球座標を用いた変数分離 の履歴(No.20)
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目次†
中心力場の中での運動†
球対称なポテンシャル の中での運動を考える。
このとき、 の直交座標ではなく、 を用いた球座標を用いると都合がよい。
球座標における微分演算子(まとめ)†
球座標:
&math( \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} );
ラプラシアン:
&math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});
角運動量の大きさの2乗:
&math( \hat{\bm l}^2=-\hbar^2\hat\Lambda );
ラプラシアンの の項の係数は、 角運動量の大きさの2乗の演算子 と の係数を除いて等しい。
軸まわりの運動量:
&math( \hat l_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi} );
角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):
演習:シュレーディンガー方程式の変数分離†
球座標表示におけるラプラシアンは以下のように表される。
&math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});
以下の問いに従って、中心力場 の中での粒子の運動について考えよ。
(1) を示せ。
(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、 球座標表示における時間を含まないシュレーディンガー方程式を書き下せ。 解答には を用いて良い。
(3) 波動関数を と置き、 (2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。 ただし共通の定数を と置いた。
&math( &-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r) );
&math( \hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi) );
(4) (3) の方程式を解いて得られる および が角運動量の大きさの2乗 の固有関数であり、その固有値が となることを確かめよ。
(5) 古典論において、質量
の粒子が原点から
の距離を角速度
で回転するときの角運動量は
であり、遠心力は
で与えられる。
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが
と書けることを示し、(3) で得た
の方程式に現れる
の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、
遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は
一定の元で
であることに注意せよ。
(6) と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。
&math(\left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+ l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0);
ただし、共通の定数を と置いた(質量 と紛らわしいが慣例に従った)。
(7) に対する方程式を解き、 を満たすためには が整数値を取らなければならないことを確かめよ。
(8) (6), (3) を解いて得られた および は の固有関数であり、その固有値が であることを確かめよ。 *1符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている
解説†
上で見たように、中心力場の時間を含まないシュレーディンガー方程式は、球座標を用いることにより の形に変数分離して解くことが可能である。
についての方程式には が含まれないため、 ポテンシャルの形状によらず解くことができる。
その解は
の2つの整数からなる量子数を用いて
のようにラベル付けされる。
は物理的にはそれぞれ角運動量の大きさの2乗 および 軸周りの角運動量 に関連する量子数であり、
の関係がある。すなわち は と の同時固有関数である。
角運動量の大きさ は、 であるが、慣例として「角運動量の大きさが の時」などという。 角運動量の大きさが のときその 成分が となるのは当然と思えるはず。 のときも、不確定性により は完全にゼロにはならないため、 ではなく となる。
についての方程式には の他に角運動量の大きさの2乗 を含む項 が現れ、 これは遠心力に対するポテンシャルを表わす(遠心力は角運動量の大きさの2乗に比例する)。
一般に、 についての方程式を解く際にもう1つの量子数 が現れるため、 全体としての解は の3つの量子数により、
のようにラベル付けされる。
を主量子数、 を方位量子数、 を磁気量子数、と呼ぶ。
原子の軌道を表す場合には、 に関する解を などと書く代わりに のアルファベットを用いて、 などと書くことの方が一般的である。 とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | … | |
文字 | s | p | d | f | g | h | … |
波動関数の正規直交性†
正しく規格化することにより、上記の は正規直交性を示す。
左辺の積分を球座標で書けば、
&math(= \int_0^\infty dr\int_0^{\pi}rd\theta\int_0^{2\pi}r\sin\theta d\phi\ \varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'});
&math( =\underbrace{ \int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta}_{\delta_{ll'}}\
\underbrace{ \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi}_{\delta_{mm'}}\ \underbrace{ \int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr}_{\delta_{nn'}}
);
となって、 に対する正規直交条件は、
となる。
に対する積分に 、 に対する積分に の重みが それぞれかかることに注意せよ。