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多探針STM

概要

探針を複数持つSTM装置を開発し、測定条件を合わせての複数箇所の同時測定や、 ナノ構造体の伝導特性測定を行おうというプロジェクトです。

通常のSTMですと探針は1本のみですから、測定時には探針直下の一点の情報しか 得ることができません。複数の探針による同時測定ができれば、STM測定が試料に 与える影響を正確に評価したり、1つの探針から別の探針に流れる電流を測定したり、 試料の特定箇所に電圧や電流を印加した影響を近傍に置いた探針で測定したり、 物性測定の幅が一気に広がることになります。

これまでにも、LSIの評価を行う際に、精密動作が可能な導電性プローブを 試料上の特定箇所に当て、デバイス上の個々の素子の評価を行うようなことはされてきました。 しかし、これらの装置はナノメートル程度の精度でしかプローブ位置を制御できず、 原子スケールに迫る近未来のデバイス評価には力不足でした。

我々の開発する装置では、4本のプローブがそれぞれ独立にSTMとして動作可能で あり、プローブ位置の制御精度は従来よりも数十〜百倍程度優れたもの(0.1〜0.01Å) となります。 さらに、熱雑音を抑えた極低温での測定、酸素や水分による試料の酸化を防ぐ超高真空 での測定を可能にし、半導体や有機分子を活用する次世代デバイスの評価に役立てたいと 考えています。

構成

多探針STM装置は超高真空チャンバーに組み込まれ、 装置全体を保持する空気バネ除振台と、真空内の渦電流除振台により 外部からの振動が測定に与える影響を軽減しています。

それぞれのSTM探針を試料上の適当な位置に配置するため、 STM装置の上部には走査電子顕微鏡(SEM)が備えられており、 10nm程度の分解能で針先の位置を確認することができます。

液体ヘリウムタンクに冷媒を入れることで、試料室を10k以下に 保ち、熱雑音の無い状態でのSTM測定、電気伝導測定を行うことが 可能です。

試料室を低温に保つための熱シールドは上部を大きく開閉可能で、 シールドを開けることでSEM観察時、光照射実験時の最適な測定 条件を実現することができます。

試料準備室には探針ホルダを2セット(1セット=4本)、 試料ホルダを3つ保持できるパーキングがあり、また、 試料交換室にも探針ホルダを1セット、試料ホルダを2つ 保持できるパーキングがあり、試料や探針の交換は超高真空を やぶることなく用意に行うことが可能です。

顕微鏡の制御はSEM用とSTM用の2つのPCから行われます。

STM制御装置は4つのプリアンプ、1台のPCに差し込まれた4枚のDSPカード、4つの高電圧アンプユニットからなっていて、4本の探針を1台のPCから制御することが可能です。

プリアンプ、高電圧ユニットは自作のものであり、多探針測定用に 測定電流範囲を広く取ったり、複雑なフィードバック制御が行えるよう 工夫されています。

SEMによるSTM探針観察

SEM観察下でのSTM探針操作の様子です。0.3mm径の タングステン線を電解研磨して作成したSTM探針の先端を 互いに〜100nm程度まで近づけることが容易にできます。

STMとしての最大走査範囲は図中の網で示した部分に なります。

STMとしての動作

これまでに、装置がSTMとして動作するのに十分な探針位置制御 精度を持っていることが確認できました。

現在は、我々の開発した装置により高度な多探針測定を行うため、 電気回路およびソフトウェアについてさらなる改良を加え、実際の デバイス構造などに応用していくことを目標に、研究を進めています。