量子力学Ⅰ/群速度と波束の崩壊 の履歴(No.8)
更新- 履歴一覧
- 差分 を表示
- 現在との差分 を表示
- ソース を表示
- 量子力学Ⅰ/群速度と波束の崩壊 へ行く。
ある位置に局在する、有限の運動量を持つ波束†
- に存在する運動量 の古典粒子
に対応するのは、
- 付近に局在する波数 の波動関数
である(波動関数が幅を持たなければ波長や波数を定義できないことに注意せよ)。
このような局在した波動関数を「波束」と呼ぶ。
以下、 として波束を作り、その運動を考えよう。
波数 の波動関数は、
&math( \varphi_{k_0}(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ik_0x} );
ここにガウス関数を掛けて「波束」にする。
&math( \varphi(x) &=\frac{1}{\sqrt{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}}e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2}\,e^{ik_0x}\\ );
ここでは空間分布が を中心とする標準偏差 の正規化されたガウス関数になるよう係数を設定した。
&math( |\varphi(x)|^2=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}e^{-x^2/2\sigma_{x0}^2} );
この関数の波数は と言って良いだろうか? (波数が決まるのは平面波のみのはずだが・・・)
波動関数を波数毎の成分に分解するにはフーリエ変換すればいい:
&math( \varphi(k)&=\int_{-\infty}^\infty \frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-ikx}\varphi(x)dx\\ &=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}}\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2}e^{-i(k-k_0)x}dx\\ &=\sqrt{\frac{2\sigma_{x0}}{\pi\sqrt{2\pi}}}\underbrace{\int_{-\infty}^\infty e^{-\{x/2\sigma_{x0}+i\sigma_{x0}(k-k_0)\}^2}\frac{dx}{2\sigma_{x0}}}_{\sqrt \pi}e^{-\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2}\\ &=\sqrt{\frac{2\sigma_{x0}}{\sqrt{2\pi}}}e^{-4\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2/4} );
逆フーリエ変換は、
&math( \varphi(x)=\int_{-\infty}^\infty \underbrace{\varphi(k)}_{係数}\, \underbrace{\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx}\right)}_{波数kの成分}dk );
であるから、 に含まれる波数 の成分の係数が である。
したがって、 の波数が となる確率は、
&math( |\varphi(k)|^2&=\frac{2\sigma_{x0}}{\sqrt{2\pi}}e^{-4\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2/2} );
の確率分布は を中心に、 のガウシアンとなる。
「波束」にしたことにより、 の成分だけでなく、 おおよそ の成分を含んでしまったことになる。 空間的に狭い範囲に局在した波束ほど、幅広い範囲の波数の重ね合わせになることにも注意せよ。
この関数に対して、
&math( \sigma_{x}\cdot\sigma_{p}=\sigma_{x}\cdot\hbar\sigma_{k}=\hbar/2 );
は不確定性原理で与えられる最小値をとる。このような波束は「最小波束」と呼ばれる。
ここでは波束 の空間分布をガウス関数としたために最小波束が得られた。
- 空間分布がガウス関数でなければ、 となる。
- 空間分布がガウス関数であっても、位相の分布が上記と異なる場合には、やはり最小波束にはならない。
自由な波束の運動†
自由な粒子では、
に対応して
がその分散関係を与えるのであった。
したがって、波数 の成分 の位相は で回転する。
すなわち、上記最小波束の時間発展は、
&math( \psi(x,t)&=\int_{-\infty}^{\infty}\varphi(k)\underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx}e^{-i\omega_kt}}_{\psi_k(x,t)}dk\\ &=\dots\\ &=\sqrt{\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}(1+i\xi t)}}\exp\left[\frac{-x^2/4\sigma_{x0}^2+i(k_0x-\omega_{k0} t)}{1+i\xi t}\right]\\ );
となる(→ 計算の詳細)。 ただし、 、
このとき、
&math( |\psi(x,t)|^2 &=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}\sqrt{1+\xi^2 t^2}} \exp\left[\frac{-\{x-(\hbar k_0/m) t\}^2}{2\sigma_{x0}^2(1+\xi^2t^2)}\right]\\ );
であり、これは
を中心とする、標準偏差
のガウス関数になっている。
すなわちこの関数は古典論で期待されるのと等しい速度 で進みながら、 徐々に幅が広がり、高さがつぶれていく。
幅の広がる速さは が小さいほど速いことも注目に値する。
分散と波束の崩壊†
上記の結果より、
- 波束は一定速度で移動する
- 波束の幅が徐々に広がる
なぜ時間と共に波束が広がるのかを理解するために、 , , とした場合の の「実部」を の範囲でプロットした。
注目すべきは広がった後の波束において、 後縁部に比べて前縁部の波数が大きい(波長が短い)ことである。
平面波の速度 と波数 、角周波数 との間には、
の関係があった。( を思い出せ)
自由な電子に対する分散関係( と との関係)は、
であるから、
の関係を得る。すなわち、自由空間の平面波は「波数の大きな物ほど早く進む」。
波束は異なる波数を持つ平面波の重ね合わせで構成される。 最小波束ではすべての波数成分の位相が で揃っていた。 その後、波数の大きなものほど早く、波数の小さなものほど遅く移動した結果、 前縁部が後縁部より大きな波数を持つ幅の広い波束に変化したのである。
から分かるとおり、 が小さい波束ほど、広い範囲の波数成分を含んでいる。 このため空間的に鋭いパルスほど、速やかに幅が広がる。
このように、異なる波数成分が異なる速度を持つ状況を「分散がある」という。 逆に異なる波数成分がすべて同じ速度を持つ場合を「分散がない」という。
分散がない場合の分散関係は
である。
波束が分散がない媒質中を進む波束の形状は崩れない。
位相速度と群速度†
上の波束では平均的な波数は である。
このことと対応して、波束の中心部において「等しい位相を持つ点」(例えば がゼロになる点)が移動する速度は
(「位相速度 (phase velocity)」と呼ぶ)
で与えられる。 一方、「波束の中心」が移動する速度は
(「群速度 (group velocity)」 と呼ぶ)*1波束は異なる波長を持つ波の一群と見なせることを上で見た。その波の一群が全体として持つ速度が群速度である。
であるから、位相速度と群速度は異なる値となる。
これは群速度が
で与えられるためである(群速度が偏微分で書き表せることの導出は省略するが、結果が上記の計算と一致することを確認せよ)。
したがって、一般に分散がある場合、つまり の場合には、
となる。
分散がない場合には位相速度と群速度とは一致するから、 波束の概形が崩れないだけでなく、波束中の搬送波の位相も時間に対して変化しない。
同様に、真空中や大気中を進む光の分散はほぼゼロと見なせるが、 物質中では分散がゼロでなくなるため、超短光パルスのパルス幅は物質中で徐々に広がる。