電磁ポテンシャルの導入 のバックアップ(No.16)

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電磁気学

目次

電荷密度と電流密度を与えて Maxwell 方程式を解く問題を考える

Maxwell 方程式

  &math( \left\{\begin{array}{c@{\ }l@{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }l} \displaystyle {\rm rot}\bm E+\frac{\partial \bm B}{\partial t}&=\bm 0&\MARU{1}\vspace{2mm}\\ {\rm div} \bm B &= 0&\MARU{2}\vspace{2mm}\\ \displaystyle\frac{1}{\mu_0}{\rm rot} \bm B-\varepsilon_0 \frac{\partial \bm E}{\partial t} &= \bm i&\MARU{3}\vspace{2mm}\\ \varepsilon_0{\rm div} \bm E &= \rho&\MARU{4}\\ \end{array}\right . );

に、

  • 電荷密度 \rho(\bm x,t)
  • 電流密度 \bm i(\bm x,t)

を与えて解き、

  • 電場 \bm E(\bm x,t)
  • 磁束密度 \bm B(\bm x,t)

を求める問題を考える。

電磁気学の典型的な問題の1つである

方程式が多すぎる?

ベクトルの x,\, y,\,z 成分を1つ1つ独立変数と考えれば

  • 求める変数は6個 … E_x,E_y,E_z,B_x,B_y,B_z
  • 与えられた式は8個 … 3+1+3+1=8

条件が多すぎて解がないのでは?

→ 実は \MARU{2} \MARU{4} は独立の条件になっていないため大丈夫

② は ① に含まれている

\MARU{1} の div を取る

   {\rm div}\,{\rm rot}\bm E+{\rm div}\frac{\partial}{\partial t}\bm B={\rm div} \bm \,0

ベクトル解析の公式より、任意の \bm E に対して {\rm div}\,{\rm rot}\bm E=0 が成り立つから、

   \frac{\partial}{\partial t}\big({\rm div}\bm B\big)=0

すなわち、 {\rm div}\bm B の値が時間によって変化しないことが \MARU{1} により保証される。

したがって、ある時刻、例えば t=0 において {\rm div}\bm B(\bm x,0)=0 が成り立っていれば、 \MARU{2} は無くても \MARU{1} のみから任意の時刻 t において {\rm div}\bm B(\bm x,t)=0 が保証される。

すなわち、 {\rm div}\bm B(\bm x,0)=0 となる「境界条件」を与える限り、 \MARU{2} \MARU{1} に含まれており、独立な条件にはならない

④ は ③ に含まれている

同様に \MARU{3} の div を取る

   \frac{1}{\mu_0}{\rm div}\,{\rm rot} \bm B-\varepsilon_0{\rm div}\frac{\partial \bm E}{\partial t} = {\rm div}\bm i

   -\frac{\partial}{\partial t}\varepsilon_0{\rm div}\bm E = {\rm div}\bm i

ここで、条件として与える \rho,\,\bm i は電荷保存則を満たしていなければならないため、

   {\rm div}\bm i=-\frac{\partial}{\partial t}\rho

したがって、

   \frac{\partial}{\partial t}\varepsilon_0{\rm div}\bm E=\frac{\partial}{\partial t}\rho

   \frac{\partial}{\partial t}\big(\varepsilon_0{\rm div}\bm E-\rho\big)=0

すなわち、 \varepsilon_0{\rm div}\bm E-\rho は時間によって変化しない。

したがって、ある時刻、例えば t=0 において \varepsilon_0{\rm div}\bm E(\bm x,0)=\rho(\bm x,0) が成り立っていれば、 \MARU{4} は無くても \MARU{3} のみから任意の時刻 t において \varepsilon_0{\rm div}\bm E(\bm x,t)=\rho(\bm x,t) が保証される。

すなわち、 \varepsilon_0{\rm div}\bm E(\bm x,0)=\rho(\bm x,0) となる「境界条件」を与える限り、 \MARU{4} \MARU{3} に含まれており、独立な条件にはならない

独立な条件の数

\MARU{1}\sim\MARU{4} のうち、 \MARU{2}, \MARU{4} を除くと、独立な条件は \MARU{1}, \MARU{3} のみとなり、成分で考えれば

  • 求める変数は6個 … E_x,E_y,E_z,B_x,B_y,B_z
  • 与えられた式は6個 … 3+3=6

で、ちょうど解ける計算になる。

→ 実は、本当の自由度はこれよりさらに少ない4になる
→ 詳細を以下で見る

電磁ポテンシャルとは

\MARU{1}, \MARU{3} の式は

\left\{\begin{array}{c@{\ }l@{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }l}\displaystyle {\rm rot}\bm E+\frac{\partial \bm B}{\partial t}&=\bm 0&\MARU{1}\vspace{2mm}\\\displaystyle\frac{1}{\mu_0}{\rm rot} \bm B-\varepsilon_0 \frac{\partial \bm E}{\partial t} &= \bm i&\MARU{3}\vspace{2mm}\end{array}\right .

のように \bm E, \bm B の各成分が複雑に入り組んでいるため、解くのが難しい。

「電磁ポテンシャル」を導入することで問題を見通しの良い形に直せる。

ここで、「電磁ポテンシャル」と「静電ポテンシャル」の2つの用語を使い分けていることに注意せよ。

  • 電磁ポテンシャル … 電磁場が時間に依存して変化する時に使用する
    • ベクトルポテンシャル
    • スカラーポテンシャル
  • 静電ポテンシャル=電位 … 電磁場が時間に依存しない時に使用する
    (電磁ポテンシャルのスカラーポテンシャルから時間に依存する項を除いた形)

静電ポテンシャルの復習

時間に依存しない電場 = 静電場 を考えるとき、「静電ポテンシャル」つまり「電位」を使うことで問題を簡単に解くことができた。

  電位: \phi(\bm x)

2点 A, B が与えられたとき、2点間の電位差(電場を AB 間で線積分した値)は点 A, B における \phi(\bm x) の値のみを使って、

   \phi(\bm x_B)-\phi(\bm x_A)=-\int_{\bm x_A}^{\bm x_B}\bm E\cdot d\bm r

と書ける。あるいは同じ意味であるが、

   \bm E(\bm x)=-{\rm grad} \phi(\bm x)

と書ける。

すなわち電場 \bm E は電位 \phi の傾きである。

というのが静電ポテンシャルの定義であった。

静電ポテンシャル.png

このようにして電位を定義可能できることは、 上記 Maxwell 方程式の \MARU{1} から時間に依存する項を除いた

   {\rm rot}\bm E(\bm x)=0

という式から導かれる。

2点 A, B 間に2つの経路 R_1, R_2 を考える。

R_1 を行って R_2 を帰る閉曲線を C=R_1-R_2 C に囲まれる面積を S とすると、

   \int_{R_1}\bm E\cdot d\bm r-\int_{R_2}\bm E\cdot d\bm r=\oint_{C}\bm E\cdot d\bm r=\int_S{\rm rot}\bm E\cdot\bm n dS=0

となり、任意の経路に沿った線積分が同じ値を取ることが分かる。これがポテンシャルの定義可能性を示す。

逆に、 \frac{\PD\bm B}{\PD t}\ne \bm 0 のとき、いわゆる「電位」は定義されない

静電ポテンシャルを用いて時間に依存しない Maxwell 方程式を書き直す

\bm E(\bm x)=-{\rm grad} \phi(\bm x) \MARU 4 へ代入すれば、

   -{\rm div}\,{\rm grad}\phi(\bm x)=-\bigtriangleup\phi(\bm x)=\rho(\bm x)/\varepsilon_0

この形の方程式を Laplace (ラプラス) 方程式と呼ぶ。(右辺がゼロなら Poisson (ポアソン)方程式)

   \bigtriangleup\equiv{\rm div}\,{\rm grad}=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}

を Laplacian (ラプラシアン) と呼ぶ。

以上、静電ポテンシャル \rho を導入することにより、

   {\rm rot}\bm E(\bm x)=0
   {\rm div}\bm E(\bm x)=\rho(\bm x)/\varepsilon_0

の複雑な連立方程式から \bm E(\bm x) を決める難しい問題が、

   -\bigtriangleup\phi(\bm x)=\rho(\bm x)/\varepsilon_0

を解いて

   \bm E(\bm x)=-{\rm grad} \phi(\bm x)

へ代入する、易しい問題に書き換えられたことに注目せよ。

電磁ポテンシャルの導入

上で見たとおり、動電場においては電場の線積分により電位(静電ポテンシャル)を定義することはできない。

時間に依存する電磁場を考えるときは、静電ポテンシャルのかわりに電磁ポテンシャルを使うことになる。

ベクトルポテンシャル

まず、 \MARU{2} よりベクトルポテンシャル \bm A(\bm x,t) を導入し、これを用いて磁束密度を

   \bm B(\bm x,t)={\rm rot} \bm A(\bm x,t)\hspace{2cm}\MARU{5}

と書き表す。これにより \MARU{2} は自動的に満たされる。

   {\rm div}\,{\rm rot} \bm A=0

なぜ \MARU{2} からベクトルポテンシャルを導入できるかというと ・・・ 実はスカラーポテンシャルの時のようには簡単に説明できない。以下に参考文献を挙げるにとどめる。

  • 「ヘルムホルツの定理」からベクトルポテンシャルの存在を証明できる

ベクトルポテンシャルの意味

ベクトルポテンシャル.png

静電ポテンシャルが2点間の電場の線積分から得られたのと比較しながら理解しよう。

閉曲線 C を考える。 C を縁とする2つの曲面 S_1, S_2 を取り、それらを合わせてできる閉曲面を S=S_1-S_2 S に囲まれる体積を V とする。

S_1, S_2 を貫く磁束を比較すると、

   \int_{S_1}\bm B\cdot\bm ndS-\int_{S_2}\bm B\cdot\bm ndS=\int_{S}\bm B\cdot\bm ndS=\int_{V}{\rm div}\bm Bd^3x=0

となるから、閉曲線 C を貫く磁束 N_C は面の取り方によらず一意に定義される。

   N_C=\int_{S_\mathrm{any}}\bm B\cdot\bm ndS

ここに \bm B(\bm x,t)={\rm rot} \bm A(\bm x,t) を代入すると、

   N_C=\int_{S}{\rm rot}\bm A\cdot\bm ndS=\oint_{C}\bm A\cdot d\bm r

となり、 N_C C 上の \bm A の値のみを含む式で表せることになる。

2点 A,B 間の電位差 \phi_\mathrm{AB} が、2点 A,B の上での静電ポテンシャル \phi の値のみを使って \phi_\mathrm{AB}=\phi(\bm x_B)-\phi(\bm x_A) と表せたのと、

閉曲線 C 内部の磁束 N_C が、閉曲線 C 上でのベクトルポテンシャル \bm A の値のみを使って N_C=\oint_{C}\bm A\cdot d\bm r と表せたのと、

を対比させて理解したい。

演習

次のベクトルポテンシャルに対応する磁場を求めよ。

(1) \bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}    (2) \bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}    (3) \bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}y\\0\\0\end{pmatrix}   

(4) \bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}0\\-x\\0\end{pmatrix}    (5) \bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}y^2\\0\\0\end{pmatrix}    (6) \bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}0\\0\\\log(x^2+y^2)\end{pmatrix}  

特に (6) について磁場の様子を x,y 平面上に図示せよ。

  • ベクトルポテンシャルが空間的に変化しても、磁場が存在しないことがある
  • 異なるベクトルポテンシャルが同じ磁場を与える場合がある

ことに注意せよ。

スカラーポテンシャル

\MARU{1} \bm B(\bm x,t)={\rm rot} \bm A(\bm x,t) を代入すると、

   {\rm rot}\bm E+\frac{\partial}{\partial t}{\rm rot}\bm A=\bm 0

   \ROT\left(\bm E+\frac{\partial}{\partial t}\bm A\right)=\bm 0

したがって、静電ポテンシャルの時の議論と同様に、

   \bm E+\frac{\partial}{\partial t}\bm A=-\GRAD\phi

と置けて、

   \bm E=-\GRAD\phi-\frac{\partial}{\partial t}\bm A\hspace{2cm}\MARU{6}

である。これにより \MARU{1} は自動的に満たされる。

第2項がなければ静電ポテンシャルの式と同じであるが、動的な場では電磁誘導の項である第2項が現れる事に注意せよ。

すなわち、

  &math( \phi(\bm x_B)-\phi(\bm x_A)=

  • \int_{\bm x_A}^{\bm x_B}\left(\bm E+\frac{\partial}{\partial t}\bm A\right)\cdot d\bm r );

電荷と電流に対するポテンシャル

電磁ポテンシャルの物理的意味:

位置エネルギーの空間微分が力になることを思い出し、ローレンツ力との関係を調べよう。

  &math( \bm f&=e\bm E+e\bm v\times\bm B\\ &=e\left(-\grad\phi-\frac{\PD}{\PD t}\bm A\right)+e\bm v\times\left(\rot\bm A\right)\\ &=-e\grad\phi-e\frac{\PD}{\PD t}\bm A+\grad(e\bm v\cdot\bm A)-(e\bm v\cdot\bm\nabla)\bm A\\ &=-\grad\Big(e\phi-e\bm v\cdot\bm A\Big)-e\left(\frac{\PD}{\PD t}-\bm v\cdot\bm\nabla\right)\bm A\\ &=-\grad\Big(e\phi-e\bm v\cdot\bm A\Big)-e\frac{d}{dt}\bm A\\ );

粒子の運動量を \bm p=m\bm v とすると、 d\bm p/dt=\bm f であるから、

  &math( \frac{d}{dt}\Big(\bm p+e\bm A\Big)&=-\grad\Big(e\phi-e\bm v\cdot\bm A\Big) );

を得る。左辺の \bm p+e\bm A はベクトルポテンシャルの存在する空間における粒子の一般化運動量 (解析力学において位置座標と対になる運動量 = \PD L/\PD \dot x )であり、その時間微分がポテンシャルエネルギーの傾きで与えられるという式になっている。

ポテンシャルエネルギーが電荷そのものによる成分 e\phi と、 電流によるもの -e\bm v\cdot\bm A からなることが分かる。

電磁ポテンシャルを用いて Maxwell 方程式を書き直す

電磁ポテンシャルを導入したことで、 \MARU{1}, \MARU{2} は自動的に満たされるため、 \MARU{3}, \MARU{4} \bm A, \phi の式に直すと次式を得る(詳細は省く)。

  &math( \left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l} \displaystyle \grad\left(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\partial\phi}{\partial t}\right)

  • \left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\bm A &=\mu_0\bm i&\MARU{3}^\prime\\ \displaystyle
  • \frac{\partial}{\partial t}\bigg( {\rm div} \bm A \ \,{\color{blue}+\frac{1}{c^2}\frac{\partial \phi}{\partial t}}\bigg)
  • \left(\bigtriangleup\ \,{\color{blue}-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}}\right)\,\phi &\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho&\MARU{4}^\prime\end{array}\right . );

ここで \begin{cases}\displaystyle\bigtriangleup=\DIV\GRAD=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\\\displaystyle\frac{1}{c^2}=\mu_0\varepsilon_0\end{cases} であり、 \bigtriangleup\bm A=\begin{pmatrix}\bigtriangleup A_x\\\bigtriangleup A_y\\\bigtriangleup A_z\end{pmatrix} である。

青で色を付けた部分は普通に式変形しただけでは出てこない項であるが、 互いに打ち消し合って消えるため、式の対称性を高める目的で追加した。

6つの関数を6本のバラバラな方程式から決定する問題を、
4つの関数を4本の対称性の良い方程式から決定する問題に変形できた。

しかしこの形はまだ \bm A \phi の各成分が複雑に混じり合った難しい問題になっている。

ゲージ変換

電磁ポテンシャルの定義は次のようであった:

   \bm B=\ROT \bm A\hspace{4cm}\MARU{5}
   \bm E=-\GRAD\phi-\frac{\PD}{\PD t}\bm A\hspace{2cm}\MARU{6}

したがって、 \bm A, \phi を決めれば \bm E, \bm B は一意に定まる。

しかし、その逆は真ではない。
すなわち、同じ \bm E, \bm B を与える \bm A, \phi は多数存在する。

簡単に思いつくのは、 \bm A_0,\phi_0 を定数として

   \bm A'(\bm x,t)=\bm A(\bm x,t)+\bm A_0
   \phi'(\bm x,t)=\phi(\bm x,t)+\phi_0

→ 他にもたくさんある

微分して消えるような項が足されていても同じ \bm E,\bm B を与えるのであるから、 任意の \chi(\bm x,t) に対して \ROT\GRAD\chi=0 を考慮すれば、

   \bm A'(\bm x,t)=\bm A(\bm x,t)+\GRAD\chi(\bm x,t)

\bm A と同じ \bm B を与える。

   \bm E=-\GRAD\phi'-\frac{\PD}{\PD t}\bm A'
=-\GRAD\phi'-\frac{\PD}{\PD t}\bm A-\frac{\PD}{\PD t}\GRAD\chi
=-\GRAD(\phi'+\frac{\PD}{\PD t}\chi)-\frac{\PD}{\PD t}\bm A

より、

   \bm A'(\bm x,t)=\bm A(\bm x,t)+\GRAD\chi(\bm x,t)
   \phi'(\bm x,t)=\phi(\bm x,t)-\frac{\PD}{\PD t}\chi(\bm x,t)

は、 \bm A,\phi と同じ \bm E,\bm B を与える。

同じ \bm E,\bm B を与えるように、ある関数 \chi を使って \bm A,\phi \bm A',\phi' にする変換を「ゲージ変換」と言う。

静電ポテンシャルの基準電位が違っても同じ状態を表すのと同様に、 \bm A,\phi \bm A',\phi' は物理的には同じ状態を表す。

つまり、 \bm A,\phi が電磁ポテンシャルに対する Maxwell 方程式の解であれば、 それをゲージ変換した \bm A',\phi' も同じ方程式の解になる。 (同じ \bm E,\bm B を与えるのだから当然!と思える?)

Lorentz ゲージ

解をゲージ変換して別の解が得られることから分かるとおり、Maxwell 方程式を解いても、 ただ1つの \bm A,\phi が求まるわけではない。 方程式は無数の解を含む「解の集合」を与えるに過ぎない。

そのような Maxwell 方程式の解の集合の中には、次の条件も同時に満たす解が必ず存在することを証明可能である。

   \DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}=0\hspace{1cm}\MARU{7}

この条件は Lorentz 条件と呼ばれる。

そのような解を「Lorentz ゲージにおける解」と呼び、しばしば \bm A_L, \phi_L と書く。

Maxwell 方程式を解くに当たり、物理的には何ら意味を持たない \MARU{7} の条件を加え、解の集合を限定することにより、数学的にはむしろ解きやすくなるため、 Lorentz ゲージにおける解を求めることがしばしばある。

(Maxwell 方程式 \MARU{3}',\MARU{4}' の解) ⊇ (Lorentz ゲージにおける解)

という関係である。

Lorentz ゲージにおける解の存在

\bm A,\phi が Maxwell 方程式の解であるとき、

   \bigtriangleup\chi-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2\chi}{\PD t^2}=-\left(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}\right)

の解 \chi_L は必ず存在する。この \chi_L を用いて \bm A,\phi\leftarrow\bm A_L,\phi_L の変換を行えば、

   \DIV \bm A_L+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi_L}{\PD t}=\DIV\bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}+\bigtriangleup\chi_L-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\chi_L=0

となって、Lorentz ゲージにおける解を生成できる。

Lorentz ゲージにおける Maxwell 方程式

Lorentz ゲージにおいて、Maxwell 方程式は次の形となる。

\left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l}\displaystyle-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\right)\bm A_L&=\mu_0\bm i&\MARU{3}''\\\displaystyle-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\right)\phi_L&\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho&\MARU{4}''\\\displaystyle\DIV \bm A_L+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi_L}{\PD t}&=0&\MARU{7}\\\displaystyle\bm E&\displaystyle=-\GRAD\phi_L-\frac{\PD\bm A}{\PD t}&\MARU{6}\\\bm B&=\ROT \bm A_L&\MARU{5}\\\end{array}\right .

この式は、ラプラシアンの4次元版であるダランベールの演算子(ダランベルシアン)を
\square=\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\right) として導入して、

\left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l}\displaystyle-\square\bm A&=\mu_0\bm i&\MARU{3}''\\\displaystyle-\square\phi&\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho&\MARU{4}''\\\displaystyle\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}&=0&\MARU{7}\\\displaystyle\bm E&\displaystyle=-\GRAD\phi_L-\frac{\PD\bm A}{\PD t}&\MARU{6}\\\bm B&=\ROT \bm A_L&\MARU{5}\\\end{array}\right .

と書くこともできる。

この形は x,y,z 成分に分けて考えても非常に対称性がよく、数学的にも解きやすい。

\square=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD y^2}

\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}=\frac{\PD A_x}{\PD x}+\frac{\PD A_y}{\PD y}+\frac{\PD A_z}{\PD z}+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}

Lorentz ゲージにおける解の任意性

Lorentz ゲージにおける解の存在 での議論から、Lorentz ゲージの解 \bm A_L,\phi_L を、斉次方程式

   \bigtriangleup\chi_0-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\chi_0=0

の解 \chi_0 を用いてゲージ変換しても、やはり Lorentz 条件を満たすことが容易に分かる。

すなわち、Lorentz ゲージにおける解には \chi_0 を用いたゲージ変換に相当する自由度が存在するため、やはり解は一意には決まらない。

物理的な問題を解く上では、無数に存在する解のうち1つが見つかれば十分である。

質問・コメント





*1 前野昌弘先生の「ベクトルポテンシャルとは何ぞや?」を参考にさせていただきました。http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/cgi-bin/pukiwiki/index.php?%A5%D9%A5%AF%A5%C8%A5%EB%A5%DD%A5%C6%A5%F3%A5%B7%A5%E3%A5%EB%A4%C8%A4%CF%B2%BF%A4%BE%A4%E4%A1%A9

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