ベリー位相・ベリー接続・ベリー曲率 のバックアップ(No.6)

更新


量子力学Ⅰ

目次

Berry 位相・Berry 接続・Berry 曲率

このページは バンド理論の勉強 の元になった 2020年の若林先生の授業内容を元に書いたものですが、私の理解が足りない部分につて後から勉強しなおした結果、内容は大幅に再構成されています。そのため内容には誤りが多いかもしれません。ご容赦ください。

一次摂動に関しては EMANの物理学・量子力学・摂動論 が大変参考になりました。

波動関数の位相とパラメータ依存性

一般に固有値問題を解いて得られる固有ベクトルにはその係数が自由パラメータとして残る。 だからシュレーディンガー方程式を解いて得られた波動関数に任意の複素数をかけてもシュレーディンガー方程式の解となる。

ただし量子力学では固有関数を規格化するため、この条件から係数の絶対値が決まる。 そして位相だけが自由に選べる。一方、観測可能な物理量は波動関数の位相の選び方によらないことが知られている。

特に、LCOA 近似の上では波数 $\bm k$ を含むハミルトニアンを解いて得られる 異なるパラメータ $\bm k$ に対する解ごとに好き放題に位相を選んだとしても何ら問題ない。

そのように任意に取られた位相を持つ波動関数から、位相に影響されない物理量が出てくるあたりの話について議論するのが以下の話なんじゃないかな(急に弱気)。

何らかの方法で固有値と固有関数、特に波動関数の位相までをパラメータに依存する形で定めたものを次のように書こう。

$$ \hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

$(n)$ は $n$ 番目のバンド、つまり小さいほうから $n$ 番目の固有値であることを表す。

上で述べたのは、これにパラメータ $\bm q$ ごとに適当な位相 $\varphi(\bm q)$ を掛けて、

$$ |\tilde\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=e^{-i\varphi(\bm q)}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

のように決めた $|\tilde\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ も、$|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ と同様に正しい波動関数である、ということだ。

同じ物理状態に対する解の位相

上で書いた位相 $\varphi(\bm q)$ の選び方によっては、

  1. 異なるパラメータ $\bm q_1$ と $\bm q_2$ とが同じ物理状態を表すにも関わらず $|\tilde\psi_{\bm q_1}^{(n)}\rangle$ の位相と $|\tilde\psi_{\bm q_2}^{(n)}\rangle$ の位相が異なる。
  2. パラメータ $\bm q$ を $\bm q_1$ から連続的に動かして再び $\bm q_1$ に戻した時に位相が変わってしまう($\varphi(\bm q)$ が多値になる)。

といったことが起きる。

このあたりが電流を求める際などに重要になってくる(?)。

例:グラフェンの $K$ 状態の周りの電子

グラフェンの $K$ 点回りの波動方程式の解は

$$\bm k=\begin{pmatrix}k\cos\phi\\k\sin\phi\end{pmatrix}$$

と置いたときに

$$ \Phi_{\bm k}=\frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}e^{i\phi}\\1\end{pmatrix} $$

と表された。

$\phi\to\phi+2\pi$ のように $\bm k$ がK点周りを一周したとき、 上記の表式では

$$ \frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}e^{i\phi+2\pi}\\1\end{pmatrix} =\frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}e^{i\phi}\\1\end{pmatrix} $$

となって波動関数は位相を含めて元に戻る。

これに位相 $e^{-i\phi/2}$ を掛けると($\varphi(\bm k)=\phi/2$)、

$$ \tilde\Phi_{\bm k}=\frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}e^{i\phi/2}\\e^{-i\phi/2}\end{pmatrix} $$

となって、こちらは

$$ \frac{1}{\sqrt 2}\begin{pmatrix} e^{i(\phi+2\pi)/2}\\e^{-i(\phi+2\pi)/2} \end{pmatrix}=\frac{1}{\sqrt 2}\begin{pmatrix} {}-e^{i\phi/2}\\-e^{-i\phi/2} \end{pmatrix} $$

のように一周回ると符号が反転してしまう。

これ、$k,\phi$ をパラメータとして見れば、同一の物理状態を表す異なるパラメータ $\phi,\phi+2\pi$ に対する解が異なる位相を持つ、という話で、ベクトル $\bm k$ をパラメータとして見れば連続的に動かして同じパラメータに戻ってきたときに異なる位相を持つ、という話になる。

例:マグネティックモノポールとスピンの系(1)

原点に大きさ $M$ のマグネティックモノポールの存在を仮定し、

$$ \bm B=\frac{M}{r^2}\frac{\bm r}{r} $$

$\bm r=(r,\theta,\phi)$ に大きさ $s$ のスピンを置く。

$$ \bm s=s\bm\sigma $$

相互作用を表すハミルトニアンは $r,\theta,\phi$ をパラメータとして含み、

$$ \begin{aligned} \hat H(r,\theta,\phi) &=-\bm B\cdot\hat\bm s\\ &=-\underbrace{\frac{sM}{r^2}}_{\varepsilon_0}\Big(\frac{\bm r}{r}\Big)\cdot\hat\bm\sigma\\ &=-\varepsilon_0(\hat\sigma_x\sin\theta\cos\phi+\hat\sigma_y\sin\theta\sin\phi+\hat\sigma_z\cos\theta)\\ &=-\varepsilon_0\begin{pmatrix} \cos\theta&\sin\theta e^{-i\phi}\\ \sin\theta e^{-i\phi}&-\cos\theta \end{pmatrix} \end{aligned} $$

これを解くと、

$$ \varepsilon^{(1)}=+\varepsilon_0, \ \psi^{(1)}=\begin{pmatrix} \sin(\theta/2) e^{-i\phi}\\ {}-\cos(\theta/2) \end{pmatrix} $$

$$ \varepsilon^{(2)}=-\varepsilon_0, \ \psi^{(2)}=\begin{pmatrix} \cos(\theta/2)\\ \sin(\theta/2) e^{i\phi} \end{pmatrix} $$

が求まるが、この波動関数は $\theta=0$ において

$$ \psi^{(1)}=\begin{pmatrix} 0\\-1 \end{pmatrix}, \ \psi^{(2)}=\begin{pmatrix} 1\\0 \end{pmatrix} $$

であるのに対して、 $\theta=\pi$ においては

$$ \psi^{(1)}=\begin{pmatrix} e^{-i\phi}\\0 \end{pmatrix}, \ \psi^{(2)}=\begin{pmatrix} 0\\e^{i\phi} \end{pmatrix} $$

となって、波動関数の位相が $\phi$ によって異なる値を取るような解となっている。

$$ \begin{cases} r_x=r\sin\theta\cos\phi\\ r_y=r\sin\theta\sin\phi\\ r_z=r\cos\theta\\ \end{cases} $$

の値は $\theta=\pi$ において $\phi$ が異なっても等しいから、 $\theta=\pi$ においては $\phi$ が異なっても物理的には同一の系を表す。

実際、得られる解は位相を除いて等しい。

すなわち $\theta,\phi$ をパラメータとして見ると、

1. パラメータ $(\theta,\phi)=(\pi,\phi_1)$ と $(\theta,\phi)=(\pi,\phi_2)$ とが同じ物理状態を表すにも関わらず $|\tilde\psi_{(\pi,\phi_1)}^{(n)}\rangle$ の位相と $|\tilde\psi_{(\pi,\phi_2)}^{(n)}\rangle$ の位相が異なる

あるいは、

2. パラメータ $\bm r$ を $\bm r_1=(0,0,-1)$ から連続的に動かして再び $\bm r_1=(0,0,-1)$ に戻した時に位相が変わってしまう(前者が $(\theta,\phi)=(\pi,\phi_1)$ に後者が $(\theta,\phi)=(\pi,\phi_2)$ に対応していると考える)

の例になっている。

同じ物理状態を表すパラメータに対する解の位相差を求める方法

以下に詳しく見る通り、パラメータ $\bm q_1$ と $\bm q_2$ とが同じ物理状態を表すとき、ある適当な経路に沿って $\bm q$ を動かして

$$ \gamma=i\int_{\bm q_1}^{\bm q_2}\langle\psi_{\bm q}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}\rangle \cdot d\bm q $$

を計算して求まる $\gamma$ が $|\psi_{\bm q_1}\rangle$ と $|\psi_{\bm q_2}\rangle$ との間の位相差を表すことが知られている($\bm q_1=\bm q_2$ でも構わない)。上でも述べた通り、2つの波動関数は同じ物理状態に対する解なので位相を除いて一致するのを思い出そう。

すなわち、

$$ |\psi_{\bm q_2}\rangle=e^{-i\gamma}\,|\psi_{\bm q_1}\rangle $$

まず、上記が本当に成り立ちそうな雰囲気を見ておこう。

$|\psi_{\bm q}\rangle$ に $\bm q$ に依存する位相を掛けた

$$ |\tilde\psi_{\bm q}\rangle=e^{-i\varphi(\bm q)}|\psi_{\bm q}\rangle $$

に対して $\tilde\gamma$ を計算すると、

$$ \bm\nabla_{\bm q}|\tilde\psi_{\bm q}\rangle= {}-i\big[\bm\nabla_{\bm q}\varphi(\bm q)\big]e^{-i\varphi(\bm q)}|\psi_{\bm q}\rangle+ e^{-i\varphi(\bm q)}\big[\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}\rangle\big] $$

であるから、

$$ \begin{aligned} \tilde\gamma &=i\int_{\bm q_1}^{\bm q_2}\langle\tilde\psi_{\bm q}|\bm\nabla_{\bm q}|\tilde\psi_{\bm q}\rangle \cdot d\bm q\\ &=\int_{\bm q_1}^{\bm q_2}\underbrace{\bm\nabla_{\bm q}\varphi(\bm q)\cdot d\bm q\rule[-9pt]{0pt}{0pt}}_{d\varphi_{\bm q}}+ \underbrace{i\int_{\bm q_1}^{\bm q_2}\langle\psi_{\bm q}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}\rangle d\bm q}_{\gamma}\\ &=\gamma+\varphi(\bm q_2)-\varphi(\bm q_1) \end{aligned} $$

となり、$\gamma$ は確かに始点と終点との位相差を反映しそうだ。

あとは位相差がゼロの時にちゃんと $\gamma=0$ になることを示せれば、 確かに $\gamma$ が位相差そのものであることを言える。

Berry 接続

上で定義した $\gamma$ では $\langle\psi_{\bm q}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}\rangle \cdot d\bm q$ を線積分したが、この意味についてもう少し詳しく考えてみる。

$|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ の周囲で $\bm q$ を少し変えたときに波動関数がどう変わるか調べてみよう。

$$ \hat H(\bm q+\delta \bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}+\delta \psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=(\varepsilon_{\bm q}^{(n)}+\delta\varepsilon_{\bm q}^{(n)})\,|\psi_{\bm q}^{(n)}+\delta\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

これを一次まででばらしてみる、

$$\hat H(\bm q+\delta \bm q)=\hat H(\bm q)+\underbrace{\bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\cdot \delta\bm q}_{\text{摂動項}}$$

$$ \delta\varepsilon_{\bm q}^{(n)}=\bm\nabla_{\bm q}\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\cdot\delta\bm q $$ を使って、

$$ \big(\hat H(\bm q)+\bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\cdot \delta\bm q\big)\, |\psi_{\bm q}^{(n)}+\delta \psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=(\varepsilon_{\bm q}^{(n)}+\bm\nabla_{\bm q}\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\cdot\delta\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}+\delta\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

$$ \hat H(\bm q)\,|\delta \psi_{\bm q}^{(n)}\rangle {}+\bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\cdot \delta\bm q\, |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle =\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\,|\delta\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+ \bm\nabla_{\bm q}\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\cdot\delta\bm q\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

左から $\langle\psi_{\bm q}^{(n')}|$ をかけると、

$$ (\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)})\,\langle\psi_{\bm q}^{(n')}|\delta \psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=-\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\cdot \delta\bm q\, |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+ \bm\nabla_{\bm q}\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\cdot\delta\bm q\,\delta_{n'n} $$

$n'=n$ では

$$ \langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle= \bm\nabla_{\bm q}\varepsilon_{\bm q}^{(n)} $$

$n'\ne n$ では

$$ \langle\psi_{\bm q}^{(n')}|\delta \psi_{\bm q}^{(n)}\rangle= \langle\psi_{\bm q}^{(n')}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle\cdot \delta\bm q=- \frac{\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\, |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}{\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)}}\cdot \delta\bm q $$

すなわち一次摂動でおなじみの形、

$$ \langle\psi_{\bm q}^{(n')}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=- \frac{\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\, |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}{\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)}} $$

が出る。これで $\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ を $|\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle$ で展開した際の係数が $n'=n$ を除き求まったので、

$$ \bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle= \underbrace{\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}_{=-i\bm A}\ |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+ \sum_{n'\ne n}- \frac{\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\, |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}{\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)}}\ |\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle $$

と書ける。$n'=n$ の成分の係数はわからないので、形式的に $\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ と書いている。上のように定義した

$$ \bm A=i\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

は Berry 接続と呼ばれる実ベクトルになる。

なぜ実数になるかというと、

$$ \begin{aligned} |\psi_{\bm q+\delta\bm q}^{(n)}\rangle &=|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+|\delta\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle\\ &=(1+\delta_n)|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+\sum_{n'\ne n} \delta_{n'}|\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle \end{aligned} $$

と書けるとき、$|\psi_{\bm q+\delta\bm q}^{(n)}\rangle$ が規格化されている条件は、

$$ \langle\psi_{\bm q+\delta\bm q}^{(n)}|\psi_{\bm q+\delta\bm q}^{(n)}\rangle=(1+\delta_n^*)(1+\delta_n)+\sum_{n'\ne n} |\delta_{n'}|^2=1 $$

であり、2次の項を落とすと、

$$ \delta_n^*+\delta_n=0 $$

が得られる。これは $\delta_n$ が純虚数であることを表し、すなわち $\bm A$ が実数であることを表す。 *1もっと簡単に書くと、あるベクトル $\bm v$ がノルムを変えず変化して $\bm v+\delta\bm v$ となったとすると、$$\begin{aligned}&\|\bm v\|^2=\|\bm v+\delta\bm v\|^2=\\&\|\bm v\|^2+2\,\text{Re}\,(\bm v,\delta\bm v)+\|\delta\bm v\|^2\end{aligned}$$2次の微少量を無視すると$$\,\text{Re}\,(\bm v,\delta\bm v)=0$$すなわち、$\delta\bm v$ の $\bm v$ 成分は純虚数でなければならない。ということ。

上の $\gamma$ が位相差そのものを表す理由

上で $\delta_n\ll 1$ のとき、

$$ 1+\delta_n\sim e^{\delta_n} $$

つまり、

$$ 1-i\bm A\cdot\delta\bm q\sim e^{-i\bm A\cdot\delta\bm q} $$

であるから、$\bm q\to\bm q+\delta\bm q$ の変化により、$|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ 方向の成分は大きさを変えず位相のみ $-\delta\gamma=-\bm A\cdot\delta\bm q$ だけ回転することになる。

$$ |\psi_{\bm q+\delta\bm q}^{(n)}\rangle =\underbrace{e^{-i\bm A\cdot\delta\bm q}\rule[-10pt]{0pt}{0pt}}_{\text{位相変化}}\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+\sum_{n'\ne n} \delta_{n'}|\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle $$

そこでこれを積分した値を使って位相を補償してやると、

$$ \varphi(\bm q)=-\int_{\bm q_A}^{\bm q}d\gamma=-\int_{\bm q_A}^{\bm q}\bm A\cdot d\bm q' $$ $$ |\tilde\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle=e^{-i\varphi(\bm q)}\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle $$

この $|\tilde\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle$ は $\bm q$ の変化に伴う位相変化が打ち消され、位相が一定に保たれる。このとき上記の $\tilde \gamma$ は

$$ \tilde\gamma=\gamma+\underbrace{\varphi(\bm q_2)-\varphi(\bm q_1)}_{=\,-\,\gamma}=0 $$

となるから、確かに上で定義された $\gamma$ は位相差のないときにゼロとなるから、位相差のある時を含めて 同じ物理的状況を表すパラメータ $\bm q_1$ と $\bm q_2$ に対する波動関数の位相差そのものを表すことがわかる。

Berry 位相

特に始点と終点が等しいとき($\bm q_A=\bm q_B$)、上記の $\gamma$ を Berry 位相という(?)。このとき線積分は周回積分となる。

$$ \gamma=\oint_C \bm A\cdot d\bm q $$

多くの場合、戻ってきたときの位相差はゼロになるが、上でも見たようにグラフェンの $K$ 点回りなど特殊な条件下で有限の値となる場合がある。

Berry 曲率

Berry 位相の定義で出てくる

$$ \gamma=\oint_C \bm A\cdot d\bm q $$

という式は電磁気学で出てくる

$$ (\text{磁束})=\oint_C (\text{ベクトルポテンシャル})\cdot d\bm r $$

とクリソツだなあ、などと思いつつ、ストークスの定理を使って、

$$ \begin{aligned} \gamma&=\oint_C \bm A\cdot d\bm q\\ &=\int_S(\underbrace{\bm\nabla\times A}_{=\,\bm\Omega})\cdot d\bm S\\ &=\int_S\bm\Omega\cdot d\bm S\\ \end{aligned} $$

と書き直すと、ここに出てくる Berry 曲率

$$\Omega=\bm\nabla\times A$$

は電磁気学における磁束密度に相当する量となる。

ベリー曲率 $\bm \Omega$磁束密度 $\bm B$
ベリー接続 $\bm A$ベクトルポテンシャル $\bm A$
ベリー位相 $\gamma$磁束 $N$

磁束密度のない場所では必ず磁束がゼロになるのと同様に、 Berry 曲率がゼロであれば Berry 位相も必ずゼロになる。

Berry 曲率の具体的な形としては例えば、

$$ \begin{aligned} \Omega_z &=\frac{\partial A_y}{\partial x}-\frac{\partial A_x}{\partial y}\\ &=i\frac{\partial}{\partial x}\Big(\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\frac{\partial}{\partial y}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle\Big)- i\frac{\partial}{\partial y}\Big(\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\frac{\partial}{\partial x}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle\Big)\\ &=i\langle\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial x}|\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial y}\rangle+ \cancel{i\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\frac{\partial^2}{\partial x\partial y}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}- \cancel{i\langle\psi_{\bm q}^{(n)}|\frac{\partial^2}{\partial y\partial x}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}- i\langle\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial y}|\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial x}\rangle\\ &=-2\,\text{Im}\,\langle\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial x}|\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial y}\rangle\\ \end{aligned} $$

などとなる。

$$ \langle\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial x}|\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial y}\rangle= \sum_{n'} \langle\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial x}|\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle \langle\psi_{\bm q}^{(n')}|\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial y}\rangle $$

の形に上で求めた

$$ \bm\nabla_{\bm q}|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle= {}-i\bm A\ |\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle+ \sum_{n'\ne n}- \frac{\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \bm\nabla_{\bm q}\hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}{\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)}}\ |\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle $$

を入れると、

$$ \langle\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial x}|\tfrac{\partial\psi_{\bm q}^{(n)}}{\partial y}\rangle= \underbrace{A_xA_y}_{\text{実数}}+ \sum_{n'\ne n} \frac{\langle\psi_{\bm q}^{(n)}| \tfrac{\partial}{\partial x}\hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \tfrac{\partial}{\partial y}\hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}{\big(\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\big)^2} $$

より、

$$ \Omega_z=-2\,\text{Im}\,\sum_{n'\ne n} \frac{\langle\psi_{\bm q}^{(n)}| \tfrac{\partial}{\partial x}\hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n')}\rangle\langle\psi_{\bm q}^{(n')}| \tfrac{\partial}{\partial y}\hat H(\bm q)\,|\psi_{\bm q}^{(n)}\rangle}{\big(\varepsilon_{\bm q}^{(n')}-\varepsilon_{\bm q}^{(n)}\big)^2} $$

を得る。

Berry 位相の重要性

なぜ Berry 位相が重要かというと、 $\bm q$ として $\bm k$ を取るとき、

$$ \bm\nabla_{\bm k} \hat H $$

は群速度 $v_g=\frac{\partial\omega}{\partial k}=\frac1\hbar\frac{\partial E}{\partial k}$ に相当する演算子

$$ \hat\bm v_g=\frac{1}{\hbar}\bm\nabla_{\bm k}\hat H $$

に $\hbar$ をかけたものとなる。

逆に、群速度と関連する「電流」などを求めようとすると、その過程で Berry 位相が出てくるため学んでおく必要がある。ということなのだと思う。

例:マグネティックモノポールとスピンの系(2)

上記の例について、

Berry 接続:

$$ \begin{aligned} A_\theta^{(1)} &=i\langle\psi^{(1)}|\frac{\partial}{\partial\theta}|\psi^{(1)}\rangle\\ &=i\begin{pmatrix} \sin(\theta/2) e^{i\phi}& {}-\cos(\theta/2)\rule{0pt}{10pt} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \cos(\theta/2) e^{-i\phi}/2\\ \sin(\theta/2)/2 \end{pmatrix}\\ &=0\hspace{5mm}(\,=A_\theta^{(2)}) \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} A_\phi^{(1)} &=i\langle\psi^{(1)}|\frac{\partial}{\partial\phi}|\psi^{(1)}\rangle\\ &=i\begin{pmatrix} \sin(\theta/2) e^{i\phi}& \cos(\theta/2)\rule{0pt}{10pt} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} {}-i\sin(\theta/2) e^{-i\phi}\\ 0 \end{pmatrix}\\ &=\sin^2\theta/2=\frac{1-\cos\theta}2\hspace{5mm}(\,=-A_\phi^{(2)}) \end{aligned} $$

Berry 曲率:

$$ \begin{aligned} \Omega_{\theta\phi}^{(1)} &=-2\,\text{Im}\,\langle\tfrac{\partial\psi^{(1)}}{\partial\theta}|\tfrac{\partial\psi^{(1)}}{\partial\phi}\rangle\\ &=-2\,\text{Im}\,\begin{pmatrix} \cos(\theta/2) e^{i\phi}/2&\rule{0pt}{10pt} \sin(\theta/2)/2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} {}-i\sin(\theta/2) e^{-i\phi}\\ 0 \end{pmatrix}\\ &=\frac12\sin\theta\hspace{5mm}(\,=-\Omega_{\theta\phi}^{(2)}) \end{aligned} $$

Berry 位相:($\theta$ を一定にして $\phi$ を1周させる経路)

$$ \begin{aligned} \gamma^{(1)}(\theta)&=\oint_{C(\theta)}\bm A\cdot d\bm q\\ &=\int_0^{2\pi}d\phi\int_0^\theta d\theta'\,\bm\Omega_{\theta'\phi}\\ &=2\pi\int_0^\theta d\theta'\,\frac12\sin\theta\\ &=\pi(1-\cos\theta) \end{aligned} $$

となる。

このとき $\theta$ を $\pi$ にもっていくと $2\pi$ になる。

$$ \lim_{\theta\to\pi}\gamma^{(1)}(\theta)=2\pi $$

Berry 束と Chern 数

一般に、閉じた二次元多様体上でベリー曲率を積分した値は「Berry 束」と呼ばれ(?) 、この値は $2\pi$ の整数倍となることが知られている(Chern の定理?)。

上の例で $\theta\to\pi$ は積分範囲がパラメータ空間全域にわたっており、この条件が満たされている。(二次元系において「閉じた二次元多様体」はパラメータ空間全体を覆うものしかないということ(?))

また、この「整数値」を Chern 数と呼ぶ。

上記の例では Chern 数は 1 である。

Zak 位相

Berry 位相の線積分は始点と終点が同じとなる「周回積分」だったが、ある $\bm k$ から隣のブリルアンゾーンの対応する $\bm k+\bm G$ まで Berry 接続を線積分した値は Zak 位相と呼ばれる。$\bm k$ と $\bm k+\bm G$ は物理的には同じ状態であるから、両者に対する波動関数は位相以外同一のものとなるが、その位相差が Zak 位相である。

実は Berry 曲率 $\bm\Omega$ には

  • 系が時間反転対称性($i\to-i$ に対して対称)を持つと $\bm\Omega(-\bm k)=-\bm\Omega(\bm k)$
  • 系が空間反転対称性($\bm r\to-\bm r$ に対して対称)を持つと $\bm\Omega(-\bm k)=\bm\Omega(\bm k)$

という性質があるため、空間反転対称性の両方を持つような普通の物質の中では $\bm\Omega=0$ になり、Berry 位相はゼロになる(磁束密度がゼロの時の磁束に対応)。

一方、そのような場合にも Berry 接続自体は有限になり、Zak 位相が有限となる場合が生じる(磁場がなくてもベクトルポテンシャルは存在する可能性あり)。

この議論は磁場がない空間でもベクトルポテンシャルは有限になっており、その空間での波動関数に影響を及ぼしうるというアハラノフ=ボーム効果(AB 効果)のアナロジーとして理解できるとのこと。

Block 波状態に適用する

$n$ 番目のバンドにある波数 $\bm k$ の Block 波状態:

$$ \psi_{\bm k}^{(n)}(\bm r)=e^{i\bm k\cdot\bm r}\underbrace{u_{\bm k}^{(n)}(\bm r)}_{\text{周期関数}} $$

シュレーディンガー方程式:

$$ \begin{aligned} \hat H\psi_{\bm k}^{(n)}(\bm r) &=\Big[-\frac{\hbar^2}{2m}\bm\nabla^2+V(\bm r)\Big]e^{i\bm k\cdot\bm r}u_{\bm k}^{(n)}(\bm r)\\ &=e^{i\bm k\cdot\bm r}\underbrace{\Big[\frac{1}{2m}\big(-i\hbar\bm\nabla+\hbar\bm k\big)^2+V(\bm r)\Big]}_{\hat H_{\bm k}}u_{\bm k}^{(n)}(\bm r)\\ &=e^{i\bm k\cdot\bm r}\cdot\varepsilon_{\bm k}^{(n)}u_{\bm k}^{(n)}(\bm r)\\ \end{aligned} $$

より、

$$ \hat H_{\bm k}u_{\bm k}^{(n)}(\bm r)=\varepsilon_{\bm k}^{(n)}u_{\bm k}^{(n)}(\bm r) $$

すなわち、$u_{\bm k}^{(n)}(\bm r)$ に対するハミルトニアンはパラメータ $\bm k$ を含んだ $\hat H_{\bm k}$ となる。で、$\hat H_{\bm k}$ の形は $\hbar\bm k$ のところを $e\bm A$ (この $A$ はベクトルポテンシャル)に読み替えると磁場があるときのハミルトニアンになることに注目しよう。→ 電磁気学/電磁ポテンシャルの導入#k13bd197

$$ \bm A^{(n)}(\bm k)=i\langle u_{\bm k}^{(n)}|\bm\nabla_{\bm k}u_{\bm k}^{(n)}\rangle $$

$$ \bm \Omega^{(n)}(\bm k)=\text{rot}\,\bm A^{(n)}(\bm k) $$

$$ \begin{aligned} \gamma^{(n)} &=\oint\bm A^{(n)}(\bm k)\cdot d\bm k\\ &=\int_S\bm \Omega^{(n)}(\bm k)\cdot d\bm S\\ \end{aligned} $$

ブリルアンゾーン(B.Z.)の周囲を回る周回経路の Berry 位相は Berry 曲率を閉じた二次元多様体全域で面積分したものとみなすことができ、Chern 数で表される。

$$ \begin{aligned} \gamma^{(n)}_{\text{B.Z.}} &=\int_{B.Z.}\bm \Omega^{(n)}(\bm k)\cdot d\bm S=2\pi\times(\text{Chern数})\\ \end{aligned} $$


*1 もっと簡単に書くと、あるベクトル $\bm v$ がノルムを変えず変化して $\bm v+\delta\bm v$ となったとすると、$$\begin{aligned}&\|\bm v\|^2=\|\bm v+\delta\bm v\|^2=\\&\|\bm v\|^2+2\,\text{Re}\,(\bm v,\delta\bm v)+\|\delta\bm v\|^2\end{aligned}$$2次の微少量を無視すると$$\,\text{Re}\,(\bm v,\delta\bm v)=0$$すなわち、$\delta\bm v$ の $\bm v$ 成分は純虚数でなければならない。ということ。

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