\geqq \frac{\hbar}{2});

同様に、&math(\hat l_x\hat l_y-\hat l_y\hat l_x=i\hbar\hat l_z); より、

 &math(\sigma_{l_x}\sigma_{l_y}\geqq \left|\frac{\hbar\langle l_z\rangle}{2}\right|);


* 不確定性原理 [#u6bedd3d]

本来、量子力学で言うところの「不確定性原理」は上記のように、
「&math(x); と &math(p_x); が同時に正確に定まるような状態は存在しない」という原理である。

ただし、この言葉は微妙に異なる、そして時には間違った文脈で使われることがあるため注意が必要である。

歴史的には、量子力学の黎明期に活躍した若き科学者、ハイゼンベルクが不確定性原理を提唱した。
その当時、量子力学はまだ多くの科学者に信用されていなかった。

古典力学においては、初期状態を与えてニュートン方程式を解けば原理的には未来永劫の時間発展を完全に正確に記述することができる。
これに対して量子力学では正確な初期条件を与えれば与えるほど、波動関数はすぐに広がってしまい、
一定時間経過後の物理量は確率的にしか求まらない。それどころか、完全に正確な初期条件を設定すること自体、量子力学では不可能である(物理系の初期条件は位置と速度を与えなければ決まらないこと、位置と速度の同時固有状態が存在しないこと、を思い出せ)。

このような点を見比べると、量子力学は古典力学に比べて不正確な、「劣った理論」と見えてしまいかねなかった。
また、多くの科学者はニュートン的な世界観、すなわち、未来は「初期条件」によって完全に決定されており、
「確率」などの入り込む余地はない、とする決定論的世界観を持っていたため、そのような世界観と相容れない
量子力学は受け容れがたかった。かのアインシュタインが「神はサイコロを振らない」と言ったのは象徴的である。

そのような価値観、世界観を打ち破るべくハイゼンベルクが指摘したのが物理現象の不確定性である。
ハイゼンベルクは電子に光を当ててその位置と運動量を決定するという仮想的な実験について考察した。
電子の位置を正確に測定しようとすればより短い波長の光を使わなければならないが、
その場合光の運動量が大きくなり、位置測定後の電子の運動量が乱され、不正確になってしまう。
すなわち位置と運動量の両者を同時に、正確に決定するような測定方法は存在しないことを指摘した。
彼の思考実験は位置の正確性と運動量に与える撹乱の積が &math(\Delta x\Delta p_x\sim h); 
となることを示しており、ハイゼンベルクはこの結果を上記の物理量の不確定性と結びつけて説明した。

そもそも計測不可能な「初期状態」が実在すると仮定する古典物理学がおかしいのであって、
初期状態が計測不可能なことを原理に取り入れた量子力学こそ正しいと考えるべき、
という指摘である。

このような考え方は物理現象の見方を大きく変え、その後の量子力学の発展に大変役立った。

ただし、ここで議論した

+ &math(x); と &math(p_x); が両方とも正確に定まるような量子状態は存在しないこと
+ 粒子の &math(x); の計測が必ず &math(p_x); に影響を与え、誤差を生んでしまうこと

の2つは本来区別して考えなければいけない問題であるにもかかわらず、
ハイゼンベルク以来長い間この2者の区別は曖昧なままになっていた。

名古屋大学の&ruby(おざわまさなお){小澤正直};は2003年にこの点を明確に指摘し、
2012年には東京大学の&ruby(はせがわゆうじ){長谷川祐司};らと共にハイゼンベルクの思考実験の限界を下回る計測が可能であることを実験的に証明した。

* 質問・コメント [#s1c0783f]

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