光STM
概要
走査トンネル顕微鏡(STM)を用いると、物質の表面形状を原子スケールの分解能で観察することができます。
光STM は、STM 測定時に試料を光照射により励起することで、表面形状に加えて、
試料の電気的特性、光学的特性をナノスケールの空間分解能、あるいは分子単位で測定しようと言うものです。
光STM にはいくつもアプローチがありますが、特に重川研究室では、以下のようなテーマに取り組んでいます。
光変調トンネル分光法
時間分解 STM
分子光スイッチ
光照射による表面原子構造制御
Si(100)表面構造相転移
半導体試料にバンドギャップを越えるエネルギーを持つ光を照射することで
光キャリアを励起し、STM 探針直下での局所表面光起電力(SPV)を
ナノスケールで測定する手法です。
測定結果を解析することにより半導体表面のバンド構造や、
キャリア密度、ドーパントや欠陥の密度 などを
STM と同程度の空間分解能で知ることができます。
光変調トンネル分光法の原理
光変調トンネル分光法の応用
(1) GaAs-pn接合を流れる少数キャリアーの可視化
A: 実験の模式図。
B: SPVの空間分布(明暗の境がpn接合部・左(n型)右(p型))。
図Aのp-n接合部を含む表面に沿った多くの場所でSPVを計測し、それぞれの場所でのSPVの大きさを明るさにして表したもの。詳細は省くが、少数電荷が注入されると暗状態でのバンドの湾曲が減少するためSPVは減少する。つまり、明るい部分が暗くなっていくのは、順方向バイアスを加えることにより、n型の領域にホールが注入されている様子を表している。
C: マクロな方法で求めたp-n接合の特性。順方向バイアスの増加とともに電流が変化する。こうした小数キャリアーの伝導特性は、(1)バイアスが低いときは、まず接合部での再結合(η=1)、(2)バイアスが増加するとともに中性領域への拡散が進み、(3)さらに注入量が増加すると、p、n、両領域での電圧降下が影響する領域へと変化する。といったメカニズムにより説明されてきた。この関係は重要で、デバイスの解析に用いられてきたが、実際に、小数キャリアーの伝導を観察することはかなわなかった。図Bは、こうしたメカニズムを直接示した初めての結果である。
STM と超短パルスレーザーとを組み合わせることで、空間的にはオングストロームの
分解能を持ち、時間的にはフェムト秒の分解能を持つ、究極の(!?)極微・
超高速顕微鏡を実現する
光照射による試料状態の変化を原子分解能、分子分解能で観察することにより、
分子や原子の光物性を観測する
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