電磁気学/Ohm の法則 の変更点

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#author("2025-06-25T03:43:29+00:00","default:administrator","administrator")
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[[電磁気学]]

&katex();

* 電場中での電荷の運動 [#o244c513]

真空中の電化に電場を印加した際のローレンツ力:

$$
\bm F=e\bm E
$$

ニュートン方程式によると、

$$
\bm F=m\ddot {\bm z}
$$

$$
\begin{aligned}
\to \ddot {\bm z}&=\frac{e}{m}\bm E\\
\dot{\bm z}&=t\frac{e}{m}\bm E+\bm v_0\ \ \propto\ \ \bm i\\
\end{aligned}
$$

電流は速度に比例するから、時間と共に際限なく電流が増加するという結果が得られる。

→ 物質中で電場に比例した電流が流れるのはなぜ???

** 抵抗力がある場合 [#z911cfad]

物質中の自由電子はフォノンや不純物、他電子との散乱により、速度に比例する「抵抗力」を受ける。

$$
m\ddot {\bm z}=e\bm E\underbrace{\,-\,\gamma\dot{\bm z}}_\text{抵抗力}
$$

これは非線形な微分方程式なので、まずは特殊解を求めよう。

系の定常状態 $\ddot {\bm z}=0$ を仮定すれば、

$$
\dot{\bm z}=\frac{e}{\gamma}\bm E
$$

として速度が電場に比例する解が得られる。

この特殊解に線形方程式

$$
m\ddot {\bm z}=-\gamma\dot{\bm z}
$$

の解すなわち、

$$
\dot{\bm z}=\bm v_0e^{-\gamma t/m}
$$

を加えた、

$$
\dot{\bm z}=\bm v_0e^{-\gamma t/m}+\frac{e}{\gamma}\bm E
$$

が一般解となる。

$t=0$ で $\dot{\bm z}=\bm 0$ を初期条件とすれば、

$$
\dot{\bm z}=\frac{e}{\gamma}\bm E(1-e^{-\gamma t/m})
$$

が得られ、これは速度ゼロから徐々に速度が増加して $\frac{e}{\gamma}\bm E$ に漸近する運動を表す。

ただし現実的には、時定数 $m/\gamma$ は非常に小さく(ピコ秒以下)、
ほぼ瞬時に定常状態に達するため「加速中」の様子が観測されることはない。

そのため、近似的に電場の方向に電場の大きさに比例する電流が流れると考えることができ、
これが Ohm の法則の基礎となっている。

$$
\dot{\bm z}\simeq\frac{e}{\gamma}\bm E
$$

このとき抵抗力により単位時間あたり、

$$
\bm f\cdot \dot{\bm z}=\frac{e^2}{\gamma}E^2
$$

のエネルギーが失われることになる。

* Ohm の法則 [#v6613dc7]

#ref(ohm1.svg,around,right);

電位 $\phi_1$ の点と $\phi_2$ の点とを結ぶ導線の抵抗が $R$ であるとき、流れる電流は

$$
\phi_1-\phi_2=RI
$$

を満たす。抵抗は導線の長さ $l$ に比例し、断面積 $S$ に反比例する。比例係数を抵抗率 $\rho$ と呼び、
その逆数を伝導率 $\sigma$ と呼ぶ。

$$
R=\rho\frac{l}{S}=\frac{1}{\sigma}\frac{l}{S}
$$

Ohm の法則の微分形を求めるために断面積 $dS$、長さ $dx$、電位差 $d\phi$ とすれば、

$$-d\phi=dR\cdot dI
$$

$dI=i\,dS$ などを代入すると、

#ref(ohm2.svg,around,right);

$$
E\,dx=\frac{1}{\sigma}\frac{dx}{dS}i\,dS
$$

すなわち、

$$
i=\sigma E
$$

を得る。一般にはベクトルとして、

$$
\bm i=\sigma \bm E
$$

が成り立つ。これが微分形で書いたオームの法則である。


** &ruby(ジュール){Joule}; 熱 [#h9a3e568]

上記の条件において発生する Joule 熱は、

$|dI\,d\phi|=|i\,dS\ E\,dx|=\sigma E^2 d^3x$ 

となり、単位時間あたり、単位体積あたり $\sigma |\bm E|^2$ の熱が発生することが分かる。

* 時間反転対称性の喪失 [#pc389ace]

Newton 方程式は時間反転対称性を持つ。

これは、ある運動が可能であるならば、それを逆回しにした運動も、
初期状態さえ適当に選べば(原理的には)実現可能である、という意味である。

例えば投げたボールの軌跡を正確に逆からたどるように投げ返す初期条件が必ず存在する。

同様に Maxwell 方程式も時間反転対称性を持つのであるが、

Newton 方程式と Maxwell 方程式により記述される世界に
Ohm の法則を持ち込むと時間反転対称性が崩れることに注意が必要である。

そもそも Ohm の法則ではエネルギーがジュール熱として失われていくため、
エネルギー保存則も成り立たない。
力学系のみを見た場合にはエネルギー保存則も成り立たない。

時間反転対称性が失われていることを端的に示す例として以下を見よう。

電荷保存則にオームの法則を代入すると、

$$
\frac{\partial}{\partial t}\rho(\bm x,t)=-\DIV\bm i(\bm x,t)=-\DIV\big[\sigma\bm E(\bm x,t)\big]=-\frac{\sigma}{\varepsilon}\rho(\bm x,t)
$$

すなわち、

$$
\rho(\bm x,t)=\rho(\bm x,0)e^{-\sigma t/\varepsilon}
$$

を得る。

この結果は、均一な伝導率を持つ物質中では任意の初期電荷分布は時定数 $\varepsilon/\sigma$ 
で指数関数的に失われていくことを示しており、どのように初期条件を選んだとしても
決してこの逆の現象(時間と共に電荷分布が立ち上がる)は生じないことを示している。

* 質問・コメント [#lde30cf1]

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