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球座標を用いた変数分離

(340d) 更新

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目次

量子力学Ⅰ

中心力場の中での運動

球対称なポテンシャル V(\bm r)=V(r) の中での運動を考える。

このとき、 x,y,z の直交座標ではなく、 r,\theta,\phi を用いた球座標を用いると都合がよい。

球座標における微分演算子(まとめ)

spherical-coordinate2.svg

導出方法はこちら

球座標:

  \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases}

ラプラシアン:

  \nabla^2=\Delta=&\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\\ =&\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

  \hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}

角運動量の大きさの2乗:

  \hat{\bm l}^2=|\bm r\times\hat{\bm p}|^2=-\hbar^2\hat\Lambda

ラプラシアンの 1/r^2 の項の係数は、 角運動量の大きさの2乗の演算子 \hat l^2 -\hbar^2 の係数を除いて等しい。

z 軸まわりの運動量:

  \hat l_z=(\bm r\times\hat{\bm p})_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi}

残りの角運動量:

  \hat l_x^2+\hat l_y^2=&\,\hat{\bm l}^2-\hat l_z^2\\ =&-\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\right]+\hbar^2\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\\ =&-\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\tan^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\right]\\

角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):

  \hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y=\hbar e^{\pm i\phi}\Big(\pm\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{i}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big)

演習:シュレーディンガー方程式の変数分離

球座標表示におけるラプラシアンは以下のように表される。

  \nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

  \hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}

以下の問いに従って、中心力場 V(\bm r)=V(r) の中での粒子の運動について考えよ。

(1) \frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r} を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、 球座標表示における時間を含まないシュレーディンガー方程式を書き下せ。 解答には \hat\Lambda を用いて良い。

(3) 波動関数を \varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi) と置き、 (2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。 ただし共通の定数を l(l+1) と置いた。

  &-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r)

  \hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi)

(4) (3) の方程式を解いて得られる Y(\theta,\phi) および \varphi が角運動量の大きさの2乗 \hat l^2 の固有関数であり、その固有値が \hbar^2l(l+1) となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 m の粒子が原点から r の距離を角速度 \omega で回転するときの角運動量は L=mr^2\omega であり、遠心力は f_c=mr\omega^2 で与えられる。
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが V_c(r)=\frac{L^2}{2mr^2} と書けることを示し、(3) で得た R(r) の方程式に現れる \frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2} の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、 遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は L 一定の元で \frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c であることに注意せよ。

(6) Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi) と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

  \left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+ l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0

  \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi)

ただし、共通の定数を -m^2 と置いた(質量 m と紛らわしいが慣例に従った)。

(7) \Phi に対する方程式を解き、 \Phi(2\pi)=\Phi(0) を満たすためには m が整数値を取らなければならないことを確かめよ。

(8) (6), (3) を解いて得られた \Phi(\phi) および \varphi(r,\theta,\phi) \hat l_z の固有関数であり、その固有値が \hbar m であることを確かめよ。 *1符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている

●解答はこちら

解説

球対称ポテンシャル V(\bm r)=V(r) に対する時間を含まないシュレーディンガー方程式:

  \hat H\varphi(\bm r)=\varepsilon \varphi(\bm r)

は球座標

  \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases}

を用いて、

  \begin{cases} &\displaystyle\underbrace{\left[\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}\right]}_{\textstyle \hat H^l}\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\}=\varepsilon_n{}^l\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\}\\[12mm] &\hat {\bm l}^2 \,Y_l(\theta,\phi)=\hbar^2l(l+1)\,Y_l(\theta,\phi) \end{cases}

のように変数分離できる。これらはそれぞれ、

  • 遠心力に対するポテンシャル \hbar^2l(l+1)/2mr^2 を含む1次元ハミルトニアン \hat H^l
  • 全角運動量の2乗 \hat{\bm l}^2

に対する固有方程式となっている。

\hat{\bm l}^2 に関する固有値問題は V(r) には依らない形で解くことができ、 固有値 \hbar^2l(l+1) に対する固有空間は 2l+1 次元になる。 そして、この固有空間に角運動量の z 成分を表す演算子 \hat l_z に対する 2l+1 個の独立な固有関数を取ったのが球面調和関数 Y_l{}^m(\theta, \phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi) である。

  \hat{\bm l}^2Y_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar^2l(l+1) Y_l{}^m(\theta, \phi)

  l_zY_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar m Y_l{}^m(\theta, \phi)

ただし、

  l=0,1,2,\dots

  m=-l,-l+1,\dots,-1,0,1,\dots,l-1,l

後に見るように球面調和関数は具体的には次の形を取る。

  Y_l^m(\theta,\phi)= \underbrace{(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)}_{\Theta(\theta)} \underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}}_{\Phi(\phi)}

一方で、 \hat H^l に関する固有値問題は左辺に l に依存する項が含まれるため、 l の値のそれぞれに対して量子数 n でラベル付けされる複数のエネルギー固有値 \varepsilon_n{}^l および、対応する固有関数 rR_n{}^l(r) が得られる。

結果的に3次元の固有関数は3つの量子数 l,m,n でラベル付けされ、

  \varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)=R_n^l(r)Y_l^m(\theta,\phi)=R_n^l(r)\Theta_l^m(\theta)\Phi_m(\phi)

  \hat H\varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)=\varepsilon_n{}^l\varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)

すなわち、この系のエネルギー固有値は2つの量子数 l,n により指定される。

n を主量子数、 l を方位量子数、 m を磁気量子数、と呼ぶ。

原子の軌道を表す場合には、量子数 l をそのまま用いる代わりに s,p,d,f,g,\dots のアルファベットを用いる方が一般的である。 l とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。

  l  0 1  2  3  4  5  … 
文字 s  p  d  f  g  h  … 

\varphi_{lmn} に対して \hat l^2 \varphi_{lmn}= \hbar^2l(l+1)\varphi_{lmn} であるから、この関数の角運動量の大きさ |\bm l| \hbar\sqrt{l(l+1)} であるが、 慣例として「角運動量の大きさが \hbar l のとき」などという。

角運動量の大きさが \hbar l であるとき、その z 成分 l_z -\hbar l\le \hbar m\le \hbar l を満たすのは当然と思えるはずである。 m=\pm l のときも、不確定性により l_x,l_y は完全にはゼロとならず、 l_x^2+l_y^2=\hbar^2 l となる。これが |\bm l|^2=\hbar^2l^2 とはならず、 |\bm l|^2=\hbar^2l(l+1) となる理由である。

波動関数 \varphi_{nml}(\bm r)=R_n{}^l(r)Y_l{}^m(\theta,\phi) を全空間で積分すれば1になることから、 R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi) はそれぞれ、

  &\iiint|\varphi(\bm r)|^2d^3r=\\ &\int_0^\infty dr\int_0^\pi r\sin\theta\,d\theta\int_0^{2\pi}r\,d\phi\ |\varphi(\bm r)|^2=\\ &\underbrace{\int_0^\infty r^2|R(r)|^2dr}_{\displaystyle=1}\ \underbrace{\int_0^\pi \sin\theta|\Theta(\theta)|^2 d\theta}_{\displaystyle=1}\ \underbrace{\int_0^{2\pi}|\Phi(\phi)|^2 d\phi}_{\displaystyle=1}=1

となるように正規化される。

R(r) に対する積分に r^2 \Theta(\theta) に対する積分に \sin\theta の重みが それぞれかかることに注意せよ。

それぞれの正規直交性は、

  \int_0^\infty \big\{rR_n{}^l(r)\big\}^*\big\{rR_{n'}{}^l(r)\big\}\,dr=\delta_{nn'}

  \int_0^\pi \sin\theta\ \Theta_l^m(\theta)^*\Theta_{l'}^m(\theta) d\theta=\delta_{ll'}

  \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) d\phi=\delta_{mm'}

であり、このとき

  \iiint\varphi_{lmn}^*(\bm r)\varphi_{l'm'n'}(\bm r)d^3r &=\delta_{ll'}\delta_{mm'}\delta_{nn'}\\ &=\begin{cases} \ 1&(l=l',\, m=m',\, n=n')\\ \ 0&(それ以外)\\ \end{cases}

が成り立つ。


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質問・コメント





*1 符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている

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