解析力学/ネーターの定理 の履歴(No.22)
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目次†
解析力学/ラグランジアン の続きです。
前提となる話題を2つ†
本題に入る前に学んでおく。
ラグランジアンの任意性†
ある系のラグランジアン $L$ に、粒子の位置と時間の関数 $F(q_1(t),q_2(t),\dots,q_n(t),t)$ の時間に対する全微分 $\dot F=dF/dt$ を加えても運動方程式は変化しない。なぜなら、
$$ L'=L+\frac{dF}{dt} $$
に対して、
$$ \begin{aligned} S&=\int_{t_1}^{t_2}L'\ dt=\int_{t_1}^{t_2}\left(L+\frac{dF}{dt}\right)\ dt\\ &=\int_{t_1}^{t_2}L\ dt+\underbrace{F(q_1(t_2),q_2(t_2),\dots,q_n(t_2),t_2)-F(q_1(t_1),q_2(t_1),\dots,q_n(t_1),t_1)}_\text{定数} \end{aligned} $$
となって、$q_k(t_1),q_k(t_2)$ が固定されている限り $F(t_2)-F(t_1)$ は定数であり、 $S$ の $q_k$ に対する変分に影響を与えないためである。
したがって、ある力学系のラグランジアンとして必ずしも前述のように $L=T-U$ と取る必要はなく、その取り方には $F$ の分だけ任意性が残されていることになる。 (実はそれ以外にもいろいろ任意性があるのだが、ここでは深入りしない)
上記のように同じ運動方程式を与えるラグランジアン $L'$ と $L$ とは「同値なラグランジアン」であると呼ばれる。
ラグランジアンの対称性†
座標変換 $q_i\to Q_i, t\to T$ を考える。 一般にはそのような座標変換に伴いラグランジアンの関数形は $L\to L'$ と変化し、
$$ \begin{aligned} &L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)=\\ &L'(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,T) \end{aligned} $$
となるのであるが、元のラグランジアンの関数形 $L$ にそのまま $Q_i,\dot Q_i,T$ を代入しても
$$ \begin{aligned} &L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)=\\ &L(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,T) \end{aligned} $$
が成り立つとき、すなわち元のラグランジアンの $q_i,\dot q_i,t$ を $Q_i,\dot Q_i,T$ に書き換えても値が変わらないとき、ラグランジアンはその座標変換に対して対称性を持つ、と言われる。
例えば座標軸の並進(原点の移動) $X=x-x_0$ に対して変化しなければ並進対称性があるといい、 座標軸の回転 $\begin{pmatrix}X\\Y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$ に対してラグランジアンが変化しなければ回転対称性があるという。
ネーターの定理†
「ある座標変換に対して作用積分が対称ならばその対称性に対応する保存量が存在する」というのが本来のネーターの定理である。ラグランジアンが対称、ハミルトニアンが対称、ではなくあくまで作用積分が対称であることを基礎にしていることを以下の説明で理解してほしい。
ここでいう保存量とは時間と共に変化することなく一定に保たれる物理量のことである。 例えば並進対称性からは運動量の保存が、回転対称性からは角運動量の保存が、時間に対する並進対称性からはエネルギーの保存が導かれる。
以下、実際に導いてみよう。
微小な座標変換 $q_i\to Q_i,t\to T$ を考える。座標は少しだけしか異ならないため、小さな $\delta q_i(t),\delta t(t)$ を使って
$$ \begin{aligned} Q_i&=q_i+\delta q_i(t)\\ T&=t+\delta t(t) \end{aligned} $$
と表せるとしよう。さらにこれら $\delta q_i,\delta t$ は単一の微小量 $\delta$ を用いて
$$ \delta q_i=\epsilon_i(t)\delta\\ \delta t=\tau(t)\delta $$
と書けるとする。
まず準備としてこの座標変換に対するラグランジアンの変化量を求める。
$$ \begin{aligned} \delta L&=L(Q_1,Q_2,\dots,Q_n,\dot Q_1,\dot Q_2,\dots,\dot Q_n,T)-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)\\ \end{aligned} $$
ここで $\dot Q_i=dQ_i/dT$ が $t$ ではなく $T$ による微分であることに注意すると、一次近似の範囲で
$$ \begin{aligned} \dot Q_i&=\frac{dQ_i}{dt}\frac{dt}{dT}=\frac{dQ_i}{dt}\Big(\frac{dT}{dt}\Big)^{-1}=\frac{dQ_i}{dt}\frac1{1+\delta\dot t}\\ &\sim\frac{dQ_i}{dt}(1-\delta\dot t) =(\dot q_i+\delta\dot q_i)(1-\delta\dot t)\\ &\sim\dot q_i+\delta\dot q_i-\dot q_i\delta\dot t \end{aligned} $$
であるから、この式と、恒等式 ${\color{red}L\delta \dot t-L\delta \dot t}=0$、ラグランジュの運動方程式 ${\color{green}\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}-\frac{\partial L}{\partial q_i}}=0$、ハミルトニアンの定義とエネルギーの保存 で導いた ${\color{blue}\dot H=-\partial L/\partial t}$ を使いつつ、
$$ \begin{aligned} \delta L&=L(\underbrace{q_1+\delta q_1}_{Q_1},\dots,\underbrace{\dot q_1+\delta \dot q_1-\dot q_1\delta\dot t}_{\dot Q_1},\dots,\underbrace{t+\delta t}_T)-L(q_1,\dots,\dot q_1,\dots,t)\\ &=\sum_{i=1}^n\bigg({\color{green}\frac{\partial L}{\partial q_i}}\delta q_i+\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}(\delta\dot q_i-\dot q_i\delta\dot t)\bigg)+ {\color{blue}\frac{\partial L}{\partial t}}\delta t+\underbrace{\color{red}L\delta \dot t-L\delta \dot t}_{=\,0}\\ &=\sum_{i=1}^n\bigg({\color{green}\bigg\{\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\bigg\}}\delta q_i+\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\delta \dot q_i\bigg)-\underbrace{\bigg[\sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\dot q_i-{\color{red}L} \bigg]}_H\delta\dot t{\color{blue}-\dot H}\delta t{\color{red}-L\delta\dot t}\\ &=\sum_{i=1}^n\frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\delta q_i\bigg\}-\frac{d}{dt}\big(H\delta t\big)-L\delta\dot t\\ &=\bigg[-\frac{d}{dt}\underbrace{\bigg\{H\tau-\sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\epsilon_i\bigg\}}_X- L\dot \tau\bigg]\delta\\ &=(-\dot X- L\dot \tau)\delta\\ \end{aligned} $$
が得られる。最後は、
$$ \begin{aligned} X&=H\tau(t)-\sum_{i=1}^n\frac{\partial L}{\partial\dot q_i}\epsilon_i(t)\\ &=H\tau(t)-\sum_{i=1}^np_i\epsilon_i(t) \end{aligned} $$
と置いた。ここで得られた
$$ \delta L=(-\dot X-L\dot \tau)\delta $$
に $-L\dot \tau$ の項がなければ座標変換に対するラグランジアンの対称性 $\delta L=0$ から $X$ が保存量となること $\dot X=0$ を導けるため 一見すると $-L\dot \tau$ の項は邪魔に見えるのであるが、
以下のように作用積分 $S=\int L\,dt$ の対称性から $X$ が保存量となることを導こうとするとこの項が役立つ。
上で求めた $\delta L$ を用いて座標変換に対する作用 $S$ の変化を求めよう。$\color{blue}dT=(1+\dot\tau\delta)dt$ に注意しつつ $\delta$ に関する高次の項を無視すると、
$$ \begin{aligned} \delta S &= \int_{T_1}^{T_2} L(Q_1,\dots,\dot Q_1,\dots,T)\ {\color{blue}dT}- \int_{t_1}^{t_2} L(q_1,\dots,\dot q_1,\dots,t)\ dt\\ &= \int_{t_1}^{t_2}(L+ \delta L){\color{blue}(1+\dot\tau\delta)\ dt}- \int_{t_1}^{t_2} L\ dt\\ &\sim \int_{t_1}^{t_2}(\cancel L+ \delta L+L\dot\tau\delta)\ dt- \int_{t_1}^{t_2} \cancel L\ dt\\ &=\int_{t_1}^{t_2}\big(-\dot X- \cancel{L\dot\tau}+\cancel{L\dot\tau}\big)dt\cdot\delta\\ &=\big\{X(t_1)-X(t_2)\big\}\delta=0 \end{aligned} $$
となって、$\delta L$ を求めた際に余計に見えた $-L\dot \tau$ の項は、$dT$ を $dt$ で書き換えた際に出てくる $L\dot \tau$ の項と打ち消し合って、最終的に $\delta S=0$ から $X(x_1)=X(x_2)$ すなわち $X$ が時間に依らずに一定であることを導けたことになる。
得られた結果†
得られた結果をまとめると、
単一の微小量 $\delta$ を用いて次のように書ける微小な座標変換 $q_i\to Q_i,t\to T$ ただし、
$$ \begin{aligned} Q_i&=q_i+\epsilon_i(t)\delta\\ T&=t+\tau(t)\delta \end{aligned} $$
に対して作用 $S=\int L\,dt$ が対称であるとき、その対称性に対応して、物理量
$$ X=H\tau(t)-\sum_{i=1}^n p_i\epsilon_i(t) $$
が保存量となる。このとき $\delta L=-L\dot \tau\delta$ となる。
作用が完全に対称ではなく、座標変換によって
$$ S\to S-\Big[F(q_1(t),q_2(t),\dots,q_n(t),t)\Big]_{t_1}^{t_2}\cdot\delta $$
のように同値な物理系を与える場合にも保存量は存在し、上の $X$ に $F$ を加えた
$$ X=F+H\tau-\sum_{i=1}^n p_i\epsilon_i $$
が保存量となることもすぐにわかる。 このとき $\delta L=-(L\dot \tau+\dot F)\delta$ となる。
ラグランジアンの対称性とネーターの定理†
ネーターの定理は「作用」が座標変換に対して対称性を持つことを前提とするものであるが、 $\dot\tau=0$ を満たす変換に対して作用の対称性はラグランジアンの対称性と同値である。
したがって、$\dot\tau=0$ を満たす変換に対してはラグランジアンの対称性つまり $\delta L=0$ あるいは $\delta L=-\dot F$ から保存量 $X$ の存在を結論できる。
例1:空間並進対称性†
自由な質点の運動では、
$$ L=\frac12m(\dot x^2+\dot y^2+\dot z^2) $$
である。並進変換すなわち $x_0$ を定数として
$$ X=x+x_0 $$
に対して $\dot X=\dot x$ であるから、
$$ L(x,y,z,\dot x,\dot y,\dot z)=L(X,y,z,\dot X,\dot y,\dot z) $$
となり、このラグランジアンは $x$ 軸方向に並進対称性を持つ。これに対応して
$$ \sum_{i=1}^n p_i\delta q_i=p_xx_0 $$
は定数となるが、そもそも $x_0$ が定数であるから、
$$ p_x=m\dot x $$
が定数となる。
ラグランジアンが $x$ 方向に並進対称性を持つならば $x$ 方向の運動量は保存することになる。
例2:回転対称性†
中心力 $U(x,y,z)=U(\sqrt{x^2+y^2+z^2})$ の中での質点の運動を $z$ 軸周りに微小回転 $-\delta\theta$ した座標系から観測すれば、 一次近似において
$$ \begin{cases} X=x-y\,\delta\theta\\ Y=y+x\,\delta\theta\\ \end{cases} $$
の座標変換を及ぼすが、
$$ \begin{aligned} X^2+ Y^2 &= ( x- y\delta\theta)^2+( y+ x\delta\theta)^2\\ &= x^2-\cancel{2 x y\delta\theta}+ y^2+\cancel{2 x y\delta\theta}+O(\delta\theta^2)\\ &=x^2+y^2+O(\delta\theta^2) \end{aligned} $$
であり、同様に
$$ \begin{aligned} \dot X^2+\dot Y^2 &=\dot x^2+\dot y^2+O(\delta\theta^2) \end{aligned} $$
であるから、
$$ \begin{aligned} L&=\frac12 m(\dot x^2+\dot y^2+\dot z^2)+U(\sqrt{x^2+y^2+z^2})\\ &=\frac12 m(\dot X^2+\dot Y^2+\dot z^2)+U(\sqrt{X^2+Y^2+z^2})+O(\delta\theta^2)\\ \end{aligned} $$
すなわちこのラグランジアンは $z$ 軸周りの回転対称性を持つ。
これに対応して、
$$ \sum_{i=1}^n p_i\epsilon_i=p_yx-p_xy=l_z $$
は定数になる。この値は $z$ 軸周りの角運動量である。
ラグランジアンが $z$ 軸周りの回転対称性を持つならば $z$ 軸周りの角運動量は保存することになる。
同じことを $\theta$ を独立変数として記述すれば回転対称性は $\theta$ に対する並進対称性に対応する。このとき $\theta$ に対する一般運動量 $p_\theta$ が保存量となるのであるが、例えば $x\text{-}y$ 平面内の質点の運動であれば $p_\theta=mr^2\dot\theta$ であり、これは慣性モーメント $I=mr^2$ に対する $z$ 軸周りの角運動量 $l_z=I\omega$ に他ならない。
例3:時間に対する並進対称性†
$\delta t$ を定数とすれば $t\to t+\delta t$ の座標変換に対するラグランジアンの対称性は時間に対する並進対称性を表す。
完全な対称性を持たない場合を含めて、
$$ \begin{aligned} \delta L &=L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t+\delta t)-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)\\ &=\frac{\partial L}{\partial t}\delta t\\ &=\dot W\delta t \end{aligned} $$
のように $\delta L$ が $q_i$ と $t$ とを変数とするある関数 $W(q_1,q_2,\dots,q_n,t)$ の時間に対する全微分になる場合、すなわち
$$ \frac{\partial L}{\partial t}=\dot W(q_1,q_2,\dots,q_n,t) $$
である場合には変換前後のラグランジアンは同値であるから、ネーターの定理により
$$ X=(-W+H)\tau $$
は保存量となる。ここでは $\tau$ が定数であるから、結果として $H-W$ が保存量となる。ただし $W$ は
$$ W=\int^t\frac{\partial L}{\partial t}\ dt\ \ \ \ \bigg(=-\int^t\frac{\partial U}{\partial t}\ dt\bigg) $$
で与えられる。
ラグランジアンが $L=T-U$ の形で与えられる場合には $\partial L/\partial t=\partial U/\partial t$ であるから上式の括弧内のように変形できて、$W$ はポテンシャルを変化させた系外の存在から系が受け取ったエネルギーである。系のエネルギー $H$ は $W$ の分だけ増えるため、$H$ から $W$ を引いた $H-W$ が保存することになる。
孤立系では $W=\partial L/\partial t=0$ すなわち $L$ は $t$ を顕わに含まない。このとき系のエネルギー $H$ が保存する。
例:強制振動†
ニュートン方程式で書けば、
$$ m\ddot x=-k(x-a\cos\omega t) $$
外力がバネの端点を動かすのに費やす仕事率は、系に加わる力の反作用に移動速度を掛けて
$$ k(x-a\cos\omega t)\times (-a\omega\sin\omega t) $$
である。
これをラグランジアンで記述するなら、 対応するポテンシャル
$$ U=\frac12k(x-a\cos\omega t)^2 $$
を参考にして、ラグランジアンは
$$ L=\frac12m\dot x^2-\frac12k(x-a\cos\omega t)^2 $$
ラグランジュの運動方程式は、
$$ \frac d{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot x}=\frac{\partial L}{\partial x} $$
$$ m\ddot x^2=-k(x-a\cos\omega t) $$
となる。系から外界に流出するエネルギーは、
$$-\frac{\partial U}{\partial t}=-k(x-a\cos\omega t)\times (-a\omega\sin\omega t) $$
なのでつじつまが合う。
例:粘性抵抗のある場合†
質量 $m$ の質点の粘性抵抗を伴う一次元運動。粘性抵抗が $-\gamma\dot x$ と書けるとすれば、 ニュートン方程式は、
$$ m\ddot x=-\gamma\dot x $$
この系から単位時間当たりに失われるエネルギーは粘性抵抗×速度より、
$$ \gamma\dot x^2 $$
である。
粘性抵抗のある系をラグランジアンで記述するには $L=T-U$ ではうまくいかない。
天下り的だが $L=e^{\gamma t/m}(T-U)$ とするとうまく行く。*1参考:http://nile.ph.sophia.ac.jp/~g...
$T=\frac12m\dot x^2$とし、$U$ が速度や時刻に依存しないとしてラグランジュの運動方程式を求めると、
$$ \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}=\frac{\partial L}{\partial x} $$
$$ \frac{d}{dt}(e^{\gamma t/m}m\dot x)=-e^{\gamma t/m}\frac{\partial U}{\partial x} $$
$$ (\gamma/m) e^{\gamma t/m}m\dot x+e^{\gamma t/m}m\ddot x=-e^{\gamma t/m}\frac{\partial U}{\partial x} $$
$$ e^{\gamma t/m}(\gamma\dot x+m\ddot x)=-e^{\gamma t/m}\frac{\partial U}{\partial x} $$
両辺を $e^{\gamma t/m}$ で割れば、
$$ m\ddot x=-\frac{\partial U}{\partial x}-\gamma\dot x $$
このとき運動量は、
$$ p=\frac{\partial L}{\partial\dot x}=e^{\gamma t/m}m\dot x $$
なので、
$$ \begin{aligned} H=p\dot x-L&=e^{\gamma t/m}m\dot x^2-\frac12e^{\gamma t/m}m\dot x^2+e^{\gamma t/m}U\\ &=\frac12e^{\gamma t/m}m\dot x^2+e^{\gamma t/m}U\\ \end{aligned} $$
一方、
$$ \begin{aligned}-\frac{\partial L}{\partial t} &=- (\gamma/m)\frac12e^{\gamma t/m}m\dot x^2+(\gamma/m)e^{\gamma t/m}U\\ &=- \frac12e^{\gamma t/m}\gamma\dot x+(\gamma/m)e^{\gamma t/m}U\\ \end{aligned} $$
したがって、
$$ \begin{aligned} \frac d{dt}\underbrace{\bigg[e^{\gamma t/m}\bigg(\frac12m\dot x^2+U\bigg)\bigg]}_{H} &=(\gamma/m)e^{\gamma t/m}\bigg(\frac12m\dot x^2+\cancel U\bigg)+e^{\gamma t/m}\frac d{dt}\bigg(\frac12m\dot x^2+U\bigg)\\ &=-\frac12e^{\gamma t/m}\gamma\dot x^2+\cancel{(\gamma/m)e^{\gamma t/m}U} \end{aligned} $$
両辺を $e^{\gamma t/m}$ で割って、
$$ \frac{d}{dt}\bigg(\frac12m\dot x^2+U\bigg)=-\gamma\dot x^2 $$
のように予想通りの結果が得られる。
このように、$L=T-U$ の形でない場合にはハミルトニアンはそのままでは系のエネルギーと等しくない。 こういった形を扱うことは今後もそれほど多くはないと思うが、こうした場合にも上記のように ラグランジュ力学が成立することには注目したい。
ところで、複数の粒子がある場合にもラグランジアンに粘性抵抗を取り入れる方法があるんだろうか???
ハミルトニアンによるネーターの定理†
ハミルトニアン が微小な座標変換 $q_i\to q_i+\delta q_i,p_i\to p_i+\delta p_i$ に対して対称であるとする。
$$ \delta H=\sum_i\bigg[\frac{\partial H}{\partial q_i}\delta q_i+\frac{\partial H}{\partial p_i}\delta p_i\bigg]=0 $$
この $\delta q_i,\delta p_i$ がある物理量 $G$ を用いて
$$ \begin{aligned} \delta q_i&=\frac{\partial G}{\partial p_i}\delta\\ \delta p_i&=-\frac{\partial G}{\partial q_i}\delta\\ \end{aligned} $$
と書けるとき、変位 $\delta q_i,\delta p_i$ は $G$ により生成されるという。
このとき右辺は ポアソン括弧 を用いて表すことができて、上記の対称性は
$$ \begin{aligned} \delta H&=\sum_i\bigg[\frac{\partial H}{\partial q_i}\frac{\partial G}{\partial p_i}-\frac{\partial H}{\partial p_i}\frac{\partial G}{\partial q_i}\bigg]\delta\\ &=\big\{H, G\big\}\delta=0 \end{aligned} $$
を意味することになる。このときポアソン括弧の歪対称性より
$$ \dot G=\big\{G,H\big\}+\frac{\partial G}{\partial t}=-\underbrace{\big\{H, G\big\}}_{=\,0}+\frac{\partial G}{\partial t}=\frac{\partial G}{\partial t} $$
が得られるから、変位 $\delta q_i,\delta p_i$ を生成した物理量 $G$ は $\partial G/\partial t=0$ である限り時間に依らない保存量となる。($\partial G/\partial t=0$ の条件は $G$ が顕わに時間を含まず $p_i,q_i$ のみで書けることに対応する)
幾何学的な理解†
上の議論を位相空間 $(q_1,\dots,q_n,p_1,\dots,p_n)$ 上で幾何学的にとらえることにより理解が深まる。
ある物理量 $B$ により生成される変位
$$ \bm\delta=(\Delta q_1,\dots,\Delta p_1,\dots)=\Big(\frac{\partial B}{\partial p_1},\dots,-\frac{\partial B}{\partial q_1},\dots,\Big) $$
によって $B$ 自身が変化する量 $\delta B$ を $B$ の傾き $\bm \nabla B$ を用いて求めれば、
$$ \delta B=\bm\nabla B\cdot \bm\delta=\sum_i\Big(\frac{\partial B}{\partial q_i}\frac{\partial B}{\partial p_i}-\frac{\partial B}{\partial p_i}\frac{\partial B}{\partial q_i}\Big)=\{B,B\}=0 $$
のようにゼロとなるから、$B$ により生成される変位 $\bm \delta$ は「$B$ の等高面に沿ったベクトル」である。位相空間が二次元なら等高線上を一回転する形になる。そこで $\bm \delta$ は「$B$ が生み出す流れ」とも呼ばれ、このときポアソン括弧 $\{A,B\}$ は「$B$ が生み出す流れに沿った $A$ の変化」を表すと考えられる。
ネーターの定理はポアソン括弧の歪対称性により $\{A,B\}=0\iff\{B,A\}=0$ が成り立つことを基本としており、言い換えれば、$B$ が生み出す流れに対して $A$ が不変ならば $A$ が生み出す流れに対して $B$ が不変となることを基本としている。
具体的にはハミルトニアン $H$ が $G$ の生み出す流れに対して不変であるという仮定から、$G$ が $H$ の生み出す流れに対して不変であることを導いた。$H$ の生み出す流れは $\{G,H\}=\dot G$ となることから分かるとおり物理量の時間変化そのものである($G$ が 顕わに $t$ を含まない場合)。その結果 $G$ が時間に対して不変であることが導かれたのである。
運動量†
$x$ 方向の並進に対応する座標変換 $x\to x+\Delta x$ に対してハミルトニアンが対称であれば、この変位を生成する $G=p_x \Delta x$ が時間に対して定数となり、$\Delta x$ が定数であるから $p_x$ が保存量となる。
角運動量†
$z$ 軸周りの微小回転 $\delta \theta$ に対応する座標変換
$$ \begin{aligned} x\to x-y\delta\theta\\ y\to y+x\delta\theta\\ \end{aligned} $$
に対してハミルトニアンが対称であれば、この変位を生成する
$$ G=-p_x y\delta \theta+p_yx\delta \theta=(xp_y-yp_x)\delta \theta $$
が保存量となり、$\delta\theta$ は定数であるから $z$ 軸周りの角運動量 $l_z=xp_y-yp_x$ が保存量となる。
エネルギー†
$G=H$ と取れば、生成される変位は
$$ \begin{aligned} q_i&\to q_i+\frac{\partial H}{\partial p_i}\delta=q_i+\dot q_i\delta=q_i(t+\delta)\\ p_i&\to p_i-\frac{\partial H}{\partial q_i}\delta=p_i+\dot p_i\delta=p_i(t+\delta)\\ \end{aligned} $$
となり、$q_i,p_i$ を $\delta$ だけ進んだ時刻のものに入れ替える変換に対応する。ポアソン括弧の歪対称性により常に $\big\{H,H\big\}=-\big\{H,H\big\}=0$ が成り立つから、$H$ は常にこの変位に対して対称である。すると上記の定理より
$$ \dot G=\partial G/\partial t $$
すなわち
$$ \dot H=\partial H/\partial t $$
が得られる。$\partial H/\partial t=0$ であればこれは $H$ が保存量となることを表すが、一般の場合には両辺を積分して、
$$ H=\int \dot H\, dt=\int\frac{\partial H}{\partial t}\,dt $$
を得る。右辺の $\partial H/\partial t$ は系に対して外界から行われる単位時間あたりの仕事を表しており、系のエネルギーの推移を外界から得るエネルギーの積分値として表したことになる。
上の議論において「ハミルトニアンの時間並進対称性」はどこにも使われていないことに注意せよ。
ここで得たのは「任意の $H$ に対して成り立つエネルギー保存則」である。
上記の変位に対するハミルトニアンの変化量 $\delta H$ を以下のように評価すると理解しやすいだろう。
$$ \begin{aligned} \delta H =&\,H(q(t+\delta),p(t+\delta),t)-H(q(t),p(t),t)\\ =&\,H(q(t+\delta),p(t+\delta),t){\color{red}-H(q(t+\delta),p(t+\delta),t+\delta)}\hspace{1cm}\text{← }{\color{red}\text{赤字の部分 }}\text{は}\\ &{\color{red}+H(q(t+\delta),p(t+\delta),t+\delta)}-H(q(t),p(t),t)\hspace{1.8cm}\text{合計するとゼロ}\\ =&\Big[-\frac{\partial H}{\partial t}\Big|_{t+\delta}+\dot H\Big]\delta\\ =&\Big[-\frac{\partial H}{\partial t}+\dot H\Big]\delta\hspace{6.4cm}\delta\,\text{の高次項は無視}\\ \end{aligned} $$
この式は、$p,q,t$ すべてについて時刻を $\delta$ 進めた場合の変化 $\dot H\delta$ から、$t$ についてまで進めてしまった分 $\frac{\partial H}{\partial t}\delta$ を引いてやることで、求めたかった $\delta H$ つまり $p,q$ についてのみ時刻を $\delta$ 進めた場合の変化量を求められる、と読めばよい。
$$ \begin{aligned} \dot H&=\underbrace{\big\{H,H\big\}}_{=\,0}+\frac{\partial H}{\partial t}=\frac{\partial H}{\partial t}\\ \end{aligned} $$
は任意の $H$ に対して成り立つため、ハミルトニアンが時間対称性を持たず $\delta H/\delta t\ne 0$ となるケースも含めて任意のハミルトニアンに対して $\delta H=0$ つまり $H$ 自身が生成する上記の変位に対して対称であることが分かる。
あるいは、
$$ \begin{aligned} \dot H&=\big\{H,H\big\}+\frac{\partial H}{\partial t}\\ \end{aligned} $$
において右辺第一項の $\big\{H,H\big\}$ が $p,q$ の時刻を進めることによる $H$ の変化を表しており、第二項が $t$ を進めることによる $H$ の変化を表しているところ、$\big\{H,H\big\}=0$ は $p,q$ の時刻のみ進めても $H$ は変化しないことを表している、と読めればそれでも良い。
繰り返すと、ここでは「ハミルトニアンの時間並進対称性」からエネルギーの保存を導いたわけ「ではなく」、「ハミルトニアン自身が生成する『$p,q$ のみ時刻を進めるという変位』に対して任意のハミルトニアンが対称となること」から「任意のハミルトニアンに対して成り立つエネルギー保存則」を得たのである。
時刻を含む座標変換は?†
時刻に対する並進変換 $t\to t+\tau\delta$ に対して($\tau$ は定数)「作用積分が対称」あるいは「ラグランジアンが対称」であればネーターの定理により $H$ が保存量となることを上で導いた。
しかしハミルトニアンの対称性を用いて同じことをやろうとしても、
$$ G=H\tau $$
の生成する変位に対して、$t$ を顕わに含み $\dot H=\partial H/\partial t\ne 0$ となるような $H$ でさえ
$$ \delta H=\{H,G\}=\{H,H\}\tau=0 $$
のように対称であり、ここからは
$$ \dot H=\frac{\partial H}{\partial t} $$
は言えるものの、
$$\dot H=0$$
を導くことはできなかった。
この項で説明したハミルトニアンの対称性を用いた議論はあくまで $p,q$ のみの座標変換に対する対称性を扱うものであり、時間に対する変換は範疇外であることを理解せよ。より一般的な議論を行うにはハミルトニアンではなく作用積分の対称性に立ち戻る必要がある。
参考にした文献†
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質問・コメント†
一般的な証明との関係は?†
関場 ()
ネーターの定理の一般的な証明ではなく、成り立つ例をいくつか示しているだけに見える。それだけであればネーターの定理を持ち出さなくてもランダウの最初のページのようにシンプルな説明はあるが?また、強制振動において外界とは具体的には何を指すのでしょうか?エネルギーの流出は外界への仕事として直感的に明示するとどのようになりますか?
- 今さらですが、私自身の理解が進んだため大幅に改稿いたしました。ある程度は改善されたと思っています。 -- 武内(管理人)