フォック方程式の導出 の変更点

更新


[[量子力学Ⅰ]]

* フォック方程式の導出 [#b5bbc48a]

ハートレー・フォック法によるフェルミオンに対する1粒子方程式となるフォック方程式を導出する。
ハートリー・フォック法によるフェルミオンに対する1粒子方程式となるフォック方程式を導出する。

変分法を使うので、まだ学んでいなければ次のことだけ理解しておくこと。

- 変分法の考え方
-- あるハミルトニアンに対する基底状態とは、そのハミルトニアンに対して最低のエネルギー期待値を与える波動関数のことである
-- つまり、いくつかのパラメータを含む試行的な波動関数を作り、それらのパラメータを調節して厳密な基底状態が得られるなら、それは波動関数のエネルギー期待値が最小となる点である
-- 試行関数では厳密解を表せない場合にも、なるべく良い近似解を作るのには波動関数のエネルギー期待値を最小化するようにパラメータを調節するのが良い指針になるだろう

ハートレー・フォック法では1つのスレーター行列で表せる関数の中から、最も小さいエネルギー期待値を与える関数を探すことにより、その形で表すことの可能な「最良の近似解」を求める。
ハートリー・フォック法では1つのスレーター行列で表せる関数の中から、最も小さいエネルギー期待値を与える関数を探すことにより、その形で表すことの可能な「最良の近似解」を求める。

** 目次 [#ob26c27a]

#contents()

** 時間に依らないシュレーディンガー方程式 [#n3599570]
#katex();
$n$ 個の同種粒子からなる系を考える。

$$
\hat H\mathit\Phi =\varepsilon \mathit\Phi
$$

ハミルトニアン $\hat H$ は運動エネルギー $T$、1体ポテンシャル $V_\text{1体}$、
2体ポテンシャル $V_\text{2体}$ の和で表わせる。

$$
\begin{aligned}
H&=T+V_\text{1体}+V_\text{2体}\\
&=\sum_i T_i + \sum_i V_1(\bm r_i,s_i) + \sum_i \sum_{j>i} V_2(\bm r_i,s_i,\bm r_j,s_j)\\
\end{aligned}
$$

$$
\begin{aligned}
\phantom{H}
&=\sum_i T_i + \sum_i V_1(x_i) + \sum_i \sum_{j>i} V_2(x_i,x_j)\\
&=\sum_i T_i + \sum_i V_1(x_i) + \frac{1}{2}\sum_i \sum_{j\ne i} V_2(x_i,x_j)\\
\end{aligned}
$$

ここで、
- $\bm r_i$ 等は空間座標、$s_i$ などはスピン座標、$x_i$ 
などは空間座標とスピン座標を合わせた座標の意味
- 粒子は同種だから、$V_1,V_2$ は $i,j$ によらず同一
(異なるポテンシャルを感じる粒子は同種でない)
- 2行目の $j>i$ は、同じ2つの電子に対してポテンシャルを重複して計算しないため
- 4行目では $j>i$ とする代わりに、全て2回ずつ数えておいて最後に半分にした

** 多粒子波動関数モデル [#e0b8b168]

多粒子波動関数は $\{\phi_i\}$ から作られる単一のスレーター行列式で表すものとする。


$$
\begin{aligned}
\Phi
&=\frac{1}{\sqrt{n!}}\mathrm{det} (\phi_1, \phi_2, \cdots, \phi_n)\\
&=\frac{1}{\sqrt{n!}}\sum_{(p_1\ p_2\ \cdots\ p_n)}\varepsilon(p_1\ p_2\ \cdots\ p_n)\phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\
&=\frac{1}{\sqrt{n!}}\sum_p(-1)^p\phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\
\end{aligned}
$$

ただし、$\{\phi_i\}$ は正規直交系をなす $n$ 個の1粒子関数。

$$\int d\bm r\,\sum_s\,\phi_i(\bm r,s)\phi_j(\bm r,s)=
\int dx\,\phi_i(x)\phi_j(x)=
\delta_{ij}
$$

以下で見るとおり、この形に置くこと自体が平均場近似(電子相関の無視)を仮定していることと同義となる。

** エネルギーの期待値 [#y7e853b8]

変分法で波動関数を最適化するため、まずはエネルギーの表式を求めておく。

$$
\begin{aligned}
E&=\langle H\rangle=\int d^nx\ \mathit\Phi^* H \mathit\Phi\\
&=\int d^nx\ \mathit\Phi^* (T+V_\text{1体}+V_\text{2体}) \mathit\Phi\\
\end{aligned}
$$

以下、項ごとに見ていく。

*** 運動エネルギー [#n3fa5345]

式変形に対するコメントが脚注にある(Web ブラウザで読んでいる場合には *2 などにマウスカーソルをかざすと脚注が表示される)ので参考にせよ。

 $\begin{aligned}
\langle T_i\rangle
&=\int d^nx\ \Phi^* T_i \Phi\\
\end{aligned}
$

 $
\begin{aligned}
\phantom{\langle T_i\rangle}
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q
\int d^nx\, \phi_{q_1}^*(x_1) \phi_{q_2}^*(x_2) \cdots\phi_{q_n}^*(x_n) \nabla_i^2 \phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\
\end{aligned}
$

 $
\begin{aligned}
\phantom{\langle T_i\rangle}
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \Big(\prod_{j\ne i}\delta_{p_j,q_j}\Big)
\int dx_i\ \phi_{q_i}^*(x_i) \nabla_i^2 \phi_{p_i}(x_i)\\
\end{aligned}
$ (($\nabla_i$ が作用するのは $x_i$ のみなので、$j\ne i$ では $\textstyle \int dx_j\ \phi_{p_i}(x_j)\phi_{q_j}(x_j)=\delta_{p_j,q_j}$ が現れる))

 $
\begin{aligned}
\phantom{\langle T_i\rangle}
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n!}\sum_p \cancel{(-1)^{2p}}
\int dx\ \phi_{p_i}^*(x) \nabla^2 \phi_{p_i}(x)\\
\end{aligned}
$ (($j\ne i$ に対して $p_j=q_j$ である項以外は消える。このとき $p_i=q_i$ も成り立つので、ゼロにならずに残った項では置換 $q$ は $p$ に等しい。定積分に使う変数は $x$ に書き直した。))

 $
\begin{aligned}
\phantom{\langle T_i\rangle}
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n}\sum_j
\int dx\ \phi_j^*(x) \nabla^2 \phi_j(x)\\
\end{aligned}
$ ((置換 $p$ の取り方は $n!$ 通りあるが、そのうち $p_i=p_j$ となる $(n-1)!$ 通りのものごとにまとめた。))

スレーター行列式は粒子の区別の付かない波動関数であるのだから
当然と言えば当然ではあるが、結果は $i$ に依存しない形になった。

$$
\begin{aligned}
\langle T\rangle&=\sum_i \langle T_i\rangle\\
&=n \langle T_i\rangle\\
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) \nabla^2 \phi_j(x)\\
&=\sum\langle t\rangle_{\phi_i}
\end{aligned}
$$

ただし、$$ この形は $\phi_i$ ($i=1,2,\dots,n$) のそれぞれに合計 $n$ 個の粒子が詰まっている、という描像を端的に表している。

*** 1体エネルギー [#p4d2c717]

計算は上とほぼ同様の変形により、

$$
\begin{aligned}
\langle V_i\rangle
&=\int d^nx\ \Phi^* V_i \Phi\\
&=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q
\int d^nx\, \phi_{q_1}^*(x_1) \phi_{q_2}^*(x_2) \cdots\phi_{q_n}^*(x_n)\,V_1(x_i)\,\phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\
&=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \Big(\prod_{j\ne i}\delta_{p_j,q_j}\Big)
\int dx_i\ \phi_{q_i}^*(x_i)\,V_1(x_i)\,\phi_{p_i}(x_i)\\
&=\frac{1}{n!}\sum_p \cancel{(-1)^{2p}}
\int dx_i\ \phi_{p_i}^*(x_i)\,V_1(x_i)\,\phi_{p_i}(x_i)\\
&=\frac{1}{n}\sum_j
\int dx\ \phi_j^*(x)\,V_1(x_i)\,\phi_j(x)\\
\end{aligned}
$$

これも $i$ に依存しない形になった。

$$
\begin{aligned}
\langle V_\text{1体}\rangle&=\sum_i \langle V_i\rangle\\
&=n \langle V_i\rangle\\
&=\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x)\,V_1(x_i)\,\phi_j(x)\\
&=\sum_j \langle V_1\rangle_{\phi_j}
\end{aligned}
$$

ただし $\langle V_1\rangle_{\phi_j}$ は、$\phi_j$ に対する $V_1$ の期待値。

この形は $\phi_i$ ($i=1,2,\dots,n$) のそれぞれに合計 $n$ 個の粒子が詰まっている、という描像を端的に表している。

*** 2体エネルギー [#iefb6e20]

式変形に対するコメントが脚注にある(Web ブラウザで読んでいる場合には *2 などにマウスカーソルをかざすと脚注が表示される)ので参考にせよ。

$V_{ij}=V_2(x_i,x_j)$ について、

 $
\begin{aligned}
\langle V_{ij}\rangle
&=\int d^nx\ \Phi^* V_{ij} \Phi\\
&=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q
\int d^nx\, \phi_{q_1}^*(x_1) \phi_{q_2}^*(x_2) \cdots\phi_{q_n}^*(x_n) V_2(x_i,x_j) \phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\
\end{aligned}
$

 $\begin{aligned}
\phantom{\langle V_{ij}\rangle}
&=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \Big(\prod_{k\ne i,j}\delta_{p_k,q_k}\Big)
\iint dx_idx_j\ \phi_{q_i}^*(x_i)\phi_{q_j}^*(x_j) V_2(x_i,x_j) \phi_{p_i}(x_i)\phi_{p_j}(x_j)\\
\end{aligned}$ 
((今度は $k\ne i,j$ が条件になる))

 $\begin{aligned}
\phantom{\langle V_{ij}\rangle}
&=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q
\iint dx_idx_j\ \big\{\cancel{(-1)^{2p}}\phi_{p_i}^*(x_i)\phi_{p_j}^*(x_j)-\cancel{(-1)^{2p}}\phi_{p_j}^*(x_i)\phi_{p_i}^*(x_j)\big\} V_2(x_i,x_j) \phi_{p_i}(x_i)\phi_{p_j}(x_j)\\
\end{aligned}$ 
(($q$ は $p$ と等しいか、$p$ の $p_i$ と $p_j$ を交換したものかのどちらかである。後者に対しては $(-1)^q=-(-1)^p$ が成り立つ))

 $\begin{aligned}
\phantom{\langle V_{ij}\rangle}
&=\frac{1}{n(n-1)}\sum_k\sum_{l\ne k}
\iint dxdx'\ \big\{\phi_k^*(x)\phi_l^*(x')-\phi_l^*(x)\phi_k^*(x')\big\} V_2(x_i,x_j) \phi_k(x)\phi_l(x')\\
\end{aligned}$ 
(($p_i=k,p_j=l$ となる $(n-2)!$ 個の置換ごとにまとめた。$x_i, x_j$ を $x,x'$ と書くようにした。))

 $\begin{aligned}
\phantom{\langle V_{ij}\rangle}
&=\frac{1}{n(n-1)}\sum_k\sum_{l}
\iint dxdx'\ \big\{\phi_k^*(x)\phi_l^*(x')-\phi_l^*(x)\phi_k^*(x')\big\} V_2(x_i,x_j) \phi_k(x)\phi_l(x')\\
\end{aligned}$ 
($k=l$ の項は $\big\{\ \dots\ \big\}$ の部分がゼロになるので、式の上では入れる形に書いておいて構わない))

これも $i,j$ に依存しない形になった。

 $\begin{aligned}
\langle V_\text{2体}\rangle
&=\frac{1}{2}\sum_i\sum_{j\ne i} \langle V_{ij}\rangle\\
&= \frac{n(n-1)}{2} \langle V_{ij}\rangle\\
&=\frac{1}{2}\sum_k\sum_{l}
\iint dxdx'\ \big\{\underbrace{\phi_k^*(x)\phi_l^*(x')}_A-\underbrace{\phi_l^*(x)\phi_k^*(x')}_B\big\} V_2(x,x') \phi_k(x)\phi_l(x')\\
&=\langle V_\text{2体A}\rangle-\langle V_\text{2体B}\rangle\\
\end{aligned}$ 

ここで、$\langle V_\text{2体A}\rangle$ は古典的に予想される次の形であり、
電子に対しては「クーロン積分」と呼ばれる。係数の $1/2$ は、$\sum_k\sum_l$ によりすべての粒子対に対してポテンシャルを2度ずつ数えてしまっているのを補正するための係数となっている。$k=l$ の項は古典的には意味のない項であるが、$\langle V_\text{2体B}\rangle$ に含まれる項と打消し合う。

 $\begin{aligned}
\langle V_\text{2体A}\rangle
&=\frac{1}{2}\sum_k\sum_l
\iint dxdx'\ \phi_k^*(x)\phi_l^*(x') V_2(x,x') \phi_k(x)\phi_l(x')\\
&=\frac{1}{2}\sum_k\sum_l
\iint dxdx'\ V_2(x,x')\,|\phi_k(x)|^2|\phi_l(x')|^2\\
\end{aligned}$ 

$\langle V_\text{2体B}\rangle$ は古典的には理解しにくい形で、交換積分と呼ばれる。

 $\begin{aligned}
\langle V_\text{2体B}\rangle
&=\frac{1}{2}\sum_k\sum_{l}
\iint dxdx'\ \phi_l^*(x)\phi_k^*(x') V_2(x,x') \phi_k(x)\phi_l(x')\\
\end{aligned}$ 

** エネルギーを最小化する波動関数を求める [#f81c6c87]

エネルギーの期待値は次のようになった。

$$
\begin{aligned}
E=&-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) \nabla^2 \phi_j(x)\\
&+\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) V_1(x) \phi_j(x)\\
&+\frac{1}{2}\sum_j\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\phi_j^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\phi_j^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_j(x)\phi_k(x')
\end{aligned}
$$

このエネルギーを最小化するような $\{\phi_i\}$ を求めることにより、
1つのスレーター行列式で表現可能な波動関数の最良解を探そう。

ただし、${\phi_i}$ が規格直交化されていることを前提としているので、

$$
\int dx\,\phi_i^*(x)\phi_j(x)=\delta_{ij}
$$

の条件の下で、$\phi_i$ を変化させて $E$ を最小化することになる。

そこで [[ラグランジュの未定係数法>量子力学Ⅰ/ラグランジュの未定係数法]] を使う。

** ラグランジュの未定係数法 [#u686744d]

正規直交を表す条件式は $n^2$ 個あるので、$n^2$ 個の未定係数を $\varepsilon_{jk}$ として、

$$
\begin{aligned}
L=E-\sum_j\sum_k\varepsilon_{jk} \Big[\int dx\,\phi_j^*(x)\phi_k(x)-\delta_{jk}\Big]
\end{aligned}
$$

を定義し、この $L$ を $\delta\phi_i,\varepsilon_{jk}$ で微分しゼロと置く。ただし、

$$
\begin{aligned}
\Big[\int dx\,\phi_j^*(x)\phi_k(x)-\delta_{jk}\Big]=\Big[\int dx\,\phi_k^*(x)\phi_j(x)-\delta_{kj}\Big]^*
\end{aligned}
$$

であるため、$\varepsilon_{jk}$ の条件式と $\varepsilon_{kj}$ の条件式とは独立ではない。そこで $\varepsilon_{jk}^*=\varepsilon_{kj}$ となるようにパラメータを置くことで、実質的なパラメータ数を減らしておく。このとき、正方行列 $\varepsilon=\big(\varepsilon_{jk}\big)$ はエルミートになる。

$\varepsilon_{jk}$ で微分した結果をゼロと置けば正規直交条件が出てくるので、これは $\{\phi_i\}$ として正規直交系を用いるだけで成立する。

一方、$\phi_i(x)$ を変化させ、$\phi_i(x)+\delta\phi_i(x)$ とした時の変化を
$L\to L+\delta L_i$ として、任意の $i$ に対して $\delta L_i=0$ となる、という条件式が求める1体方程式となる(汎関数微分 $\delta L/\delta\phi_i=0$ の形になる((汎関数微分については例えば http://eman-physics.net/analytic/functional.html などを参考にすると良い)))。

$$
\begin{aligned}
\delta L=
&-\frac{\hbar^2}{2m}\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \nabla^2 \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \nabla^2 \delta\phi_i(x)\big\}\\
&+\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \delta\phi_i(x)\big\}V_1(x)\\
&+\frac{1}{2}\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\delta\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\delta\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_i(x)\phi_k(x')\\
&+\frac{1}{2}\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \delta\phi_i(x)\phi_k(x')\\
&+\frac{1}{2}\sum_j \iint dxdx'\ \big\{\phi_j^*(x)\delta\phi_i^*(x')-\delta\phi_i^*(x)\phi_j^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_j(x)\phi_i(x')\\
&+\frac{1}{2}\sum_j \iint dxdx'\ \big\{\phi_j^*(x)\phi_i^*(x')-\phi_i^*(x)\phi_j^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_j(x)\delta\phi_i(x')\\
&-\sum_k\varepsilon_{ik}\int dx\delta\phi_i^*(x)\phi_k(x)-
\sum_j\varepsilon_{ji}\int dx\phi_j^*(x)\delta\phi_i(x)\\
\end{aligned}
$$

$$
\begin{aligned}
\phantom{\delta L}=
&-\frac{\hbar^2}{2m}\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \nabla^2 \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \nabla^2 \delta\phi_i(x)\big\}\\
&+\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \delta\phi_i(x)\big\}V_1(x)\\
&+\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\delta\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\delta\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_i(x)\phi_k(x')\\
&+\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \delta\phi_i(x)\phi_k(x')\\
&-\sum_k\varepsilon_{ik}\int dx\big\{
\delta\phi_i^*(x)\phi_k(x)+
\phi_k^*(x)\delta\phi_i(x)\big\}\\
\end{aligned}
$$

$V_2$ の項をまとめる際には $x$ と $x'$ とを入れ替え、$V_2$  が $x$ と $x'$ の入れ替えに対して対称であることを用いた。

*** 演算子のエルミート性 [#rad0237b]

ここで、ある演算子 $\hat H$ がエルミートであるとき、

$$
(g,\hat Hf)=(\hat Hf,g)^*=(f,\hat Hg)^*
$$

すなわち、

$$
(f,\hat Hg)+(g,\hat Hf)=(f,\hat Hg)+(f,\hat Hg)^*=2\,\mathrm{Real}\big[(f,\hat Hg)\big]
$$

のようにまとめられる。これを用いると、

$$\begin{aligned}
\delta L=2\,\mathrm{Real}\!&\int dx\ \delta\phi_i^*(x)\Big[-
\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 \phi_i(x)+V_1(x)\phi_i(x)\\
&+\sum_k \int dx'\,V_2(x,x')\big\{\phi_k^*(x') \phi_i(x)\phi_k(x')-\phi_k^*(x') \phi_i(x')\phi_k(x)\big\}-\sum_k\varepsilon_{ik}\phi_k(x)\Big]\\
\end{aligned}$$

これが任意の $\delta\phi_i$ に対してゼロとなるには $\Big[\cdots\Big]$ の部分がゼロでなければならない。

$$\begin{aligned}-
\frac{\hbar^2}{2m}& \nabla^2 \phi_i(x)+V_1(x)\phi_i(x)+\\
&\sum_j \int\! dx'\,V_2(x,x')\big\{\phi_j^*(x')\phi_i(x)\phi_j(x')-\phi_j^*(x')\phi_i(x')\phi_j(x)\big\}=\sum_j\varepsilon_{ij}\phi_j(x)&
\end{aligned}$$

*** 積分演算子 [#pdba7d79]

上記方程式に現れる $\phi_i(x')$ を含む項は、

$$\begin{aligned}-
\sum_j\int dx'\ V_2(x,x') {\phi_j}^*(x') \phi_i(x')\phi_j(x)
&=-\int dx'\,V_2(x,x')\Big\{\sum_j\phi_j^*(x') \phi_j(x)\Big\}\phi_i(x')\\
&=-\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi_i(x')
\end{aligned}$$

のように書き直すと、この項は $\phi_i(x')$ に以下の積分演算子を適用した形になっている。

$$\begin{aligned}
\hat V_\mathrm{ext}:\phi_i(x)\mapsto -\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi_i(x'));
\end{aligned}$$

この演算子は、

$$\begin{aligned}
\hat V_\mathrm{ex}\big\{a\phi(x)+b\phi'(x)\big\}
&=-\int dx'\,\mathcal V(x,x')\big\{a\phi(x)+b\phi'(x)\big\}\\
&=-a\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi(x)-b\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi'(x)\\
&=a\hat V_\mathrm{ex}\phi(x)+b\hat V_\mathrm{ex}\phi'(x)
\end{aligned}$$

のように線形演算子である。この表記を用いると最小化の条件は、

$$\begin{aligned}
\underbrace{\bigg[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V_1(x)+\sum_j \int\! dx'\,V_2(x,x')\,|\phi_j(x')|^2+\hat V_\mathrm{ex}\bigg]}_{\hat H_\mathrm{HF}}\phi_i(x)=\hat H_\mathrm{HF}\phi_i(x)=\sum_j\varepsilon_{ij}\phi_j(x)&
\end{aligned}$$

のように表せる。

*** 対角化 [#e3abb667]

右辺がややこしいので簡単にする。

エルミート行列 &math(\varepsilon=(\varepsilon_{ij})); を対角化するユニタリ行列を &math(U); とする。すなわち、&math(\varepsilon'=(\varepsilon_{ij}')=U\varepsilon U^{-1}); を対角行列とする。&math(U=(u_{ij})); に対して

 &math(
\phi_i=\sum_j u_{ij} \phi_j'
);  ベクトル形式で  
&math(
\bm\phi=U\bm \phi'
);

として &math(\{\phi_i'\}); を定義すれば、&math(\mathrm{det}(\phi_1\ \phi_2\ \cdots\ \phi_n)=\mathrm{det}(\phi'_1\ \phi'_2\ \cdots\ \phi'_n)); である一方、

 &math(
\hat H_\mathrm{HF}\bm \phi&=\varepsilon\bm\phi\\
\hat H_\mathrm{HF}U\bm \phi'&=\varepsilon U\bm\phi'\\
U^\dagger\hat H_\mathrm{HF}U\bm \phi'&=U^\dagger\varepsilon U\bm\phi'\\
U^\dagger U\hat H_\mathrm{HF}\bm \phi'&=U^\dagger\varepsilon U\bm\phi'\\
\hat H_\mathrm{HF}\bm \phi'&=\varepsilon'\bm\phi'\\
\hat V_\mathrm{ex}\phi_i(x)=-\int dx' V_2(x,x') (\bm \phi(x'),\bm \phi(x) ) \phi_i(x')
);

のようにして、条件式から &math(\varepsilon_{ij}); の非対角項を消せる。ここで、

 &math(
\hat V_\mathrm{ex}\bm \phi(x)&=-\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi(x'),\bm \phi(x) \big) \bm\phi(x')\\
\hat V_\mathrm{ex}U\bm \phi'(x)&=-\int dx' V_2(x,x') \big(U\bm \phi'(x'),U\bm \phi'(x) \big) U\bm\phi'(x')\\
U^\dagger\hat V_\mathrm{ex}U\bm \phi'(x)&=-U^\dagger\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi'(x'),\bm \phi'(x) \big) U\bm\phi'(x')\\
U^\dagger U\hat V_\mathrm{ex}\bm \phi'(x)&=-U^\dagger U\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi'(x'),\bm \phi'(x) \big) \bm\phi'(x')\\
\hat V_\mathrm{ex}\bm \phi'(x)&=-\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi'(x'),\bm \phi'(x) \big) \bm\phi'(x')\\
);

の関係を使った。

すなわち始めから対角成分のみ残した式を解くことにすれば、一般の &math(\{\phi_i\}); ではなく、
&math(\{\varepsilon_{ij}\}); を対角化するような特別な &math(\{\phi_i'\}); が求まることになる。

** フォック方程式 [#t7019ae2]

上式は &math(i); によらないため、&math(\phi'_i); を &math(\phi); と書きなおし、&math(\varepsilon_{ii}); を &math(\varepsilon); としたのがフォック方程式である。

 &math(
\underbrace{\bigg[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V_1(x)+\sum_j \int\! dx'\,V_2(x,x')\,|\phi_j(x')|^2+\hat V_\mathrm{ex}\bigg]}_{\hat H_\mathrm{HF}}\phi(x)=\hat H_\mathrm{HF}\phi(x)=\sum_j\varepsilon_{ij}\phi(x)&
);

第1項は1粒子運動エネルギーで、ハートレー法でも同じものが出てきた~
第2項は1粒子の1体ポテンシャルで、ハートレー法でも同じものが出てきた~
第3項は1粒子の平均場ポテンシャルで、ハートレー法でも「ほぼ」同じものが出てきた~
第1項は1粒子運動エネルギーで、ハートリー法でも同じものが出てきた~
第2項は1粒子の1体ポテンシャルで、ハートリー法でも同じものが出てきた~
第3項は1粒子の平均場ポテンシャルで、ハートリー法でも「ほぼ」同じものが出てきた~
  &math(j); についての和にすべての粒子が含まれているところが異なる

として理解できるが、

第4項はややこしい。

 &math(
\hat V_\mathrm{ex}: \phi(x)\mapsto -\int dx'\,V_2(x,x')\Big\{\sum_j\phi_j^*(x') \phi_j(x)\Big\}\phi(x')
);

この物理的な解釈については後ほど検討しよう。

フォック方程式は、

 &math(
\hat H_\mathrm{HF}\phi(x)=\varepsilon\phi(x)
);

の形をしており、一見、線形演算子 &math(\hat H_\mathrm{HF}); の固有値問題に見えるが、
実際には &math(\hat H_\mathrm{hf}); 自体に &math(\phi_j); が含まれるため、単純な固有値問題にはなっていない。

仮に &math(\phi_j); を決めてやれば、方程式から固有値 &math(\varepsilon); に対応する固有関数 &math(\phi); が無数に見つかる。新たに見つかったそれらの関数は元の &math(\phi_j); より良い近似を与えることが多く、このような演算を繰り返すことでハートリーフォック近似の下での最良解へ近づいていく。

* 1粒子固有値と多粒子エネルギーとの関係 [#gd241b7a]

エネルギー期待値の表式を見直すと、

 &math(
E=&\sum_i \langle H_\mathrm{HF}\rangle_{\phi_i}
);

の形となっているから、各 &math(\phi_i); が固有値 &math(\varepsilon_i); に属する固有関数であれば、

 &math(
E=&\sum_i \varepsilon_{i}
);

となり、系全体のエネルギーがフォック方程式の固有値の合計で与えられる事が分かる。

* 2体ポテンシャルがスピンに依らない場合 [#i15ab020]

 &math(V_2(x,x')=V_2(\bm r,\bm r'));

のように空間座標のみで書ける場合、&math(\hat V_2,\hat X); に含まれる &math(\int dx'); 
のスピン座標部分が &math(V_2(\bm r,\bm r')); の具体的な形に依らず積分できて、

&math(
\hat V_2
&=\frac{1}{2}\sum_j\int dx'\ V_2(x,x')|\phi_j(x')|^2\\
&=\frac{1}{2}\sum_j\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')|\phi_j^r(\bm r')|^2\underbrace{\sum_{s'}|\phi_j^s(\bm s')|^2}_{=\,1}\\
&=\frac{1}{2}\sum_j\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')|\phi_j^r(\bm r')|^2\\
);

は、やはり古典的に期待される平均場ポテンシャルである。

一方、

&math(\hat X: f(x)\mapsto &-\frac{1}{2}\sum_j\int dx'\ V_2(x,x')\phi_j^*(x') f(x') \phi_j(x)\\);

&math(=&-\frac{1}{2}\sum_j\Big[\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r') {\phi_j^r}^*(\bm r') f^r(\bm r') \Big]\Big[\sum_{s'} {\phi_j^s}^*(s')f^s(s')\Big]\phi_j^r(\bm r)\phi_j^s(s));

&math(
=&\begin{cases}
\displaystyle-\frac{1}{2}\sum_j\Big[\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r') {\phi_j^r}^*(\bm r') f^r(\bm r') \Big]\phi_j^r(\bm r)\phi_j^s(s)&\hspace{10mm}\phi_j^s=f^s\\0&\hspace{10mm}\phi_j^s\ne f^s\\\end{cases});

であるから、交換項はスピン成分が同じ軌道同士の間にしか働かない。

物理的には、スピン軌道が重なるものの間だけに交換相互作用が働くため、
その分だけ2粒子相互作用に補正がかかることになる。

この補正が数式として現れたのが交換項と考えられる。

* コメント・質問 [#b31efde9]

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**無題 [#e5655b86]
> (&timetag(2020-07-05T10:22:34+09:00, 2020-07-05 (日) 19:22:34);)~
~
演算子のエルミート性の部分のdLについての式ですが、φ_k^*はV_2の左側に書くべきではないですか?~

//
- この部分に関しては、ポテンシャルエネルギーは単なる数ですので波動関数との入れ替えは自由に行えるのだと思います。ただこのページ、ちゃんと見直すことなくそのままになってしまっている気がしてきましたので、他に間違いが入っている可能性も高いです。無責任で申し訳ないのですが、もし可能なら信頼のおける教科書等を参考にされると良いと思います。後ほど時間を見つけて見直そうと思います。 -- [[武内(管理人)]] &new{2020-07-06 (月) 11:35:36};

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