量子力学Ⅰ/固有値と期待値 の履歴(No.15)
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目次†
概要†
シュレーディンガー方程式を解いて物理量の期待値を求める問題は 線形代数の知識を使って理解すると見通しが良い。
以下、線形代数IIで学んだ関数空間の考え方が量子力学でどのように生かされるかを学ぶ。
確率密度・期待値†
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 [数ベクトル]  | 
 [波動関数]  | 
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 [内積]  | 
 [積分]  | 
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 [ノルムの二乗]  | 
 [全確率密度] 規格化された波動関数のノルムは1である。  | 
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 [規格化]  | 
 [規格化]  | 
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 [行列] 数ベクトルを数ベクトルに変換する任意の線型変換は、行列のかけ算で表現できる。  | 
 [線型演算子] &math(\hat A\big(a\psi_1(\bm r,t)+b\psi_2(\bm r,t)\big) =a\hat A\psi_1(\bm r,t)+b\hat A\psi_2(\bm r,t)); 関数を別の関数に変換する線型変換を、演算子 を左から掛ける形で書く。 例:ハミルトニアン  | 
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 [行列の積の非可換性] 一般に、 である。  | 
 [演算子の非可換性] 一般に、 である。 例: なら 
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 [行列のエルミート共役] 転置の複素共役  | 
 [演算子のエルミート共役]  | 
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 [エルミート行列] がエルミート行列とは つまり を満たす行列のこと。  | 
 [エルミート演算子] がエルミート演算子とは つまり を満たす演算子のこと。  | 
演習:物理量を表わす演算子のエルミート性†
境界条件 
 を満たす一次元波動関数 
の集合 
 は線形空間と見なせる。
→ 和と複素数倍に対して境界条件は保存されるから、これらの演算に対して 
 は閉じている。
において、「観測可能な物理量」を表わす演算子はすべてエルミート演算子になる。 現実的な問題では常にこの境界条件は満たされるため、このことは非常に重要である。
(1) 演算子 (ただし は実数関数つまり ) のエルミート共役が 自身になること、すなわち がエルミート演算子であることを示せ。( と置けば、演算子 もエルミートであることがわかる)
(2) 演算子 のエルミート共役が となることを示せ。部分積分を使い、上記の境界条件を用いるとよい。
(3) 演算子 のエルミート共役が 自身になること、すなわち がエルミート演算子であることを示せ。
(4) エルミート演算子 
 の
(5) エルミート演算子 の和 がエルミート演算子となることを示せ。
(6) エルミート演算子 の積 は すなわち と が可換でない限り エルミート演算子ではない ことを示せ。
(7) ハミルトニアン演算子 がエルミート演算子であることを示せ。
(8) 上記演算子 について、 であることを示せ。 すなわち や はエルミート演算子ではない。
解説:物理量を表わす演算子のエルミート性†
上記の通り、量子力学で「観測可能」とされる物理量は必ずエルミートになる。
逆に、物理量を演算子で表わした際にエルミートにならないような物理量は観測可能ではない。 例えば、位置 と運動量 の積 は観測可能ではない。
これは、位置 と運動量 を同時に、 正確に測定する手段がないという意味で、そのため積を観測できないことになる。
観測可能性については後に 不確定性原理 のところで詳しく学ぶ。
シュレーディンガー方程式・固有値†
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 [ベクトル方程式]  | 
 [シュレーディンガー方程式]  | 
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 [固有値方程式]  | 
 [時間に依存しないシュレーディンガー方程式]  | 
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 [$A_H$の固有値・固有ベクトル]  | 
 [エネルギー固有値・固有関数]  | 
固有関数の物理量は固有値そのものである†
期待値は固有値になり、
&math(\overline A &=\iiint\varphi^*(\bm r)\hat A\varphi(\bm r)\,d\bm r\\ &=\iiint\varphi^*(\bm r)\lambda\varphi(\bm r)\,d\bm r\\ &=\lambda\iiint\varphi^*(\bm r)\varphi(\bm r)\,d\bm r\\ &=\lambda );
分散、標準偏差はゼロになる。
&math(\overline{\sigma_A^2} &=\iiint\varphi^*(\bm r)(\hat A-\overline A)^2\varphi(\bm r)\,d\bm r\\ &=\iiint\varphi^*(\bm r)(\hat A-\lambda)^2\varphi(\bm r)\,d\bm r\\ &=\iiint\varphi^*(\bm r)\big(\hat A^2\varphi(\bm r)-2\lambda\hat A\varphi(\bm r)+\lambda^2\varphi(\bm r)\big)\,d\bm r\\ &=\iiint\varphi^*(\bm r)\big(\lambda^2\varphi(\bm r)-2\lambda^2\varphi(\bm r)+\lambda^2\varphi(\bm r)\big)\,d\bm r\\ &=0 );
すなわち、ある物理量を表わす演算子 の固有関数 に対して物理量 を観測すれば、常に固有値 が得られることになる。
- 一般に波動関数は複素数値をとるが「物理量」は実数となるべきである
 - 固有関数ではない波動関数に対しては観測結果は確率的にしか決まらない
→ 確率分布はどのようなものになる? 
こういったことを考える際に、物理量を表わす演算子がエルミートであることが重要になる。
エルミート演算子の固有値問題†
時間に依存しないシュレーディンガー方程式はそのままハミルトニアン演算子に対する固有値問題であったが、 これと同様に任意の「観測可能な物理量」に対応するエルミート演算子に対して固有値問題を考えることができる。(位置演算子、運動量演算子、角運動量演算子・・・)
エルミート行列では、
- 固有値はすべて実数
 - 異なる固有値に属する固有ベクトルは互いに直交
 - 固有ベクトルを列ベクトルとするユニタリー行列を用いて対角化が可能
 
であった。
この、エルミート行列を対角化するユニタリー行列の各列ベクトルは正規直交系を為し、 なおかつ 次元空間を張るから、 次元数ベクトル空間の 正規直交基底 を作ることになる。
同様に、エルミート演算子では、
- 固有値はすべて実数
 - 異なる固有値に属する固有関数は互いに直交
 - 固有関数により正規直交完全系を作れる
 
以下では や をエルミートとする。
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 [固有値は実数] ならば  | 
 [固有値は実数] ならば  | 
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 [固有ベクトルで正規直交系基底を作れる] 個のベクトル を、 かつ となるように選ぶことができる。 それらを並べた により、 を対角行列にできる。 これは となることに対応する。  | 
 [固有関数で正規直交完全系を作れる] 完全系 を、 かつ となるように選ぶことができる。 それらに対して、  | 
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 [固有ベクトルによる展開] 任意のベクトルを固有ベクトル で展開できる( 本の一次独立なベクトルは基底をなすから)。 このとき、 &math((\bm a,A\bm a)&=\sum_{i=1}^\infty\sum_{j=1}^\infty c_i^*c_j(\bm e_i,A\bm e_j)\\ &=\sum_{i=1}^\infty\sum_{j=1}^\infty c_i^*c_j\,\lambda_i\delta_{ij}\\ &=\sum_{i=1}^\infty \lambda_i|c_i|^2 );  | 
 [固有関数による展開] 任意の関数を固有関数 で展開できる(完全性)。 このとき、 &math(\overline A&=\iiint \varphi^*(\bm r)\hat A\varphi(\bm r)d\bm r\\ &=\sum_{i=1}^\infty \lambda_i|c_i|^2 ); 展開係数 から期待値を求められる。 より具体的には、測定値が となる確率は で与えられる。 測定値が となる確率を、 &math( \mathrm{Eq}(x,y)=\begin{cases} 1&x=y\\ 0&x\ne y \end{cases}); を用いて次のように表せると考えれば理解しやすい。 &math( \overline{\mathrm{Eq}(A,\lambda_i)} &=\sum_{j=1}^\infty \mathrm{Eq}(\lambda_j,\lambda_i)|c_j|^2\\ &=|c_i|^2\\ );  | 
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 [正規直交系による展開係数] 上記の は に左から を掛けて、 &math(c_i &=(\bm e_i,\bm a)\\ &=\sum_{j=1}^\infty c_j(\bm e_i,\bm e_j) \\ &=c_i\\ ); として求められる。  | 
 [正規直交系による展開係数] 上記の は に左から を掛けて、 として求められる。  | 
簡単な例†
であるとする。
が正規直交であれば、 を満たす実数 に対して、
は正規化された関数となる。なぜなら、
&math( \|\varphi\|^2 &=(\varphi,\varphi)\\ &=a^2\|\varphi_1\|^2+ab\cancel{(\varphi_1,\varphi_2)}+ba\cancel{(\varphi_2,\varphi_1)}+b^2\|\varphi_2\|^2\\ &=a^2+b^2\\ &=1 );
この から を取り出すには、
また、
- となる確率は
 - となる確率は
 
であるから、
「観測可能な物理量」の実数性†
がエルミート演算子であれば、固有値 はすべて実数であるから、 その期待値 も必ず実数になることが分かる。