これらのキーワードがハイライトされています:シュワルツ
線形代数I
培風館「教養の線形代数(五訂版)」に沿って行っている授業の授業ノート(の一部)です。
(カリキュラムと教科書との間のギャップを調整中の内容です)
実数ベクトルの標準内積†
,
に対して、その標準内積を
として定義する。
実数ベクトルの内積の性質†
標準内積について以下の性質を容易に確かめられる。
-
かつ
⇔
数学的にはこの4つの性質を持つような任意の演算を「内積」と考えてよい。
すなわち、内積の定義の仕方には標準内積以外にも様々な物がある。
例:$\displaystyle(\bm a,\bm b)=a_1b_1+2a_2b_2+\dots+na_nb_n=\sum_{k=1}^nka_kb_k$
も内積を定義する。
例:すぐには分かりにくいが、2次のベクトルに対して、
を内積とするベクトル空間があってもよい。
(確かめてみよ)
以下の話は上記4つの性質のみを使って定義・証明可能であるから、
「任意の内積」について成立する。
内積の定義されたベクトル空間を「内積空間」あるいは「計量空間」と呼ぶ。
(複素数ベクトルの内積については後に学ぶ)
ベクトルのノルム†
内積の持つ性質
より、任意の
に対して
を定義できる。これを
のノルム(長さ・大きさ)と呼ぶ。
内積の定義より、
の時のみ
となる。
●
の書き換えは頻出するので覚えておくように。
シュワルツ (Schwartz) の不等式†
内積の絶対値は常にノルムの積以下である
(証明)
この2次式が
の値に依らず負にならないためには、
判別式が負でなければならないから、
両者の正の平方根を取れば、
与式を得る。
三角不等式†
三角形の一辺は他の二辺の和より短い
(証明)
両辺とも正なので、平方根を取れば与式を得る。
ベクトルの為す角†
が共にゼロでないとき、シュワルツの不等式より
したがって、
すなわち
を満たす
ただし
がただ一つ決まる。
この
を
の「為す角」と呼ぶ。
- ここまで、内積によりベクトルの長さと角度が定義されることが分かった
(ベクトルの長さや角度は内積の定義に依存して決まる)
ベクトルの直交†
より、
のときに「内積がゼロ」になる
そこで、
であることを 「
が直交する」と言う。
実は、
の一方または両方がゼロの時もやはり
となるが、
は定まらない。
だが、この場合も含めて「直交」を定義する。
⇔
すなわち、ゼロベクトル
は全てのベクトルに直交する。
正規化ベクトル†
正規ベクトル: ノルムが1のベクトルのこと
ゼロでない任意のベクトル
に対して、
としてノルムを1にする操作を
「正規化」と呼ぶ。
正規直交系†
ベクトル
が正規直交系である、とは
- 正規:すべてのベクトルのノルムが1である
すなわち
- 直交:ベクトルは互いに直交する
の条件を満たすこと。
- 条件はまとめて
と書ける。
- 基本ベクトル
は正規直交系である
正規直交系は一次独立である†
が正規直交系であるとき、
が成り立つとすると、両辺と
との内積を取ることで、
したがって、すべての
について
となることが導かれる。
成分の導出†
同様にして、基本ベクトル
は正規直交系であるから、
のとき、
と
との内積を取ることにより、
として
方向の成分を求めることができる。
すなわち、任意の
について、
が成り立つ(結構重要)。
直交変換†
任意の $n$ 次元実数ベクトル
に対して、
← 内積の値を保存する
を満たす一次変換
を直交変換と呼ぶ。(なぜ直交?の答えは後ほど)
- 直交変換は
を満たす。← ノルムを保存する
(定義より、ほぼ明らか)
こちらを直交変換の定義とする場合もある(同値な条件であるため)
練習:
から
を導こう。
(証明)
条件より
(左辺)2
(右辺)2
したがって、
合同変換†
直交変換はすべてのベクトルの長さを保つから、それはすなわち「合同変換」である。
合同変換 = 回転 ( + 反転 )
∵三角形の3辺の長さが等しければ合同であったのを思い出そう。
Rn にて標準内積を取る場合†
である。
また、
と書けるから、
したがって、
が対称行列
の時に限り、
が成り立つ。
直交行列†
標準内積を用いた場合、直交変換の標準行列
は任意の
に対して、
を満たす。したがって、2つの基本ベクトルに対しても
となるが、この左辺は行列
の (i,j) 成分に等しい。
すなわち、
であり、
は
を満たす。
この条件を満たす
を直交行列と呼ぶ。
なぜ直交?†
直交行列の列ベクトル分解を
と書くと、
すなわち、直交行列の列ベクトルは正規直交系を為す。
これが直交変換、直交行列の語源である。
以下の条件はすべて同値である。
- 直交行列
- 行ベクトルが正規直交系
- 列ベクトルが正規直交系
(発展)標準内積が標準と呼ばれるわけ†
一般の内積†
任意の内積に対して、
が定義される。
すなわち、任意の内積に対して正規直交系を定義可能である。
正規直交基底における内積の成分表示†
を正規直交基底として、
成分表示を用いて
、
と表す。
このとき、
となる。
すなわち、任意に定義した内積について、
正規直交基底で成分表示した場合に
内積を成分に対する標準内積で求められる。
これが標準内積が標準と呼ばれる理由である。