量子力学Ⅰ/線形代数の復習

(1086d) 更新

概要

量子力学で用いる関数空間の概念について復習する。

線形代数IIを履修済みの学生を念頭に置いている。

このページは画面幅がある程度大きくないと見づらいため、 スマホよりもPC等の広い画面で見ることを推奨します。

目次

量子力学Ⅰ

関数の線形空間 = 関数空間

ある決まった区間 a<x<b (ただし a,b \pm\infty でも可) で定義される複素関数すべてからなる集合 U を考えると、 U は関数の和と複素数倍に対して線形空間を為す。

すなわち、 f,g\in U k\in\mathbb C のとき、

  u=f+g  を  u(x)\equiv f(x)+g(x)  として、

  v=kf  を  v(x)\equiv kf(x)  として

定義すれば、 u,v\in U であるから、 U はこれらの演算に対して閉じている。

以下、数ベクトル空間と対比させながら関数空間について復習する。

ベクトルのグラフ

\bm a=(a_1\ a_2\ \dots\ a_n)^T\in\mathbb R^n のとき、

添字 k に対して a_k をプロットすれば、 「ベクトルのグラフ」を表示できる。

u(x)\in U のとき、

変数 x に対して u(x) をプロットすれば、 「関数のグラフ」を表示できる。

vector1.png

k から a_k への対応関係を決めると、 それが1つのベクトルを決めることに相当する。

function.png

x から u(x) への対応関係を決めると、 それが1つの関数を決めることに相当する。


このグラフで考えると、

  • ベクトルの和はグラフの上下方向への重ね合わせに
  • ベクトルの定数倍はグラフの上下方向の引き延ばしに

それぞれ対応する。

ただし本来、ベクトルや関数の値は複素数を想定しているので、 上記グラフはあくまで概念的な物である。

内積・ノルム・直交・規格化・正規直交

以下で用いる A^\dagger の記号は行列 A のエルミート共役(随伴行列)を表わしており、 A^\dagger\equiv (A^T)^* と定義される。 ただし、 A^T A の転置行列、 A^* A の複素共役行列である。

[標準内積]

(\bm a,\bm b)\equiv\bm a^\dagger\bm b =\sum_{k=1}^n a_k^*b_k

複素内積では a_k ^* が付く。 線形代数学では

(\bm a,\bm b)\equiv\bm a^T\bm b^* =\sum_{k=1}^n a_kb_k^*

と定義する流儀もあるが、 \bm a 側に ^* を付ける方が量子力学との親和性が高いため、 応用理工の線形代数では上の流儀を採用していた。

[標準内積]

(u,v)\equiv\int_a^bdx\,u^*(x)v(x)=\int_a^bdx\,\big(u(x)\big)^*v(x)

U a<x<b で積分可能な関数の集合とする。

[非負性]

任意の \bm a に対して
(\bm a,\bm a)=\sum_{k=1}^na_k^*a_k=\sum_{k=1}^n|a_k|^2\ge 0

(\bm a,\bm a)= 0 となるのは \bm a=\bm 0 に限る。

[非負性]

任意の u(x) に対して
(u,u)=\int_a^bdx\,u^*(x)u(x)=\int_a^bdx\,|u(x)|^2\ge 0

(u,u)= 0 となるのは u(x)=0 に限る。

[ノルム]

|\bm a|\equiv\sqrt{(\bm a,\bm a)}

[ノルム]

\|u\|\equiv\sqrt{\int_a^bdx\,|u(x)|^2}

複素数 u(x) の絶対値 |u(x)| と区別するため \|u(x)\| と書く。

[正規化]

\bm e=\frac{1}{|\bm a|}\bm a とすれば |\bm e|=1

[正規化]

g(x)=\frac{1}{\|u\|}u(x) とすれば \|g\|=1

[直交]

(\bm a,\bm b)=0 のとき \bm a\perp\bm b

[直交]

\int_a^bdx\,u^*(x)v(x)=0 のとき u\perp v

[正規直交]

ベクトルの組 \set{\bm e_k} に対して

(\bm e_i,\bm e_j)=\delta_{ij}

[正規直交]

関数の組 \set{\psi_k(x)} に対して

\int_a^bdx\,\psi_i(x)^*\psi_j(x)=\delta_{ij}

完全性・成分表示

[張る]

ベクトルの組 \set{\bm b_k} が線形空間 V を張るとは、 任意の要素 \bm x\in V を次のように線形結合として表せることである。

\bm x=\sum_{k=1}^n x_k\bm b_k

以下では \{\bm e_i\} V を張る正規直交系、 すなわち V の正規直交基底であるとする。

[完全]

関数系 \set{\psi_k(x)} が集合 U で完全であるとは、 任意の関数 f(x)\in U を次のように線形結合として表せることである。

f(x)=\sum_{k=1}^\infty f_k\psi_k(x)

以下では \{\psi_i(x)\} U における正規直交完全系であるとする。

[成分表示]

\bm x=\sum_{k=1}^n x_k\bm e_k と分解するとき、 その係数は

x_k=(\bm e_k,\bm x)

として求められる。(あるいは x_k=(\bm x,\bm e_k)^*

すなわち、

\bm x=\sum_{k=1}^n (\bm e_k,\bm x)\bm e_k

[成分表示]

f(x)=\sum_{k=1}^\infty f_k\psi_k(x) と分解するとき、 その係数は

f_k=\int_a^bdx\,\psi_k^*(x)f(x)

として求められる。

すなわち、

f(x)=\sum_{k=1}^\infty \Bigg[\int_a^bdx'\,\psi_k^*(x')f(x')\Bigg]\psi_k(x)

[正規直交基底の条件]

上式を変形すれば、

\bm x=\Big(\sum_{k=1}^n \bm e_k\bm e_k^\dagger\Big) \bm x

となり、任意のベクトル \bm x に対して成り立つから、

\sum_{k=1}^n \bm e_k\bm e_k^\dagger=E

である。この式を正規直交基底の条件とする場合もある。

[正規直交完全性の条件]

上式を変形すれば

f(x)=\int_a^bdx'\,\Big[\sum_{k=1}^\infty \psi_k^*(x')\psi_k(x)\Big]f(x')

となり、任意の関数 f に対して成り立つから、

\sum_{k=1}^\infty \psi_k^*(x')\psi_k(x)=\delta(x'-x)

である。この式を正規直交完全性の条件とする場合もある。

[成分とノルム]

\bm x=\sum_{k=1}^n x_k\bm e_k のとき、

|\bm x|^2=\sum_k^n |x_k|^2

[成分とノルム]

f(x)=\sum_{k=1}^\infty f_k\psi_k(x) のとき、

\|f\|^2=\sum_k^\infty |f_k|^2

部分空間

たとえば、 V=\set{f|f\in U\ \mathrm{and}\ f(a)=f(b)=0} とすれば V\subset U であり、なおかつ V は和とスカラー倍について閉じているから V は部分空間をなす。

このように、 U に和やスカラー倍で保存する何らかの制約を課した部分空間を考えることも よく行われる。

実際、あまりおかしな関数まで U に含めてしまうと 内積を定義するための積分が発散するとか、関数を展開した無限級数が発散するとか、 おかしなことが起きてしまう。以下では数学的な厳密性は追わず、 U は普通に思い浮かべるような、素性の良い関数のみから成る空間であるとする。 *1どんな関数なら問題なく扱えるかなどの議論は解析学の範疇である。内部での微積分が可能なこのような線形空間はヒルベルト空間と呼ばれる。

線型変換・線型演算子

[線型変換]

あるベクトルを別のベクトルに変える変換 F(\bm x) が 任意の \bm a,\bm b\in V に対して

F(\alpha\bm a+\beta\bm b)=\alpha F(\bm a)+\beta F(\bm b)

を満たす時、これを線型変換という。

[線型演算子]

ある関数を別の関数に変える演算子 \hat F が 任意の f(x),g(x)\in U に対して

\hat F(\alpha f(x)+\beta g(x))=\alpha \hat Ff(x)+\beta \hat Fg(x)

を満たす時、これを線型演算子という。

例えば
  \hat F f(x)= \frac{d}{dx}f(x)
  \hat Ff(x)=(3x^2+1)f(x)
  \hat Ff(x)=f(x+1)
は線型変換である。

[行列表現]

線型変換 F(\bm x) の行列表現 A=(a_{ij})

a_{ij}=(\bm e_i,F(\bm e_j))

であり、このとき

F(\bm x)=A\bm x=\sum_{i=0}^n \bm e_i\sum_{j=0}^n a_{ij}\underbrace{(\bm e_j,\bm x)}_{x_j}

と表せる。

[行列表現]

任意の線型演算子 \hat Ff(x) に対してその行列要素は

F_{ij}=\int_a^bdx\,\psi_i^*(x)\hat F\psi_j(x)

と定義され、

\hat Ff(x)=\sum_{i=0}^\infty \psi_i^*(x)\sum_{j=0}^\infty F_{ij}\underbrace{\int_a^bdx\,\psi_j^*(x)f(x)}_{f_j}

エルミート変換

[エルミート共役]

任意の \bm a,\bm b\in V に対して

(\bm a,A\bm b)=(A^\dagger\bm a,\bm b)

となるような A^\dagger A のエルミート共役と呼ぶ。

標準内積では A^\dagger=(A^T)^* として求められる。

[エルミート共役]

任意の f(x),g(x)\in U に対して

\int_a^bdx\,f^*(x)\hat Ag(x)=\int_a^bdx\,\big(\hat A^\dagger f(x)\big)^*g(x)

となるとき、 \hat A^\dagger \hat A のエルミート共役と呼ぶ。

[エルミート行列]

A^\dagger=A のとき A をエルミート行列と呼ぶ。

このとき

(\bm a,A\bm b)=(A\bm a,\bm b)

が成り立つ。

[エルミート演算子]

\hat A^\dagger=\hat A のとき \hat A をエルミート演算子と呼ぶ。

このとき

\int_a^bdx\,f^*(x)\hat Ag(x)=\int_a^bdx\,\big(\hat Af(x)\big)^*g(x)

が成り立つ。

ユニタリー変換

[ユニタリー行列]

任意の \bm a,\bm b\in V に対して

(U\bm a,U\bm b)=(\bm a,\bm b)

となる U をユニタリー行列と呼ぶ。

当然、 |U\bm a|=|\bm a| も成り立つ。

またこのとき U^\dagger U=UU^\dagger=E すなわち U^\dagger=U^{-1} である。

[ユニタリー演算子]

任意の f(x),g(x)\in U に対して

\int_a^bdx\,\big(\hat Uf(x)\big)^*\big(\hat Ug(x)\big)=\int_a^bdx\,f^*(x)g(x)

となる \hat U をユニタリー演算子と呼ぶ。

当然、 |Uf(x)|=|f(x)| も成り立つ。

またこのとき \hat U^\dagger \hat U=\hat U\hat U^\dagger=\hat 1 すなわち \hat U^\dagger=\hat U^{-1} である。

ここで \hat 1:f(x)\mapsto f(x) は恒等変換を表わす。

[正規直交基底の変換行列]

\{\bm e_k\} \{\bm f_k\} がどちらも正規直交基底であれば、

\bm f_k=U\bm e_k

となる U_{e\to f} はユニタリー行列になる。

[正規直交完全系の変換演算子]

\{\psi_k(x)\} \{\phi_k(x)\} がどちらも正規直交完全系であれば、

\phi_k(x)= \hat U \psi_k(x)

となる \hat U はユニタリー変換になる。

固有値問題

固有値、固有ベクトル・固有関数

固有値が連続な場合もありうる

対角化可能性

相似変換

固有関数の直交性

正規行列・正規演算子

エルミート行列の固有値は実数

ユニタリー行列の固有値は絶対値が1

デターミナント・トレース・固有値

定義・性質

固有値との関係

相似変換で保存

デターミナントとノルム

行列の関数

$H$ がエルミートなら $e^{iH}$ はユニタリー

H の固有値を \lambda_1,\lambda_2,\dots とすれば、

U=e^{iH} の固有値は e^{i\lambda_1},e^{i\lambda_2},\dots であり、 すべて絶対値が1となるからこれはユニタリーである。

質問・コメント





*1 どんな関数なら問題なく扱えるかなどの議論は解析学の範疇である。内部での微積分が可能なこのような線形空間はヒルベルト空間と呼ばれる。

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