量子力学Ⅰ/平均場近似 のバックアップ(No.4)

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量子力学Ⅰ

平均場近似による1体問題化

前述のように1粒子状態を複数集めて多粒子状態を作るためには、 「粒子間の相互作用がないこと」を仮定しなければならない。 しかし、それでは興味のある問題は1つも解けないことになってしまう。

そこで、「擬似的に相互作用をなくすため」他の粒子との相互作用を平均化して、 ポテンシャル V に含めてしまう平均場近似が行われる。

ハートレーの方法

水素様「分子」の時のように、

 &math( V(\bm r_1,\bm r_2)&=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\Biggl[ \underbrace{ \frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_1|}+ \frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_2|}}_{電子1と原子核}+ \underbrace{ \frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_1|}+ \frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_2|}}_{電子2と原子核}+ \underbrace{\frac{+1}{|\bm r_1-\bm r_2|}}_{電子間相互作用} \Biggr]\\ &=V_{1体}(\bm r_1)+V_{1体}(\bm r_2)+V_{2体}(\bm r_1,\bm r_2) );

粒子間の相互作用が2体相互作用の重ね合わせで書けるとすれば、 多体問題のポテンシャルは次のように表せる。

&math( V(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)= \underbrace{\sum_{j=1}^n V_j(\bm r_j)}_{1粒子ポテンシャル}+ \underbrace{\sum_{j=1}^n\sum_{k=j+1}^n V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)}_{2粒子ポテンシャル} );

このようなポテンシャルを仮定した場合、 例えば粒子 j の感じるポテンシャルは他の粒子の位置により変化するのであるが、 これを "平均場" で置き換えよう。

&math( v_j(\bm r_j)&=V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j} V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\\ \overline{v_j}(\bm r_j)&= V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j} \overline{ V_{j,k}(\bm r_j)}\\ );

ただし、

  \overline{ V_{j,k}(\bm r_j)}=\int V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_k

であり、この \overline{v_j}(\bm r_j) に対する「1体のシュレーディンガー方程式」 を解いた解を \varphi_j(\bm r_j) としている。

k 番目の電子は様々に動き回るが、その際 \bm r_k に存在する確率が |\varphi_k(\bm r_k)|^2 であるから、 その電子の作る平均的なポテンシャルを上記のように求めたわけである。

 &math( \left[-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}^2+v_j(\bm r_j)\right]\varphi_j(\bm r_j)=\varepsilon_j\varphi_j(\bm r_j) );

このようにして、平均場近似により多体問題が1体問題に変換されたことになる。

ただし、 v_j(\bm r_j) を求めるのに \varphi_j(\bm r_j) が必要で、 \varphi_j(\bm r_j) を求めるのに v_j(\bm r_j) が必要なので、 この方程式はそのままでは解けない。

始めに適当な v_j(\bm r_j) を仮定して \varphi_j(\bm r_j) を求め、 そこから新しい v_j(\bm r_j) を求め、、、、などと繰り返して、 「全体としてつじつまの合う(セルフコンシステントな=自己無頓着な)」解 \varphi_j(\bm r_j) を 得るような手順(= 自己無頓着場の方法)が必要となる。

そのようにして求めた \varphi_j(\bm r_j) から

  \Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)=\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)

を作れば、1体のハミルトニアン

&math( &\hat h_j=-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\\ );

をにらみつつ、

&math( &\hat H\Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)\\ &=\left[-\sum_j\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+\sum_jV_j(\bm r_j)+\sum_j\sum_{k>j}V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &=\sum_j\left[\hat h_j-\sum_{k<j}V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &\sim\left[\sum_j\varepsilon_j-\sum_j\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &=E\Psi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n) );

のように、多粒子ハミルトニアンの(近似的な)固有関数になっていることが分かる。

ここで、

 &math( \overline{V_{jk}}=\iint V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_j(\bm r_j)|^2\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_j\,d\bm r_k );

とした。

このときのエネルギー固有は、

  E=\sum_j\varepsilon_j-\sum_j\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}

であるから、1体問題のエネルギー固有値の単純な足し算にはなっていない。 これは、2粒子ポテンシャルのエネルギーを j k とで2回取り込んでしまっているためであり、上式の2つ目のシグマはこの分を差し引いているものである。

上記のようにして求まる解が「多体波動関数を1つのハートレー積で表示する」場合の最適解となることは「変分法」を用いて確かめることができる。

問題点

ハートレー法にはいくつかの問題点があり、実用性には乏しい。

  • 波動関数が反対称化されていない
  • 軌道毎にハミルトニアンが異なり、軌道間の直交性が保証されない

そこで、ハートレー・フォック法を始めとした、 さらに実用的な1粒子問題化の方法が開発されている。

ハートレー・フォックの方法

多体波動関数を「1つのハートレー積で表示する」場合の最適解を求める方法がハートレー法だったのに対して、多体波動関数を「1つのスレイター行列で表示する」場合の最適解を求める方法がハートレー・フォック法である。

ハートレー法とは異なり、1粒子方程式(フォック方程式と呼ばれる)はすべての粒子に対して共通となる。

フォック方程式には、ハートレー法でも現れた1粒子ポテンシャル、平均化された2粒子ポテンシャル、 に対応する項の他に、波動関数が反対称化されたことを反映した「交換ポテンシャル」と呼ばれる項が現れる。 この項は、波動関数の反対称性から生まれるパウリの排他律により、 同じスピンを持つ電子が互いに避け合う効果のために、 反対称化しない場合に比べて電子・電子間の斥力エネルギーが低下する影響(交換相互作用)を表している。

パウリの排他律により複数の粒子が同じ固有関数状態を取ることはできないため、 フォック方程式の固有関数をエネルギーの低い方から n 個集めて作ったスレイター行列が、求める最適解となる。

この1粒子波動関数は規格直交系に選べるため、理論的にはハートレー法よりも見通しが良くなる。 (実際に数値計算等で求めるのはより難しくなっている)

また、この形では(仮想的な)励起状態やイオン化状態を容易に表せることもメリットとなる。

固有関数をエネルギーの低い方から順に n 個集める代りに、 いくつか飛ばしながら n 個集めれば、 それは低エネルギー状態の電子を高エネルギー状態へ励起した、 励起状態を表す。 当然、固有関数の取り方を変えればフォック方程式に現れるポテンシャル形状も変化するため、 取り方を変えるたびに自己無撞着計算をやり直さなければならず、 それにともなって固有関数の具体的な形も変化するが、 それでも最終的に「励起状態」に対応する解が求まる。

電子数を増やしたり減らしたりする場合も、対応するポテンシャル項を付けたり、 減らしたりすれば任意の n に対して電子 n 個の解を得られる。

精度の限界

多体波動関数が「1つのスレイター行列式で表示できる」というのはあくまで近似であるため、 この近似の範囲を超えた精度を必要とする計算には、ハートレー・フォック法を越えた議論が必要となる。

「1つのスレイター行列式で表示できる」 というのは個々の粒子の存在確率が他の粒子の位置に依存せず独立して決まる、 ということと同義であるから、ハートレー・フォック法を越えた理論で取り入れられる相互作用は 相関相互作用と呼ばれる。異なる粒子の位置に相関があることによる相互作用、と言う意味である。

  • ハートレー法:フェルミ粒子の反対称性を反映しない
  • ハートレー・フォック法:フェルミ粒子の反対称性に起因する粒子間の反発 (同じ座標に2つの粒子が入れない)= 交換相互作用(粒子の交換に対する反対称性に起因) を正しく取り込む
  • それ以上の近似:ハートレー・フォック法で取り入れられていない粒子感の相関 (クーロン斥力を及ぼし合う電子同士は互いに避け合いながら運動する)= 相関相互作用 を程度取り込もうとする

波動関数を複数のスレイター行列式の線形結合で表すことにより、 「相関」を取り入れることができる。

上で述べた「最安定状態」のスレーター行列と、 複数の「励起状態」のスレーター行列との線形結合を取ることで、 より正確な「最安定状態」が得られる事が知られている。 当然、多くの項数を含めた高精度な計算には多大な計算資源が必要となる。

複数種類の粒子

全体の波動関数は、 それぞれの粒子に対応するスレーター行列式の掛け合わせで表される。

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