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測定環境としての真空

真空について

真空のメリットとして、

  1. 試料表面を制御された状態に保つことができる
  2. 電子を用いたさまざまな試料分析装置と組み合わせることができる
  3. 試料温度を自由に変化させることができる
といった点が挙げられます。

金属や半導体などの応用上興味を持たれる表面の多くが大気中で安定ではなく、大気分子と反応して状態を変化させてしまうため、これをよく制御された条件に保つための環境として真空が用いられます。

電子線などを用いた測定手法は、気体分子で充満された雰囲気では使うことができません。電子が気体分子に散乱されてしまいますし、それ以前に電子銃のフィラメントが焼けてしまいます。

STM や AFM のように、測定手法自体が真空を必要としない場合にも、真空中であれば、試料の温度を非常に高い自由度で変化させることができます。真空が無い状態で試料を低温( < 100K )にすると・・・気体分子が液化あるいは固化して、試料表面を覆いつくしてしまいます。真空が無い状態で試料を高温( > 500K )にすると・・・試料が酸化したり、そもそも加熱用のフィラメントが焼けてしまったり、ろくなことが起こりません。

真空の種類

真空は、気圧の範囲によっていくつかのグレードに分けられます。

大気圧 〜105 Pa
大気圧を圧力の公式単位であるパスカル(Pa)を用いて表すと、おおよそ 1000 ヘクトパスカルになります。気象情報などでご存知の通り、1気圧は正確には1013ヘクトパスカルです。「ヘクト」は 102 を表す接頭子ですので、これは 105 Pa ということになります。

低真空 〜 1 Pa
ロータリーポンプと呼ばれる機械式ポンプで到達可能な圧力です。水の沸点は低圧で下がることは有名で、高地ではお米がおいしく炊けない(温度が低いため)などと言われますが、低真空と呼ばれる圧力領域では、水は室温でも沸騰し、さらには氷になってしまいます。これを利用してフリーズドライなどの加工が行われます。

高真空 〜 10-4 Pa
油拡散ポンプやターボ分子ポンプを使って得られる真空です。この程度になると、真空中に電子を飛ばしても、残留気体分子に散乱されることが無くなるため、電子線回折装置や電子顕微鏡を動かすことができるようになります。薄膜蒸着などを行う装置もこの程度の圧力であることが多いです。ただし、金属や半導体などの表面を清浄な状態に保っておくには高真空でも足りません。金属などの表面を 10-4 Pa の環境に置いた場合、わずか1秒の間に表面原子1つ当たり1つの残存気体分子が表面に衝突する計算になります。

超高真空 〜 10-8 Pa
イオンスパッタポンプやチタンゲッタポンプと言った強力なポンプを使うだけでなく、パッキング部分をゴムではなく銅製のものに変え、さらに容器を100℃以上に加熱するベーキングと呼ばれる処理を施してようやく得られる、実験室レベルでは最高水準の真空環境です。さらに、容器を低温に冷やすなどの工夫をすれば、非常に反応性の高い金属表面でも、長時間に渡って残存気体分子の吸着のほとんど無い状態に保っておくことができます。

重川研究室の真空装置では、希釈冷凍機を低真空で、蒸着用チャンバを高真空で、真空 STM/AFM 装置を超高真空で動かしています。