量子力学Ⅰ/電子の波動方程式 の変更点
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#author("2024-12-03T05:47:43+00:00","default:administrator","administrator") #author("2024-12-03T05:54:45+00:00","default:administrator","administrator") [[前の単元 <<<>量子力学Ⅰ/前期量子論]] [[量子力学Ⅰ]] [[>>> 次の単元>量子力学Ⅰ/波動関数の解釈]]~ ~ * 目次 [#mc748428] #contents &katex(); * 波動方程式 [#kd348ff8] 20世紀初頭の前期量子論によって、電子は粒子と波の両方の性質を持つことが分かってきた。((量子力学的な実験結果をまとめて基礎方程式を組み立てる直前までを(前期)量子論と呼び、基礎方程式ができてからの部分を量子力学と呼び分ける。)) 量子力学では電子の運動を「波動方程式」により記述する。((量子力学には基礎方程式を波動方程式の形に書く「波動力学」(シュレーディンガー流)の他に、行列方程式の形で書く「行列力学」(ハイゼンベルグ流)も存在する。後に、線型代数IIで学んだ関数空間の考え方を用いて2つの形式の同値性を理解する。)) * 準備:波動を表わす関数 [#l6f89798] ** 速度 $v$ で移動する関数 [#o38ae487] &math(f(x-d)); は、&math(f(x)); を &math(x); の正方向に &math(d); だけ移動した関数である。 &attachref(translation.png,,25%); したがって、形を変えずに &math(x); の正方向に速度 &math(v); で伝播する関数は、 &math(f(x,t)=f(x-vt,0)); と書ける。時刻 &math(t=0); の時の関数形 &math(f(x,0)); が時刻 &math(t); において &math(vt); だけ移動することを理解せよ。 ** 位相速度 $v$ で&ruby(でんぱ){伝播};する正弦波(一次元) [#ec3d0c6f] &attachref(wave-function.gif); &qr(http://dora.bk.tsukuba.ac.jp/~takeuchi/?plugin=attach&refer=%E9%87%8F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AD%A6%E2%85%A0%2F%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%81%AE%E6%B3%A2%E5%8B%95%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F&openfile=wave-function.gif); &math(f(x,0)=\cos(2\pi x/\lambda)=\cos(kx)); は波長 &math(\lambda);、波数 &math(k=2\pi/\lambda); の正弦波である。 したがって、 &math(f(x,t)=f(x-vt,0)=\cos(k (x-vt))); とすれば、波数 &math(k); の正弦波が速度 &math(v); で伝播する関数になる。 これを、 &math(f(x,t)=\cos(k (x-vt))=\cos(k x-kvt)=\cos(kx-\omega t)); のように括弧を外して書けば、 この関数が時間に対して角振動数 &math(\omega=kv); で振動することが分かる。 このとき振動数は &math(\nu=\omega/2\pi); である。 &math(x); の ''正の方向に進む波''では &math(\omega t); にかかる''符号が負になる''ことに注意せよ。 >速度 &math(v); の波が1周期 &math(T); の間に進む距離が波長 &math(\lambda); だから、&math(vT=\lambda); > >両者の逆数を取って、&math(\underbrace{2\pi/T}_{\omega}=\underbrace{(2\pi/\lambda)}_{k}v); > >このように考えて得られる &math(\omega=kv); とも、ちゃんと整合性がとれている。 ** 位相速度 $v$ で伝播する平面波(三次元) [#k973ac67] #ref(plane-wave.png,right,around,25%); 今度は3次元空間で考えよう。上式の左辺の $x$ を太文字の $\bm r$ に置き換えた &math(f({\color{red}\bm r},t)=\cos(k x-\omega t)); という関数はやはり &math(x); 軸正方向に進む波であるが、''平面波'' になる(ただし &math(\bm r=(x,y,z)^T);)。 関数の値は &math(y,z); によらないから、同じ &math(x); 座標の点は常に同じ位相を持つ。 すなわち「波面」(同じ位相を持つ点を繋げた面)は &math(x); 軸に垂直で、&math(yz); 平面に平行な ''平面'' になるのだ。 一方、任意の方向に進む平面波を表わす式は、進行方向を向いたベクトル &math(\bm k); を用いて #clear #ref(wave-function-2d.gif,right,around,ogp); &qr(http://dora.bk.tsukuba.ac.jp/~takeuchi/?plugin=attach&refer=%E9%87%8F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AD%A6%E2%85%A0%2F%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%81%AE%E6%B3%A2%E5%8B%95%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F&openfile=wave-function-2d.gif); &math(f(\bm r,t)=\cos({\color{red}\bm k\cdot\bm r}-\omega t)); と書ける。なぜなら・・・~ まず、$\bm k\cdot\bm r=|\bm k||\bm r|\cos\theta$ は $\bm r$ の $\bm k$ 方向成分 $(|\bm r|\cos\theta)$ を $|\bm k|$ 倍した値を表す(右上図)。 $x$ 方向に進む波数 $k$ の正弦波 &math(\cos({\color{red}kx}-\omega t)); に現れた &math(kx); が &math(\bm r); の &math(x); 方向成分を &math(k); 倍した値であったのと見比べると、&math(\cos({\color{red}\bm k\cdot\bm r}-\omega t)); は &math(\bm k); 方向に進む波数 &math(|\bm k|); の平面波を表すことが分かるだろう。 (右図は二次元の場合) &math(\bm k); は平面波の''波数ベクトル''と呼ばれる。 #clear * 演習:波動方程式(電磁波の場合) [#p878da3f] 平面波 &math(\bm E(\bm r,t)=\bm E_0\cos(\bm k\cdot\bm r-\omega t)); を考える。 この平面波がマクスウェル方程式から導かれる電磁波の波動方程式 &math(\nabla^2\bm E(\bm r,t)=\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E(\bm r,t)); を満たすことを以下の問いに従って確認し、波動方程式と分散関係との関係を理解せよ。 (1) &math(\frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E=-\omega^2\bm E); となることを示せ。 (2) &math(\nabla^2 \bm E=-k^2\bm E); となることを示せ (&math(\nabla^2=\PD^2/\PD x^2+\PD^2/\PD y^2+\PD^2/\PD z^2);、&math(|\bm k|=k); である)。 (3) &math(\nabla^2\bm E=\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E); となるためには &math(k); と &math(\omega); の間にどのような関係が必要か。 (4) 速度 &math(c); で進む波の周期 &math(T); と波長 &math(\lambda); との間には &math(\lambda=cT); の関係がある(1回振動する間に進む距離が波長である)。&math(\lambda,T); をそれぞれ &math(k,\omega); で書き直して、(3) と同じ式が得られることを示せ。すなわち上の(電磁波が満たす)波動方程式に現れる &math(c); は平面波の速度を表し、その値は波長に依存しない定数となる。 (5) (発展) より一般に、任意の関数 &math(f(x)); に対して、&math(\bm E(\bm r,t)=\bm E_0 f(\bm k\cdot\bm r\pm\omega t)); は上記の波動関数を満たすことを示せ。ただし &math(k,\omega); は (3) の条件を満たす物とする。 ** 蛇足 [#fbe7ddba] &math(\bm E(\bm r,t)=\bm E_0\cos(\bm k\cdot\bm r-\omega t)); は、 &math(\begin{pmatrix}E_x(\bm r,t)\\E_y(\bm r,t)\\E_z(\bm r,t)\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}E_{0x}\\E_{0y}\\E_{0z}\end{pmatrix}\cos(k_xx+k_yy+k_zz-\omega t)); をまとめて書いたものであり、 &math(\nabla^2\bm E(\bm r,t)=\begin{pmatrix}\nabla^2E_x(\bm r,t)\\\nabla^2E_y(\bm r,t)\\\nabla^2E_z(\bm r,t)\end{pmatrix}); であることに注意せよ。 ** 解答 [#p163ce91] [[●解答はこちら>@量子力学Ⅰ/電子の波動方程式/メモ#a06edf32]] ** 解説 [#x60516ff] 話の根本は、平面波に対して時間微分 $\partial^2/\partial t^2$ を $-\omega^2$ で、空間微分 $\bm\nabla^2$ を $-\bm k^2$ で置き換えられること。 $$ \frac{\partial^2}{\partial t^2}E = -\omega^2E,\ \ \ \bm\nabla^2 E=-k^2E $$ すると波動方程式から $k$ と $\omega$ の関係を表す式が出る。 $$ k^2=\omega^2/c^2\ \ \to\ \ \omega=\pm ck $$ このような &math(k); と &math(\omega); の関係を ''分散関係'' と呼ぶ。 ここは &math(\omega=c k); で、&math(\omega); は &math(k); に比例する形になったが、 波数 $\bm k$、角振動数 $\omega$ の平面波の位相速度 $v$ は、 $$ \cos(kx-\omega t) = \cos[k(x-\underbrace{\omega/k}_{v}\,t)] $$ に見るように $v=\omega/k$ であるから $\omega\propto k$ のとき位相速度は波数に依存しない定数となる。 $$v=\omega/k=\pm c$$ このような系は ''分散がない'' と呼ばれる。 一方で、波の位相速度が波数によって異なる場合、$\omega \not \propto k$ である、 そのような系は ''分散がある'' と呼ばれる。 上記の真空中の電磁波の例では光速は波長によらず一定であるから「真空は分散がない」と言われる。 一方、ガラスの屈折率は波長により異なるから、ガラスは分散を持つ。 プリズムに入れた光が波長ごとに「分散」して虹色に分かれるのはこのためである。 特に分散がある系において、波数と振動数、あるいは波数と位相速度の関係を表したのが分散関係である。 (3) の結果から、''波動方程式'' は ''分散関係を方程式にしたもの'' であったとも解釈できる。 (分散関係の &math(\omega,k); を適切な形で &math(\partial/\partial t,\nabla); で置き換えた形) とはいえ波動方程式が「平面波に対する」分散関係以上のものを含んでいるのもまた事実である。 例を上げると、波動方程式は ''線型'' であるから異なる &math(\bm k,\omega); を持つ2つの平面波 &math(\bm E_1(\bm r,t),\bm E_2(\bm r,t)); がどちらも方程式の解であれば、それらの任意の線形結合 &math(\bm E(\bm r,t)=a\bm E_1(\bm r,t)+b\bm E_2(\bm r,t)); も解になる。 しかし、そのようにして作られた複雑な解は単一の &math(\bm k); や &math(\omega); と対応しない。 >&math(\bm E_3(\bm r,t)=a\bm E_1(\bm r,t)+b\bm E_2(\bm r,t)); ~ &math(\frac1{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\bm E_1(\bm r,t)=-\frac1{c^2}\omega_1^2\bm E_1(\bm r,t)=\bm\nabla\bm E_1(\bm r,t)=-k_1^2\bm E_1(\bm r,t)); ~ &math(\frac1{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\bm E_2(\bm r,t)=-\frac1{c^2}\omega_2^2\bm E_2(\bm r,t)=\bm\nabla\bm E_2(\bm r,t)=-k_2^2\bm E_2(\bm r,t)); ~ &math(\frac1{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\bm E_3(\bm r,t)=-a\frac1{c^2}\omega_1^2\bm E_1(\bm r,t)-b\frac1{c^2}\omega_2^2\bm E_2(\bm r,t)\hspace{0.5cm}\ne \frac1{c^2}\omega_3^2\bm E_3(\bm r,t)); ~ &math(=\bm\nabla^2\bm E_3(\bm r,t)=-ak_1^2\bm E_1(\bm r,t)-bk_2^2\bm E_2(\bm r,t)\hspace{1.5cm}\ne k_3^2\bm E_3(\bm r,t)); つまり波動方程式の解は平面波に限らないということだ。 * 復習:前期量子論で電子について分かったこと [#vd7794fc] ここから電子が満たす波動方程式について考えていく。~ そのために前期量子論で電子について分かったことをおさらいしておこう。 - 電子は粒子として、数を数えたり、1つ当たりの電荷や質量を測定したりできる。 -- 電荷は &math(e=1.60217657\times 10^{-19}\,\mathrm{C}); -- 質量は &math(m=9.10938291\times 10^{-31}\,\mathrm{kg});~ ~ - 電子は波として、回折したり、干渉したりする。 -- エネルギーと周波数の関係 &math(\varepsilon=h\nu=\hbar\omega); -- 運動量と波数の関係 &math(\bm p=h/\lambda=\hbar\bm k);~ |時間:|周期 $T$ |周波数 $\nu=1/T$ |角周波数 $\omega=2\pi\nu=2\pi/T$| |距離:|波長 $\lambda$|波長の逆数 $1/\lambda$|波数 $k=2\pi/\lambda$| -- ここで、&math(h=6.62606957\times10^{-34}\,\mathrm{m^2 kg/s}); はプランク定数、&math(\hbar=h/2\pi);~ ~ - 水素原子の中の電子は -- 原子核の周りを回る軌道を描く? -- 1周が電子波長の整数倍になるような軌道以外は禁止されている -- 結果的に電子のエネルギーも離散化している なぜ粒子の性質も持つのかは置いておいて、~ もし電子が波であるならば、その波の満たすべき波動方程式はどのようなものになるだろうか? * 自由な電子の波動方程式 [#mb727caa] 外力を受けない(自由な)電子の満たすべき波動方程式について考える。 外場がなければ電子のエネルギーは運動エネルギーのみで書けるから、 &math(\varepsilon=\frac{p^2}{2m}); &math(\varepsilon=\hbar\omega);、&math(\bm p=\hbar\bm k); で書き直せば、 &math(\hbar\omega=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}); この分散関係を要求する波動方程式を作ろう! 電子波を &math(\psi(\bm r,t)=\psi_0\cos(\bm k\cdot\bm r-\omega t)); と置いて、&math(\omega,k^2); が出てくるように微分すると、((量子力学の波動関数はギリシャ文字のプサイ &math(\psi); で書かれることが多い。ギリシャ文字の書き方・読み方は http://www.tomakomai-ct.ac.jp/department/gene/am/education/greek.html や http://kscalar.kj.yamagata-u.ac.jp/~endo/greek/orthographic.html が参考になる。)) &math(\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=-\omega\psi_0\sin(\bm k\cdot\bm r-\omega t)); &math(\nabla^2\psi(\bm r,t)=-k^2\psi_0\cos(\bm k\cdot\bm r-\omega t)); 思惑通り $\omega$ と $k^2$ が出たのはいいが、上では &math(\sin);、下では &math(\cos); が現れてしまい両者を等号で結べない。。。 &math(\cos); や &math(\sin); は微分により形が変わってしまうのが問題。((例えば、条件式の両辺を二乗して &math(k^4); と &math(\omega^2); の式にすれば &math(\cos); や &math(\sin); でも式は作れるが、それでは役に立つ方程式が得られないので、ここでは深入りしない。)) ''微分で形の変わらない関数''を使ってみる。~ &math(\psi(\bm r,t)=\psi_0e^{i(\bm k\cdot\bm r-\omega t)});&math(=\psi_0\{\cos(\bm k\cdot\bm r-\omega t)+i\sin(\bm k\cdot\bm r-\omega t)\}); これも波数 &math(\bm k);、角周波数 &math(\omega); の波動を表わす。複素数になっちゃうけれど。 &math(\omega,k^2); が出てくるように微分すると、 &math(\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=-i\omega\psi(\bm r,t)); &math(\nabla^2\psi(\bm r,t)=-k^2\psi(\bm r,t)); これらを用いて分散関係を表わす式 &math(\hbar\omega\psi(\bm r,t)=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}\psi(\bm r,t)); を書き換えると、 &math(i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2\psi(\bm r,t)); これは''自由な電子に対する正しい波動方程式(シュレーディンガー方程式)''である。 * 外力を受ける場合 [#nce852a7] 電子がポテンシャルエネルギー &math(V(\bm r,t)); の中で運動する場合、 電子のエネルギーは &math(\frac{p^2}{2m}\to \frac{p^2}{2m}+V(\bm r,t)); となる。そこで、 &math(i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=\left(-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2+V(\bm r,t)\right)\psi(\bm r,t)); これが''シュレーディンガー方程式''と呼ばれる量子力学の基本方程式である。 当然、ここまでの導出には任意性があるから、 この式が正しいかどうかは実験結果と合うかどうかで判断することになるが、 相対論的効果が顕著でない場合、 実際にこの式が実験結果と良く合うことが確かめられている。((このシュレーディンガー方程式が相対論と相容れないことは、左辺が1次の時間微分を含んでおり、右辺が2次の空間微分を含んでいることからも明らかである。相対論では空間と時間とで構成される4次元を考える。それらの指標は等価な物であるから微分の次数が異なるはずがない。)) シュレーディンガー方程式に現れる(現時点では)得体の知れない関数 &math(\psi(\bm r,t)); は電子の''波動関数''と呼ばれる。 ''波動関数は一般に複素数値を取る''((たぶんここがシュレーディンガーの発想の最も顕著な点だったのではないか?物理量を表わす波を複素数で書こうと考えるとは!後にパウリがこの波を2次元複素ベクトル値に、ディラックが4次元複素ベクトル値に拡張してスピンや相対論的方程式を記述した。))。 ** 覚えられる? [#za2fec71] 始めの授業で出てきた上記の怪しげな式、今なら何も見なくても書き下せそうな気がします? &math(\psi(\bm r,t)=\psi_0e^{i(\bm k\cdot\bm r-\omega t)}); の形を思い浮かべながら、 &math(\frac{1}{-i}\frac{\PD}{\PD t}\ \leftrightarrow\ \omega); &math(\frac{1}{i}\bm\nabla\ \leftrightarrow\ \bm k); が思い出せれば、あとは &math(\varepsilon=\frac{p^2}{2m}+V(\bm r,t)); を書き換えてシュレーディンガー方程式を再現できるはず。 上記の関係は今後も頻出するので必ず覚えておくこと。 * 時間に依存しないシュレーディンガー方程式 [#mb4d7efe] シュレーディンガーがこの方程式を導いた時点では、 電子の波動関数 &math(\psi(\bm r,t)); というものが物理的には何を表わしているか、 まったく解っていなかった。 それでも何とか実験結果と比較して、この方程式の正しさを確かめたければどうすればいいだろう? そのために''波動関数の空間分布が時間によらず変化しない場合''を考えてみる。 安定に存在する原子の中の電子などはそのような''定常状態''にあるはずだからである。 すなわち、想定するのは &math(\psi(\bm r,t)=\varphi(\bm r)); の形の解である((&math(\varphi); は &math(\phi); の異なる書き方で、これらはどちらもギリシャ文字のファイである))。 が、時間微分をゼロと仮定してしまうとシュレーディンガー方程式の左辺がゼロになり意味をなさないので、 代わりに &math(\psi(\bm r,t)=\varphi(\bm r)\tau(t)); のように変数分離ができることを仮定しよう((&math(\tau); はギリシャ文字のタウ。アルファベットの &math(t); にあたる。)) (この形でも「空間分布=空間座標依存性」は時間に依存しないことを理解せよ)。 当然ここでは「ポテンシャルが時間に依存しない場合」を考えているので、 以下 &math(V(\bm r,t)); の代わりに &math(V(\bm r)); と書く。 &math(\hat H=-\hbar^2\nabla^2/2m+V(\bm r)); と置けば((この部分は解析力学で言うハミルトニアンにあたるので、頭文字を取って &math(H); で書く。上に付いている &math(\hat\ ); (ハット) は中身がただの数ではなく、微分記号などを含む「演算子」であることを表わす。))、 演算子 &math(\hat H); は &math(\varphi(\bm r)); のみに作用し、&math(\tau(t)); に作用しないから、 &math(i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\left\{\varphi(\bm r)\tau(t)\right\}=\hat H\left\{\varphi(\bm r)\tau(t)\right\}); &math(\varphi(\bm r)\cdot i\hbar\frac{d}{dt}\tau(t)=\tau(t)\cdot \hat H\varphi(\bm r)); &math(\frac{i\hbar\frac{d}{dt}\tau(t)}{\tau(t)}=\frac{\hat H\varphi(\bm r)}{\varphi(\bm r)}); となる。左辺は &math(t); だけの関数、右辺は &math(\bm r); だけの関数であり、 それらが &math(t,\bm r); の値によらず等しいなら、これらはある定数 &math(\varepsilon); に等しくなければならない。 &math(\frac{i\hbar\frac{d}{dt}\tau(t)}{\tau(t)}=\frac{\hat H\varphi(\bm r)}{\varphi(\bm r)}=\varepsilon); すなわち、 &math(i\hbar\frac{d}{dt}\tau(t)=\varepsilon\tau(t)); &math(\hat H\varphi(\bm r)=\varepsilon\varphi(\bm r)); 上の式はすぐに解けて、 &math(\tau(t)=\tau(0)e^{-i\varepsilon t/\hbar}); この定数 &math(\varepsilon); が実数であるならば、 時間依存部分は複素数の位相が &math(\omega=\varepsilon/\hbar); で回転するのみで、 絶対値は変化しないことが分かる。現実的な条件下では確かに $\varepsilon$ が実数となることを後に確認する。 &math(\tau(0)); は定数であるからこれを &math(\varphi(\bm r)); に含めてしまい、 &math(\tau(t)=e^{-i\varepsilon t/\hbar}); としても一般性を失わない。 このとき、&math(|\psi(\bm r,t)|=|\varphi(\bm r)|); を満たすことになり、 「''絶対値が''時間に対して変化しない定常解」が得られたことになる。 残った &math(\varphi(\bm r)); に対する方程式 &math(\hat H\varphi(\bm r)=\left(-\frac{\hbar^2\nabla^2}{2m}+V(\bm r)\right)\varphi(\bm r)=\varepsilon\varphi(\bm r)); は時間に依存しないシュレーディンガー方程式、と呼ばれる。 上記の議論をたどれば分かるとおり、これを満たす解以外には「時間に依存しない解」は存在しない。 * エネルギー固有値 [#pf9c9134] &math(\hat H=-\hbar^2\nabla^2/2m+V(\bm r,t)); は''ある関数を別の関数に変換する線型な演算子''と見なせる。 すなわち、&math(V(\bm r)); の具体的な形によらず、もし2つの関数 &math(\varphi_1,\varphi_2); が &math(\varphi'_1(\bm r)=\hat H\varphi_1(\bm r));, &math(\varphi'_2(\bm r)=\hat H\varphi_2(\bm r)); のように &math(\varphi'_1,\varphi'_2); に変換されるならば、 &math(\hat H\big(a\varphi_1(\bm r)+b\varphi_2(\bm r)\big)=a\varphi'_1(\bm r)+b\varphi'_2(\bm r)); が成立し、&math(\hat H); は線型の条件を満たす。&math(\leftrightarrow f(a\bm x+b\bm y)=af(\bm x)+bf(\bm y)); [[線形代数Ⅱで学んだように>@線形代数II/関数空間]]、関数に作用する線型な演算子 &math(\hat H); に対して固有値問題を考えることができる。 実際、時間に依存しないシュレーディンガー方程式はそのまま &math(\hat H); の固有値と固有ベクトル(固有関数)を求める方程式になっている。 実際、時間に依存しないシュレーディンガー方程式はそのまま &math(\hat H); の固有値 $\varepsilon$ と固有ベクトル(固有関数)$\varphi(\bm r)$ を求める方程式になっている。 &math(\hat H\varphi(\bm r)=\varepsilon\varphi(\bm r)); これを解いて固有値 &math(\varepsilon_0,\varepsilon_1,\varepsilon_2,\dots); と、 それぞれの固有値に対応する固有関数 &math(\varphi_0,\varphi_1,\varphi_2,\dots); が求まれば、 &math(\psi_k(\bm r,t)=e^{-i\varepsilon_kt/\hbar}\varphi_k(\bm r)); として(絶対値が)時間に依存しない波動関数 &math(\psi_1,\psi_2,\dots); が得られる。 そして、時間に依存しない、定常的な電子の状態はこれら以外に存在しない。 シュレーディンガー方程式の導出過程から &math(i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\Leftrightarrow \hbar\omega); や &math(\hat H\Leftrightarrow \frac{p^2}{2m}+V(\bm r, t)); はエネルギーを表わすから、 固有値 &math(\varepsilon_k); は波動関数 &math(\psi_k); によって表わされる状態において 系が持つエネルギーを表わすと期待される。→ ''エネルギー固有値'' ** シュレーディンガー方程式の有用性 [#y1848207] #ref(量子力学Ⅰ/前期量子論/atomic-emissions.png,right,around,24%); 水素の原子核が電子に及ぼすポテンシャルは &math(V(\bm r,t)=-\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\bm r|}); である。 水素の中の電子が定常状態にあるならば、 その波動関数は上記の時間に依存しないシュレーディンガー方程式を満たすはずであり、 そのエネルギー値は &math(\hat H); の固有値 &math(\varepsilon_0,\varepsilon_1,\varepsilon_2,\dots); のいずれかを取るはずである。 シュレーディンガーは実際に上記のポテンシャルに対して固有値を求め、 その固有値間のエネルギー差が原子スペクトルのピーク波長測定値(ボーアの量子条件) とぴったり一致することを示した。 いろいろ不確実なまま進んできたものの、 シュレーディンガー方程式が正しそうなことが確認されたことになる。 * 復習 [#n8770abf] 電子のエネルギー &math(\varepsilon=h\nu=\hbar\omega);、運動量 &math(\bm p=\hbar\bm k); 自由な電子の波動関数 &math(\psi(\bm r,t)=\psi_0 e^{i(\bm k\cdot\bm r-\omega t)}); &math(i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=\frac{\hbar}{-i}\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=\hbar\omega\psi(\bm r,t)=\varepsilon\psi(\bm r,t)); &math(-i\hbar\bm\nabla\psi(\bm r,t)=\frac{\hbar}{i}\bm\nabla\psi(\bm r,t)=\hbar\bm k\psi(\bm r,t)=\bm p\psi(\bm r,t)); シュレーディンガー方程式: &math(\varepsilon=\frac{p^2}{2m}+V(\bm r,t)); を分散関係に直して、 &math(i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm r,t)=\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm r,t)\right)\psi(\bm r,t)); 時間に依らないシュレーディンガー方程式 &math(\varepsilon\varphi(\bm r)=\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm r,t)\right)\varphi(\bm r)); ~ [[前の単元 <<<>量子力学Ⅰ/前期量子論]] [[量子力学Ⅰ]] [[>>> 次の単元>量子力学Ⅰ/波動関数の解釈]]~ ~ * 質問・コメント [#idb3d123] #article_kcaptcha **光子の振動数と電磁波の周波数の関係 [#n51ef2b1] >[[工藤 康]] (&timetag(2024-02-27T08:30:49+09:00, 2024-02-27 (火) 17:30:49);)~ ~ 原子の電子がエネルギー準位間で遷移すると、準位のエネルギーの差に相当するhνの光子が放射されますが、同時にこれを光(電磁波)として観測できます。この場合、光子の振動数νと電磁波の周波数fとは等しくなると考えてよいでしょうか。振動数νも周波数fも、物理的な源は電子の振動運動だと思うのですが。~ // - はい、光子の振動数 $\nu$ は電磁波の周波数 $f$ と同じ意味であり、空間中に生じる電場・磁場の波の周波数です。恐らくご質問の背景には古典論で考えるように電磁波が電荷の振動により生じるとするならば、電子が準位間遷移する際のどのような運動の振動数が $\nu$ と等しいのか、というような疑問があるのだろう、と想像しました。粒子の数が変化するような量子力学はこの授業の範疇外であり「光子1個」が電磁波の振幅とどのように結びついているかなど詳しくはより進んだ量子力学を学ぶ中で理解することになります。その上で、ここで理解してもらいたい前期量子論の流れは、そもそも電子が原子核の周りを廻るならその回転周期に相当する振動数の電磁波が出ないのは古典論で考えるとおかしい。同様に、原子と外界との間にエネルギーの授受があるときにエネルギー差に比例する振動数の光が出るのもおかしい。しかしこれらを前提に行われた議論の先に、それらを統一的に記述可能な量子力学が確立されている、というようなことになっています。 -- [[武内(管理人)]] &new{2024-02-28 (水) 11:39:43}; #comment_kcaptcha **波動を表わす関数 [#adbf1109] > (&timetag(2021-02-05T10:17:19+09:00, 2021-02-05 (金) 19:17:19);)~ ~ 前の投稿は取り下げます。勘違いをしておりました。~ // #comment_kcaptcha **波動を表わす関数 [#ucb45a4d] > (&timetag(2021-02-03T23:14:56+09:00, 2021-02-04 (木) 08:14:56);)~ ~ tのところが若干違うように思います~ 速度vで移動する関数~ f(x,0)=f(x-vt,0)~ 位相速度vで伝播(でんぱ)する正弦波(一次元)~ f(x,t)=f(x-vt,t)=cos(k(x-vt))~ // #comment_kcaptcha **無題 [#qcb712b4] > (&timetag(2016-06-01T00:14:56+09:00, 2016-06-01 (水) 09:14:56);)~ ~ 復習の波動関数ですがeの指数部分のカッコを書き忘れていませんでしょうか~ // - ご指摘ありがとうございます、おっしゃる通りでした。早速修正いたしました。 -- [[武内(管理人)]] &new{2016-06-01 (水) 11:01:23}; #comment_kcaptcha
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