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量子力学Ⅰ
関数から実数への写像=汎関数†
F に関数 ϕ を与えると何らかの数値 F[ϕ] が得られるとしよう。そのような F は汎関数と呼ばれる。
F:ϕ↦F[ϕ]
例えばこんなの。
F[ϕ]=∫abf(ϕ(x),x) dx
f(⋅,⋅) は始めから決まった関数とし、a,b も定数であるとしよう。これを見て「関数 ϕ を定めると F[ϕ] の値が定まる」という感覚を理解できるだろうか?
もっと簡単な例として、
F[ϕ]=ϕ(0)
なんてすれば、これも立派な汎関数だ。関数 ϕ(x) の定義を1つ与えれば F[ϕ] の値が1つちゃんと決まる。ϕ(x) の定義を変えると F[ϕ] の値も変わる(ことがある)。上の定義で f(ϕ,x)=ϕδ(x) と置いたと見なしてもいい。
汎関数微分†
実数 ϕ の関数 f(ϕ) に対して、
ϕ→ϕ+δϕ のとき f(ϕ)→f(ϕ)+δfdϕdfδϕ
と書いた際の df/dϕ を f の微分と呼ぶのに対応して、
関数 ϕ を
ϕ(x)→ϕ(x)+δϕ(x)
のように少し変化させたときに、汎関数 F[ϕ] の値は
F[ϕ]→F[ϕ]+∫δϕδFδϕ(x) dx
のように変化する、と書いたときの、
δϕδF
のことを「汎関数微分」と呼ぶ。一般にはこれ自体が x の関数となる。
同じことを、
ϕ(x)→ϕ(x)+δϕ(x)
のときに
F[ϕ]→F[ϕ]+δF[δϕ]
となるとして、
δF[δϕ]=∫δϕδFδϕ(x) dx
と書いてもいい。δ が多くて目がチカチカする。
どうして積分が必要なのか?†
F[ϕ]→F[ϕ]+δϕδFδϕ
ならとても分かりやすいのに、なぜ
F[ϕ]→F[ϕ]+∫δϕδFδϕ(x) dx
のように積分が必要なのか?
これは、n 変数関数 f(x1,x2,…,xn) の
xi→xi+δxi
に対する変化が、
f→f+i=1∑n∂xi∂fδxi
であったことと対応している。F[ϕ] では ∑ の代りに ∫ が現れたわけだ。
言ってしまえば、汎関数 F[ϕ] は無限個の変数 ϕ(x) に依存する超多変数関数なのである。
F[ϕ] は ϕ(0) にも ϕ(0.1) にも ϕ(0.11) にも依存している(可能性がある)。というか、定義域に含まれるすべての x に対する ϕ(x) に依存している(可能性がある)のだから、それぞれに対する変化量である (δF/δϕ)δϕ(x) をすべて足したものが δF[δϕ] になる。x が連続なので「すべて足したもの」を計算するのに ∑ ではなくて ∫ が必要になるわけだ。
汎関数微分の例†
F[ϕ]=∫f(x,ϕ(x)) dx
のときは単純に、
δF[δϕ]=∫∂ϕ∂fδϕ(x) dx
であるから、
δϕδF=∂ϕ∂f
となる。これは一般に x の関数である。
めでたしめでたし?
x による微分を
ϕ′=dxdϕ
などと書くことにして、
F[ϕ]=∫f(x,ϕ(x),ϕ′(x)) dx
すなわち f が ϕ の微係数 ϕ′ にも依存するときには、
δF[δϕ]=∫[∂ϕ∂fδϕ+∂ϕ′∂fδϕ′]dx
これは部分積分することができて、
δF[δϕ]=[∂ϕ′∂fδϕ]+∫[∂ϕ∂f−(∂ϕ′∂f)′]δϕ dx
積分区間の端で ∂ϕ′∂f=0 または δϕ=0 となる場合には1項目は消えて、
δϕδF=∂ϕ∂f−(∂ϕ′∂f)′
と書ける。微分をちゃんと書いておくと、
δϕδF=∂ϕ∂f−dxd(∂(dϕ/dx)∂f)
である。この形は解析力学で作用の極小値を考える際などに頻出する。
オイラー・ラグランジュ方程式†
ラグランジアンを L、経路をx(t) とする。
また、時刻 t=ta に x(ta)=xa であり、
t=tb に x(tb)=xb であるとする。
この2つの時刻の間の経路 x(t) を求める問題は、
汎関数
S[x]=∫tatbL(x(t))dt
を最小化する x(t) を求めることと同じであり、すなわち
δxδS=∂x∂L−dtd(∂x˙∂L)=0
を解くことになる。
x(ta) と x(tb) とを固定したことにより、δx(ta)=δx(tb)=0 が条件となるため、
上記の部分積分で現れる第1項が消えることに注意せよ。
この方程式はオイラー・ラグランジュ方程式と呼ばれる。
また、汎関数 S は作用積分あるいは作用と呼ばれ、
このようにして経路を求められることは最小作用の法則と呼ばれる
(このときの「極値」は実際には「最小値」となる)。