量子力学Ⅰ/前期量子論 のバックアップ(No.13)

更新


量子力学Ⅰ

量子力学以前の世界

物理学の略史:

  • 16世紀半ば コペルニクスの地動説 (戦国時代)
  • 17世紀後半 ニュートンの力学   (江戸時代)
  • 18世紀半ば 産業革命
  • 19世紀初頭 熱力学の発展
  • 19世紀半ば            (明治時代)
    • 分子運動論から統計力学へ
    • マクスウェル方程式による電磁気学
  • 19世紀末  トムソンが電子を発見
  • 20世紀初頭            (大正時代)
    • アインシュタインの相対性理論

この時点までに観測されていた実験結果は、ほぼすべてこれらの理論で説明できていた。

これらの理論の特徴:

  • 決定論的
    • 初期状態が決まれば未来永劫までの運動が決定される
    • 初期状態を決めるための計測に、原理的な限界はない
    • これらの前提は量子力学で覆される

量子力学以前の物理を指して「古典論」と呼ぶ。

古典論での認識

光について

電磁気学によれば、光は電磁波である。 つまり、光が通れば電場 \bm E(\bm x,t) と磁場 \bm B(\bm x,t) の波ができる。

波であるから、干渉や回折、散乱など、波に特有な性質を示す。 物理学実験でもレーザー光の干渉・回折現象を学んだ。

光のエネルギーや運動量を定義することができて、その値は電場や磁場の振幅の2乗に比例する。当然、それらの値は 連続的な値を取りうる

光についてもう少し詳しくはこちら → 量子力学Ⅰ/電磁気学における光

電子について

真空中で物質を加熱したり、光を当てたりすると、そこから負の電荷が飛び出すのを確認できる。*1真空中でないと出てきた電子は空気の分子に当たり、数十ミクロン程度で止まってしまう。またその際空気がイオン化するため、後続の電子の放出が阻害されてしまう。

出てきた電荷を電場や磁場の中を通すとその軌道が湾曲することから、この負電荷が帯電した粒子からなることが分かり、その比電荷(粒子1つあたりの電荷と質量の比)が求まる。これは物理学実験でも扱った。

さらにウィルソンの霧箱と呼ばれる装置を用いることで、荷電粒子の数と、電荷の総量を同時に求めることができ、そこから粒子1つあたりの電荷量が求まった。

こうして求めた荷電粒子の質量は水素原子の 1/1000 程度と非常に小さかった。 (トムソンの実験 1887年)*2https://www.shinko-keirin.co.j...

元素の種類によらず同じ比電荷、重量を持つ粒子が飛び出してくることから、 原子は負電荷を持った非常に軽い電子と、正電荷を持ったその他の部分に分けられる。 と考えた。

すなわち

光は波であり、電子は粒子である、と考えられていた。

以下に見るように、量子論では光も電子も、波と粒子の両方の性質を示す。 → 粒子と波動の二重性

前期量子論

20世紀初頭、いくつかの分野で古典論では説明できない現象が発見され、 それらを解決する課程で「量子論」が形成されていった。*3括弧内は量子論により問題が説明された年

  • 黒体放射のスペクトル (1900年 プランク)
  • 光電効果 (1905年 アインシュタイン)
  • 金属原子核によるアルファ線の散乱 (1910年 ラザフォード)
  • 原子の発光スペクトル (1913年 ボーア)

黒体放射

有限温度の物体は常に光を出していて、そのスペクトル(光強度の波長依存性)は温度に依存する。例えば室温程度の物体は赤外線しか出さないが、赤熱する鉄は赤く光り、太陽は黄色く光る。

反射率が高い物体ではその分だけ輻射が減るので、完全な「黒体」が最もたくさん光を出す。

black-body-spectrum2.png   black-body-spectrum.png

物体から出る光のエネルギーが連続値を取ることを前提として黒体放射のスペクトルを理論的に導出すると、 実験値と合わないばかりか、予想される放出エネルギーは 無限大になってしまう!

これに対して、光により運ばれるエネルギーに最小値がある(量子化されている)ことを仮定すると 黒体放射のスペクトルを理論的に導出できることが示された。

得られた結果

周波数 \nu (ニュー) の光が物質から運び去るエネルギーは、 h=6.62606957\times10^{-34}\,\mathrm{m^2 kg/s} をプランク定数として、 h\nu の整数倍である。 角周波数 \omega=2\pi\nu で表わせば \hbar=h/2\pi を使って \hbar\omega の整数倍。

  \Delta E=h\nu=\hbar\omega

残る疑問: 光は電磁波なのだからエネルギーは連続的値をとれるはずでは???

光電効果

金属に紫外光を当てると、金属中の電子が外へ飛び出してくる。この現象を光電効果と呼び、出てくる電子を光電子(こうでんし)と呼ぶ。

光電効果は、当てる光の周波数 \nu がある値 \nu_c *4この値は金属の種類によって異なるより大きくないといくら強い光を当てても生じない。また、出てくる光電子の速度(運動エネルギー)は光量ではなく \nu に依存する。光が強くなると出てくる電子の数が増える。

これらの結果から、アインシュタインは光が粒子(光子)からなることを提案した。これを光量子仮説という。

  • 光は粒子(=光子)の流れである
  • 電子が光子を1つ吸収すると h\nu のエネルギーを得る
  • 電子を金属内に閉じ込めているエネルギー障壁の高さ(仕事関数)を W=h\nu_c とする
  • h\nu<W では電子は出てこない
  • h\nu>W では、 \Delta E=h\nu-W の運動エネルギーを持って飛び出してくる
  • 強い光ほどたくさんの光子があたるから、電子もたくさん飛び出す

として、実験結果を説明できる。

得られた結果

振動数 \nu の光は1つあたり E=h\nu=\hbar\omega のエネルギーと p=h/\lambda=\hbar k の運動量を持つ粒子=光子の集まりである (ここで、 \hbar=h/2\pi )。 *5運動量は特殊相対論により得られる E^2=c^2p^2+m^2c^4 と、光子のエネルギー及び質量 m=0 から導出された (→ 参照(http://www.jsimplicity.com/ja_...))。後にコンプトン散乱などで確かめられた。

残る疑問: 光が粒子の集まりならば、波としての性質はどこから来る???

惑星型原子模型

電子の発見により、原子はその質量のほとんどを占める正電荷を持つ部分と、 非常に軽く負電荷を帯びた電子とから構成されることが分かっていた。

1910年頃、ラザフォードは金属箔に放射線(アルファ線 = 正に帯電した粒子)を当てると、 ほとんどの粒子がそのまま箔を通り抜けるにもかかわらず、 非常に低い確率で粒子が大きな角度で散乱されることを発見した。

つまり、金属は「すかすか」だった!

この結果は、金属箔を構成する原子の質量の大部分が非常に小さな領域に固まっていること(= 原子核が存在すること)を示している。*6前提として、アルファ線の粒子に比べて電子はずっと軽いので、アルファ線は電子にぶつかっても方向を変えない。非常に小さなアルファ線の粒子と、非常に小さな原子核がぶつかったときだけ、アルファ線の方向が変化する。アルファ線の粒子の正体はヘリウム原子の原子核である。

詳しい計算から、原子核は原子のサイズのⅠ万分の以下であることが分かった。

得られた結果

原子の中では、非常に小さくて重い原子核の周りを、非常に軽い電子が回っている(惑星型原子モデル)

残る疑問: 古典論によれば、電荷を帯びた電子が回転運動(加速度運動)すると電磁波が放出されるため、 電子は徐々にエネルギーを失い、原子核に落ち込んでしまうことが予想される。 つまり、古典論では惑星型原子は安定に存在できない!!!

原子の発光スペクトル

孤立した原子にエネルギーを与えると、特定の波長の光を放出することが発見された。

原子は原子核と電子からなるから、

  (原子&のエネルギー) \\&= (原子核・電子間の静電エネルギー) + (電子の運動エネルギー)

と表せる。(原子核は重いためほとんど動かず運動エネルギーは無視できる)

高いエネルギーを持った原子では、電子は原子核から遠い軌道を回ることになる。

ボーアは、電子が外側の軌道から内側の軌道へ飛び移る際に、 余ったエネルギーが光子として放出されると考えた。

すると、 特定のエネルギーを持つ光子しか放出されないということは、 電子の軌道半径が連続的な値を取ることができず、 ある条件を満たす特定の値しか許されないことになる。

電子半径が離散化していると、 電子は電磁波の放出により連続的にエネルギーを失うことができず、 その結果、原子が安定に存在する、と考えた。

得られた結果

電子の軌道半径が満たさなければならない条件は、 電子の軌道半径を R 、運動量を p とすると、次のように表せた。

2\pi Rp=nh

ここでもプランク定数 h が出てくる。

残る疑問: なぜこの条件が出てくるのか、この時点では全く不明。

電子の波 = 物質波

「波」であるはずの光が「粒子」としての側面も持つことが分かってきた。

このときエネルギーと角周波数 E=\hbar\omega 、運動量と波数 p=\hbar k に関係がある。

ド・ブロイは逆に、これまで粒子であるとされていた電子にも波数 k=p/\hbar 、 つまり波長 \lambda=h/p を持つ「波としての性質」があると考えると、 ボーアの量子条件が

  2\pi R=n\lambda

すなわち「軌道の1周が電子の波長の整数倍である」という理解しやすい形に表せることを指摘した。

この波の性質は、後に物質に電子線を当てた際の回折現象により確かめられた。

得られた結果

粒子と考えられてきた電子も波としての性質を持つ。

その角振動数は \omega=E/\hbar 、波数は k=p/\hbar である。

残る疑問: ここにも謎の「粒子と波動の二重性」が・・・

質問・コメント





*1 真空中でないと出てきた電子は空気の分子に当たり、数十ミクロン程度で止まってしまう。またその際空気がイオン化するため、後続の電子の放出が阻害されてしまう。
*2 https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kori/science/ayumi/ayumi13.html
*3 括弧内は量子論により問題が説明された年
*4 この値は金属の種類によって異なる
*5 運動量は特殊相対論により得られる E^2=c^2p^2+m^2c^4 と、光子のエネルギー及び質量 m=0 から導出された (→ 参照)。後にコンプトン散乱などで確かめられた。
*6 前提として、アルファ線の粒子に比べて電子はずっと軽いので、アルファ線は電子にぶつかっても方向を変えない。非常に小さなアルファ線の粒子と、非常に小さな原子核がぶつかったときだけ、アルファ線の方向が変化する。アルファ線の粒子の正体はヘリウム原子の原子核である。

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