量子力学Ⅰ/球面調和関数 の履歴(No.17)
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目次†
球関数 $Y^m_l(\theta,\phi)$:角運動量の固有関数†
の方程式
&math(\Big[\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+l(l+1) \sin^2\theta\Big]\Theta(\theta)=m^2\Theta(\theta));
は、 が
の範囲の整数になるときのみ解を持ち、その固有関数はルジャンドルの陪関数を用いて表わすことができる。
ただし、 はルジャンドルの多項式で、
によって与えられる。これらを用いた
&math( Y_l^m(\theta,\phi)= \underbrace{(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)}_{\Theta(\theta)} \underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}}_{\Phi(\phi)} );
は正規直交完全な固有関数となり、この関数を 球面調和関数 と呼ぶ。*1ここでは符号を に含めたが、符号を に含めても、両者で分け合っても、正規直交条件を満たすことはできる
・・・ |
特徴†
- より、 &math( (-1)^{(m-|m|)/2}=\begin{cases}
- 1\hspace{0.5cm}&m\,が偶数\\
- 1\hspace{0.5cm}&m\,が奇数でm>0\\
- 1&m\,が奇数でm<0 \end{cases} );
- と の 次同次関数になっている ( などとなることに注意せよ)
形状†
方向別に原点から の距離の点を結ぶ曲面をプロットした。 色は位相を表しており、黄色が+1、青が-1に対応する。
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- は実数関数である
- は位相を回転させるだけで大きさを変えない
- そのため絶対値のプロットは 軸を中心とする回転体となり、また、 と は同じ形になる
- 位相は が一周する間に 回だけ回転する
- 位相は と とで 平面に対して対称になる
- 方向は隣り合う突出部で符号が反転することから、位相も反転する
- は球形
- では はドーナツ型。 が大きいほど扁平で、半径も大きい。 全角運動量が大きくなるため原点から遠ざかり、 つまり 成分がほぼゼロであるために扁平になると解釈できる。
- 方向には 個の突出部が見られる
より分かりやすい表示†
をプロットすると、さらに球面調和関数の意味を理解しやすい。*2http://www.sccj.net/CSSJ/jcs/v... を参考にした
- より
- &math( \therefore\Psi_l^m=\begin{cases} \Big(Y_l^{|m|}-(-1)^{m}Y_l^{-|m|}\Big)/i\sqrt 2\hspace{5mm}&(m<0)\hspace{5mm}\propto\sin m\phi\\ \hspace{1cm}Y_l^0&(m=0)\hspace{5mm}\propto 1\\ \Big(Y_l^{|m|}+(-1)^{m}Y_l^{-|m|}\Big)/\sqrt 2&(m>0)\hspace{5mm}\propto\cos m\phi \end{cases} ); は実関数*3球面調和関数に符号が含まれるため、ここでも符号に注意して足し合わせる必要がある
- と も互いに直交するため、 は正規直交系をなす
- は の回転面内に 本の突起を持つ
- と は半周期だけ の位相がずれている
- 方向には 方向に分岐する
- 隣り合う突出部では波動関数の符号が反転している(節をまたぐと符号が反転する理由は下図参照)
$z$ が特殊なわけではない†
上のグラフを見るとあたかも が特殊な方向であるかのように錯覚するがそんなことはない。
は、 とそっくり同じ形で、それぞれ 方向を向いた関数となる。
これらの関数は高校でも 軌道として学んだ。
ある量子数 に対して の異なる 個の固有関数が縮退している。 それらの任意の線形結合はすべて同じ固有値 に属する固有関数となる。 軸を特殊な方向として取る球座標を使って変数分離したことにより、 これらの線形結合の中から、同時に の固有関数でもある物が として現れたのである。
の固有関数であるから が特殊な方向になったというだけのことである。
同じ に属する固有関数の確率密度をすべて足し合わせてしまえば、 次のように球対称な定数関数が得られる。
$x,y,z$ との関係†
p 状態
&math(\begin{array}{lll} r (Y_1{}^{1}-Y_1{}^{-1}) &\propto x\\ r i(Y_1{}^{1}+Y_1{}^{-1})&\propto y\\ r Y_1{}^0 &\propto z\\ \end{array} );
であるから、これらの軌道は と呼ばれる。
d 状態
&math( \begin{array}{lll} r^2\, i(Y_2{}^{2}-Y_2{}^{-2})&\propto xy\\ r^2\, i(Y_2{}^{1}+Y_2{}^{-1})&\propto yz\\ r^2\, (Y_2{}^{1}-Y_2{}^{-1}) &\propto zx\\ r^2\, (Y_2{}^{2}+Y_2{}^{-2}) &\propto x^2-y^2\\ r^2\, Y_2{}^{0} &\propto 3z^2-r^2 \end{array} );
であるから、これらの軌道は などと呼ばれる。
逆に、
あるいは、
などと表すこともできる。
演習:$m$ に関する漸化式†
より、
一方、 を に変換するには、先に導入した演算子
が役に立つ。 具体的には に対する次の漸化式が成り立つ。
&math( \begin{cases} \,\hat l_+\,Y_l{}^{m}(\theta,\phi)=\hbar\sqrt{(l-m)(l+m+1)}\,Y_l{}^{m+1}(\theta,\phi)\\ \,\hat l_-\,Y_l{}^{m}(\theta,\phi)=\hbar\sqrt{(l+m)(l-m+1)}\,Y_l{}^{m-1}(\theta,\phi)\\ \end{cases} );
すなわち、 は量子数 を1だけ増やす/減らす演算子になっている。
(1) の は の範囲に入らなければならなかった。 のとき、さらに1だけ を増やそう/減らそうとすると何が起きるか? 上記の漸化式を元に確かめよ。
(2) は の固有関数でも、 の固有関数でもないが、 や の固有関数になっている。 その固有値を求めよ。
(3) となることを確かめよ
(4) (2),(3) の結果を用いて を示せ。
解説†
(4) より、 は および の固有関数であると共に、 の固有関数でもある。(ただし、 や の固有関数ではない)
このことは、次のように書き表してみると明らかである。
&math( \underbrace{\hat l^2}_{\hbar^2l(l+1)}Y_l{}^m= (\underbrace{\hat l_x^2+\hat l_y^2}_{\hbar^2(l^2+l-m^2)}+ \underbrace{\hat l_z^2}_{\hbar^2m^2})Y_l{}^m );
すなわち、上記 (4) の結果は と とから直接導けるものである。
この関係を図形的に理解しよう。
たとえば に対応する f 状態では であるから、 対応する角運動量ベクトル は半径 の球面上にある。
この状態に対してある方向の角運動量成分 は と同時に確定値を取ることができて、その値は に対応する 個の値を取りうる。
例えば の状態に対しては であり、 それに対応して であるが、 は完全に不定である。
すなわち、 は左図に示した紫の円錐上にあることになる。
他の についてもそのような円錐を考えることができ、その方向は中図に示したようになる。
これは角運動量ベクトルの成分を確定した方向(ここでは 軸)と、 実際に角運動量ベクトルが向く方向との間の角度、 すなわち方位が 通りに決まると言ってもよい。 そこで は方位量子数あるいは(軌道)角運動量量子数と呼ばれる。
一方、 はある方向への磁化を決める量であるため、(軌道)磁気量子数と呼ばれる(荷電粒子である電子の磁気モーメントは角運動量に比例するため)。
質問・コメント†
*1 ここでは符号を に含めたが、符号を に含めても、両者で分け合っても、正規直交条件を満たすことはできる
*2 http://www.sccj.net/CSSJ/jcs/v3n1/a5/textj.html を参考にした
*3 球面調和関数に符号が含まれるため、ここでも符号に注意して足し合わせる必要がある