線形代数I
培風館「教養の線形代数(五訂版)」に沿って行っている授業の授業ノート(の一部)です。
2次の行列式(デターミナント)†
2次の正方行列 
 の行列式(デターミナントを日本語では行列式と呼ぶ)は、
であることを高校で学んだ。
ここで、
と書く代わりに
と書くことに注意せよ。
一般に 
 次の正方行列に行列式が定義される。
例:3次の場合
 次の行列式は
- 
 個の要素を掛け合わせ、符号を付けて足し合わせたもの
- 掛け合わされる 
 個の要素は各列から1つずつ、各行から1つずつ取られる
 つまり、1つの項の中に現れる 
個の因子に同じ行、同じ列の要素がダブって含まれることは無い。
- 付ける符号の決め方は後で学ぶ。
2. のルールを満たす積の作り方は 
 通りある。
例:
 の時
各行に対してどの列を取るかを表にすると、
| 積 | 1行目 | 2行目 | 3行目 | 符号 | 
|  | 1 | 2 | 3 | + | 
|  | 2 | 3 | 1 | + | 
|  | 3 | 1 | 2 | + | 
|  | 3 | 2 | 1 | - | 
|  | 2 | 1 | 3 | - | 
|  | 1 | 3 | 2 | - | 
列の取り方が 
 通りになることが分かる。
3.1 順列†
各項の符号を定義するため「順列」について学ぶ。
 次の順列とは、
 の数字を任意の順に並べ替えて丸括弧でくくった物。
- 1次:(1)
- 2次:(1 2), (2 1)
- 3次:(1 2 3), (2 3 1), (3 1 2), (3 2 1), (2 1 3), (1 3 2)
(1つの順列の中に同じ数字は複数回現れないことに注意せよ)
n 次の順列は n! 個存在する†
 個存在する。
, 
, 
, 
, 
, 
, 
, ・・・
文字で書くときは†
 などと書く。
 には 
 の自然数が1回ずつ現れる。
転倒数†
 と 
 が、
 にもかかわらず 
 となるとき、
 は「転倒している」と言う。
(
 の順を基準として、入れ替わっていると言う意味)
- (1 2 3) 転倒はない → 転倒数 0
- (1 3 2) 3 と 2 が転倒 → 転倒数 1
- (2 3 1)  2 と 1, 3 と 1 が転倒 → 転倒数 2
- (3 2 1) 3 と 2, 3 と 1, 2 と 1 が転倒 → 転倒数 3
間違いなく数えるには、それぞれの数字に対して、
自身よりも右にあって、自身よりも小さな数字の出現回数を数えて、
最後に全て加えればいい。
順列の符号†
 と書く。
順列の符号は 
 の値を取り、
- 
 : 転倒数が偶数の場合
- 
 : 転倒数が奇数の場合
両方まとめると、転倒数が 
 の時に
隣り合う要素の入れ替えで符号は反転する†
∵ 
 以外の要素の組については転倒数が変化しない。
したがって、
(1) 
 の時、入れ替えにより転倒数は1増える
(2) 
 の時、入れ替えにより転倒数は1減る
どちらの場合も、符号は反転する。
任意の要素の入れ替えで符号は反転する†
∵
とすれば、
番目と
番目、
番目と
番目、…、
番目と
番目をこの順に入れ替えると、入れ替え階数は
回であるから
(左辺)
となる。(
 と 
 とを入れ替えた)
さらに、
番目と
番目、
番目と
番目、…、
番目と
番目をこの順に入れ替えると、入れ替え階数は
回であるから
(右辺)
となる。(
 と 
 とを入れ替えた)
n次正方行列の行列式†
 とすると、行列式は次のように定義される。
- 
 は、
 次の順列全てについて、それぞれ 
 の値を計算し、
できた 
 個の項を足し合わせた値を意味する。
例1: 
 の時:
2次の順列を転倒数で分類すれば、
したがって、
例2: 
 の時:
3次の順列を転倒数で分類すれば、
したがって、
3.2 行列式の性質†
すぐ分かる内容†
- 
 なら 
 
- 
 は正にも負にもなる (絶対値とは異なる)
- 
 が整数のみからなる行列なら 
 も整数となる
行に対する多重線形性†
「線形」とは、
を満たすような関数 
 を表す性質。
- 
 なら線形
- 
 だと線形ではない
行列式の多重線形性は、
 を行列 
 の行ベクトル分解として次の2つが成り立つこと。
これは、行列式を「行ベクトルを与えると数値を返す関数」と見たときに、
すべての引数 
 に対して線形性を持つと言うことであり、この意味で「多重」と言われる。
&math(
&(第1式左辺)\\
&=\sum_{(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)}\varepsilon(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)a_{1p_1}\dots (ca_{kp_k})\dots a_{np_n}\\
&=c\sum_{(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)}\varepsilon(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)a_{1p_1}\dots a_{kp_k}\dots a_{np_n}\\
&=(第1式右辺)
);
 中で、
 行目の要素が現れるのは 
 の部分しかないことに注意せよ。
同様に、
&math(
(第2式左辺)\\
&=\sum_{(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)}\varepsilon(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)a_{1p_1}\dots (a_{kp_k}+a'_{kp_k})\dots a_{np_n}\\
&=\sum_{(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)}\varepsilon(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)a_{1p_1}\dots a_{kp_k}\dots a_{np_n}\\
&\ +\sum_{(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)}\varepsilon(p_1\ p_2\ \dots\ p_n)a_{1p_1}\dots a'_{kp_k}\dots a_{np_n}\\
&=(第2式右辺)
);
行に対する交代性†
行を入れ替えると符号が反転する
&math(
\begin{vmatrix}\hspace{10mm}\vdots\hspace{10mm}\\[-6pt]\bm a_i\\[-4pt]\vdots\\[-6pt]\bm a_j\\[-4pt]\vdots\end{vmatrix}=-\begin{vmatrix}\hspace{10mm}\vdots\hspace{10mm}\\[-6pt]\bm a_j\\[-4pt]\vdots\\[-6pt]\bm a_i\\[-4pt]\vdots\end{vmatrix}
);
&math(
(左辺)\\
&=\phantom{-}\sum_{(\dots p_i\dots p_j\ \dots)}\varepsilon(\dots p_i\dots p_j\ \dots)\dots a_{ip_i}\dots a_{jp_j}\dots\\
&=\phantom{-}\sum_{(\dots p_i\dots p_j\ \dots)}\varepsilon(\dots p_i\dots p_j\ \dots)\dots a_{ip_j}\dots a_{jp_i}\dots\\
&=-\sum_{(\dots p_i\dots p_j\ \dots)}\varepsilon(\dots p_j\dots p_i\ \dots)\dots a_{ip_j}\dots a_{jp_i}\dots\\
&=-\sum_{(\dots p_j\dots p_i\ \dots)}\varepsilon(\dots p_j\dots p_i\ \dots)\dots a_{ip_j}\dots a_{jp_i}\dots\\
&=(右辺)
);
- 1行目→2行目:実数の積の交換法則
- 2行目→3行目:順列要素の入れ替え
- 3行目→4行目:Σの添え字が変更になることで和を取る順番が変化するが、
次の順列すべてについて和を取れば、全体として現れる項は等しくなる。
次数の低下(行方向)†
1列目が 
 を残してすべてゼロであるとき、
行列式を次数の1つ小さな行列式で表せる。
(左辺)
ここで、元の行列の形から 
 は 
 の時にゼロとなる。
一方、
 の項では 
 のうちどれかが必ず 1 になる。
 とすると、積 
 の中に 
 ただし 
 が現れるから、そのような項はすべて消えてしまう。
結果として、
 の項のみが残されて、
ここで、
 次の順列 
 と
 次の順列 
 とは同じ転倒数を持ち、符号も等しい。
さらに、前者が可能な値すべてを動くとき、後者は 
 次の順列全てを動く。
したがって、
 と書けば、
=(右辺)
- 上三角行列の行列式は対角成分の積に等しい
 
 
- 単位行列の行列式は1
 
 
正則行列と行列式†
∵ 
∵ 
 を階段行列とすると、
 はゼロ行ベクトルを含むため、
一方、(1) より 
 であるから 
- 正則性の判定 : 以下はすべて同値な条件となる (定理3.9)
- 
 が正則であること
- 逆行列の行列式 
 ∵ 
 より
行列の転置と行列式†
基本行列の転置をとっても行列式は変化しない†
 および 
 は対称行列であるから自明。
 については、
転置をとっても行列式は変化しない†
 が正則でなければ 
 も正則でないので、
 が正則ならば、基本行列の積で書けて
列に対する性質†
転置に対する定理のおかげで、行に対する性質はすべて列に対しても成立する。
- { 行 or 列 } に対する多重線形性
- { 行 or 列 } に対する交代性
- { 行 or 列 } に対する基本変形
- ある { 行 or 列 } を c 倍すると行列式も c 倍
- ある { 行 or 列 } に別の { 行 or 列 } の c 倍を加えると行列式は変化しない
- ある { 行 or 列 } と別の { 行 or 列 } とを入れ替えると行列式は反転
 
- 次数の低下({ 行 or 列 }方向)
- { 行 or 列 } に対するその他の性質
- 同じ値を持つ { 行 or 列 } が複数存在すると行列式はゼロ
- ゼロの { 行 or 列 } を含む行列式はゼロ
 
次数の低下の一般公式†
ある行、あるいはある列が、1つの要素を除いてゼロの時、要素の添え字に依存する符号を付けて次数を低下できる。
行方向に 
 回、列方向に 
 回、行を入れ替えることで、それぞれ
の形にでき、(1,1) 要素を前に出せば上記公式を得る。
一般の行列式の求め方†
- 行および列に対する基本変形で、ある行または列を掃き出す
- 次数を低下する
を繰り返すことで、大きな行列でも行列式の値を計算できる。
3.4 行列式の展開†
余因子†
ある行列 
 を、
 を中心に次のように分割する。
 行目と 
 列目を除いてできる行列式に符号を付けた
を、
 の 
 余因子と呼ぶ。
余因子を使うと、次数の低下を次のように書ける。
 の表式は 
 を含まないことに注意せよ。
i 行目に対する展開†
 (任意の 
 に対して成り立つ)
j 列目に対する展開†
 (任意の 
 に対して成り立つ)
ゼロとなる和†
 あるいは 
 の時、
 (任意の 
 に対して成り立つ)
 (任意の 
 に対して成り立つ)
となる。
なぜならこれらは、
- 
 の 
 行目に 
 行目と同じ行をコピーした
- 
 の 
 列目に 
 行目と同じ行をコピーした
行列の行列式を、それぞれ 
 行目、
 行目で展開した形であるため。
 の 
 余因子と、
 の 
 余因子とは等しいことが重要である。
(そもそも 
 には 
 行目の成分も 
 行目の成分もまったく含まれない)
例:
&math(
A=\begin{bmatrix}
a&b&c\\
d&e&f\\
g&h&i
\end{bmatrix}
); のとき、
&math(
\begin{vmatrix}
a&b&c\\
d&e&f\\
d&e&f
\end{vmatrix}
&=
\begin{vmatrix}
a&b&c\\
d&e&f\\
d&0&0
\end{vmatrix}+
\begin{vmatrix}
a&b&c\\
d&e&f\\
0&e&0
\end{vmatrix}+
\begin{vmatrix}
a&b&c\\
d&e&f\\
0&0&f
\end{vmatrix}\\
&=d(-1)^{3+1}\begin{vmatrix}b&c\\e&f\end{vmatrix}
- e(-1)^{3+2}\begin{vmatrix}a&c\\d&f\end{vmatrix}
- f(-1)^{3+3}\begin{vmatrix}a&b\\d&e\end{vmatrix}\\
&=d\,\tilde a_{31}+e\,\tilde a_{32}+f\,\tilde a_{33}\\
&=a_{21}\tilde a_{31}+a_{22}\tilde a_{32}+a_{23}\tilde a_{33}\\
&=\sum_{j=1}^3a_{2j}\tilde a_{3j}
);
2行目を3行目にコピーした行列式を元の 
 の余因子で書けていることに注意。
余因子行列と逆行列†
余因子行列†
余因子行列の性質†
すなわち、
ここからも、
 であれば 
 が正則であることを確認できる。
クラメル(Cramer)の公式†
連立一次方程式を 
、その解を 
 とすると、
 のとき
・・・
と表せる。
 のように列ベクトルに分割する。
したがって、
両辺を 
 で割れば与式を得る。