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5-5 磁場中での磁壁の運動†
ピン止めポテンシャル (5.36) と困難軸磁気異方性 (5.38) を含めた磁壁のラグランジアンは、
(5.39)
緩和入りの運動方程式は、
(5.40)
および、
(5.41)
となる。
この運動には困難軸磁気異方性が大きく影響する。
ピン止めポテンシャルを無視した際の運動†
まずピン止めポテンシャルを無視した (
) 磁壁の運動を見る。
磁場が弱いとき、
が定数となる解 (
) が存在する。
(5.42)
より、
(5.43)
すなわち、この右辺が1以下となるとき解が存在して、その条件は
(5.44)
は Walker breakdown field と呼ばれる。
この解は、
であるすべての部分で
を満たし、
磁壁位置が速度
で等速直線運動するというものである。
困難軸異方性を入れていない (5.33) では
が分母にあったが、
困難軸異方性を入れたために (5.42) では
が分子に来ている。
散逸が強くなると速度が遅くなるという、
比較的理解しやすいように感じられる結果だ。
5-3 の解と磁壁の性質が大きく異なるのは、
困難軸異方性のためにスピンが「引っかかって」自由に回転できないことなのだと思う。
磁場が強いとき†
付録 スピントロニクス理論の基礎/A-2 はちょっとおかしい?
なにより振動数であるべき (5.46) に次元が無いのがありえない。
ここでは普通に解いてみる。
(5.40) と (5.41) から、
(5.45)
ただし、
は途中で出てきた値で、
(5.46)
これを、
へ代入して、
(5.47)
を得る。
速さの時間平均は、
(5.48)
ただし、
を使った。
この解は、
とも角振動数
で振動しながら運動し、
平均速度は
の増加と共に遅くなる。
では、
となって、困難軸異方性のない時の解に漸近する。
ここでも等速運動が唯一の解となっている†
ここでも等速運動が唯一の解となる運動方程式が得られている。
すなわち、磁壁に質量は定義されないということだ。
磁壁移動速度の磁場依存性†
図5.1 のように、磁壁の(平均)移動速度は
で最大値を取る。
- それより小さければ
と共に線形に増加し
- それより大きければ急速に困難軸異方性のない時の値に漸近する
すなわち、磁壁の移動速度は困難軸異方性により増大している。
理由は、
の回転が困難軸の存在により阻害されているためと思われる。
が回転すると、その分エネルギーが散逸し失われるが、
困難軸に「引っかかって」
が回らなければ、
外部磁場ポテンシャルから得られるエネルギーで、より速い速度を保てる。
固い磁壁の条件†
ピン止めポテンシャルや困難軸異方性がないときには、
磁壁解は素性の良い励起モードを持っていた。
すなわち、1つのモードは時間が過ぎてもその形を保つようなモードであった。
(ハミルトニアンの固有関数だし)
しかし、ピン止めポテンシャルと困難軸異方性を入れた結果、
もはやゼロモードは厳密には集団座標と見なすことができない。
すなわち、磁壁は時間と共に形を崩すようなダイナミクスが生じてしまう。
ゼロモードを近似的に集団座標と見なすことができるのは、
磁壁の構造を崩す、すなわち (5.24) に表されるような、
より高次の項を励起するエネルギーに比べて、
ピン止めポテンシャルや困難軸異方性のエネルギーが小さい時に限る。
(5.49)
,
実際には、スピントロニクス理論の基礎/5-3#v15323b2 でも述べたとおり、
教科書の (5.19) で落ちていた
のために、
だけではなく
も磁壁構造を保つには重要であり、
(5.49)'
,
くらいで考えてた方が良いのではないかと思うのだが、どうなのだろう?
質問・コメント†
ぽっきー ()
この本を最近購入したので、先生の記事を参考にさせていただいております。
(5.48)でγの前のλが抜けていると思います。
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