量子力学Ⅰ/前期量子論 の変更点
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#author("2024-12-03T05:34:04+00:00","default:administrator","administrator") #author("2024-12-03T05:35:12+00:00","default:administrator","administrator") 前の単元 <<< [[量子力学Ⅰ]] [[>>> 次の単元>量子力学Ⅰ/電子の波動方程式]]~ ~ * 目次 [#z4685682] #contents &katex(); * 量子力学? [#lf94067c] これから量子力学を学ぼうとする学生であれば、原子や分子といったミクロスケールの現象を記述するのに「量子力学」が必要となることをすでに聞いたことがあるだろう。 この授業では量子力学の(初歩的な)基本方程式である「1粒子のシュレーディンガー方程式」について学び、そこから導かれる量子力学の不思議な世界について学ぶ。(多粒子系についてはごく簡単に触れる程度) 「不思議」と言っても我々の身の回り、あるいは体の中でさえで起こっていることなのだが、我々が感知できない世界のことなので・・・まあかなり不思議なので期待して欲しい。 その不思議さを垣間見るために、 ポテンシャル $V(\bm r,t)$ の中で運動する粒子のニュートン方程式を思い出すと、こうだった。 $$ \underbrace{\bm f\rule[-4mm]{0mm}{5mm}}_{\text{力}}=\underbrace{-\bm\nabla V(\bm r,t)\rule[-4mm]{0mm}{5mm}}_{\begin{matrix}\scriptsize\text{ポテンシャル}\\\scriptsize\text{の勾配}\end{matrix}}=m\underbrace{\frac{d^2}{dt^2}\bm r\rule[-4mm]{0mm}{5mm}}_{\text{加速度}}=\frac{d}{dt}\underbrace{(m\bm v\rule[-4mm]{0mm}{5mm})}_{\text{運動量}}=\underbrace{\frac{d}{dt}\bm p\rule[-4mm]{0mm}{5mm}}_{\begin{matrix}\scriptsize\text{運動量の}\\\scriptsize\text{変化速度}\end{matrix}} $$ これは「力を加えると運動量が時間変化する」という、そこそこ直感的な方程式になっている。 一方、ポテンシャル $V(\bm r,t)$ の中で運動する粒子のシュレーディンガー方程式はこうなる。 &math(\psi); はギリシャ文字のプサイだ。 $$ i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(\bm r,t)=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2\psi(\bm r,t)+V(\bm r,t)\psi(\bm r,t) $$ 位置座標 $\bm r$ が時間に依存しないパラメータとなっていて、新しく表れた $\psi$ が位置と時間の関数になっている?? 位置座標 $\bm r$ が時間に依存しないパラメータとなっていて、新しく表れた $\psi$ が位置と時間の関数になっている?? さらに一番左には虚数単位 $i$ が出てくるとか?! こんな方程式をいきなり見せられて、覚えろとか、理解せよとか言われてもなかなか難しい。 そこで、どうしてこんな突拍子もない方程式が必要になったのか、量子論の歴史を振り返ることにする。 * 量子力学以前の世界 [#xfb3d7b2] 量子力学の生まれた20世紀初頭までの物理学の略史: - 16世紀半ば コペルニクスの地動説 (戦国時代) - 17世紀後半 ニュートンの力学 (江戸時代) - 18世紀半ば 産業革命(蒸気機関) - 19世紀初頭 熱力学の発展 - 19世紀半ば (明治時代) -- 分子運動論から統計力学へ -- マクスウェル方程式による電磁気学 - 19世紀末 トムソンが電子を発見 - 20世紀初頭 (大正時代) -- アインシュタインの相対性理論 -- 量子力学へと繋がる「量子論」が始まる 量子論以前の物理の特徴: - 運動方程式 = ニュートン方程式 - 高速・高重力では = 相対性理論 - 力 -- 重力 -- 電磁気力 - 電磁場 = マクスウェル方程式 - 多粒子系 = 統計力学・熱力学 (統計力学を除けば)これらの理論は決定論的である。すなわち、 - 初期状態が決まれば未来永劫までの運動が決定される - 初期状態を決めるための計測に、原理的な限界はない((統計力学のスタンスはちょっと異なるけれど、それは原理というよりも計測手法の問題として扱われる)) これらの一見すると当然のように思える前提は、量子論の登場で覆されることになる。 「量子論」以前の物理を指して「古典論」と呼ぶ。 これに対して「量子力学」はハイゼンベルクやシュレーディンガーが見出した量子論を記述するための基本方程式を用いた学問を表す。基本方程式が見出されるまでの部分が今回学ぶ「前期量子論」である。 応用理工学類では解析力学の授業でも前期量子論を学んでいるが、この授業は編入生も受講しているので以下で簡単におさらいする。 * 古典論での認識 [#xe361be0] 前期量子論で主要な役割を果たす光と電子について、 古典論においては ''光は波''で ''電子は粒子''と考えられていた。 ** 光について [#ade58146] 電磁気学によれば、''光は電磁波''である。 つまり、光が通れば電場 &math(\bm E(\bm r,t)); と磁場 &math(\bm B(\bm r,t)); が波打つことになる。 波であるから、干渉や回折など ''波に特有な性質'' を示す。 学生実験でもレーザー光の干渉・回折現象を学ぶはず。 光(電磁波)が運ぶエネルギーや運動量は波の振幅の2乗に比例するため、それらの値は当然 ''連続的な値を取りうる''。 ** 電子について [#ra061dee] ''真空中で''金属を加熱したり、光を当てたりすると、そこから負の電荷が飛び出す。((真空中でないと出てきた電子は空気の分子に当たり、数十ミクロン程度で止まってしまう。またその際空気がイオン化するため、後続の電子の放出が阻害されてしまう。)) 出てきた電荷を電場や磁場の中を通すとその軌道が湾曲することから、この負電荷が''帯電した粒子''からなることが分かり、その比電荷(電荷と質量の比)が求まる。これも学生実験で扱った。 さらにウィルソンの霧箱と呼ばれる装置を用いることで、荷電粒子の''数''と、電荷の総量を同時に求めることができ、そこから粒子''1つあたりの電荷量''が求まった。すると比電荷から''粒子の質量''も求まる。 こうして求めた荷電粒子の''1つあたりの質量''は水素原子の 1/1000 程度と非常に小さかった。 (トムソンの実験 1887年)((https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kori/science/ayumi/ayumi13.html)) 金属元素の種類によらず同じ比電荷、重量を持つ粒子が飛び出してくることから、 すべての原子は負電荷を持った非常に軽い''電子''と、正電荷を持ったその他の部分から構成される。 と考えられた。 ** ところが [#hc62cb2d] その後の研究により、光も電子も''波と粒子の両方の性質を示す''ことが明らかとなる。 → ''粒子と波動の二重性''と呼ばれる * 前期量子論 [#v12d8353] 20世紀初頭、いくつかの分野で古典論では説明できない現象が発見され、 それらを解決する課程で「量子論」が形成されていった。(括弧内は量子論により問題が説明された年) - 黒体放射のスペクトル (1900年 プランク) - 光電効果 (1905年 アインシュタイン) - 金属原子核によるアルファ線の散乱 (1910年 ラザフォード) - 原子の発光スペクトル (1913年 ボーア) これらを通じて、電子や光子の粒子としての性質(1つあたりのエネルギーや運動量)と、波としての性質(振動数や波数)との間の関係が分かってきた。 ** 黒体放射(黒体&ruby(ふくしゃ){輻射};) [#w8bc6591] 有限温度の物体は常に光を出していて、そのスペクトル(光強度の波長依存性)は温度に依存する。例えば室温程度の物体は赤外線しか出さないが、赤熱する鉄は赤く光り、太陽は黄色く光る。 反射率が高い物体ではその分だけ輻射が減るので、完全な「黒体」が最もたくさん光を出す。 (放熱板が黒く塗られていたり、輻射熱を抑えたい場合に金メッキしたりするのはそのため) &attachref(black-body-spectrum2.png,,20%); &attachref(black-body-spectrum.png,,20%); 電磁気学と統計力学を使うことで黒体放射のスペクトルを理論的に導出することができるのだが、 古典論の知識で普通にやると実験値と合わない。 そればかりか、温度がゼロでない限り、予想される放出エネルギーは ''無限大になってしまう!'' 古典論では光により運ばれるエネルギーは振幅で決まるため、当然連続値を取る。 これに反して、光の運ぶエネルギーには最小単位があり、常にその整数倍でやりとりされると仮定したところ 黒体放射のスペクトルを正しく導出できた。 *** 得られた結果 [#p3a65adc] 周波数 &math(\nu); (ニュー) の光が物質から運び去るエネルギーは、 常に &math(h\nu); の整数倍であり、''量子化されている''。 ここで &math(h=6.62606957\times10^{-34}\,\mathrm{m^2 kg/s}); はプランク定数。 この量子化条件を角周波数 &math(\omega=2\pi\nu); で表わせば &math(\hbar=h/2\pi); (これもプランク定数と呼ばれる)を使って &math(\hbar\omega); の整数倍と書いても良い。 &math(\Delta E=h\nu=\hbar\omega); 残る疑問: 光は電磁波なのだからエネルギーは連続的値をとれるはずでは??? ** 光電効果 [#x7025b1c] 真空中に置いた金属に紫外光やX線を当てると、金属中の電子が外へ飛び出してくる。この現象を''&ruby(こうでんこうか){光電効果};''と呼び、出てくる電子を''&ruby(こうでんし){光電子};''と呼ぶ。 光電効果は、当てる光の周波数 &math(\nu); がある値 &math(\nu_c);((この値は金属の種類によって異なる))より大きくないと、いくら強い光を当てても生じない。また、出てくる光電子の速度(運動エネルギー)は光量ではなく &math(\nu); に依存する。光が強くなると出てくる電子の速度は変わらず数が増える。 ~ &attachref(photoelectron.png,,50%); ~ これらの結果から、アインシュタインは光が粒子(光子)からなることを提案した。これを光量子仮説という。 - 光は粒子(=光子)の流れである - 電子が光子を1つ吸収すると &math(h\nu); のエネルギーを得る - 電子を金属内に閉じ込めているエネルギー障壁の高さ(仕事関数)を &math(W=h\nu_c); とする - &math(h\nu<W); つまり &math(\nu<\nu_c); では電子は出てこない - &math(h\nu>W); つまり &math(\nu>\nu_c); では、&math(\Delta E=h\nu-W); の運動エネルギーを持って飛び出してくる - 強い光ほどたくさんの光子があたるから、電子もたくさん飛び出す として、黒体輻射と光電効果を説明できる。 *** 得られた結果 [#hb91fe55] 振動数 &math(\nu); の光は1つあたり &math(E=h\nu=\hbar\omega); のエネルギーを持つ粒子=光子の集まりである (ここで、&math(\hbar=h/2\pi);)。相対性理論を用いればエネルギーから光子の運動量を導出できて &math(p=h/\lambda=\hbar k); である。 (運動量は特殊相対論の式 &math(E^2=c^2p^2+m^2c^4); に、光子のエネルギー及び質量 &math(m=0); を入れて導出される(( [[参照>http://www.jsimplicity.com/ja_Report_QuantumMechanics_html/ja_Chapter3_DualityOfLightAndMatter.html]]))。後にコンプトン散乱などで確かめられた。) 残る疑問: 光が粒子の集まりならば、波としての性質はどこから来る??? ** 惑星型原子模型 [#re8baef5] #ref(rutherford.png,right,around,25%); 1910年頃ラザフォードは、金属箔にアルファ線と呼ばれる放射線(正に帯電した粒子)を当てると、 ほとんどの粒子がそのまま箔を通り抜けること、そして、 非常に低い確率で粒子が大きな角度で散乱されること、を発見した。 電子は軽いためアルファ線の方向に影響を与えず、原子核に当たった粒子のみが散乱されたと考えられる。 つまり金属は「すかすか」だった!~ 詳しい計算から、原子核は原子のサイズの1万分の以下であることが分かった。 *** 得られた結果 [#caf37a2c] 原子の中では、非常に小さくて重い原子核の周りを、非常に軽い電子が回っている(惑星型原子モデル) 残る疑問: 古典論によれば、電荷を帯びた電子が回転運動(加速度運動)すると電磁波が放出されるため、 電子は徐々にエネルギーを失い、原子核に落ち込んでしまうことが予想される。 つまり、古典論では惑星型原子は安定に存在できない!!! ** 原子の発光スペクトル [#ca0d4c54] 原子は元素により異なる ''特定の波長の光'' を放出・吸収する(炎色反応など)。 ボーアはこの波長を惑星型原子模型を使って説明した。 惑星型原子模型を採用すれば、原子の持つエネルギーを &math((原子&のエネルギー) \\&= (原子核・電子間の静電エネルギー) + (電子の運動エネルギー)); と表せる。(原子核は重いため、ほとんど動かずその運動エネルギーは無視できる) #ref(atomic-emissions.png,right,around,25%,ogp); 軌道半径は電子の速度で決まり、速度が速いほど遠くの軌道を回るので、 遠くの軌道ほど運動エネルギーも、静電エネルギーも高いことになる。 したがって図のように外側の軌道にある電子が内側の軌道へ移る場合には原子のエネルギーが低下する。 すなわち &math(\Delta E>0); だけエネルギーが余ることになる。 ボーアはこの &math(\Delta E>0); が光子の形で放出されると考えた。 すると、特定のエネルギーを持つ光子しか放出されないということは、 電子の軌道半径が連続的な値を取ることができず、 飛び飛びの値しか許されないことになる(= 離散化)。 *** 得られた結果 [#l95d8307] 電子の軌道半径 &math(R); は必ず次の条件を満たすことが分かった。 &math(p); は電子の運動量、&math(n); は任意の自然数である。 &math(2\pi Rp=nh); ここでもプランク定数 &math(h); が出てくる。 &math(n=1); が最安定状態で、 それよりエネルギーの低い状態は存在しないため、 &math(n=1); の状態からは光子は放出されない。 残る疑問: なぜこの条件が出てくるのか、この時点では全く不明。 ** 電子の波 = 物質波 [#h661db2a] #ref(bloch-wave.png,right,around,66%); 光電効果の発見により、「波」であるはずの光が「粒子」としての側面も持つことが分かった。 このときエネルギー$E$と角周波数$\omega$、運動量$p$と波数$k$の間に次の関係があった。 $$ E=\hbar\omega,\ p=\hbar k $$ ド・ブロイは逆に、これまで粒子であるとされていた電子にも波数 $k=p/\hbar$、 つまり波長 $\lambda=h/p$ を持つ「波としての性質」があると考えると、 ボーアの量子条件が $$ 2\pi R=n\lambda $$ すなわち「軌道の1周が電子の波長の整数倍である」という理解しやすい形に表せることを指摘した。 この「物質波」は「ド・ブロイ波」とも呼ばれる。 その後、物質波の存在は電子線の回折・干渉などで直接確かめられた。 *** 得られた結果 [#gc3021b0] - 粒子と考えられてきた電子も波としての性質を持つ - その角振動数は &math(\omega=E/\hbar);、波数は &math(k=p/\hbar); である 残る疑問: ここにも謎の「粒子と波動の二重性」が・・・ * まとめ [#ne78307a] 光子も、電子も、粒子と波の両方の性質を持ち、1粒子あたりのエネルギー、運動量と、波としての振動数、波数との関係は以下の通りである。 - エネルギーと振動数:&math(E=h/\tau=h\nu=\hbar \omega); - 運動量と波数:&math(p=h/\lambda=\hbar k); - 周期と振動数・角振動数: &math(\cos(2\pi t/\tau)=\cos(2\pi\nu t)=\cos(\omega t)); - 波長と波数: &math(\cos(2\pi x/\lambda)=\cos(k x)); ~ 前の単元 <<< [[量子力学Ⅰ]] [[>>> 次の単元>量子力学Ⅰ/電子の波動方程式]]~ ~ * 質問・コメント [#n54e9c0f] #article_kcaptcha **温度Tでの熱エネルギー [#ed92b577] > (&timetag(2019-09-08T09:45:17+09:00, 2019-09-08 (日) 18:45:17);)~ ~ 温度Tでの熱エネルギーがkTとなるのは、なぜなのでしょうか?~ // - 熱エネルギーを $k_BT$ と書いたときの $k_B$ はボルツマン定数と呼ばれる定数です。この式は統計力学で出てくる内容ですので、統計力学の教科書を参照するか、あるいはネット上でボルツマン定数、ボルツマン分布、などをキーワードに検索すると有益な情報が得られると思います。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-09-09 (月) 11:35:05}; #comment_kcaptcha
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