解析力学/ネーターの定理 の履歴(No.3)
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目次†
解析力学/ラグランジアン の続きです。
ラグランジアンの任意性†
ある系のラグランジアン $L$ に、粒子の位置と時間の関数 $F(q_1(t),q_2(t),\dots,q_n(t),t)$ の時間に対する全微分 $\frac{dF}{dt}$ を加えても運動方程式は変化しない。なぜなら、
$$ L'=L+\frac{dF}{dt} $$
に対して、
$$ \begin{aligned} S&=\int_{t_1}^{t_2}L'\ dt=\int_{t_1}^{t_2}\left(L+\frac{dF}{dt}\right)\ dt\\ &=\int_{t_1}^{t_2}L\ dt+\underbrace{F(q_1(t_2),q_2(t_2),\dots,q_n(t_2),t_2)-F(q_1(t_1),q_2(t_1),\dots,q_n(t_1),t_1)}_\text{定数} \end{aligned} $$
となって、$q_k(t_1),q_k(t_2)$ が固定されている限り $F(t_2)-F(t_1)$ は定数であり、 $S$ の $q_k$ による汎関数微分に影響を与えないためである。
したがって、ある力学系のラグランジアンとして必ずしも上述の「運動量 $T$ とポテンシャル $U$ により $L=T-U$」と取る必要はなく、その取り方には $F$ の分だけ任意性が残されていることになる。
ラグランジアンの対称性†
座標変換 $q_i\to Q_i$ を考える。 一般にはそのような座標変換に伴いラグランジアンの関数形は $L\to L'$ と変化し、
$$ \begin{aligned} &L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n)=\\ &L'(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,t) \end{aligned} $$
となるのであるが、元のラグランジアンの関数形 $L$ にそのまま $Q_i,\dot Q_i$ を代入しても
$$ \begin{aligned} &L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n)=\\ &L(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,t) \end{aligned} $$
が成り立つとき、ラグランジアンはその座標変換に対して対称性を持つ、と言われる。
例えば座標軸の並進に対して変化しなければ並進対称性があるといい、 座標軸の回転に対してラグランジアンが変化しなければ回転対称性があるという。
ネーターの定理†
ある座標変換に対してラグランジアンが対称性を持つならば、 それに対応する保存量が存在する、というのがネーターの定理である。
ここでいう保存量とは、時間と共に変化することなく一定に保たれる物理量のことである。 例えば並進対称性からは運動量の保存が、回転対称性からは角運動量の保存が導かれる。
以下、実際に導いてみよう。
微小な座標変換 $q_i\to Q_i$ を考える。座標は少しだけしか異ならないため、小さな $\delta q_i$ を使って
$$ Q_i=q_i+\delta q_i(q_1,q_2,\dots,q_n,t) $$
と表せるとしよう。この座標変換に対してラグランジアンが対称性を持つなら、
$$ \begin{aligned} dL&=L(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,t)-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n)\\ &=\sum_{i=1}^n\bigg(\frac{\partial L}{\partial q_i}\delta q_i+\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\delta \dot q_i\bigg)\\ &=\sum_{i=1}^n\bigg(\frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\bigg\}\delta q_i+\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\delta \dot q_i\bigg)\\ &=\sum_{i=1}^n\frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i\bigg\}\\ &=\frac{d}{dt}\bigg\{\sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i\bigg\}=0\\ \end{aligned} $$
を得る。ただし途中でラグランジュの運動方程式 $\frac{d}{dt}\left\{\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\right\}-\frac{\partial L}{\partial q_i}=0$ を使った。
すなわちこのとき、
$$ \sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i $$
は運動の保存量となる。実はラグランジアンが完全に対称ではなく、
$$ L(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,t)=L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n)+\frac{dF}{dt} $$
のように同値なラグランジアンを与える場合にも保存量は存在し、 上記の右辺が $dF/dt$ となることから、
$$ \sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i-F $$
が保存量となることが分かる。
例1:空間並進対称性†
自由な質点の運動では、
$$ L=\frac12m(\dot x^2+\dot y^2+\dot z^2) $$
であるから、並進変換すなわち $x_0$ を定数として
$$ X=x+x_0 $$
に対して $\dot X=\dot x$ であるから、
$$ L(x,y,z,\dot x,\dot y,\dot z)=L(X,y,z,\dot X,\dot y,\dot z) $$
となり、このラグランジアンは並進対称性を持つ。これに対応して
$$ \sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i=\frac{\partial L}{\partial \dot x}x_0 $$
は定数となるが、そもそも $x_0$ が定数であるから、
$$ \frac{\partial L}{\partial \dot x}=p_x=m\dot x $$
が定数となる。
ラグランジアンが $x$ 方向に並進対称性を持つならば $x$ 方向の運動量は保存することになる。
例2:回転対称性†
中心力 $U(x,y,z)=U(\sqrt{x^2+y^2+z^2})$ の中での質点の運動を $z$ 軸周りに微小回転 $-\delta\theta$ した座標系から観測すれば、
$$ \begin{cases} X=x-y\delta\theta\\ Y=y+x\delta\theta\\ \end{cases} $$
の座標変換を及ぼすが、
$$ \begin{aligned} X^2+ Y^2 &= ( x- y\delta\theta)^2+( y+ x\delta\theta)^2\\ &= x^2-\cancel{2 x y\delta\theta}+ y^2+\cancel{2 x y\delta\theta}+O(\delta\theta^2)\\ &=x^2+y^2+O(\delta\theta^2) \end{aligned} $$
であり、同様に
$$ \begin{aligned} \dot X^2+\dot Y^2 &=\dot x^2+\dot y^2+O(\delta\theta^2) \end{aligned} $$
であるから、
$$ \begin{aligned} L&=\frac12 m(\dot x^2+\dot y^2+\dot z^2)+U(\sqrt{x^2+y^2+z^2})\\ &=\frac12 m(\dot X^2+\dot Y^2+\dot z^2)+U(\sqrt{X^2+Y^2+z^2})+O(\delta\theta^2)\\ \end{aligned} $$
すなわちこのラグランジアンは $z$ 軸周りの回転対称性を持つ。
これに対応して、
$$ \sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i=\bigg[\frac{\partial L}{\partial \dot y}x-\frac{\partial L}{\partial \dot x}y\bigg]\delta\theta $$
は定数になる。すなわち、
$$ \frac{\partial L}{\partial \dot y}x-\frac{\partial L}{\partial \dot x}y =xp_y-yp_x=l_z $$
は定数になる。この値は $z$ 軸周りの角運動量である。
ラグランジアンが $z$ 軸周りの回転対称性を持つならば $z$ 軸周りの角運動量は保存することになる。
ネーターの定理とエネルギー保存†
@解析力学/ラグランジアン#b9eedbd5 にて、$\partial L/\partial t=0$ を仮定するとハミルトニアンが保存量となることを導いた。
ハミルトニアンが保存量となることは、時間の座標 $t$ の座標変換に対するネーターの定理と関係が深い。
$t\to t+\delta t$ の座標変換に対してラグランジアンの対称性から保存量が生まれるのは、
$$ \begin{aligned} \delta L &=L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t+\delta t)-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)\\ &=\frac{\partial L}{\partial t}\delta t\\ &=\frac{dW}{dt}\delta t \end{aligned} $$
のように $\delta L$ がある関数 $W$ の時間に対する全微分になる場合である。すなわち
$$ \frac{\partial L}{\partial t}=\frac{dW}{dt} $$
であるが、このとき @解析力学/ラグランジアン#b9eedbd5 で見たように
$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\bigg(\sum_{i=1}^np_i\dot q_i\bigg)-L\bigg\} =-\frac{\partial L}{\partial t}=-\frac{dW}{dt} $$
となるから、
$$ \underbrace{\bigg(\sum_{i=1}^np_i\dot q_i\bigg)-L}_\text{ハミルトニアン}+W $$
が保存量となる。ただし $W$ は
$$ W=\int^t\frac{\partial L}{\partial t}\ dt\ \ \ \ \bigg(=-\int^t\frac{\partial U}{\partial t}\ dt\bigg) $$
で与えられる。
ラグランジアンが $L=T-U$ の形で与えられる際には $\partial L/\partial t=\partial U/\partial t$ であるから上式の括弧のように変形できて、$W$ はポテンシャルを変化させた系外の存在が系から得たエネルギーである。
例:強制振動†
ニュートン方程式で書けば、
$$ m\ddot x=-k(x-a\cos\omega t) $$
外力がバネの端点を動かすのに費やす仕事率は、系に加わる力の反作用に移動速度を掛けて
$$ k(x-a\cos\omega t)\times (-a\omega\sin\omega t) $$
である。
これをラグランジアンで記述するなら、 対応するポテンシャル
$$ U=\frac12k(x-a\cos\omega t)^2 $$
を参考にして、ラグランジアンは
$$ L=\frac12m\dot x^2-\frac12k(x-a\cos\omega t)^2 $$
ラグランジュの運動方程式は、
$$ \frac d{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot x}=\frac{\partial L}{\partial x} $$
$$ m\ddot x^2=-k(x-a\cos\omega t) $$
となる。系から外界に流出するエネルギーは、
$$-\frac{\partial U}{\partial t}=-k(x-a\cos\omega t)\times (-a\omega\sin\omega t) $$
なのでつじつまが合う。
例:摩擦力のある場合†
質量 $m$ の質点の摩擦力を伴う一次元運動。摩擦力が $-\gamma\dot x$ と書けるとすれば、 ニュートン方程式は、
$$ m\ddot x=-\gamma\dot x $$
この系から単位時間当たりに失われるエネルギーは摩擦力×速度より、
$$-\frac{\partial U}{\partial t}=\gamma\dot x^2 $$
である。
摩擦のある系をラグランジアンで記述するには $L=T-U$ ではうまくいかない。
天下り的だが $L=e^{\gamma t/m}(T-U)$ とするとうまく行く。*1参考:http://nile.ph.sophia.ac.jp/~g...
$U$ が速度や時刻に依存しないとしてラグランジュの運動方程式を求めると、
$$ \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}=\frac{\partial L}{\partial x} $$
$$ \frac{d}{dt}(e^{\gamma t/m}m\dot x)=-e^{\gamma t/m}\frac{\partial U}{\partial x} $$
$$ (\gamma/m) e^{\gamma t/m}m\dot x+e^{\gamma t/m}m\ddot x=-e^{\gamma t/m}\frac{\partial U}{\partial x} $$
$$ e^{\gamma t/m}(\gamma\dot x+m\ddot x)=-e^{\gamma t/m}\frac{\partial U}{\partial x} $$
両辺を $e^{\gamma t/m}$ で割れば、
$$ m\ddot x=-\frac{\partial U}{\partial x}-\gamma\dot x $$
このときの運動量は、
$$ p=\frac{\partial L}{\partial\dot x}=e^{\gamma t/m}m\dot x $$
なので、
$$ \begin{aligned} H=p\dot x-L&=e^{\gamma t/m}m\dot x^2-\frac12e^{\gamma t/m}m\dot x^2+e^{\gamma t/m}U\\ &=\frac12e^{\gamma t/m}m\dot x^2+e^{\gamma t/m}U\\ \end{aligned} $$
一方、
$$ \begin{aligned}-\frac{\partial L}{\partial t} &=- (\gamma/m)\frac12e^{\gamma t/m}m\dot x^2+(\gamma/m)e^{\gamma t/m}U\\ &=- \frac12e^{\gamma t/m}\gamma\dot x+(\gamma/m)e^{\gamma t/m}U\\ \end{aligned} $$
したがって、
$$ \begin{aligned} \frac d{dt}\underbrace{\bigg[e^{\gamma t/m}\bigg(\frac12m\dot x^2+U\bigg)\bigg]}_{H} &=(\gamma/m)e^{\gamma t/m}\bigg(\frac12m\dot x^2+\cancel U\bigg)+e^{\gamma t/m}\frac d{dt}\bigg(\frac12m\dot x^2+U\bigg)\\ &=-e^{\gamma t/m}\gamma\dot x^2+\cancel{(\gamma/m)e^{\gamma t/m}U} \end{aligned} $$
両辺を $e^{\gamma t/m}$ で割って、
$$ \frac{d}{dt}\bigg(\frac12m\dot x^2+U\bigg)=-\frac12\gamma\dot x^2 $$
のように予想通りの結果が得られる。
このように、$L=T-U$ の形でない場合にはハミルトニアンはそのままでは系のエネルギーと等しくない。 こういった形を扱うことは今後もそれほど多くはないと思うが、こうした場合にも上記のように ラグランジュ力学が成立することには注目して欲しい。
ところで、複数の粒子がある場合にもラグランジアンに摩擦を取り入れる方法があるんだろうか???