ラグランジュ力学と未定係数法

更新


概要

解析力学/ラグランジアン#sebbcf9b では振り子の運動を $\theta$ を座標としてラグランジュの運動方程式を求めたが、 同じ運動を $x,y$ 座標で書いて運動方程式を求めたらどうなるだろうか?

このときの運動方程式は拘束条件の下で作用を最小化する条件から得られ、 その条件を求めるにはラグランジュの未定係数法が強力な手段となる。

目次

$x,y$ 座標を使ったラグランジアン

$y$ 軸を上を正に取るとラグランジアンは簡単に求められて、次のようになる。

$$ L=\underbrace{\frac12m(\dot x^2+\dot y^2)}_{T}-\underbrace{mgy\rule[-2.3mm]{0mm}{0mm}}_{U} $$

したがって、$x$ 方向、$y$ 方向の運動方程式はラグランジュの運動方程式より、

$$ \frac d{dt}(m\dot x)=0 $$

$$ \frac d{dt}(m\dot y)=mg $$

となる!

・・・

いやいやいやいや。

考えてみると上のラグランジアンは重力の元で自由に運動する質点のラグランジアンに等しく、ひもで吊られているという条件が失われている。

拘束条件

以下に見るとおり、ひもで吊られているという拘束条件を考慮に入れた運動方程式を求める場合にも最小作用の法則は有効である。

ひもで吊られた重りの軌道は振り子の支点を原点 $(x,y)=(0,0)$ にとれば、

$$ x^2+y^2-r^2=0 $$

の上にあるべきだ。

実はこの拘束条件の下で作用 $S$ を最小化することで正しい運動方程式が得られるのである。

この問題は条件付き最適化問題であるから、ラグランジュの未定係数法 を使うことで見通しよく解くことができる。

ラグランジュの未定係数法

ラグランジュの未定係数法 にて解説したように、

$$g_i(x_1,x_2,\dots,x_n)=0\hspace{1cm}(i=1,2,\dots,r)$$

の形で与えられる(複数の)制約の下で関数 $f(x_1,x_2,\dots,x_n)$ の極値(最大値・最小値)を見つけるには、 条件式と同じ数の未定係数 $\lambda_i$ を含む、

$$ L(x_1,x_2,\dots,x_n)=f(x_1,x_2,\dots,x_n)-\sum_{i=1}^r\lambda_i g_i(x_1,x_2,\dots,x_n) $$

を導入し、この $L$ に対して

$$ \frac{\partial L}{\partial x_i}=0\hspace{1cm} (i=1,2,\dots,n) $$

$$ \frac{\partial L}{\partial \lambda_i}=0\hspace{1cm} (i=1,2,\dots,r) $$

を課せば良いのであった。

拘束条件の下で作用を最小化するには

今考えている問題では作用 $S$ を最小化したいのであるが、上記のまま

$$ S\big[x(t),y(t)\big]-\lambda\big[x(t)^2+y(t)^2-r^2\big] $$

を作って $x(t),y(t)$ に対して偏微分しようとしても、第1項目は汎関数なので普通に偏微分するわけにいかず困ってしまう。

ここでは束縛条件を $S$ ではなく $L$ に加え、

$$ \begin{aligned} L'&=L-\sum_{i=1}^r\lambda_ig_i(q_1,q_2,\dots,q_n)\\ \end{aligned} $$

この $L'$ が作用を最小化する $q_i$ を求めれば良い。

これは $L'$ に対してラグランジュの運動方程式を求めることに他ならず、

$$ \frac d{dt}\frac{\partial L'}{\partial \dot q_i}=\frac{\partial L'}{\partial q_i} $$

すなわち、

$$ \frac d{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}=\frac{\partial L}{\partial q_i}+\sum_{j=1}^r\lambda_j\Big\{\frac d{dt}\frac{\partial g_j}{\partial \dot q_i}-\frac{\partial g_j}{\partial q_i}\Big\} $$

および、

$$ \frac{\partial L'}{\partial \lambda_i}=g_i=0 $$

を解けば良いことになる。

やってみる

今考えている問題では、

$$ \begin{aligned} L'&=L-\lambda\big(x^2+y^2-r^2\big)\\ &=\frac12m(\dot x^2+\dot y^2)-mgy-\lambda\big(x^2+y^2-r^2\big)\\ \end{aligned} $$

となるから、 $$ \frac{d}{dt}\frac{\partial L'}{\partial \dot x}=\dot p_x=m\ddot x=\frac{\partial L'}{\partial x}=-2\lambda x $$

$$ \frac{d}{dt}\frac{\partial L'}{\partial \dot y}=\dot p_y=m\ddot y=\frac{\partial L'}{\partial x}=-mg-2\lambda y $$

$$ \frac{\partial L'}{\partial \lambda}=x^2+y^2-r^2=0 $$

が解くべき方程式となる。第3式より $\theta$ を振り子の振れ角として

$$ x=r\sin \theta $$

$$ y=-r\cos \theta $$

と置けるから、これらを第1、第2式に代入すれば、

$$ \frac d{dt}\Big\{m\big(r\cos\theta\big)\dot \theta\Big\}=-m\big(r\sin\theta\big)\dot \theta^2+m\big(r\cos\theta\big)\ddot \theta=-2\lambda r\sin\theta $$

$$ \frac d{dt}\Big\{m\big(r\sin\theta\big)\dot \theta\Big\}=m\big(r\cos\theta\big)\dot \theta^2+m\big(r\sin\theta\big)\ddot \theta=-mg+2\lambda r\cos\theta $$

全体を $m$ で割り、上式に $\cos\theta$ を、下式に $\sin\theta$ を掛けて足すと、

$$ r\big(\sin^2\theta+\cos^2\theta\big)\ddot \theta=-g\sin\theta $$

$$ \ddot \theta=-\frac gr\sin\theta $$

として、正しい運動方程式が得られる。

このように拘束運動をラグランジュの未定係数法で求める場合、そこに現れる未定係数は拘束力に関係したものとなる。またこの「定数」は、座標の変位 $\delta q_i$ に対して定数となるのであって、時間に対して定数となるものではない。すなわち、一般には時間の関数 $\lambda(t)$ となる。

今の問題では上記第1式を $-\sin\theta$ で割って、

$$ \begin{aligned} 2r\lambda &=mr\dot\theta^2-mr(\cot\theta)\ddot\theta\\ &=\underbrace{mr\dot\theta^2}_\text{遠心力}\hspace{4mm}+\underbrace{mg\cos\theta}_\text{重力の動径方向成分}\\ \end{aligned} $$

の関係を導ける。

すなわち $2r\lambda(t)$ はその時刻において重りを吊る糸にかかる張力に対応している。

質問・コメント




原点が時間によって並行移動する振子について

やまあらし ()

独学するために拝読したのですが、とてもわかりやすい説明で理解が進みました。ありがとうございます。

この方法が適応できる系について質問があります。

"このように拘束運動をラグランジュの未定係数法で求める場合、(中略)。またこの「定数」は、座標の変位に対して定数となるのであって、時間に対して定数となるものではない。"

とありますが、原点が時間によって並行移動する振子(x+x'(t)のように振子を手で持って横に揺らすような系)ではこの方法は使えないと言うことでしょうか。

  • 使えないのではないか、という疑念がどのように出てきたのかを想像できずうまく答えられないのですが、方法としては問題なく使えるはずです。 -- 武内(管理人)
  • 返信ありがとうございます。自分の認識の間違いだったようです。すみません。 -- やまあらし

解いてほしい問題があります。

おおつか ()

条件y=aで
L=m/2(x’^2+y’^2)-mgy+λ(y-a)
に関してx、yの運動方程式。λはいくらになるか教えてほしいです


Counter: 20190 (from 2010/06/03), today: 15, yesterday: 9