線形代数II/抽象線形空間/メモ

(123d) 更新

線形代数II/抽象線形空間

演習

x の2次以下の実係数多項式の集合 P^2[x] が「実数上の線形空間」の公理を満たすことを確かめよ。

厳密には、「ある集合」と「和とスカラー倍の定義」とを合わせたのが「線形空間」なので、 「和とスカラー倍をどのように定義するか」を与えられなければ答えられない問題なのだが、 和やスカラー倍の定義が明記されていないときは「自然な和とスカラー倍」について答えれば良い。

この問題であれば、和は多項式同士の和であり、スカラー倍は多項式の実数倍である。

解答例

\bm x\in P^2[x] であれば、 s,t,u\in \mathbb R を用いて \bm x=sx^2+tx+u の形に表せる。

逆に、 s,t,u\in \mathbb R に対して \bm x=sx^2+tx+u の形に表せるなら \bm x\in P^2[x] である。

\bm y=s'x^2+t'x+u',\ \bm z=s''x^2+t''x+u'' ただし s',t',u',s'',t'',u''\in \mathbb R a,b\in \mathbb R とすると、

まず、 任意の \bm x,\bm y \in P^2[x], a\in \mathbb R に対して、

   \bm x+\bm y=(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')=(s+s')x^2+(t+t')x+(u+u')

であり、 s+s', t+t', u+u'\in \mathbb R であるから、 \bm x+\bm y\in P^2[x] つまり P^2[x] は和について閉じている。

また、

   a\bm x=a(sx^2+tx+u)=(as)x^2+(at)x+(au)

であり、 as, at, au\in \mathbb R であるから、 a\bm x\in P^2[x] つまり P^2[x] はスカラー倍について閉じている。

そして、

1. ベクトル和の交換則

\bm x+\bm y&=(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')\\ &=(s'x^2+t'x+u')+(sx^2+tx+u)=\bm y+\bm x

2. ベクトル和の結合則

&(\bm x+\bm y)+\bm z\\ &=\big\{(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')\big\}+(s''x^2+t''x+u'')\\ &=(sx^2+tx+u)+\big\{(s'x^2+t'x+u')+(s''x^2+t''x+u'')\big\}\\ &=\bm x+(\bm y+\bm z)

3. ゼロ元の存在

\bm 0=0=0x^2+0x+0\in P^2[x] と置けば、 任意の \bm x=sx^2+tx+u に対して
\bm 0+\bm x=0+sx^2+tx+u=sx^2+tx+u=\bm x
\bm x+\bm 0=sx^2+tx+u+0=sx^2+tx+u=\bm x

4. スカラーの単位元

1\in\mathbb R に対して、任意の \bm x=sx^2+tx+u に対して 1\bm x=1(sx^2+tx+u)=sx^2+tx+u=\bm x

5. 逆元の存在

-\bm x=-sx^2-tx-u\in P^2[x] に対して \bm x+(-\bm x)=sx^2+tx+u-sx^2-tx-u=0=\bm 0

6. 分配法則(1)

&(a+b)\bm x=(a+b)(sx^2+tx+u)\\ &=a(sx^2+tx+u)+b(sx^2+tx+u)\\ &=a\bm x+b\bm x

7. 分配法則(2)

&a(\bm x+\bm y)\\ &=a\big\{(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')\big\}\\ &=a(sx^2+tx+u)+a(s'x^2+t'x+u')\\ &=a\bm x+a\bm y

8. スカラー倍の結合法則

a(b\bm x)=a\big\{b(sx^2+tx+u)\big\}=(ab)(sx^2+tx+u)=(ab)\bm x

したがって、 P^2[x] は実数上の線形空間をなす。

ベクトルの和やスカラー倍に要求される性質が、実数の和や積の公理(交換法則や結合法則、分配法則など)により保証されていることを実感せよ。


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