線形代数II/代数学的構造 の履歴(No.13)
更新代数学とは†
この授業は「線形代数」と言う名前だけれど、この言葉の意味を知っているだろうか?
これまでに「線形」の意味は教わった。
が線形とは: が成り立つこと
では「代数学」とは?
これまで様々な「数の集合」を学んできた。
- 自然数 = 加算・乗算について「閉じている」 → ならば
- 整数 = 減算についても閉じている
- 有理数 = 除算についても「ほぼ」閉じている (ゼロでの除算は例外)
- 実数 = 収束する有理数列の極限演算についても閉じている
- 複素数 = 負数の開根操作についても閉じている
であり、新しい「演算」の導入により「数の集合」を拡大してきた。
「解析学」はこの最上位の または (あるいは や )の上で、極限や微積分を扱う学問だった ( 、 は 次元実数ベクトル、 次元複素数ベクトルの集合)
「代数学」は
の系列から外れて、
例えば、
加算は定義されないが、乗算だけが定義される数の集合
などというように、「何らかの演算」と、「その演算に対して閉じた数の集合」を定め、 そこに現れる「構造」を研究する。
線形代数学で主役となる「ベクトル」もそのような意味での「数」の一員である。
代数学的構造の例: 群†
ある集合
の2つの元の間に ある演算
が定義され、
は
について「閉じている」とする。
集合 が演算 について「閉じている」とは、演算の結果が必ず に含まれること。
すなわち について
「 について」 は、「任意の の元 について」 という意味
閉じていない例: しかし、 なので、 実数は除算について閉じていない。
さらにこの演算が次の公理を満たすものとする。
- に対して結合法則 が成り立つ
- 特別な元(単位元) が存在し、 に対して を満たす
- それぞれに対して、 を満たすような元(逆元) を(最低限1つずつ)見つけられる
このとき、「 は演算 について群となる」 という。
上記の条件は、for all 記号 、exists 記号 を使えば次のようになる。
0.
1.
2.
3.
群の例†
一見すると、 を有理数 、 を通常の乗算 と考えれば群の公理を満たしそうに思えるが、 が逆元を持たないため、 有理数 は乗算 について群とはならない。
を有理数 からゼロを除いた集合 とすれば、この集合は乗算 に対して群となる。
を整数 、 を通常の加算 、単位元を と考えると公理を満たすから、 は加算について群である。(加算の単位元は であることに注意)
を の倍数 、 を通常の加算 、単位元を と考えると、これも群を為す。
群の要素数が有限である場合もある。
自明な群: 1つしか要素を持たない集合 に対して、 と定義すれば、 は群である。
に対して、演算 を
* | a | b | c |
---|---|---|---|
a | a | b | c |
b | b | c | a |
c | c | a | b |
と定義すれば、
は群である。
ただしこの表は、
の演算結果を示した物である。
代数学で扱う「演算」は、このように表を作ることで任意に定義できる。
例えばこの表を、
a | b | c | |
---|---|---|---|
a | a | b | c |
b | b | c | b |
c | c | b | a |
とすると別の演算 を定義できるが、 となって は結合法則を満たさず、 は に対して群ではない。
「群」の公理は上のように単純なものであるが、
その数学的構造は非常に奥深く、「群論」だけで数学の1分野となる。
応用理工の数学カリキュラムでは群論の詳細には立ち入らないが、 結晶学や分子振動における点群や、 ゲージ理論などにおける対称性に関する議論に重要な応用があるため どこかでまた学ぶことになるかもしれない。
その他の代数的構造†
- 群 = 上記
- 可換群 = 群の公理に交換法則 を加える
- 体 = 2つの演算 を持ち、 に対して可換群、 の単位元である 0 を除いて に対しても可換群であり、さらに分配法則 が成立する(つまり「四則演算」ができる集合のこと)
有理数
や実数
、複素数
は
自由に四則演算の行える構造を持ち、「体」である。
そこでしばしば 有理体、実数体、複素数体 などとも呼ばれる。
これ以外にも様々な代数的構造が研究されている。→ Wikipedia:代数的構造
代数的構造の意味†
「代数的構造」の優れた点は数学的に類似の構造を持つ対象を抜き出して、 それらをまとめて議論できる点にある。
異なる対象の「類似点」を公理の形で記し、公理のみを基に定理を導くことにより、 個々の対象に依存せず、すべての対象に適用可能な結論を導くことができるのである。
質問・コメント†
細かいですが、間違いを見つけました。†
工学システム学類の変な男 ()
「代数学的構造の例: 群 」 のfor all とexistsの使用例の3ですがx と a が混在しています。
最近、このサイトをみつけました。教科書よりも読み易く、面白い読み物として利用させて頂いています。
- 指摘をありがとうございます。早速訂正しました。ぜひ役立ててもらえればこちらもうれしいです。 -- 武内(管理人)