生成・消滅演算子による多粒子系の記述 の履歴(No.2)
更新生成・消滅演算子による多粒子系の記述†
多粒子状態の数表示†
1粒子に対する正規直交完全系を $\psi_1,\psi_2,\psi_2,\dots$ とし、そのそれぞれを $n_1,n_2,n_3,\dots$ 個の粒子($n_i$ は $0$ 以上の整数値)が占めることで作られる多粒子状態を $|n_1,n_2,\dots\rangle$ と表す(位相等について後でもう少し詳しい定義を与える)。
1粒子状態が完全であれば $|n_1,n_2,\dots\rangle$ も完全になるため、任意の多粒子状態をこの重ね合わせで表せる。
$$ \Psi=\sum_{\{n_1,n_2,\dots\}} C_{n_1,n_2,\dots}|n_1,n_2,\dots\rangle $$
一方、$|n_1,n_2,\dots\rangle$ に作用して粒子数 $n_i$ を取り出す「数演算子」 $\hat n_i$ を導入する。
$$ \hat n_i\,|n_1,n_2,\dots\rangle= n_i\,|n_1,n_2,\dots\rangle $$
$|n_1,n_2,\dots\rangle$ は $\hat n_i$ の固有状態とみなせることから、これらは「数状態」と呼ばれる。固有値が必ず実数となることから $\hat n_i$ はエルミートである。数状態は各1粒子状態を占める粒子の個数が確定した状態であるのに対して、一般の $\Psi$ に対してはそのような個数は確率的にしか決まらない。任意の $\Psi$ を数状態で展開した形は「数表示」と呼ばれる。
消滅演算子・生成演算子†
数状態に作用して $n_i$ を1だけ減少させる演算子として「消滅演算子」$\hat c_i$ を考える。ただし、作用後の関数は規格化されているとは限らないとして係数を $a_n$ と書いておく。
$$ \hat c\,|n\rangle=a_n\,|n-1\rangle\propto |n-1\rangle $$
粒子数が負にならないための条件として
$$ \hat c\,|0\rangle=0\ \ \ \ \text{すなわち} \ \ a_0=0 $$
を与えておく。$\hat c\,|n\rangle$ に $\hat n$ を作用させると、
$$ \hat n\hat c\,|n\rangle=(n-1)\hat c\,|n\rangle=\hat c(n-1)\,|n\rangle=\hat c(\hat n-1)\,|n\rangle $$
より、任意の $\Psi$ に対して
$$ [\hat n,\hat c]=-\hat c $$
が言える。
両辺のエルミート共役を取ると、
$$ \begin{aligned} [\hat n,\hat c]^\dagger=\hat c^\dagger\hat n^\dagger-\hat n^\dagger\hat c^\dagger=\hat c^\dagger\hat n-\hat n\hat c^\dagger=-c^\dagger \end{aligned} $$
すなわち、
$$ [\hat n,\hat c^\dagger]=\hat c^\dagger $$
であり、また、
$$ \hat n\hat c^\dagger=c^\dagger(\hat n+1) $$
である。この両辺を $|n\rangle$ に作用させれば
$$ \hat n\hat c^\dagger\,|n\rangle=c^\dagger(\hat n+1)\,|n\rangle=(n+1)c^\dagger\,|n\rangle $$
すなわち、
$$c^\dagger\,|n\rangle\propto|n+1\rangle$$
となり、$\hat c^\dagger$ が生成演算子として働くことがわかる。
ここでは係数を
$$c^\dagger\,|n\rangle=b_n\,|n+1\rangle$$
と書いておく。
すると、
$$ \langle n|\,\hat c^\dagger \hat c\,|n\rangle=\langle n|\,\hat c^\dagger a_n\,|n-1\rangle=\langle n|\,b_{n-1}a_n\,|n\rangle=b_{n-1}a_n $$
一方、
$$ \langle n|\,\hat c^\dagger \hat c\,|n\rangle=(\hat c\,|n\rangle)^\dagger(\hat c\,|n\rangle)=\|\,\hat c\,|n\rangle\,\|^2=|a_n|^2 $$
であるから、
$$ b_{n-1}=a_n^* $$
でなければならないことがわかる。*1同様に、$\langle n|\,\hat c \hat c^\dagger\,|n\rangle=a_{n+1}b_n=|b_n|^2$ より $b_n=a_{n+1}^*$ を得るが、これは上で得たのと同じ結果を与えるのみである
ここまでで以下を導けた。
$$ \hat c\,|n\rangle=a_n\,|n-1\rangle $$
$$\hat c^\dagger\,|n\rangle=a_{n+1}\,|n+1\rangle$$
$$\hat c\hat c^\dagger\,|n\rangle=|a_{n+1}|^2\,|n\rangle$$
$$\hat c^\dagger\hat c\,|n\rangle=|a_n|^2\,|n\rangle$$
$$a_0=0$$
生成・消滅演算子の(反)交換関係†
以下に見るように、$\hat c^\dagger,\hat c$ の係数を、
$$ \hat c\hat c^\dagger\pm\hat c^\dagger\hat c=1 $$
となるよう定めると便利である。
ボーズ粒子†
$$ [\hat c,\hat c^\dagger]=\hat c\hat c^\dagger-\hat c^\dagger\hat c=1 $$
の関係があるとき、
$$ |a_{n+1}|^2=|a_n|^2+1 $$
であり、$a_0=0$ であるから一般に、$|a_n|^2=n$ すなわち
$$|a_n|=\sqrt{n}$$
が成り立つ。このとき
$$\hat c^\dagger\hat c=\hat n$$
となることを確認できる。
書き下すと当然すぎてバカらしいが、
$$ [\hat c^\dagger,\hat c^\dagger]=[\hat c,\hat c]=0 $$
が成り立つことも後で用いる。
すなおに $a_n=\sqrt{n}$ と取れば、
$$ \hat c\,|n\rangle=\sqrt n\ |n-1\rangle $$
$$ \hat c^\dagger\,|n\rangle=\sqrt{n+1}\ |n+1\rangle $$
となる。
フェルミ粒子†
$$ \{\hat c,\hat c^\dagger\}=\hat c\hat c^\dagger+\hat c^\dagger\hat c=1 $$
のとき、
$$ |a_{n+1}|^2=1-|a_n|^2 $$
であり、$a_0=0$ であるから、
$$ |a_0|^2=0 $$
$$ |a_1|^2=1 $$
$$ |a_2|^2=0 $$
を得る。$a_2=0$ より、
$$ \hat c^\dagger\,|1\rangle=a_2\,|1\rangle=0 $$
すなわち、粒子数は必ず $n=0$ または $n=1$ であり、$1$ より増やすことはできないという、フェルミ粒子の状況が再現される。
そして $n=0$ と $n=1$ のどちらに対しても $|a_n|^2=n$ が成り立ち、これは
$$\hat c^\dagger\hat c=\hat n$$
であることを意味する。同様に、$n=0$ と $n=1$ のどちらに対しても、
$$\hat c\hat c\,|n\rangle=\hat c^\dagger\hat c^\dagger\,|n\rangle=0$$
であるから、
$$ \{\hat c^\dagger,\hat c^\dagger\}=\{\hat c,\hat c\}=0 $$
が成り立つ。
すなおに $a_1=1$ と取れば、
$$ \hat c\,|0\rangle=0, \hat c\,|1\rangle=|n-1\rangle $$
$$ \hat c^\dagger\,|0\rangle= |n-1\rangle, \hat c^\dagger\,|1\rangle=0 $$
を得る。
*1 同様に、$\langle n|\,\hat c \hat c^\dagger\,|n\rangle=a_{n+1}b_n=|b_n|^2$ より $b_n=a_{n+1}^*$ を得るが、これは上で得たのと同じ結果を与えるのみである