生成・消滅演算子による多粒子系の記述

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量子力学Ⅰ

生成・消滅演算子による多粒子系の記述

生成・消滅演算子の交換関係や数演算子との関係について、 どういった性質がどのような要請から導かれるか見直したい。

目次

多粒子状態の数表示

1粒子に対する正規直交完全系を $\psi_1,\psi_2,\psi_2,\dots$ とし*1TODO:直交している必要性について後程もっとよく考えてみなければ、そのそれぞれを $n_1,n_2,n_3,\dots$ 個の粒子($n_i$ は $0$ 以上の整数値)が占めることで作られる規格化された多粒子状態を $|n_1,n_2,\dots\rangle$ と表す。位相等を決めないとこれだけでは関数形が定まらないのであるが、その点については下で考える。

1粒子状態が完全であれば $|n_1,n_2,\dots\rangle$ も完全になるため、任意の多粒子状態をこの重ね合わせで表せる。 $$ \Psi=\sum_{\{n_1,n_2,\dots\}} C_{n_1,n_2,\dots}|n_1,n_2,\dots\rangle\tag1 $$ ここで、$|n_1,n_2,\dots\rangle$ に作用して $i$ 番目の1粒子状態を占める粒子の数 $n_i$ を取り出す「数演算子」 $\hat n_i$ を導入する。 $$ \hat n_i\,|n_1,n_2,\dots\rangle= n_i\,|n_1,n_2,\dots\rangle\tag2 $$ 固有値が必ず実数となることから $\hat n_i$ はエルミートである。 $|n_1,n_2,\dots\rangle$ はすべての数演算子 $\hat n_i$ の固有状態とみなせることから「数状態」と呼ばれる。数状態は各1粒子状態を占める粒子の個数が確定した状態であるのに対して、一般の $\Psi$ に対しては各1粒子状態を占める粒子の個数は確率的にしか決まらない。任意の $\Psi$ を上のように数状態で展開した形は「数表示」と呼ばれる。

消滅演算子・生成演算子

数状態に作用して $n_i$ を1だけ減少させる演算子として「消滅演算子」$\hat c_i$ を考える。 $$ \hat c_i\,|n_1,n_2,\dots,n_i,\dots\rangle\propto |n_1,n_2,\dots,n_i-1,\dots\rangle\tag3 $$ 以下これを次のように略記する。 $$ \hat c\,|n\rangle=a_n\,|n-1\rangle\tag4 $$ 作用後の関数は規格化されているとは限らず、位相も異なる可能性があるとして係数を $a_n$ と書いた。一般に $a_n$ は $n=n_i$ だけで決まるわけではなく他の $n_j\ (j\ne i)$ の値にも依存して構わないため、この表記は少々正確性を犠牲にしているのであるがここでは読みやすさを優先した。実際、フェルミ粒子では $n_j\ (j\ne i)$ に依存して位相が変化するような $a_n$ を用いることが多い。

また、粒子数が負にならないための条件として $$ \hat c\,|0\rangle=0\ \ \ \ \text{すなわち} \ \ a_0=0\tag5 $$ を与える。つまり粒子ゼロ個の状態からさらに粒子を減らそうとしても有意な解は得られない。 $\hat c\,|n\rangle$ に $\hat n$ を作用させると、 $$ \hat n\hat c\,|n\rangle=(n-1)\hat c\,|n\rangle=\hat c(n-1)\,|n\rangle=\hat c(\hat n-1)\,|n\rangle\tag6 $$ より、任意の $\Psi$ に対して $$ [\hat n,\hat c]\equiv\hat n\hat c-\hat c\hat n=-\hat c\tag7 $$ が成り立たなければならない。 両辺のエルミート共役を取ると、 $$ \begin{aligned} {}[\hat n,\hat c]^\dagger=\hat c^\dagger\hat n^\dagger-\hat n^\dagger\hat c^\dagger=\hat c^\dagger\hat n-\hat n\hat c^\dagger=-c^\dagger \end{aligned}\tag8 $$ すなわち、 $$ [\hat n,\hat c^\dagger]=\hat c^\dagger\tag9 $$ であり、これは $$ \hat n\hat c^\dagger=c^\dagger(\hat n+1)\tag{10} $$ を表す。両辺を $|n\rangle$ に作用させれば $$ \hat n\hat c^\dagger\,|n\rangle=c^\dagger(\hat n+1)\,|n\rangle=(n+1)c^\dagger\,|n\rangle\tag{11} $$ すなわち、 $$c^\dagger\,|n\rangle\propto|n+1\rangle\tag{12}$$ となり、$\hat c^\dagger$ が生成演算子として働くことがわかる。

こちらの係数を $$c^\dagger\,|n\rangle=b_n\,|n+1\rangle\tag{13}$$ と書いておく。

すると、 $$ \langle n|\,\hat c \hat c^\dagger\,|n\rangle=\langle n|\,\hat c b_n\,|n+1\rangle=\langle n|\,a_{n+1}b_n\,|n\rangle=a_{n+1}b_n\tag{14} $$ である一方、 $$ \langle n|\,\hat c \hat c^\dagger\,|n\rangle=(\hat c^\dagger\,|n\rangle)^\dagger(\hat c^\dagger\,|n\rangle)=\|\,\hat c^\dagger\,|n\rangle\,\|^2=|b_n|^2\tag{15} $$ であるから、 $$ b_n=a_{n+1}^*\tag{16} $$ でなければならないことがわかる。*2同様に、$\langle n|\,\hat c^\dagger \hat c\,|n\rangle=b_{n-1}a_n=|a_n|^2$ より $b_{n-1}=a_n^*$ を得るが、これは上で得たのと同じ結果を与えるのみである

ここまでで、数演算子と生成・消滅演算子の性質として以下を導けた。

消滅・生成演算子: $$ [\hat n,\hat c]=-\hat c\tag7 $$ $$ [\hat n,\hat c^\dagger]=\hat c^\dagger\tag{9} $$ その係数: $$ \hat c\,|n\rangle=a_n\,|n-1\rangle\tag4 $$ $$\hat c^\dagger\,|n\rangle=a_{n+1}^*\,|n+1\rangle\tag{16}$$ $n$ の最小値はゼロ: $$a_0=0\tag5$$ 2つのエルミート演算子: $$\hat c\hat c^\dagger\,|n\rangle=|a_{n+1}|^2\,|n\rangle\tag{17}$$ $$\hat c^\dagger\hat c\,|n\rangle=|a_n|^2\,|n\rangle\tag{18}$$

ただし、$a_n$ $(n>0)$ は注目する1粒子状態を占める粒子数 $n$ だけでなく、 多粒子系を構成する他の1粒子状態を占める粒子数 $n_j$ にも依存してもいいことに注意せよ。

計数のための準備

(18) と (17) で出てきた演算子 $\hat c^\dagger\hat c,\hat c\hat c^\dagger$ はどちらもエルミートであり すべての $\ket n$ はこれらの同時固有関数となっている。したがってこれらの演算子は交換する。 $$ [\hat c^\dagger\hat c,\hat c\hat c^\dagger]=0\tag{19} $$ そのため、これらの線形結合や積で表される演算子はすべてエルミートであり $\ket n$ はそのような演算子の固有関数になる。

以下では中でも最も単純な2つの線形結合 $$ \begin{aligned} &\hat M\equiv\tfrac12(\hat c^\dagger\hat c+\hat c\hat c^\dagger)=\tfrac12\{\hat c^\dagger,\hat c\}\\ &\hat N\equiv\tfrac12(\hat c^\dagger\hat c-\hat c\hat c^\dagger)=\tfrac12[\hat c^\dagger,\hat c]\\ \end{aligned}\tag{20} $$ を導入し粒子の計数に用いる。これらの固有値を $$ \begin{aligned} \hat M\ket n&\equiv M_n\ket n=\tfrac12(|a_n|^2+|a_{n+1}|^2)\ket n\\ \hat N\ket n&\equiv N_n\ket n=\tfrac12(|a_n|^2-|a_{n+1}|^2)\ket n \end{aligned}\tag{21} $$ と置こう。明らかに $M_n\ge 0$ であり $$ M_0=\tfrac12|a_1|^2=-N_0\tag{22} $$ $M_0=-N_0=a_1=0$ は $\hat c^\dagger\ket 0=0$ を表すから $1$ 個以上の粒子を入れられる系では $M_0>0,\ N_0<0$ でなければならない。

また、 $$ \begin{aligned} N_n+M_n&=|a_n|^2\\ N_n-M_n&=-|a_{n+1}|^2\\ \end{aligned}\tag{23} $$ である。 $n\to n\pm1$ に対する変化量を前に $\Delta_\pm$ を付けて表すことにすると (23) の1つ目の式から $$ \Delta_\pm N_n\pm\Delta_\pm M_n=|a_{n+1}|^2-|a_n|^2=-2N_{n}\tag{24} $$ を得る。

$\hat M, \hat N$ 以外の組み合わせを元にして何か意味のある内容が出ないのかどうか、ちょっと興味ある

ボゾンの計数

$\hat M$ がゼロ点をずらした数演算子となることを仮定すると、以下に見るように粒子数に最大値が存在しないボゾンの代数が現れる。具体的には $$M_n=n+M_0\tag{25}$$ を仮定することになる。$M_0$ は $\hat M$ のゼロ点である。 このとき $\Delta_\pm M_n=\pm1$ であるから (24) より $$ \Delta_\pm N_n=N_{n\pm1}-N_n=-2N_{n}-1\tag{26} $$ のように右辺は $\Delta n$ の符号に依らない形になる。これを満たすには $$ N_{n+1}+N_n=-1\tag{27} $$ が必要十分であり、$n$ を1つずらして引き算すると $N_{n+2}-N_n=0$ が得られる。そこで、 $$ \begin{aligned} &N_{2m\phantom{+1}}=\phantom{+}N_0\\ &N_{2m+1}=-N_0-1 \end{aligned}\tag{28} $$ と置けば条件を満たす。(22) より $N_0=-M_0$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\hat M\ket n=(n+M_0)\ket n\\ &{}-\hat N\ket n=\tfrac12[\hat c,\hat c^\dagger]\ket n=\begin{cases} M_0\ket n&(n=2m)\\ (-M_0+1)\ket n&(n=2m+1)\\ \end{cases} \end{aligned}\tag{29} $$ と取れば $$ \begin{aligned} M_n+N_n=|a_n|^2&=\begin{cases} n&n=2m\\ n+2M_0-1&n=2m+1\\ \end{cases}\\ M_n-N_n=|a_{n+1}|^2&=\begin{cases} n+2M_0&n=2m\\ n+1&n=2m+1\\ \end{cases}\\ \to\ |a_{n}|^2&=\begin{cases} n+2M_0-1&n=2m+1\\ n&n=2m\\ \end{cases}\\ \end{aligned}\tag{30} $$ に見るようにつじつまが合った解が得られている。(22) より $M_0=0$ では $\ket 0$ 以外の解が生じない。そこで $M_0> 0$ とすれば任意の $n\ge0$ に対して $|a_{n+1}|^2>0$ であるから $\hat c^\dagger\ket n\ne 0$ より $n$ の値に上限はない。

$M_0$ の値は $M_0>0$ とする限りゼロ点の取り方を変えるのみである。そこで $M_0=\tfrac12$ と取れば、 $$ \hat M\ket n=(n+\tfrac12)\ket n\tag{31} $$ $$ {}-2\hat N\ket n=[\hat c,\hat c^\dagger]\ket n=1\ket n\tag{32} $$ という「自然な解」が得られる。このとき、 $$ \hat n=\hat M-\tfrac12=\hat M-\tfrac12[\hat c,\hat c^\dagger]=\hat M+\hat N=\hat c^\dagger\hat c\tag{33} $$ が $n$ そのものを返す演算子となる。任意の演算子 $\hat a$ に対して $[\hat a,\hat a]=0$ であることと合わせて、 $$ [\hat c,\hat c^\dagger]=1\tag{32} $$ $$ \hat n=\hat c^\dagger\hat c\tag{33} $$ $$ [\hat c,\hat c]=[\hat c^\dagger,\hat c^\dagger]=0\tag{34} $$ は典型的なボゾンの交換関係と見なされる。

パラフェルミオンの計数

一方 $\hat N$ がゼロ点をずらした数演算子となることを仮定すると、以下に見るように粒子数に最大値が存在するパラフェルミオンの代数が現れる。具体的には $$ N_n=n+N_0\tag{34} $$ を仮定する。$N_0$ が $\hat N$ のゼロ点となる。 このとき $\Delta_\pm N_n=\pm1$ となるから、$\Delta_\pm N_n^2=\pm\Delta_\pm N_n=1$ に注意しつつ (24) の両辺に $\Delta_\pm N_n$ をかければ、 $$ 1+\Delta_\pm M_n=\mp2N_{n}\tag{35} $$ $$ \Delta_\pm M_n=-(\pm2N_{n}+1)=-\Delta_\pm(N_n^2)\tag{36} $$ を得る。この結果から、 $$ \begin{aligned} N_n^2+M_n &=\tfrac14(|a_{n}|^2-|a_{n+1}|^2)^2+\tfrac12(|a_{n}|^2+|a_{n+1}|^2)\\ &=N_n(N_n-1)+|a_{n}|^2\\ &=N_n(N_n+1)+|a_{n+1}|^2\\ &=-N_n(-N_n-1)+|a_{n+1}|^2=C\ge 0 \end{aligned}\tag{37} $$ は $n$ に依らない非負の定数となり、$M_n\ge 0$ より $$ |N_n|\le \sqrt C\tag{38} $$ であるから $N_n$ には最小値のみならず最大値 $N_{\text{max}}$ も存在することが分かる。

$a_0=0$ より (37) の2行目から $C=N_0(N_0-1)$ が導かれる。一方で、$N_n=-N_0$ となる $n$ において (37) の4行目から $C=N_0(N_0-1)+|a_{n+1}|^2$ が導かれ、両者の比較から $a_{n+1}=0$ となる。これは $\hat c^\dagger\ket n=0$ を意味するから、このときの $n$ が最大値 $N_{\text{max}}=N_n=-N_0$ を与える。$N_{\text{max}}=n_{\text{max}}+N_0=-N_0$ は $N_0=-n_{\text{max}}/2$ さらには $N_{\text{max}}=n_{\text{max}}/2$ を意味するから、$N_{\text{max}}$ はゼロまたは正の整数あるいは半整数を取りうる。このとき $N$ は $-N_{\text{max}}$ から $N_{\text{max}}$ までの整数を取ることができ、$C=N_{\text{max}}(N_{\text{max}}+1)$ となる。 $$ \begin{aligned} \hat N\ket n&=(n-N_{\text{max}})\ket n\\ \hat c^\dagger\ket {2N_{\text{max}}}&=0\\ N_n&=-N_{\text{max}},\ -N_{\text{max}}+1,\ \dots,\ N_{\text{max}}\\ (\hat M+\hat N^2)\ket n&=N_{\text{max}}(N_{\text{max}}+1)\ket n \end{aligned}\tag{39} $$ $N_{\text{max}}=\tfrac12$ のとき $n$ の最大値は1である。このとき $N=-\tfrac12,\ \tfrac12$, $C=\tfrac34$, $M=C-N^2=\tfrac12$ これはいわゆるフェルミオンの場合に相当し $\hat N+\hat M=(n-\tfrac12)+\tfrac12=\hat c^\dagger\hat c=\hat n$ が数演算子として働く。またこのとき $2M=\{\hat c,\hat c^\dagger\}=1$ および $\hat c\hat c=\hat c^\dagger\hat c^\dagger=0$ より $\{\hat c,\hat c\}=\{\hat c^\dagger\hat ,c^\dagger\}=0$ の交換関係が成り立つ。 $$ \{\hat c,\hat c^\dagger\}=1\tag{40} $$ $$ \hat n=\hat c^\dagger\hat c\tag{41} $$ $$ \{\hat c,\hat c\}=\{\hat c^\dagger,\hat c^\dagger\}=0\tag{42} $$

一般の $N_{\text{max}}$ に対しては、全角運動量 $\hbar^2 j(j+1)$ のときに一軸周りの角運動量 $\hbar m$ が $m=-j,-j+1,\dots,j$ の値を取れることと対応している。

フェルミ粒子

(32)~(34) に示した関係式を満たす系はフェルミ粒子の系と呼ばれる。特に (40) の反交換関係

$$ \{\hat c,\hat c^\dagger\}=\hat c\hat c^\dagger+\hat c^\dagger\hat c=1\tag{40} $$

がどうして成り立つかを念のため確認しておくと、

$$ (\hat c\hat c^\dagger+\hat c^\dagger\hat c)\,|0\rangle =\hat ca_1^*\,|1\rangle+\hat c^\dagger\underbrace{\hat c\,|0\rangle}_{=\,0} =|a_1|^2|0\rangle=|0\rangle\tag{43} $$

$$ (\hat c\hat c^\dagger+\hat c^\dagger\hat c)\,|1\rangle =\hat c\underbrace{\hat c^\dagger\,|1\rangle}_{=\,0}+\hat c^\dagger a_1\,|0\rangle =|a_1|^2|1\rangle=|1\rangle\tag{44} $$

となって、確かにどちらの場合にも状態を不変に保つことを確かめられる。

波動関数の符号とフェルミ粒子の反交換関係

1粒子状態 $\psi_a,\psi_b$ を1つずつの粒子が占めるフェルミ粒子の波動関数は $$ \Psi_{\psi_a,\psi_b}(\bm r_1,\bm r_2)=\frac{1}{\sqrt2}\det\begin{pmatrix} \psi_a(\bm r_1)&\psi_b(\bm r_1)\\ \psi_a(\bm r_2)&\psi_b(\bm r_2)\\ \end{pmatrix}\tag{45} $$ と書け、粒子を入れ替えた波動関数 $$ \Psi_{\psi_b,\psi_a}(\bm r_1,\bm r_2)=\frac{1}{\sqrt2}\det\begin{pmatrix} \psi_b(\bm r_1)&\psi_a(\bm r_1)\\ \psi_b(\bm r_2)&\psi_a(\bm r_2)\\ \end{pmatrix}\tag{46} $$ とは $$ \Psi_{\psi_a,\psi_b}(\bm r_1,\bm r_2)=-\Psi_{\psi_b,\psi_a}(\bm r_1,\bm r_2)\tag{47} $$ のように符号が異なる。

生成演算子の適用順をスレーター行列式中の一粒子波動関数の並び順と同一視することにすると、上記の事実は $$ \hat c_a^\dagger \hat c_b^\dagger\,|0\rangle=-\hat c_b^\dagger \hat c_a^\dagger\,|0\rangle\tag{48} $$ に対応する($|a_1^a|=|a_1^b|=1$ なので位相だけ考えればいい)。ただしここでは $|0\rangle$ は粒子が1つもない「真空」を表す多粒子状態(ここでは無粒子状態)である。

そして生成演算子にこの性質を要求すると、$a$ と $b$ とが同一であるとき

$$ \hat c_a^\dagger \hat c_a^\dagger\,|0\rangle=-\hat c_a^\dagger \hat c_a^\dagger\,|0\rangle\tag{49} $$

$$ 2\hat c_a^\dagger \hat c_a^\dagger\,|0\rangle=0\tag{50} $$

となって、2つ以上の粒子が同一の一粒子状態を占めることはない、というフェルミ粒子の性質が自然に表れる。

実は $|0\rangle$ に限らず、任意の数状態に適用した場合にも、

$$ \hat c_a^\dagger \hat c_b^\dagger\,|n_1,n_2,\dots\rangle =-\hat c_b^\dagger \hat c_a^\dagger\,|n_1,n_2,\dots\rangle\tag{51} $$

が成り立つ。というのも、元の状態に対して $n_a=n_b=0$ なら上記と同様に本来の意味での符号反転を示すのに対して、$n_a=1$ または $n_b=1$ では両辺ともゼロになるためやはり成り立つのである。結果的に、任意の多粒子状態に対して、

$$ \hat c_a^\dagger \hat c_b^\dagger=-\hat c_b^\dagger \hat c_a^\dagger\tag{52} $$

すなわち、

$$ \{\hat c_a^\dagger, \hat c_b^\dagger\}=0\tag{53} $$

が成り立つことになる。

一方、上式の両辺に消滅演算子 $\hat c_a$ を適用した場合に結果が等しくなるためには、左辺は

$$ \hat c_a(\hat c_a^\dagger \hat c_b^\dagger\,|0\rangle)= (\hat c_a\hat c_a^\dagger) \hat c_b^\dagger\,|0\rangle= \hat c_b^\dagger\,|0\rangle\tag{54} $$

で良いとして、右辺については $$ \hat c_a(-\hat c_b^\dagger \hat c_a^\dagger)\,|0\rangle= \hat c_a\hat c_a^\dagger \hat c_b^\dagger\,|0\rangle= (\hat c_a\hat c_a^\dagger) \hat c_b^\dagger\,|0\rangle= \hat c_b^\dagger\,|0\rangle\tag{55} $$ のように計算すべきであることがわかる。すなわち、消滅演算子と生成演算子とは対にして消すことができるが、これを使って粒子を消すためにはまず上記のように反交換関係を用いて演算子を入れ替え、生成演算子と消滅演算子とを隣り合う位置に持ってこなければならない。

すると $a\ne b$ のとき、

$$ \hat c_a\hat c_b\hat (c_a^\dagger \hat c_b^\dagger\,|0\rangle) =-\hat c_a\hat c_b\hat c_b^\dagger\hat c_a^\dagger\,|0\rangle =-\hat c_a\hat c_a^\dagger\,|0\rangle =-\,|0\rangle\tag{56} $$

$$ \hat c_b\hat c_a(\hat c_a^\dagger \hat c_b^\dagger\,|0\rangle) =\hat c_b\hat c_b^\dagger\,|0\rangle =|0\rangle\tag{57} $$

である。そこで、

$$ \hat c_a\hat c_b=-\hat c_b\hat c_a\tag{58} $$

を考えると、上と同様に、$n_a=0$ や $n_b=0$ のときや $a=b$ では両辺ともにゼロになるためこの式は一般の場合に成り立ち、すなわち、

$$ \{\hat c_a, \hat c_b\}=0\tag{59} $$

が成り立つ。さらに $a\ne b$ に対して、

$$ \hat c_b\hat c_a^\dagger (\hat c_b^\dagger\,|0\rangle) =-\hat c_b\hat c_b^\dagger\hat c_a^\dagger\,|0\rangle =-\hat c_a^\dagger\,|0\rangle\tag{60} $$

$$ \hat c_a^\dagger\hat c_b (\hat c_b^\dagger\,|0\rangle) =\hat c_a^\dagger\,|0\rangle\tag{61} $$

より、

$$ \hat c_a^\dagger\hat c_b=-\hat c_b\hat c_a^\dagger\tag{62} $$

を考えると、上と同様に、$n_a=0$ や $n_b=0$ のとき両辺ともにゼロになる。すなわち、$a\ne b$ では一般に

$$ \{\hat c_a^\dagger, \hat c_b\}=0\tag{63} $$

が成り立つ。$a=b$ の時に上で見たとおり

$$ \{\hat c_a^\dagger, \hat c_b\}=1\tag{64} $$

が成り立つとすれば、両者をまとめて

$$ \{\hat c_a^\dagger, \hat c_b\}=\delta_{ab}\tag{65} $$

となる。

ここで得られた

$$ \{\hat c_a^\dagger, \hat c_b\}=\delta_{ab}\tag{66} $$ $$ \{\hat c_a, \hat c_b\}=0\tag{67} $$ $$ \{\hat c_a^\dagger, \hat c_b^\dagger\}=0\tag{68} $$

が多粒子フェルミオンの生成・消滅演算子の反交換関係となる。

数状態の符号

数状態 $|n_1,n_2,\dots\rangle$ が表す多粒子波動関数を、符号を含めて $$ |n_1,n_2,\dots\rangle=(\hat c_1^\dagger)^{n_1}(\hat c_2^\dagger)^{n_2}\dots|0\rangle\tag{69} $$ として定義するものとしよう。これは真空状態 $|0\rangle$ に必要な生成演算子($n_i=1$ のもののみ)を降順に適用したものである。任意の $i$ に対して $\hat c_i\hat c_i^\dagger=|a_i|^2=1$ であるからこれは規格化された波動関数になる。 確かめてみよう。$(\hat A\hat B)^\dagger=\hat B^\dagger\hat A^\dagger$ に注意すると、 $$ \begin{aligned} \langle n_1,n_2,\dots|&=|n_1,n_2,\dots\rangle^\dagger\\ &=\big[(\hat c_1^\dagger)^{n_1}(\hat c_2^\dagger)^{n_2}\dots|0\rangle\big]^\dagger\\ &=\langle 0|\,\dots(\hat c_2)^{n_2}(\hat c_1)^{n_1}\\ \end{aligned}\tag{70} $$ これと、$c_i^0(c_i^\dagger)^0=c_i^1(c_i^\dagger)^1=1$ を使い、 $$ \begin{aligned} \|\,|n_1,n_2,\dots\rangle\,\|^2 &=\langle n_1,n_2,\dots|n_1,n_2,\dots\rangle\\ &=\langle 0|\,\dots(\hat c_2)^{n_2}\underbrace{(\hat c_1)^{n_1}(\hat c_1^\dagger)^{n_1}}_1(\hat c_2^\dagger)^{n_2}\dots|0\rangle\\ &=\langle 0|\,\dots\underbrace{(\hat c_2)^{n_2}(\hat c_2^\dagger)^{n_2}}_1\dots|0\rangle\\ &\vdots\\ &=\langle 0|0\rangle=\|\ |0\rangle\ \|^2=1 \end{aligned}\tag{71} $$ 例えば $$ |1,1,1,0,\dots\rangle =\hat c_1^\dagger\hat c_2^\dagger\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle\tag{72} $$ である。この定義では $$ \hat c_1\,|1,1,1,\dots\rangle =\cancel{\hat c_1\hat c_1^\dagger}\hat c_2^\dagger\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle =|0,1,1,\dots\rangle\tag{73} $$ $$ \hat c_2\,|0,1,1,\dots\rangle =\cancel{\hat c_2\hat c_2^\dagger}\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle =|0,0,1,\dots\rangle\tag{74} $$ である一方、 $$ \begin{aligned} \hat c_2\,|1,1,1,\dots\rangle &=\phantom{-}\hat c_2\underbrace{\hat c_1^\dagger\hat c_2^\dagger}_\text{swap}\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle\\ &=-\cancel{\hat c_2\hat c_2^\dagger}\hat c_1^\dagger\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle\\ &=-\phantom{\hat c_2\hat c_2^\dagger}\hat c_1^\dagger\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle = -|1,0,1,\dots\rangle \end{aligned}\tag{75} $$ などとなって、上記の $a_1$ の符号は注目する1粒子状態以外にどの1粒子状態に電子が入っているかによって異なることになって大変ややこしい。

そこで $a_1$ の符号に注目する代わりに、 $$ \hat c_1^\dagger\hat c_2^\dagger\hat c_3^\dagger\,|0,0,0,0,\dots\rangle\tag{76} $$ のような生成・消滅演算子のみを用いた表記と、上記の交換関係とを用いることで符号の変化を自然に扱おうというのがここでの目的である。

ボーズ粒子

ボーズ粒子の波動関数と交換関係

ボーズ粒子の多粒子波動関数をスレーター行列のパーマネントで作った場合、 粒子の入れ替えに対して波動関数の符号は変化しない。 これは生成演算子の順番が異なっても上記の $|a_n|$ の位相は変化しないことを表す。

ただしフェルミ粒子と同様に $$ |n_1,n_2,\dots\rangle{\overset?=} (c_1^\dagger)^{n_1}(c_2^\dagger)^{n_2}\dots|0\rangle\tag{77} $$ としてしまうと、上で見た通り $|a_n|=\sqrt n$ であるため右辺は規格化されていない。 例えば、 $$ \begin{aligned} \|\ |2\rangle\ \|^2 &=\|\ c^\dagger c^\dagger|0\rangle\ \|^2\\ &=\langle 0|\hat c\,\underbrace{\hat c\,\hat c^\dagger}_2 \hat c^\dagger|0\rangle\\ &=2\langle 0|\,\underbrace{\hat c\,\hat c^\dagger}_1 |0\rangle\\ &=2!\ \ \ \ \ \ \to\ \ \ \ \ \ \|\ |2\rangle\ \|=\sqrt{2!} \end{aligned}\tag{78} $$ 規格化するには $$ |n_1,n_2,\dots\rangle= \left\{\prod_i\frac1{\sqrt{n_i!}} (\hat c_i^\dagger)^{n_i}\right\}|0\rangle\tag{79} $$ などとする必要がある。

粒子の入れ替えで波動関数が変化しないため、 $$ \begin{aligned} \hat c_a^\dagger\hat c_b^\dagger\,|n_1,n_2,\dots\rangle &=\hat c_b^\dagger\hat c_a^\dagger\,|n_1,n_2,\dots\rangle \end{aligned}\tag{80} $$ すなわち、 $$ [\hat c_a^\dagger,\hat c_b^\dagger]=\hat c_a^\dagger\hat c_b^\dagger-\hat c_b^\dagger\hat c_a^\dagger=0\tag{81} $$ である(上述のとおり両辺は規格化されていないことの注意せよ)。同様に、 $$ [\hat c_a,\hat c_b]=\hat c_a\hat c_b-\hat c_b\hat c_a=0\tag{82} $$ も確かめられる($n_a=0$ や $n_b=0$ でも成り立つ)。また、$a\ne b$ のとき、 $$ \begin{aligned} \hat c_a\hat c_b^\dagger\,|n_1,n_2,\dots\rangle &=\sqrt{n_a+1}\,\sqrt{n_b}\ |n_1,n_2,\dots,n_a-1,\dots,n_b+1,\dots\rangle\\ &=\hat c_b^\dagger\hat c_a\,|n_1,n_2,\dots\rangle \end{aligned}\tag{83} $$ となり、 $$ [\hat c_a,\hat c_b^\dagger]=\hat c_a\hat c_b^\dagger-\hat c_b^\dagger\hat c_a=0\tag{84} $$ であるのに対して、$a=b$ のときには上で見た通り

$$ [\hat c_a,\hat c_a^\dagger]=\hat c_a\hat c_a^\dagger-\hat c_a^\dagger\hat c_a=1\tag{85} $$

であるので、これらをまとめると $a=b, a\ne b$ どちらに対しても以下の交換関係が認められる。

$$ [\hat c_a,\hat c_a^\dagger]=\delta_{ab}\tag{86} $$ $$ [\hat c_a^\dagger,\hat c_b^\dagger]=0\tag{87} $$ $$ [\hat c_a,\hat c_b]=0\tag{88} $$

ボゾンとフェルミオンのまとめ

消滅演算子 $\hat c_i$ と生成演算子 $\hat c_i^\dagger$ とを

$$ \hat c_i\hat c_i^\dagger\pm\hat c_i^\dagger\hat c_i=1\tag{89} $$

および、

$$ \hat c_i\,|\dots,\underbrace{0}_{=\,n_i},\dots\rangle=0\tag{90} $$

を満たすよう定義することにより、 スレーター行列を用いて多粒子波動関数を作る際の1粒子波動関数の並び順と、 真空に生成演算子を適用した順とを同一視した取り扱いを便利に行える。

このとき、

$$ \hat c_i\,|\dots,n_i,\dots\rangle \propto\begin{cases} 0&(n_i=0)\\ |\dots,n_i-1,\dots\rangle&(n_i>0)\\ \end{cases}\tag{91} $$

$$ \hat c_i^\dagger\,|\dots,n_i,\dots\rangle \propto\begin{cases} 0&(\text{フェルミ粒子で}\,n_i=1)\\ |\dots,n_i+1,\dots\rangle&(\text{その他})\\ \end{cases}\tag{92} $$

$$ \hat n_i=\hat c_i^\dagger\hat c_i\tag{93} $$

$$ [\hat n_i,\hat c_i]=-\hat c_i\tag{94} $$

$$ [\hat n_i,\hat c_i^\dagger]=\hat c_i^\dagger\tag{95} $$

また、フェルミ粒子に対して、

$$ \{\hat c_a,\hat c_a^\dagger\}=\delta_{ab}\tag{96} $$ $$ \{\hat c_a^\dagger,\hat c_b^\dagger\}=0\tag{97} $$ $$ \{\hat c_a,\hat c_b\}=0\tag{98} $$

ボゾンに対して

$$ [\hat c_a,\hat c_a^\dagger]=\delta_{ab}\tag{99} $$ $$ [\hat c_a^\dagger,\hat c_b^\dagger]=0\tag{100} $$ $$ [\hat c_a,\hat c_b]=0\tag{101} $$

が成り立つ。

パラフェルミオンと角運動量演算子

パラフェルミオンに対する (39) の関係は角運動量演算子の計数と対応している。 $$ \begin{aligned} \hat N\ket n&=(n-N_{\text{max}})\ket n\\ \hat c^\dagger\ket {2N_{\text{max}}}&=0\\ N_n&=-N_{\text{max}},\ -N_{\text{max}}+1,\ \dots,\ N_{\text{max}}\\ (\hat M+\hat N^2)\ket n&=N_{\text{max}}(N_{\text{max}}+1)\ket n \end{aligned}\tag{39} $$ $\hat N$ が1軸周りの角運動量、$\hat M$ が残りの2軸周りの角運動量の二乗、$\hat M+\hat N^2$ が全角運動量の二乗に対応するのである。 以下これを確かめよう。 $$ J_3\equiv \hbar \hat N,\ J_+\equiv\hbar \hat c^\dagger,\ J_-\equiv\hbar \hat c\tag{102} $$ を導入すれば、 $$ [J_3,J_\pm]=\pm\hbar J_\pm,\ [J_+,J_-]=2\hbar J_3\tag{103} $$ であり、 $$ J_\pm=J_1\pm iJ_2\tag{104} $$ すなわち、 $$ \begin{aligned} J_1=\frac12(J_++J_-)\\ J_2=\frac{1}{2i}(J_+-J_-)\\ \end{aligned}\tag{105} $$ を導入すれば、 $$ \begin{aligned} &[J_1,J_2]=\frac1{4i}(-2J_+J_-+2J_-J_+)=\frac i2[J_+,J_-]=i\hbar J_3\\ &[J_2,J_3]=\frac1{2i}(-\hbar J_+-\hbar J_-)=i\hbar J_1\\ &[J_1,J_3]=\frac12(-\hbar J_++\hbar J_-)=-i\hbar J_2\\ \end{aligned}\tag{106} $$

したがって、 $$ [J_i,J_j]=\epsilon_{ijk}i\hbar J_k\ \ \ \ \Big(=\sum_{k=1,2,3}\epsilon_{ijk}i\hbar J_k\Big)\tag{107} $$ ただし、 $$ \epsilon_{ijk}=\begin{cases} \text{sgn}(i,j,k)&\text{$(i,j,k)$は順列}\\ 0&\text{それ以外}\\ \end{cases}\tag{108} $$また、 $$ \begin{aligned} J^2&\equiv J_1^2+J_2^2+J_3^2\\ &=\frac14(J_+^2+J_+J_-+J_-J_++J_-^2)-\frac14(J_+^2-J_+J_--J_-J_++J_-^2)+J_3^2\\ &=\frac12(J_+J_-+J_-J_+)+J_3^2=\hbar^2\Big(\frac{\{\hat c^\dagger,\hat c\}}2+\frac{[\hat c^\dagger,\hat c]^2}{2^2}\Big)=\hbar^2(\hat M+\hat N^2)\\ &=J_+J_--\hbar J_3+J_3^2\\ &=J_-J_++\hbar J_3+J_3^2\\ \end{aligned}\tag{109} $$ を導入すれば、 $$ \begin{aligned} {}[J_i,J^2] &=\cancel{[J_i,J_i^2]}+[J_i,J_j^2]+[J_i,J_k^2]\\ &=[J_i,J_j]J_j+J_j[J_i,J_j]+[J_i,J_k]J_k+J_k[J_i,J_k]\\ &=J_kJ_j+J_jJ_k-J_jJ_k-J_kJ_j=0\\ \end{aligned}\tag{110} $$ のように $J^2$ は $J_i$ と交換する。すなわち $J^2$ と $J_3$ の同時固有関数による完全系 $\{\ket{j,m}\}$ を考えることができる。その固有値をそれぞれ $$ J^2\ket{j,m}=\hbar^2j(j+1)\ket{j,m},\ J_3\ket{j,m}=\hbar m\ket{j,m}\tag{111} $$ と置くと、 $$ J_3J_\pm\ket{j,m}=(J_\pm J_3\pm\hbar J_\pm)\ket{j,m}=J_\pm(\hbar m\pm\hbar)\ket{j,m}=\hbar (m\pm1)J_\pm\ket{j,m}\tag{112} $$ より、 $$ J_\pm\ket{j,m}\propto \ket{j,m\pm 1}\tag{113} $$ であるから、特定の $m$ に対して $J_\pm\ket {j,m}=0$ とならない限り固有値は正負に無限に存在してしまう。正はまだしも負方向にも無限に存在するのは個数演算子としてはおかしいことは上で指摘した通り。ここで、 $$ \begin{aligned} J^2 \ket {j,m}&=\hbar^2j(j+1) \ket {j,m}=\\ (J_+J_--\hbar J_3+J_3^2)\ket {j,m}&=J_+J_-\ket {j,m}+\hbar^2m(m-1)\ket {j,m}\\ (J_-J_++\hbar J_3+J_3^2)\ket {j,m}&=J_-J_+\ket {j,m}+\hbar^2m(m+1)\ket {j,m}\\ \end{aligned}\tag{114} $$ であることから $J_+J_-\ket {j,-j}=J_-J_+\ket {j,j}=0$ を得、これは $J_-\ket {j,-j}=J_+\ket {j,j}=0$ すなわち、$m$ が最小値 $-j$ 最大値 $j$ の範囲で $1$ 刻みの固有値を取るとすれば負の無限大の固有値が現れる問題を回避できることになる。 このとき $j=|N_{\text{min}}|$ はゼロ以上の整数あるいは半整数を取れる。


*1 TODO:直交している必要性について後程もっとよく考えてみなければ
*2 同様に、$\langle n|\,\hat c^\dagger \hat c\,|n\rangle=b_{n-1}a_n=|a_n|^2$ より $b_{n-1}=a_n^*$ を得るが、これは上で得たのと同じ結果を与えるのみである

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