量子力学Ⅰ/線形代数の復習
概要†
量子力学で用いる関数空間の概念について復習する。
線形代数IIを履修済みの学生を念頭に置いている。
このページは画面幅がある程度大きくないと見づらいため、 スマホよりもPC等の広い画面で見ることを推奨します。
目次†
関数の線形空間 = 関数空間†
ある決まった区間 (ただし は でも可) で定義される複素関数すべてからなる集合 を考えると、 は以下で定義される関数の和と複素数倍に対して線形空間を為す。
、 のとき、
和 を
複素数倍 を
(線形空間とは和とスカラー倍に対して閉じた空間のことだった。閉じている、とは演算の結果が集合の外の出ない、つまり であるということだった。あやふやな人は復習しておくこと。)
以下、数ベクトル空間と対比させながら複素関数空間について復習する。
ベクトルのグラフ†
のとき、 添字 に対して をプロットすれば、 「ベクトルのグラフ」を表示できる。 |
のとき、 変数 に対して をプロットすれば、 「関数のグラフ」を表示できる。 |
から への対応関係を決めると、 それが1つのベクトルを決めることに相当する。 |
から への対応関係を決めると、 それが1つの関数を決めることに相当する。 |
このグラフで考えると、
- ベクトルの和はグラフの上下方向への重ね合わせに
- ベクトルの定数倍はグラフの上下方向の引き延ばしに
それぞれ対応する。
ただし本来、ベクトルや関数の値は複素数を想定しているので、 上記グラフはあくまで概念的な物である。
内積・ノルム・直交・規格化・正規直交†
以下で用いる の記号は行列 のエルミート共役(随伴行列)を表わしており、 と定義される。 ただし、 は の転置行列、 は の複素共役行列である。
[標準内積] 複素内積では に が付く。 線形代数学では と定義する流儀もあるが、 側に を付ける方が量子力学との親和性が高いため、 応用理工の線形代数では上の流儀を採用していた。 |
[標準内積] は で積分可能な関数の集合とする。 |
[非負性] 任意の
に対して となるのは に限る。 |
[非負性] 任意の
に対して となるのは に限る。 |
[ノルム] |
[ノルム] 複素数 の絶対値 と区別するため と書く。 |
[正規化] とすれば |
[正規化] とすれば |
[直交] のとき |
[直交] のとき |
[正規直交] ベクトルの組 に対して |
[正規直交] 関数の組 に対して |
完全性・成分表示†
[張る] ベクトルの組 が線形空間 を張るとは、 任意の要素 を次のように線形結合として表せることである。 以下では を を張る正規直交系、 すなわち の正規直交基底であるとする。 |
[完全] 関数系 が集合 で完全であるとは、 任意の関数 を次のように線形結合として表せることである。 以下では を における正規直交完全系であるとする。 |
[成分表示] と分解するとき、 その係数は として求められる。(あるいは ) すなわち、 |
[成分表示] と分解するとき、 その係数は として求められる。 すなわち、 |
[正規直交基底の条件] 上式を変形すれば、 となり、任意のベクトル に対して成り立つから、 である。この式を正規直交基底の条件とする場合もある。 |
[正規直交完全性の条件] 上式を変形すれば となり、任意の関数 に対して成り立つから、 である。この式を正規直交完全性の条件とする場合もある。( はディラックのデルタ関数) |
[成分とノルム] のとき、 |
[成分とノルム] のとき、 |
この関係は内積で書いたノルムの式に展開した形を代入し、正規直交条件を用いることで容易に導ける。
部分空間†
たとえば、 とすれば であり、なおかつ は和とスカラー倍について閉じている。したがって、 は の部分空間となる。
このように、 に和やスカラー倍で保存する何らかの制約を課した部分空間を考えることもよく行われる。
- ?回微分可能とか、積分可能とか
- 両端でゼロとなる境界条件 ( )とか、周期的境界条件 ( )とか
- ある線形な微分方程式の解であるとか(ある線形演算子 $\hat A$ に対する $\hat A\bm x=\bm 0$ の解空間)
線型変換・線型演算子†
[線型変換] あるベクトルを同じ空間の別のベクトルに変える変換 が 任意の に対して を満たす時、これを線型変換という。 |
[線型演算子] ある関数を別の関数に変える演算子 が 任意の に対して を満たす時、これを線型演算子という。 例えば |
[行列表現] 線型変換 の行列表現 は であり、このとき と表せる。 |
[行列表現] 任意の線型演算子 に対してその行列要素は と定義され、 |
エルミート変換†
[エルミート共役] 任意の に対して となるような を のエルミート共役と呼ぶ。 標準内積では として求められる。 |
[エルミート共役] 任意の に対して となるとき、 を のエルミート共役と呼ぶ。 |
[エルミート行列] のとき をエルミート行列と呼ぶ。 このとき が成り立つ。 |
[エルミート演算子] のとき をエルミート演算子と呼ぶ。 このとき が成り立つ。 |
ユニタリー変換†
[ユニタリー行列] 任意の に対して となる をユニタリー行列と呼ぶ。 当然、 も成り立つ。 またこのとき すなわち である。 |
[ユニタリー演算子] 任意の に対して となる をユニタリー演算子と呼ぶ。 当然、 も成り立つ。 またこのとき すなわち である。 ここで は恒等変換を表わす。 |
[正規直交基底の変換行列] と がどちらも正規直交基底であれば、 となる はユニタリー行列になる。 |
[正規直交完全系の変換演算子] と がどちらも正規直交完全系であれば、 となる はユニタリー変換になる。 |
固有値問題†
固有値、固有ベクトル・固有関数†
[行列の固有値問題] 正方行列 $A$ に対して、 $$A\bm x=\lambda \bm x$$ を満たす固有値 $\lambda$ と、固有ベクトル $\bm x$ を求める問題。 $A$ が $n$ 次正方行列であれば、最大で $n$ 個の異なる固有値 $\lambda_k$ が求まり、それぞれの固有値に対して $1$ 個以上の一次独立な固有ベクトル $\bm x_k^{(l)}$ が求まる。 |
[線形演算子の固有値問題] $U$ をある関数空間として、線形演算子 $\hat A:U\to U$ に対して、 $$\hat A f(x)=\lambda f(x)$$ を満たす固有値 $\lambda$ と、固有関数 $f(x)\in U$ を求める問題。 行列とは異なり無限個の固有値が求まる場合があり、さらに $\lambda_1,\lambda_2,\dots$ のように固有値が離散的に求まる場合と、ある範囲の $\lambda$ がすべて固有値となるような連続的な固有値が求まる場合とがある。 |
連続固有値と離散固有値†
$U$ を $-\infty<x<\infty$ で定義された有限な複素関数の集合とし、$\hat A=-\frac{d^2}{dx^2}$ とすると、 任意の $\lambda\ge 0$ が固有値となり、それに対応する固有関数は $e^{ikx}$ および $e^{-ikx}$ である。ただし、$k=\sqrt{\lambda}$ ($\lambda=0$ に限り $e^{ikx}$ と $e^{-ikx}$ とは独立にならない)。確かめてみると、
$$\hat Af_{\pm k}(x)=-\frac{d^2}{dx^2}e^{\pm ikx}=\mp ik\frac{d}{dx}e^{\pm ikx}=k^2e^{\pm ikx}= \lambda f_{\pm k}(x)$$
一方、箱の中の自由粒子でやったように $a$ を正の定数として $U'$ を $0\le x\le a$ で定義された $f(0)=f(a)=0$ を満たす関数の集合とすると(境界条件の追加)、$\hat A$ の固有値は離散的になり $n$ を自然数として $\lambda_n=-(n\pi/a)^2$ のみが固有値となる。対応する固有関数は $e^{in\pi x/a}$ と $e^{-in\pi x/a}$ である。
対角化可能性†
相似変換†
固有関数の直交性†
正規行列・正規演算子†
エルミート行列の固有値は実数†
ユニタリー行列の固有値は絶対値が1†
デターミナント・トレース・固有値†
定義・性質†
固有値との関係†
相似変換で保存†
デターミナントとノルム†
行列の関数†
$H$ がエルミートなら $e^{iH}$ はユニタリー†
の固有値を とすれば、
の固有値は であり、 すべて絶対値が1となるからこれはユニタリーである。
質問・コメント†
文字の変換について†
()
記事の内容に関係なくて申し訳ないのですが、文字がうまく変換されていない部分が2か所あります。
1つは部分空間の部分の「ある線形演算子 $\hat A$ に対する $\hat A\bm x=\bm 0$ の解空間」で、もう一つは「$H$ がエルミートなら $e^{iH}$ はユニタリー」の部分です。
- ご指摘ありがとうございます。直ったと思います。 -- 武内(管理人)