エーレンフェストの定理 の履歴(No.15)
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物理量期待値の時間変化†
時間を含むシュレーディンガー方程式は、波動関数の時間発展をそのまま記述したものになっていた。
$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi=\hat H\psi$$
つまり、
$$\psi(\bm r,t+\Delta t)=\underbrace{\psi(\bm r,t)+\frac{1}{i\hbar}\hat H\psi(\bm r,t)\cdot\Delta t}_{\psi(\bm r,t)\text{のみから求まる}}$$
同様の考えで、ある物理量を表わす演算子を として、 この期待値 の時間変化を考える。
$$\begin{aligned} \frac{d}{dt}\langle\hat O\rangle &=\frac{d}{dt}\iiint \psi^*\hat O\psi\,d\bm r\\ &=\iiint \frac{\partial}{\partial t}\Big(\psi^*\hat O\psi\Big)\,d\bm r\\ &=\iiint\bigg[\psi^* \hat O\frac{\partial\psi}{\partial t}+\psi^*\underbrace{\frac{\partial\hat O}{\partial t}}_{=\,0}\psi+\frac{\partial\psi^*}{\partial t}\hat O\psi\bigg]d\bm r\\ \end{aligned}$$
ここで $\frac{\PD\hat O}{\PD t}=0$ として真ん中の項は落とす( が顕わに時間に依存している場合にはこの項も残る)。
シュレーディンガー方程式: により、
$$\begin{aligned} \frac{d}{dt}\langle\hat O\rangle &=\iiint\bigg[\psi^* \hat O\Big(\frac{1}{i\hbar}\hat H\Big)\psi+\Big(\frac{1}{i\hbar}\hat H\psi\Big)^*\hat O\psi\bigg]d\bm r\\ &=\iiint\bigg[\frac{1}{i\hbar}\psi^* \hat O\hat H\psi+\frac{1}{-i\hbar}\Big(\hat H\psi\Big)^*\hat O\psi\bigg]d\bm r\\ &=\frac{1}{i\hbar}\iiint\bigg[\psi^* \hat O\hat H\psi-\Big(\hat H\psi\Big)^*\hat O\psi\bigg]d\bm r\\ &=\frac{1}{i\hbar}\iiint\bigg[\psi^* \hat O\hat H\psi-\psi^*\hat H\hat O\psi\bigg]d\bm r\hspace{1.5cm}\because\ \hat H\ はエルミート\\ &=\frac{1}{i\hbar}\langle \hat O\hat H-\hat H\hat O \rangle \end{aligned}$$
したがって、期待値の時間変化は演算子とハミルトニアンとの交換関係の期待値で表わされる。
&math( \frac{d}{dt}\langle\hat O\rangle &=\frac{1}{i\hbar}\langle \hat O\hat H-\hat H\hat O \rangle );
ここから、演算子とハミルトニアンが交換するならば、その物理量は時間に依存しない保存量となることが分かる。
ここに現れた に代表される、 の形を と との交換子と呼び、 しばしば と書く。 また、交換子で表される の関係を交換関係と呼ぶ。
演算子の期待値を求める計算にはこれからも交換子が頻出する。
演習:エーレンフェストの定理†
初期状態において電子の存在確率があまり広がっておらず、 その広がりに対してポテンシャル の変化が十分に緩やかであれば、 電子の運動は古典論から予想されるものと等しくなるはずである。 このことを確かめてみよう。
まず、電子の位置座標*1求めているのは期待値の変化であるが、ここでは電子はあまり広がっていないと考えているため、期待値はそのまま電子の位置と見なせる。の時間変化を求める*2 は独立なパラメータであるため、 である。。
(1) と置き、
&math(\frac{d}{dt}\langle x\rangle &=\frac{1}{i\hbar}\iiint\frac{1}{2m}\psi^*\Big(x\hat p^2-\hat p^2x\Big)\psi\,d\bm r );
を導け。
(2) 交換関係 を用いて、
を導け。
(3) (2) および を用いて、
を導け。
(4) (1)、(3) を用いて、
&math( \frac{d}{dt}\langle x\rangle &=\frac{\left\langle p_x\right\rangle}{m} );
を導け。
次に運動量の時間変化について考える。
(5) と が交換することを導け。
(6) を導け。
(7) を導け。
$y,z$ に対しても同様の結果が得られるため、 $\bm r,\bm p$ の期待値が古典論の運動方程式
$$\frac{d\bm r}{dt}=\frac{\bm p}{m}$$
$$\frac{d\bm p}{dt}=-\bm\nabla V$$
に対応して、
$$\frac{d\langle\hat{\bm r}\rangle}{dt}=\frac{\langle\hat{\bm p}\rangle}{m}$$
$$\frac{d\langle\hat{\bm p}\rangle}{dt}=-\langle\bm\nabla V\rangle$$
を満たすことが示された。
シュレーディンガー方程式が巨視的極限(波動関数の広がりのスケールに対してポテンシャルの変化が十分にゆっくりである条件)において古典論の運動方程式に一致する、という この定理をエーレンフェストの定理と呼ぶ。 一方、波動関数の広がりが大きく、その中でポテンシャルが大きく変化してしまう場合には量子力学的効果が強く表れることになる。
上で求めた、
$$ \frac{d}{dt}\langle\hat O\rangle =\frac{1}{i\hbar}\langle [\hat O,\hat H] \rangle $$
という式は、演算子自体が時間を含む場合には
$$ \frac{d}{dt}\langle\hat O\rangle =\frac{1}{i\hbar}\langle [\hat O,\hat H]\rangle+\langle\tfrac{\partial \hat O}{\partial t} \rangle $$
となるが、この式は ハミルトン力学における力学変数 $F$ の時間発展 を表す、
$$ \frac{d}{dt} F=\big\{F,H\big\}+\frac{\partial F}{\partial t} $$
のような式に現れるポアソン括弧
$$ \big\{F,H\big\}=\sum_{i=1}^n \Big[\frac{\partial F}{\partial q_i}\frac{\partial H}{\partial p_i}-\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial H}{\partial q_i}\Big] $$
を交換子 $\tfrac{1}{i\hbar}[\cdot,\cdot]$ で置き換えた形になっており、ハイゼンベルクの運動方程式と呼ばれる。
この対応関係は非常に重要なものであるが、解析力学(ハミルトン力学)に関する最低限の知識がないと 何を言っているのかわからないと思うので、もし足りない人は 解析力学 などをテキストとして 解析力学の基本的な部分を見直してほしい。