球座標を用いた変数分離 の履歴(No.7)

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量子力学Ⅰ

極座標

&math( \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} );

微分の変換

\frac{\PD}{\PD x},\frac{\PD}{\PD y},\frac{\PD}{\PD z} \frac{\PD}{\PD r},\frac{\PD}{\PD \theta},\frac{\PD}{\PD \phi} との間の変換を考える。

ある関数 f(r,\theta,\phi) について、 x が微小量 dx だけ変化すると、 f df だけ変化するとする。

一方、 x dx 変化させるために r,\theta,\phi をそれぞれ dr,d\theta,d\phi だけ変化させなければならないとする。

このとき、

  df=\frac{\PD f}{\PD r}dr+\frac{\PD f}{\PD \theta}d\theta+\frac{\PD f}{\PD \phi}d\phi

に、 dr=\frac{\PD r}{\PD x}dx,\ d\theta=\frac{\PD \theta}{\PD x}dx,\ d\phi=\frac{\PD \phi}{\PD x}dx を代入すれば、

  df=\frac{\PD f}{\PD r}\frac{\PD r}{\PD x}dx+\frac{\PD f}{\PD \theta}\frac{\PD \theta}{\PD x}dx+\frac{\PD f}{\PD \phi}\frac{\PD \phi}{\PD x}dx

一方、 df=\frac{\PD f}{\PD x}dx であるから、

  \frac{\PD }{\PD x}f=\Big(\frac{\PD r}{\PD x}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{\PD \theta}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \theta}+\frac{\PD \phi}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \phi}\Big)f

したがって、

 &math(\frac{\PD }{\PD x}=\frac{\PD r}{\PD x}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{\PD \theta}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \theta}+\frac{\PD \phi}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \phi}\\ );

同様にして、

 &math( \begin{cases} \displaystyle\frac{\PD }{\PD x}=\frac{\PD r}{\PD x}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{\PD \theta}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \theta}+\frac{\PD \phi}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \phi}\\[4mm] \displaystyle\frac{\PD }{\PD y}=\frac{\PD r}{\PD x}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{\PD \theta}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \theta}+\frac{\PD \phi}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \phi}\\[4mm] \displaystyle\frac{\PD }{\PD z}=\frac{\PD r}{\PD x}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{\PD \theta}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \theta}+\frac{\PD \phi}{\PD x}\frac{\PD}{\PD \phi}\\ \end{cases} );

のように変換される。

計算を進めるには、 \frac{\PD r}{\PD x} などを求める必要がある。

演習:偏微分の計算

以下、全微分の時と異なり \frac{\PD r}{\PD x}\ne\Big(\frac{\PD x}{\PD r}\Big)^{-1} であることに注意せよ。

(1) r^2=x^2+y^2+z^2 の関係を用いて、 \frac{\PD r}{\PD x},\frac{\PD r}{\PD y},\frac{\PD r}{\PD z} r,\theta,\phi で書き表せ。

(2) \tan^2\theta=\frac{x^2+y^2}{z^2} の関係を用いて、 \frac{\PD \theta}{\PD x},\frac{\PD \theta}{\PD y},\frac{\PD \theta}{\PD z} r,\theta,\phi で書き表せ。

(3) \tan\phi=\frac{y}{x} の関係を用いて、 \frac{\PD \phi}{\PD x},\frac{\PD \phi}{\PD y},\frac{\PD \phi}{\PD z} r,\theta,\phi で書き表せ。


上記結果を代入すれば、

 &math( \begin{cases}

\displaystyle\frac{\PD}{\PD x}= \sin\theta\cos\phi \frac{\PD}{\PD r}

  1. \frac{1}{r}\cos\theta\cos\phi \frac{\PD}{\PD \theta}
  • \frac{\sin\phi}{r\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \phi}\\[4mm]

\displaystyle\frac{\PD}{\PD y}= \sin\theta\sin\phi \frac{\PD}{\PD r}

  1. \frac{1}{r}\cos\theta\sin\phi \frac{\PD}{\PD \theta}
  2. \frac{\cos\phi}{r\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \phi}\\[4mm]

\displaystyle \frac{\PD}{\PD z}= \cos\theta \frac{\PD}{\PD r}

  • \frac{1}{r}\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\\[4mm]

\end{cases} );

球座標表示のラプラシアン

  \triangle=\nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}

に上記を代入するだけで求まる! ・・・ 実際やってみるとえらい大変。→ 計算の詳細

結果だけまとめると、

 &math( \nabla^2&=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r} \frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda\\

       &=\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

);

ただし、

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

球座標の角運動量演算子

こちらも単に代入すればよいのだけれど、やはり計算は大変 → 詳細はこちら

&math( \begin{cases} \displaystyle \hat l_x=-i\hbar\Big(y\frac{\PD}{\PD z}-z\frac{\PD}{\PD y}\Big) =i\hbar\Big(+\sin\phi\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{\cos\phi}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big) \\[4mm] \displaystyle \hat l_y=-i\hbar\Big(z\frac{\PD}{\PD x}-x\frac{\PD}{\PD z}\Big) =i\hbar\Big(-\cos\phi\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{\sin\phi}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big) \\[4mm] \displaystyle \hat l_z=-i\hbar\Big(x\frac{\PD}{\PD y}-y\frac{\PD}{\PD x}\Big) =-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi} \end{cases} );

全角運動量は、

 &math( \hat{\bm l}^2&=\hat l_x^2+\hat l_y^2+\hat l_z^2 =-\hbar^2\Big[\frac{1}{\sin\theta}\frac{\PD}{\PD\theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD\theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta}\frac{\PD^2}{\PD\phi^2}\Big] =-\hbar^2\hat\Lambda );

注目すべき重要な結果

ラプラシアン:

  \nabla^2=\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

z 軸周りの運動量:

 &math( \hat l_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi} );

全角運動量:

 &math( \hat{\bm l}^2=-\hbar^2\hat\Lambda );

ラプラシアンの 1/r^2 の項の係数は、 全角運動量の演算子と -\hbar^2 の係数を除いて等しい。

演習:時間に依存しないシュレーディンガー方程式の極座標 変数分離

球座標表示におけるラプラシアンは、

  \nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

である。ただし、

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

以下の問いに従って、中心力場中の粒子の運動について考えよ。

(1) \frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r} を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、球座標表示の波動関数 \varphi(r,\theta,\phi) に対する時間に依らないシュレーディンガー方程式を書き下せ。 ただしポテンシャルは動径成分のみに依存するものとし V=V(r) 、 解答には \hat\Lambda を用いて良い。

(3) 波動関数を \varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi) と置き、 (2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。 ただし共通の定数を l(l+1) と置いた。

 &math( &-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r) );

 &math( \hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi) );

(4) (3) の方程式を解いて得られる Y(\theta,\phi) および \varphi が全角運動量 \hat l^2 の固有関数であり、その固有値が \hbar^2l(l+1) となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 m の粒子が原点から r の距離を角速度 \omega で回転するときの角運動量は l=mr^2\omega であり、遠心力は f_c=mr\omega^2 で与えられる。
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが V_c(r)=\frac{l^2}{2mr^2} と書けることを示し、(3) で得た R(r) の方程式に現れる \frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2} の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、 遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は l 一定の元で \frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c であることに注意せよ。

(6) Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi) と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

 &math(\left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+ l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0);

  \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi)

ただし、共通の定数を -m^2 と置いた(質量 m と紛らわしいが慣例に従った)。

このうち \Theta(\theta) に関する方程式は、

  l=0,1,2\dots

  m=-l,-(l-1),\dots,l-1,l

の場合にのみ解を持つことが知られている。

(7) (6), (3) を解いて得られた \Phi(\phi) および \varphi(r,\theta,\phi) \hat l_z の固有関数であり、その固有値が \hbar m であることを確かめよ。

解説


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