スピントロニクス理論の基礎/8-2

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8-2 物理量の満たす方程式

熱平衡状態における電子数密度の時間発展

この節ではハミルトニアンは時間に依存しない H(t)=H

t=t_0 で熱平衡にある系のハミルトニアンが時間に依存しなければ、 系は熱平衡から動かないため、ハミルトニアンが時間に依存しない場合を考えるのは かなり無意味なのだが、演習問題のような扱いと思えばよい。

(8.19)

c_\mathrm H(\bm r,t) \equiv e^{\textcolor{red}{\frac{i}{\hbar}}H\cdot(t-t_0)}c(\bm r,t) e^{\textcolor{red}{\frac{-i}{\hbar}}H\cdot(t-t_0)}

ここでは (8.7C) を使って U(t,t_0) を書き下している。

(8.20)

n(\bm r,t)\equiv\llangle c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t)c_\mathrm H(\bm r,t)\rrangle

\hat n=c^\dagger c

n=\llangle \hat n \rrangle

\hat n_\mathrm H=U^\dagger \hat n U=U^\dagger c^\dagger c U=U^\dagger c^\dagger U U^\dagger c U=c^\dagger_\mathrm H c_\mathrm H

1粒子の量子論で言うところの、確率密度が波動関数の絶対値の自乗に比例するのと対応する式になっている。 ただし場の量子論では c^\dagger c は演算子で、波動関数 \ket{\alpha} に作用させることで始めて電子密度を表す。一般的にはこの演算子は c(\bm r,t) ではなく \psi(\bm r,t) と書かれることが多いので注意。→ この辺りを学ぶには、例えば シッフ「量子力学(下)」 などを参照のこと

交換関係について

今考えているのは電子の密度なので、 c c^\dagger はフェルミオンの反交換関係を満たす。すなわち、 c(\bm r,t) およびそのフーリエ係数 c_{\bm k} について、

(8.20A)

c(\bm r,t) c(\bm r',t)^\dagger+c(\bm r,t)^\dagger c(\bm r',t) = \{c(\bm r,t), c(\bm r',t)^\dagger\}=\delta^3 (\bm r-\bm r')

(8.20B)

c_{\bm k} c_{\bm k'}^\dagger+c_{\bm k}^\dagger c_{\bm k'}=\{c_{\bm k}, c_{\bm k'}^\dagger\}=\delta_{kk'}

(8.20C)

したがって

c_{\bm k} c_{\bm k}^\dagger=\hat 1-c_{\bm k}^\dagger c_{\bm k}=\hat 1-\hat n

を満たす。→ フェルミオンの交換関係

相手がボゾンならば、

c(\bm r,t) c(\bm r',t)^\dagger-c(\bm r,t)^\dagger c(\bm r',t) = [c(\bm r,t), c(\bm r',t)^\dagger]=\delta^3 (\bm r-\bm r') (8.20C)

c_{\bm k} c_{\bm k'}^\dagger-c_{\bm k}^\dagger c_{\bm k'}=[c_{\bm k}, c_{\bm k'}^\dagger]=\delta_{kk'} (8.20D)

となるはず。

時間発展を計算する

(8.21)

\frac{\PD}{\PD t}c_\mathrm H(\bm r,t)=\frac{i}{\hbar}[H, c_\mathrm H(\bm r,t)]

これは Heiseenberg 方程式(8.15)であるが、

  • [H_H,c_H] ではなく [H,c_H] となるのは
    • H が時間に依らないとき、 U H が交換すること (8.9B)
    • すなわち、 H_\mathrm H=U^\dagger H U=U^\dagger U H=H であること
  • (\PD c/\PD t)_H の項を含まないのは
    • c(\bm r,t) が時間を顕わに含まないこと
    • すなわち \frac{\PD}{\PD t}c(\bm r,t)=0

のためである。

(8.22)

\hbar \dot n = \hbar \llangle \dot c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t) c_\mathrm H(\bm r,t) + c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t) \dot c_\mathrm H(\bm r,t) \rrangle
=i\llangle [H, c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t)]c_\mathrm H(\bm r,t)+ c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t) [H, c_\mathrm H(\bm r,t)]\rrangle
=i\llangle e^{\frac{i}{\hbar}H(t-t_0)}\Big\{ [H, c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t_0)]c_\mathrm H(\bm r,t_0)+ c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t_0) [H, c_\mathrm H(\bm r,t_0)]\Big\} e^{\frac{-i}{\hbar}H(t-t_0)}\rrangle

括弧内は t=t_0 における演算子の評価しか含んでいないことに注意。

ハミルトニアンとの交換関係

[H, c_\mathrm H(\bm r,t_0)] [H, c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t_0)] を評価するために、

(8.23)

[AB,C]=A\{B,C\}-\{A,C\}B

が役に立つ。

H=K+V=\int d^3r\frac{\hbar^2}{2m}|\nabla c|^2+V

運動エネルギー項

ここで K\equiv \int d^3r\frac{\hbar^2}{2m}|\nabla c|^2 であるから、

(8.24)

&[K,c(\bm r,t_0)]\\ &=\int d^3r'\frac{\hbar^2}{2m}[ \nabla_{r'}c^\dagger(\bm r',t_0)\nabla_{r'}c(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)]\\ &=-\int d^3r'\frac{\hbar^2}{2m} [c^\dagger(\bm r',t_0)\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)]

1行目から2行目はベクトル解析の部分積分を利用した物で、

\int_V \nabla \phi \cdot \nabla \psi d^3r = \int_S \phi( \nabla \psi \cdot \bm n) dS - \int_V \phi \nabla^2 \psi d^3r

表面積分の項は、系の境界 S において \phi( \nabla \psi \cdot \bm n) がゼロになるとして落とした。

上記の式に現れる交換関係は以下のように評価できる。

&[c^\dagger(\bm r',t_0)\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)]\\ &=c^\dagger(\bm r',t_0)\{\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)\}-\{c^\dagger(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)\}\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0)\\ &=-\delta^3(\bm r-\bm r')\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0)

最後の等号はフェルミオンの正準共役でない演算子の反交換関係がゼロになることを利用した(8.20A)、

\{\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)\}=0

\{c^\dagger(\bm r',t_0),c(\bm r,t_0)\}=\delta^3(\bm r-\bm r')

したがって、

&[K,c(\bm r,t_0)]\\ &=\int d^3r'\frac{\hbar^2}{2m}\delta^3(\bm r-\bm r')\nabla_{r'}^2c(\bm r',t_0)\\ &=\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2c(\bm r,t_0)

同様に、

(8.24A)

&[K,c^\dagger(\bm r,t_0)]\\ &=-\int d^3r'\frac{\hbar^2}{2m} [\nabla_{r'}^2c^\dagger(\bm r',t_0)c(\bm r',t_0),c^\dagger(\bm r,t_0)]\\ &=-\int d^3r'\frac{\hbar^2}{2m} \bigg(\nabla_{r'}^2c^\dagger(\bm r',t_0)\{c(\bm r',t_0),c^\dagger(\bm r,t_0)\}-\{\nabla_{r'}^2c^\dagger(\bm r',t_0),c^\dagger(\bm r,t_0)\}c(\bm r',t_0)\bigg)\\ &=-\int d^3r'\frac{\hbar^2}{2m} \nabla_{r'}^2c^\dagger(\bm r',t_0)\delta^3(\bm r-\bm r')\\ &=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2c^\dagger(\bm r,t_0)

交換するポテンシャル項

一方、相互作用 V が空間微分を含まず、また電子数を変えない相互作用である場合 (化学ポテンシャル項もこの一つ) \hat n=c^\dagger c V は交換するため、

(8.26)

&i([V,c^\dagger]c+c^\dagger[V,c])=i(Vc^\dagger c-c^\dagger Vc+c^\dagger Vc-c^\dagger cV)\\ &=-i[c^\dagger c,V]=0

この部分 → 「一体のハミルトニアンの和だけで書けて相互作用が無い」ことに相当???

実際に所よく分からない。後で見るフェルミレベル分のエネルギーシフトなどでも ポテンシャルには電子密度が掛かるために

V_{\varepsilon_F}=\int d^3r -\varepsilon_F |c(\bm r,t)|^2

となって c c^\dagger とは交換しない。 これらと交換するような、真に定数的なポテンシャルというのはどんな物か、想像できていない。

電流密度が現われる

(8.26) を認めれば、、

(8.25)

\hbar \dot n=i\llangle e^{\frac{i}{\hbar}H(t-t_0)} \big(c^\dagger[K,c]+[K,c^\dagger]c\big) e^{\frac{-i}{\hbar}H(t-t_0)} \rrangle

=i\frac{\hbar^2}{2m}\color{red}{\llangle U^\dagger \left( c^\dagger\nabla^2c-(\nabla^2c^\dagger)c\right) U\rrangle}

=i\frac{\hbar^2}{2m}\color{red}{\llangle U^\dagger c^\dagger U U^\dagger(\nabla^2c)U-U^\dagger(\nabla^2c^\dagger)U U^\dagger c U\rrangle}

=i\frac{\hbar^2}{2m}\color{red}{\llangle c_\mathrm H^\dagger\nabla^2c_\mathrm H-(\nabla^2c_\mathrm H^\dagger)c_\mathrm H\rrangle}

=i\frac{\hbar^2}{2m}\nabla\cdot\color{red}{\llangle c_\mathrm H^\dagger\nabla c_\mathrm H-(\nabla c_\mathrm H^\dagger)c_\mathrm H\rrangle}

ここで、 U U^\dagger には空間座標は含まれないため、 \nabla^2 c_\mathrm H=(\nabla^2 c)_\mathrm H であることを用いた。

また、量子統計平均は量子状態に対する和であるため、 空間微分 \nabla を和の外に出すことができる。

(8.27)

\dot n=-\frac{1}{e}\nabla\cdot\bm j

(8.28)

j_\mu \equiv \left. -\frac{ie\hbar}{2m}(\nabla_\mu^{\bm r}-\nabla_\mu^{\bm r'})\llangle c_\mathrm H^\dagger(\bm r,t)c_\mathrm H(\bm r',t)\rrangle \right|_{\bm r'\rightarrow\bm r}

=-\frac{ie\hbar}{2m}(\nabla_\mu^{c_\mathrm H}-\nabla_\mu^{c_\mathrm H^\dagger})\llangle c_\mathrm H^\dagger c_\mathrm H\rrangle

( \mu=x,y,z )

\bm r,\bm r' を導入し、最後に \bm r'\rightarrow\bm r の極限を取っているのは、 c_\mathrm H だけにかかるナブラ \nabla_\mu^{c_\mathrm H} や、 c_\mathrm H^\dagger だけにかかるナブラ \nabla_\mu^{c_\mathrm H^\dagger} を記述するための便宜的な手段なのだと理解している。

結局の所

電子数密度の時間発展の方程式を導こうとしたら 電子数密度と電流密度の方程式(電荷密度保存)が現われてしまった。

すなわち、上記のような方法では電子数密度の時間発展を得ることができない。

そこで Green 関数を用いることになる。

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