球対称井戸型ポテンシャル の履歴(No.8)

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球形の箱の中の粒子

 &math( V(r)=\begin{cases} 0&(r<=a)\\ V_0&(r>a)\\ \end{cases} );

の場合には、 \chi(r)=rR(r) を考えるよりも R(r) をそのまま扱った方が都合がよい。

  \rho=\sqrt{\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}}r

と置くことにより、箱の内部の方程式は

 &math( \frac{d^2R}{d\rho^2}+\frac{2}{\rho}\frac{dR}{d\rho}+\left\{1-\frac{l(l+1)}{\rho^2}\right\}R=0 );

となる。

この解は球ベッセル関数 j_l(\rho) と呼ばれる。

  j_l(\rho)=(-\rho)^l\left(\frac{1}{\rho}\frac{d}{d\rho}\right)^l\frac{\sin\rho}{\rho}

  j_0(\rho)=\frac{\sin\rho}{\rho}

  j_1(\rho)=\frac{\sin\rho}{\rho^2}-\frac{\cos\rho}{\rho}

  j_2(\rho)=\left(\frac{3}{\rho^3}-\frac{1}{\rho}\right)\sin\rho-\frac{3}{\rho^2}\cos\rho

  j_3(\rho)=\left(-\frac{6}{\rho^2}+\frac{15}{\rho^4}\right) \sin\rho+\left(\frac{1}{\rho}-\frac{15}{\rho^3}\right) \cos\rho

 ...

詳しい導出はこちら

特徴

  • 原点で発散することはない
    • j_0(\rho)=1
    • l\ge 1 では j_l(\rho)=0
  • j_l(\rho) \rho の大きいところで、
    • l=4k+0 なら \big(\sin\rho\big)/\rho
    • l=4k+1 なら -\big(\cos\rho\big)/\rho
    • l=4k+2 なら -\big(\sin\rho\big)/\rho
    • l=4k+3 なら \big(\cos\rho\big)/\rho
  • |\rho j_l(\rho)|^2 \rho の大きいところで、
    • l=2k+0 なら \sin^2\rho
    • l=2k+1 なら \cos^2\rho
  • \rho の小さいところでは、 l が大きいほどゆっくり振動する
    • j_{l+4} j_l に比べて振動回数が1回少ない
  • \sin \cos の周期性を反映して j_l(\rho)=0 を満たす根を無限個持つ

SphericalBesselJ.png

SphericalBesselJ1.png

j_l(\rho) の代わりに |\rho j_l(\rho)|^2 をプロットすると下のようになる。 \rho の大きいところでは (1\pm\cos 2\rho)/2 に漸近する。 l が増える毎に \rho\sim 0 付近の振動回数が減ってゆく。

SphericalBesselJ2.png

境界条件

V_0=+\infty の場合には、 1次元の箱形ポテンシャルのところで学んだのと同様に、 r=a において j_l(\rho(r))=0 が要求されるから、

  j_l\Big(\sqrt{\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}}a\Big)=0

により \varepsilon が決定される。

j_l(\rho) の根は無数にあるが、 n 番目の根を \rho_n{}^l とすれば、

  \sqrt{\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}}a=\rho_n{}^l

より、

  \varepsilon_n{}^l=\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\rho_n{}^l}{a}\right)^2

として、エネルギーの大きさは根の位置 \rho_n{}^l で決まる。

実際に値を入れてみると、

  \varepsilon_1{}^0<\varepsilon_1{}^1<\varepsilon_1{}^2<\varepsilon_2{}^0<\varepsilon_1{}^3<\varepsilon_2{}^1<\dots

となる。

n l との大小関係に制約はないから、任意の n\ge 0 に対して 任意の l\ge 0 が対応する。

ここでの n 量子力学Ⅰ/水素原子#z46f54fd における n' に相当するから、 l+n が水素原子の時の n と同等である。

spherical-box-energies.svg
l n l+n 対応 (\rho_n{}^l)^2
01 11s9.86959
11 22p20.1907
21 33d33.2175
02 22s39.4785
31 44f48.8312
12 33p59.6795
41 55g66.9543
22 44d82.7192
03 33s88.8265
32 44f108.516
13 44p118.9

エネルギー準位をグラフ化するため、横軸に l を、 縦軸に (\rho_n{}^l)^2 を取り、 n=1,2,3,\dots に対応する値をプロットした。

n に比べて l に対するエネルギーの増加が少ないことが分かる。

クーロンポテンシャルでは角運動量が増加して軌道が外に寄ると、 その分、ポテンシャルエネルギーも増えたが、 箱型ポテンシャルではポテンシャルが一定であるために角運動量の増加は純粋な運動エネルギーの増加としてしか寄与しない。これがクーロンポテンシャルに比べて l に対するエネルギー増加が小さい原因となっている。

グラフ

見やすいように最大値で規格化した。

\varphi(r)
SphericalBesselJScaled.png

|\varphi(r)|^2
SphericalBesselJScaled2.png

|r\varphi(r)|^2
SphericalBesselJScaled3.png

r\varphi(r) と一次元井戸型ポテンシャルの解との類似性に注意せよ。

  • l=0 については一次元井戸型ポテンシャルの解と完全に一致する
  • l>0 については原点付近の存在確率が下がるが、原点から遠いところではやはり一次元の解と近くなる

箱の外のポテンシャルが有限の場合

箱の外のポテンシャルが有限の場合にも、 r=a における位相が少しずれるものの、 外部の解となめらかに接続する条件から \varepsilon が決定される。

閉じ込めが弱くなると、同じ n,l に対するエネルギーは低下する。 このときポテンシャルエネルギーの期待値はむしろ増加するから、 エネルギーの低下は運動エネルギーの低下によるものである。


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